【ACADEMY】ゲーム開発における役者の支援方法

役者のパネルディスカッションでは,ゲーム開発のあらゆるステップに参加することの重要性と,業界に望む改善について話し合われた

【ACADEMY】ゲーム開発における役者の支援方法

 先日開催されたBAFTA(英国映画テレビ芸術アカデミー)のゲームメンタルヘルスサミットでは,役者のパネルディスカッションが行われ,パフォーマーとしての精神的な健康のために,業界で改善してほしいことが話し合われた。

 パフォーマンスキャプチャ&ボイス監督であるKate Saxon氏が主催したパネルには,「The Witcher」出演のDoug Cockle氏,「アサシン クリード オリジンズ」出演のAlix Wilton Regan氏,「Dead Island 2」出演のJessica Hayles氏,「ゴーストリコン ブレイクポイント」出演のRobert Gilbert氏が参加した。

 話し合いは,安全な労働環境を育むために何をすべきか,個々の演技プロセスをどのように支援するか,オーディションからゲームのリリースまで,開発のあらゆる段階にパフォーマーが参加していると感じられるようにするにはどうすればいいか,に焦点が当てられた。




安全な労働環境の構築


 安全で快適な労働環境を育むことは,ボイスブースからパフォーマンスキャプチャの段階に至るまで,常に最優先事項であるべきだ。

 「最低限の水準として,そして包括性という観点で,誰もが基本的な権利である何かを,口に出して求める必要はないはずです」とHayles氏は指摘し,その例として,トイレや祈りの休憩,人から離れたプライベートな空間を挙げた。

 Gilbert氏は,レコーディングセッションに誰が同席するかという点について,不安を和らげるために,特定の人々がなぜそこにいるのかを,役者に認識させることが重要だと語った。

 「会社の誰かが部屋にいるのであれば,当然,自己紹介をし,あなたの役割とセッションに参加している理由を話してください」と彼は説明した。Cockle氏は,CEOのような誰かがそこにいる理由を知らないことは,役者を混乱させるかもしれないと付け加えた。

 「絶対に必要な人だけを,セッションに参加させましょう」とCockle氏は指摘する。

 「私は,3人の脚本家,2人の芸術監督,1人のプロデューサー,そして会社のCEOがいるセッションに何度か参加したことがあります」と彼は続ける。「彼らは全員,通話中もしくは部屋の中にいて,全員が監督と議論し,何をすべきで,何をすべきでないかについて自分なりの考えを持っています。役者としては,これでは遊び心が感じられず,弱音を吐けず,最高の仕事ができません」


デリケートな話題への対処法


 Saxon氏は,キャスティングの段階で,開発者が役者や監督向けに説明資料を用意することが,役に立つだろうと提案した。

 ゲームに期待される内容を詳しく説明しよう。「そうすれば,参加するクリエイターは,トリッキーで挑戦的なキャラクターを演じることに満足できるかどうかを判断し,主体性を持てます」

 Hayles氏は「(準備ができ,デリケートな内容が含まれていると知っていることが)人々から最高の仕事を引き出す方法だと思います」と付け加えた。「何かをどう感じるか理解するのに,少し時間がかかることもあります。それが収録中に起こったら,頭がパンクしてしまうでしょう」

 Saxon氏は「マフィア III」の監督時代を例に挙げ,人種差別の場面で役者の安全を守るためにどのような戦略が取られたかを説明した。

「参加するクリエイターは,トリッキーで挑戦的なキャラクターを演じることに,主体性を持てます」
Kate Saxon氏

 「パフォーマンスキャプチャや読み合わせのリハーサルを毎日少なくとも1回は行い,現場にいる開発者が少人数であることを確認し,リハーサルに参加する開発者チームの代表者にブリーフィングを行いました」と彼女は説明した。

 「また,人種差別をするシーンや,人種差別的な考えを表現するシーンを扱う際には,役者のアドリブは一切禁止とし,シーンの前後にはブリーフィングを行い,どのような形であれ,危険を感じたら誰もが中断できるようにしました」

 彼女は付け加えた。「役者が安心できるようにするためには,そういったシステムがとても重要なのです」

 Hayles氏とGilbert氏も,人種差別を経験した役者に仕事を押し付けるのではなく,開発者が研究者に仕事をさせることが重要だと語った。

 「私は,特殊さと研究者による仕事を,本当に,間違いなく必要としています」とHayles氏は語った。「というのも,多様性の分野で,より特殊であるべきことが私に投げかけられたとき,不安やストレスが高まるからです」

 「それは,事前に準備すべきことです。それにより,スタジオを出て少し歩けば『ああ,彼らは私の背中を押してくれた。私は自分のキャラクター以上のものを背負っていないんだ』という気持ちになります」

 Gilbert氏はまた,ゲームで「類似種族,混血種族,異星人」を使用することは,現実世界の問題に対処することだと強調した。

 「実社会でそのような経験をした誰かに,この類似した状況に飛び込むことを求めるようなトピックに取り組む場合,それはやはり同じことだと理解してください」と彼は説明する。

 「そのために彼らを雇わなければならないとしたら,彼らのほうが自分より詳しいかもしれないという事実や,そのようなシーンやそのようなことが議論される方法への配慮を意識しましょう」

 親密なシーンに関して,Regan氏は性的なシーンが控えている場合は役者に知らせるべきだと指摘した。彼女は,自分が男性グループの前で演じることがよくあると述べ,フィードバックエンジニア以外の人に振り向くように頼み,スタジオの明かりを消すのが彼女のプロセスだと語った。

 彼女はまた,とくにパフォーマンスキャプチャの段階でほかの役者と共演する際には,インティマシーコーディネーターの使用を勧めた。

 「性的な内容がかなり多かったので,『アサシン クリード オリジンズ』を今日撮影するなら,間違いなくインティマシーコーディネーターがいたでしょう」

左から,Rob Gilbert氏,Jessica Hayles氏,Alix Wilton Regan氏,Kate Saxon氏。クレジット:BAFTA/Quetzal Maucci
【ACADEMY】ゲーム開発における役者の支援方法


明確なコミュニケーションを保つ


 オーディションからキャスティングに至るまで,役者が常に情報を得られるようにすることは不可欠である。

 Cockle氏によれば,役者は通常,仕事が決まらなかったことを知らされず,「ただ何も返事がない」だけだという。

 彼は,「The Witcher」の初期の経験を例に挙げた。シリーズ第1作と第2作の間に,CD PROJEKT REDはゲラルトの方向性を変えることを決め,Cockle氏を呼び戻すのではなく,再びキャスティングを始め,彼はそれを開発者ではなく友人から聞いたという。

 「すぐに感じたのは,自分には実力がないということでした」とCockle氏は振り返る。「そして気を取り直して,『いや,彼らはどうしてこんなことをするのだろう』と思ったんです」

 そして,彼は再びオーディションを受け,出演が決まった。

 「ここでのポイントは,ときには『NO』が本当に大きく感じられるということです」と彼は言う。「初めてオーディションを受けたときだけではなく,私にとっては,もう一度自分自身を取り戻し,『自分の実力は十分なのか。自分にはこれができると信じられるか』ということでした」

 「自分を信じましょう。十分な実力があると思うなら,また名乗りを上げればいいんです。立候補しても害はありません。彼らにできるのは『NO』と言うことだけです」

 基本的には,開発者から代理店,役者に至るまで,すべての人が輪の中にいることを維持し,なぜこのような決定がなされるかを認識する必要がある。役者が知ったうえで,役がキャスティングし直されることも同様だ。

 「あなたの期待に関わることです。これによりダメージを防げます」とCockle氏は言う。


役者が開発により深く関わるには


 NDAにサインすることは,この業界で当たり前だが,パネルディスカッションでは,このことが演技の段階でどのような悪影響を及ぼすかについて議論された。とくに,彼らがキャラクターとつながろうとするとき,あるいは,開発中に何が言えて,何が言えないのかを知るときにだ。

 「私の正直な意見では,これは新しい『アサシンクリード』だ,あるいは新しい『マスエフェクト』だと伝えるくらい,開発者に信頼してもらいたいです。それは全体のトーンと雰囲気に関わるからです」とRegan氏は語る。

 さらに,彼女が現在取り組んでいるゲームは,コードネームが多用されているため,その内容や登場人物が誰なのかを理解するのは難しいと付け加えた。

 「開発者が,私たちがNDAを破りたくないということを,本当に信頼できなければなりません。私たちが何かをリークすることに特定の利益はありません」と彼女は続けた。「私たちを信頼して,権限を与えるほど,私たちはより良い仕事ができます」

 Gilbert氏も同意見だ。「ゲームに関する情報を提供できないのは理解できますが,できる限り類似した,参考資料を提供してもらえると,とても助かります」

 「キャラクターについて言えば,それは本当に重要です。できる限り具体的にしてください。声のトーンだけでなく,外見だけでなく,物語の中で自分はどのような歯車なのか。私の目標は何か。ここで達成すべき私のストーリーの目標は何か」

 Cockle氏にとって,フラストレーションは,いつ何を言えばいいのかわからないことだ。

「私たちは暗闇の中にいることが多いですが,私たちをチームの一員にしていただければ,あなたのゲームを盛り上げる手助けができます」
Doug Cockle氏

 彼は,NDAにサインしなければならなかったにもかかわらず,すべてのプロセスに関与しているように感じたポジティブな例として,「Alan Wake 2」の開発におけるRemedyとの最近の経験を挙げた。

 「マーケティングチームは,『このタイミングまで何も言わないで』として,開発中ずっと私たちに情報を与えてくれました」と彼は説明した。「このタイミングで,ゲームに参加していると発信できる。このタイミングで,舞台裏について話し始められる。彼らは,私たちが理解できるように,話していい事柄が書かれた紙をくれました。そうすれば,私たちは積極的に宣伝・マーケティングチームの一員になれます」

 彼は付け加えた。「私たちは暗闇の中にいることが多いですが,私たちをチームの一員にしていただければ,あなた(開発者)のゲームを盛り上げる手助けができます」

 Regan氏もまた,「エルダー・スクロールズ・オンライン: 黄金の道」での経験を振り返った。彼女と出演者たちは,開発者から同時に投稿してほしいという素材を渡され,全員が「ブランド」となった。

 「私たちを仲間に加え,力を与え,家族の一員とし,チームの一員であると感じさせることです」と彼女は言う。

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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら