【ACADEMY】「アルバムではなくシングル」小規模ゲーム制作の手引き

Tony Gowland氏が,より焦点を絞った頻繁なリリースのメリットと,最善の方法を語ってくれた

【ACADEMY】「アルバムではなくシングル」小規模ゲーム制作の手引き

 イギリスのスタジオAnt Workshopは,ゲーム制作方法の大幅な転換に着手しており,これは多くのデベロッパに利益をもたらすものだと,マネージングディレクターのTony Gowland氏は考えている。

 この変更は,同スタジオが2年の歳月と約75万ポンドを投じて,風変わりなミニゴルフ「Dungeon Golf」を開発したことを受けたもので,Gowland氏はこのゲームの不振について語った。5桁のマーケティング費用をかけ,プレイヤーや批評家から好意的なフィードバックを得たにもかかわらず,このゲームが“オーディエンスに届くことはなかった”。

 このゲームや同規模のプロジェクトにこれ以上投資できないスタジオは,パブリッシャと彼らのポートフォリオ中心の戦略からヒントを得ることにした。

 「私たちに必要だったのは,より多くのものを世に出し,もう少し早く,もう少し小さく,もう少し機敏にやることでした」とGowland氏は説明する。「『Dungeon Golf』のように,発表する前に15か月も開発するといった罠にはまってはいけません」

 彼は,業界のベテランであり,初代「グランド・セフト・オート」の開発者であるGary Penn氏と,このアイデアについて話し合い,Penn氏はAnt Workshopの新しいアプローチを見事に要約した。

 「彼がこんなことを言ってきたのは本当にイラつきましたが,いいセリフです」とGowland氏は笑う。「『Dungeon Golfがアルバムだとしたら,君が作っているのはシングルだね』と彼が言った瞬間,『そうだ,これこそがこのアイデアを完璧に表現している』と思ったんです」

 「もう1枚アルバムを作る余裕はありませんし,正直なところ,もう1枚アルバムを作るのはリスクが高すぎると感じています。だから,ジャンルもスタイルも異なるものを,いくつか作ってみようと思います。少ない予算と少ない期間で作品を制作し,より早くオーディエンスの前に届けようとしているので,小さな作品ではもう少しリスクをとる余裕があります」

 Ant Workshopは,それぞれ5万ポンドから10万ポンドの予算をかけ,4か月から6か月の制作期間を経てリリースできるゲームの開発を試みている。ほかのデベロッパも,Bithell Gamesの短編テキストアドベンチャー「Quarantine Circular」「Subsurface Circular」のように,小規模タイトルの実験をしている。


小さく,シンプルに


 まず,Gowland氏は4〜6か月という開発期間には必ずしもプロトタイプの制作は含まれないことを明らかにし,基本的なコンセプトと仕組みをできるだけ早く固めることを勧めた。その大部分は,複雑になりすぎるゲームをデザインしないことだ。

Ant WorkshopのTony Gowland氏
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 「シングルで重要なのは,小さなゲームであることです」と彼は説明する。「私たちは,完全な機能を持ったものを作ろうとはしていません。例えば,オンラインのマルチプレイヤーゲームを作ることはないでしょう。それは範囲外です」

 「暴走してはいけません。それは祝福でもあり,呪いでもあります。しっかりと規律を守る必要がありますが,そのおかげで本当に集中できるんです」

 彼は「Dungeon Golf」の例を示した。このゲームは,TVのスポーツ中継を真似ており,ゲーム内で起こったことについて発言するコメンテーターが何人か登場する。しかし,よく考えてみると,Gowland氏と彼のチームは,その作業に費やした時間が利益に見合っているかどうか疑問に思ったという。彼は,もし再びゲームを作るのなら,これをカットしていただろうと話し,開発者は機能に開発リソースと時間を割く価値があるかどうかについて,もっと残酷に判断すべきだとアドバイスした。


過去のアイデアを再検討する(ただし,やはりシンプルなものに)


 Ant Workshopの最初の「シングル」は「Into The Restless Ruins」というデッキ構築型ローグライクで,カードを使って新しい部屋を作り,ダンジョンを拡張していくものだ。

 このアイデアは,実はまったく別のゲームから生まれており,それはプレイヤーが飛行機の操縦を担当するトップダウンの2Dタイトルだった。ミッションが小包の輸送であれば,小包を届ける機能を飛行機に追加する。飛行機が燃えていれば,炎を消すホースをつける。しかし,この中心的な仕組みはまったくフィットしなかった。

 「何がうまくいって,何がうまくいっていないのか,2〜3週間は飛行機を繰り返し飛ばして検証しましたが,その部分がうまくいくことはありませんでした」とGowland氏は説明する。「しかし,新しいパーツを飛行機に取り付けて走り回る部分はとても気持ちがよかったので,新しいパーツを生成し続けられるように,プログラマーがデバッグボタンを設置してくれたんです。それは,とても満足のいくものでした」

 Ant Workshopは空を飛ぶというコンセプトを捨て,新しい要素で機体を拡張することに集中した。これが「Into The Restless Ruins」のダンジョン構築の核となり,Gowland氏は「かなり早くまとまった」と話す。

「Into The Restless Ruins」は,ボツになったゲームの仕組みをもとに作られた
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脚のあるものを作る


 小規模なゲームは,1回きりで終わる必要はない。Gowland氏は開発者に,リプレイ性だけでなく「拡張性」についても考えるよう勧めている。シングルを作るというアイデアは,アルバムを完全に敬遠することではなく,将来のアルバムの基礎になるものを見つけることなのだ。

 「私たちが考えているすべてのアイデアは,拡張可能なもの,最初のローンチ時に範囲を抑えて,安い価格で販売できるものでなければなりません」と彼は言う。「そして,そのゲームがオーディエンスに受け入れられれば,それは素晴らしいことです。私たちはそのゲームのアップデートを作り続けられますし,無料コンテンツのアップデートやDLCを配信することもできます。あるいは,続編として拡張するようなことも」


スタジオをより柔軟に


 多くのスタジオがそうであるように,Ant Workshopも自社ゲームと並行して共同開発プロジェクトに取り込んでいるが,後者の範囲が前者の処理能力に影響することがある。「Dungeon Golf」の開発中に共同開発プロジェクトを引き受けると,外部作業に数人のプログラマーを割くことになり,開発が遅れ,スケジュールが狂う可能性があった。

 「しかし,もっと小さなことに取り組んでいる場合,プログラマーを数人,別のプロジェクトで2か月間使うことになったとしても,問題ありません。ほかの仕事もたくさんありますから」と彼は言う。「時間を調整したり,シフトを変えたりして対応できます。そのおかげで,私たちはより柔軟になりました」

 Gowland氏はまた,開発者は「シングル」がまとまらない場合,作業を一時中断することを恐れてはならないと話す。例えば,Ant Workshopが取り組んでいるタイトルのひとつは,「モンスターのための屋台」を中心にしており,客にできるだけ早く料理を提供するものだ。

 「その初期バージョンを作ったんです」とGowland氏は言う。「アイデアはいいのですが,まだうまくいきません。もし,これをもっと大きなプロジェクトとして取り組んでいるのなら,『制作するアーティストや,プログラマーがいる。餌やりが必要な機械もある。何が間違っているのかをじっくりと検討し,いろいろなことを試さなければならない』と考えるでしょう。しかし,私たちは一度にたくさんの『シングル』を作っているので,そのひとつを保留にしておいて,どうしたらいいかアイデアが浮かんだらまた戻ってくることにしています」


自分が取り組んでいることを伝える


 どの小規模ゲームにもっと時間を割くべきかを知るための重要な要素は,プレイヤーからのフィードバックを得ることだ。Gowland氏によれば,「Dungeon Golf」が失敗に終わったのは,スタジオがこのゲームを“あまりにも長く”作り続けたからだという。

 「『Dead End Job』などの前作では,地元の小さなイベントやショー,あるいはEGX Rezzedにさえ出展していました」と彼は説明する。「『Dungeon Golf』では,『よし,みんなに見せる準備ができるまで作業を続けよう』と,頭の中で考えすぎてしまいました。人々に見せる準備ができたと感じるタイミングはどんどん延びていき,結局のところ,残念ながら市場を見つけられませんでした。このようなタイプのゲームが必要とする市場規模が,実際に存在するのかどうかも分かりません」

 ゲームを早めに見せることで,潜在的なオーディエンスを把握し,期待感を高め,重要なウィッシュリストを構築できる。


小さいゲームは小さい価格帯に適している


 Ant Workshopは現在,各「シングル」を最高5ポンドとする予定だが,これはゲーマーがSteamのセールで安いタイトルをポチるような,「衝動買い」をさせるものだとGowland氏は考えている。彼はこれを,毎週お小遣いを握りしめて市場に行き,自分が買えるAcorn Electronのタイトルを見ていた子供時代になぞらえている。

 「時には信じられないような素晴らしい作品を手に入れることもありますし,時には完全なゴミを手に入れることもあります。でも,それは安いものです。お小遣いを賭けているだけです。今のSteamには,しっかりとしたクオリティの,よくできたゲームがたくさんあり,人々は4〜5ポンドで販売しています」

 彼は,価格が安いことがプレイヤーの期待を抑えていると付け加えた。

 「価格が安くなったことで,超高画質による再現度など,そういうものをあまり期待しなくなりました。『Vampire Survivors』のようなゲームを見てください」と彼は言う。「人々に明確である限り,あなたはこう言わなければなりません。『私たちは完全で大規模なものを開発しているわけではありませんが,ちょっとしたことで楽しめますし,リプレイ性も高いです』」


成功の指標を再評価する


 Gowland氏は,ゲームの損益分岐点は予算と同じような割合で増減すると断言する。彼の試算によれば,Ant Workshopが損益分岐点を超えるには,理想を言えば「シングル」を2万本売る必要がある。

 ここでも価格帯が関係してくる。2万本を売るのは簡単なことではないが,「代わりのものがSteamで発売されるのを待っている人がいるような価格」よりも「衝動買いしやすい価格」のほうが難度は低い。

 そしてGowland氏は,これがパブリッシャのポートフォリオの扱い方と似ているという彼の当初の指摘を強調している。

 「すべての事業で収支が均衡するとは思っていません。4分の1か,それ以下かもしれませんが,それぞれが何かを生み出すでしょう。そして私たちは,実際のプレイヤーから多くの情報やフィードバックを得られます」

 「ひとつひとつに賭ける額が少ないので,分散して物事を把握する余裕があります。これを始めて2年目には,もっと洗練されたものになると期待しています。『これが好評だったので,その断片を使って何かを作り,結果を見てみよう』というように」

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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら