【月刊総括】今後は任天堂をライバルと考えるソニーグループ――PS5より次世代機に注力か

 今月は決算の話を進めたい。
 ソニーグループのゲーム事業は,決算自体は増収増益で好調だった。
 以前から指摘していたように,為替が円安になったことと,PSNの価格改定効果などが寄与している。この数字に対しては,第3四半期決算時に東洋証券でも業績予想を上方修正していたので,ほぼ想定通りであった。

 2024年度のPS5の販売(着荷)台数は1850万台と,前期から230万台減と大幅に下がった。
 ソニーグループは2024年の2月に2025年3月期は微減としていたので,このガイダンスからすると想定通りとはいかなかったし,長い間言及していた「PS4を超える」という目標は,もはや達成が極めて困難になったと言えるだろう(下図参照)。


 PS5の2026年3月期の販売目標は,1500万台とさらに落ち込む計画だ。しかも新しいCFOの陶氏は,1500万台の目標達成は優先しないと表明している。
 ソニーグループに対する取材でも,下り坂に入ったPS5に投資するのは賢明ではないとしていた。西野CEOが決定を行ったのだと思うが,ここでクリスマスシーズンの値下げに無駄に1000億円を投じるよりも次世代機の在庫投資に投下するほうが,はるかにましだ。したがって,筆者は高く評価している。

 長期的な視野に立てば,今期の営業利益計画4800億円を資本に蓄積するのはとても理に適っていると思う。ソニーグループに対するヒアリングでも同様に見ている感触だ。

 繰り返しになるが,在庫投資を重要と考える根拠も示しておく。

(1)国内実売ハード台数において,最初の2週間で40万台前半の台数が販売されないと,日本では成功できない(数字はともかく各国でハードルが決まっていると考えている。よって日本でPS5が不振となる一方,米国でPS4を超えるようなことが起こる)

(2)価格やソフトのラインナップは,ゲームハードの勝敗に影響を及ぼさない。

  Switch2は4万9980円と高価格だが,My Nintendo Storeの抽選申し込みだけで220万という恐るべき数になった。ソフトも大型新作はマリオカートワールドぐらいしかないのにである(売れたらソフトが要因と言われると指摘しておく)。

 ゲーム機の販売は上記の累計台数推移を見ても,初動の勢いが着地を決めている。ファミ通のデータからも明白だろう。このことからも,最優先すべきは初動の数なのである。
 しかもPS5は途中で在庫を1兆円ほど積んでPS4を超えようとしたがうまくいかず,処理に苦労してしまった。この事実からも,発売前にいかに数を揃えるかはとても大事だと言える。


 仮にPS6のボムコスト599ドル,対ドル145円で1000万台(発売日分の600万台に加えて初期需要対応400万台)分用意するとなると,9000億円近くは必要になると見込まれる。別途,携帯機も用意するというのであれば,在庫投資は1兆円を超えてしまうだろう。

 ソニーグループは将来的には大きさや生産性を追うとしていたのでPS6は性能より在庫投資をしっかりして普及を狙う方針に切り替えた,と筆者は受け止めている。

 ソニーグループは優越感ビジネスからの脱却を考えていると言っているに等しいだろう。性能と独占タイトルだけで満足したい一部の人々のために多額のコストを掛けることは無意味である。SIEが反省を公にすることはないと思うが,方針変更を示唆したのはとてもいいことだ。
 その代わりに任天堂のハードにPSプラットフォームと同じゲームが出ないことを楽しんでいた一部の人々には,つらいことが増えるだろう。

 次は,その任天堂の決算である。Switchが末期ということもあり,大幅減益で終わった。
 Switchの販売台数は期初段階で1350万台の達成は難しいだろうと予測していたが,1080万台と厳しい結果に終わった。これを後付けと思われてもいけないので,任天堂の2024年5月開催の決算説明会における質疑応答Q5を見ていただきたい。これは筆者が行った質問だ。

「任天堂 決算説明会資料(PDF)」


 期初計画の1350万台は高い計画ではないか,と明確に指摘している。Switchはもう末期であり,いずれにせよ資本市場的にはあまり意味がなくなっている。


 次に注目のSwitch2に関しては,2026年度の計画は1500万台の販売(着荷)計画だった。
 この点について任天堂の決算説明会の質疑応答でもあったように,1500万台は目標であって生産能力の上限を示しておらず,実際に出せる数はずっと多いという。
 実際問題として抽選に落ちた人が多数という現状では,こんな低い数字では困ると思っている人が多いはずだ。

 しかし,本来初年度としては,1500万台は驚異的な数量だ。分かりやすくするために再度グラフを掲示する(下表)。グラフを見ると1500万台だった場合,四半期での販売数字はPS5を大きく上回る水準だ。


 なお筆者は今年度のSwitch2販売台数を2000万台と予想している。ブルームバーグの報道では,半導体は2000万台規模でも十分供給できるそうだ。
 Switch2のプロセスはサムソンの8nmとされているので,世代的には相当キャパシティーに余裕があると思われる。

 このような古いプロセスだとSwitch2は筆者が予測した通り,演算能力はどんなに良くてもPS5の1/3程度だろう。

 ところがヒアリングすると

(1)任天堂:PCでしか動かないような(超ハイエンド向け)タイトルを除くと,どんなゲームでもSwitch2に出せる
(2)ソニーグループ:フレームレートなどの質はさておき,今後はPS5マルチが増えると見ている

 という説明であった。

 両社の説明がどの程度正しいかは今後分かると思うが,この2点が事実ならばフレームレートやグラフィックスがやや劣るにしても,PS5世代のゲームがSwitch2のサイズで不満なく動くのは驚異的で,PS5にとっては大変な強敵となるだろう。
 繰り返すが,Switch2は従来の性能基準ではPS5より大幅に劣っているのである。

 そして一部の報道ではSwitch2がPS4並みのゲーム表現になっていると見聞されるが,2社に取材した筆者としては,こういった報道は事実と信じがたいのである。

 優越感の源泉がSwitchにAAAタイトルが出ないことにあると筆者は考えているので,Switch2でAAAが出せるとなると,極一部の違いが分かるユーザーはともかく,大部分のユーザーにとってはPS5を買う理由がなくなってしまいかねない。

 Switch2のカタログスペックが低いのは確かだが,動作しているゲームを触った実感と合わないのである。報道の真意はよく分からないが,筆者はSwitch2ほどの小型のシステムで,PS5世代のゲームが動くという事実は重いと考える。

 さらにSwitch2は発売前から大量生産しているのに,すでに入手困難だ。この事実はフレームレートや解像度,DLSSが使われているかどうかなどは些末なことで,SNSやメディアが騒いでSwitch2を宣伝しているにすぎない。もっと売れるように喧伝しているわけだ。

 故岩田氏は,ゲーム機は勢いのビジネスだと言っていた。発売前からこんなに勢いがあるゲーム機が最終的にどうなるかは楽しみである。ソニーグループにヒアリングしても,任天堂に対して警戒感が増してきている印象がある。Switch2の最初の成果が目に見えるのは,間もなくだ。