【ACADEMY】不確実な時代に回復力を保つ方法
ゲーム業界でレイオフやスタジオ閉鎖が続くなか,先日開催されたBAFTAゲームメンタルヘルスサミットのパネルディスカッションでは,このような時代に不確実性を乗り越え,回復力を保つ方法について議論された。
心理学者のStuart Chuan氏が司会を務め,One Player Missionの創業者であるKim Parker Adcock氏と,サウンドデザイナーのKonstantin Semionov氏が登壇し,2つの異なる視点からレイオフの経験について語った。
先日,OPMの閉鎖についてGamesIndustry.bizに語ったParker Adcock氏は,現在,慈善団体Thyroid UKの運営マネージャーとしてゲーム以外の仕事もしながら,Safe in Our Worldの評議会で副会長を務めている。
Semionov氏は,Frontierのテクニカルオーディオデザイナーとして,2023年にフルタイムでゲーム業界に入った。彼は,昨年10月に行われた人員削減の影響を受け,そのプロセスで従業員代表になった。
Parker Adcock氏とSemionov氏は,業界の異なる立場からそれぞれの経験を語ったが,このディスカッションの焦点は,不可能に思えるような困難な時代を,どのように乗り越えられるのかを強調することだった。
感情の認識と理解
Chuan氏は,感情を処理することの重要性を強調した。ある状況において自分が何を感じているかを特定することで,それにどう対処するかという考えに集中でき,最終的にはより客観的に状況にアプローチできる。
自分の感情とじっくり向き合い,それに名前を付けることで,その中をよりよく進めるのだ。
Parker Adcock氏にとって,OPMの閉鎖という厳しい決断を下す際に最も強く感じたのは,悲しみと罪悪感であり,最も顕著だったのは彼女のチームに与える影響に由来するものだった。
「チームの面倒を見て,彼らに仕事を与えようとしているとき,悲しみのプロセスを始めるのは難しいです」と彼女は言い,OPMはまだ精算のプロセスにあると付け加えた。「誰かが亡くなり,そのことを受け入れ始めたときに葬儀があり,またそのことが頭をよぎるようなものです。とくに,葬儀が遅れた場合には」
Semionov氏にとって,最初に訪れたのはパニックであり,すぐに「SILENT HILL 2」をプレイしているかのようなストレスの期間に入った。
「あのゲームの要点は不確実性です。何が起こるのか,いつ起こるのか分からないです」と彼は説明する。「その経験は,仕事が決まったかどうかの発表を待つことに似ています」
「単なる状況的パニックではなく,明らかにホラーな状況だと感じました。人員整理を題材にしたゲームを作れば,SILENT HILLのように人々を怖がらせられるかもしれません」
この不安定感は,Semionov氏が従業員代表になった理由だ。
「私は情報を得たかったし,ほかの人々が情報を得るのを助けたかったです。そうすれば,少なくとも物事を計画することはできるし,何が起きているのか,起きていないのかを,確実に知れるからです」と彼は述べた。「それにより,あなたは決断を下せます」
愚痴の重要性
経営陣と解決策を話し合う前に,信頼できるチームメンバーと発散することは不可欠だ。
「悪い決断,あるいは良い決断をする前に,すべてを吐き出しましょう」とSemionov氏は勧める。「意味のないことのように聞こえますが,意味はあります。というのも,ある部門の責任者と話をするとき,『こうなったのは,すべてあなたのせいです』とは言わないからです。愚痴をこぼすことはなく,あなたは実際の解決策について話し始めます」
「愚痴のポイントは,必ずしもサポートを得ることではありません。むしろ,あなたの体からそうしたものを取り除くことです」
Konstantin Semionov氏
Semionov氏が説明したように,上層部に状況を話す前に,同僚と愚痴ることを戦略としよう。彼は付け加える。「愚痴のポイントは,必ずしもサポートを得ることでも,具体的な行動や次の行動について指示を得ることでもありません。むしろ,あなたの体からそうしたものを取り除くことです」
Semionov氏は,SlackやDiscordなどに,チームメンバーが悩みを吐き出したり共有したりできるチャンネルを設けることを提案した。
「これは必ずしもすべての職場,すべての人に通用するわけではありません」と彼は述べた。「自らの人生について語る人々に,私は信じられないほど支えられていると感じました。というのも,私が『ボートを揺らしすぎるのもどうかと思う』と考え,言いたくても言えなかったことを,彼らは言ってくれたのです。人々が心を開いていることが分かると,すぐに自分も心を開き始め,話してみると,自分だけがそう感じているのではないと分かりました」
Semionov氏は続けた。「それは助けになるので,その場所は,人々が非難されることなく,自分自身を表現できるところになっています」
Parker Adcock氏も同意して,このような安全な空間は心強いと付け加えた。
「不適切なことを言う人になりたくないので,誰もが特定のことを言うのを怖がっていますが,ほかの皆も同じ側にいることに気づくでしょう」
「Semionov氏が本当に言いたいことは,プライベートな場所でわめき散らすのは構わないが,そのあとに人間らしい合理的な方法で質問しようということだと思います」
厳しい質問の仕方
従業員代表として,Semionov氏はFrontierの人員整理プロセスについて,自分自身だけでなくチームのためにも厳しい質問を投げかける必要があった。
「このプロセスが始まった10月当時,私は入社10か月目で,これが私にとって,この業界で初めて実際にお金をもらう仕事でした」と彼は言った。
「私は(事実上)CFOの前に立ちはだかり,厳しい質問をしました。明確にしたい不確実な要素がたくさんあったので,そうせざるを得ませんでした。それは質問の仕方がすべてです」
「『なぜこんなことをするんだ』と言うこともできるし,代わりに『この決断の理由を説明してもらえますか』『こうする前に,これらの選択肢を考えましたか』『これについて考えたことがありますか』『この選択肢を検討しませんか』と言うこともできます」
望ましい答えを得るには,「敵対的でない」質問をすべきだと,Chuan氏は指摘する。あなたが知りたいこと,知る必要のあることのすべてが得られるとは限らないが,要求をするのとは対照的に,より多くの回答を得られるだろう。
適切なサポートを見つけるには
チームメンバーと問題を愚痴ったり,話し合ったりすることは有益だが,信頼できる相談相手がいないように感じたり,相談したことが経営陣に伝わることを恐れたりする人もいるだろう。Parker Adcock氏は,悩みを打ち明けたり,助言を求めたりする相手は,必ずしもチーム内の人である必要はなく,業界の人である必要さえもないと提案した。
例えば,彼女は自分が置かれた状況について父親に話すことで慰めを得た。父親もまた,自分の事業を閉鎖した経験があったからだ。業種は違えど,2人は同じような逆境を共有していたのである。
「あなたの感情を理解するために,必ずしも誰かがあなたの正確な状況を理解する必要はありません」
Kim Parker Adcock氏
「誰が実際にその場にいるのか,あなたは驚くでしょう」と彼女は言った。多くの友人たちは,彼女の仕事を必ずしも理解していなくても,彼女を助けてくれたという。「あなたの感情を理解するために,必ずしも誰かがあなたの正確な状況を理解する必要はありません」
Semionov氏も同意見だが,ゲーム業界にいる誰かに吐き出せるのは,さらに大きなメリットだと主張した。
「同じような観点から理解してもらえるのがいいんです」と彼は説明する。「例えば,私が誰かに『ああ,人員整理で職を失ったんだ』と言うと,『そうなんだ。それは大変だね』となります。この業界の人に言うと,即座に『あなたも?』となり,そこには理解とサポートがあります」
またParker Adcock氏は,年上の同僚にサポートを求めることを恐れてはいけないと言う。
「自分が新人で後輩だからといって,25年もそこにいるような人とは話ができないと思わないでください。なぜなら,彼らもあなたと同じように,その会話に感謝しているかもしれないのですから」
大局を見よう
予断を許さない時期に回復力を維持することは,言うは易く行うは難しだが,状況を把握し,大局を見ることで慰めは得られる。
「何が起こるかは変えられませんが,それにどう対応するかは変えられます」とParker Adcock氏は指摘する。「それが回復力の鍵だと思います。そしてそれが,あなたにできるすべてなのです」
また,このような悲惨な状況から得られるポジティブなこともある。Semionov氏は,その職務に就いている間に自分が貢献したことを書き留めておくことで,自信を高められると提案した。
「対処療法かもしれませんが,自分が何に貢献したのか,何を達成したのか,その仕事で学んだことをすべて見つけようとすることです」と彼は言う。「というのも,私はこれまでやってきたどの仕事でも,学んだことのリストを作れたのです」
「ストレスもありましたし,不安もありましたし,いろいろありましたが,個人的には信じられないほどやりがいのある仕事でした。おそらく人生で最高の仕事だと思いますし,それを皆に見せられて幸せです」
Semionov氏はまた,この業界から離れることで,自分のキャリアについて新たな視点を持てると強調した。
「違う仕事をして,ほかの何かを選び,また戻ってくるのです。そして,あなたがこのようなことを経験し,それでもまだこの業界の一部でありたいかどうかを確認しましょう」と彼は言った。「そうすれば,もう少し気楽に考える時間ができ,より強くなって戻ってこられるでしょう。もし何も得るものがなかったとしても,二度とゲームの仕事をすることがなかったとしても,このように巨大で素晴らしい開発者コミュニティがあり,今後もつながりを持ち続けられるという事実に感謝してください」
「この短い旅の一部になれたことを幸せに感じています。願わくば,このまま終わらないでほしいです。でも,もし終わってしまっても,それは素晴らしいことでした」
Parker Adcock氏はこうまとめた。「災い転じて福となす」
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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)