Cat Channon氏は，ゲームビジネスにおける人的影響を最小限に抑え，大きな変化を受け入れてもらう方法についてアドバイスする


　昨年末に開催したGamesIndustry.biz 人事サミットの講演で，ゲーム業界におけるコミュニケーションのベテランであるCat Channon氏は，レイオフや大規模なM＆A，あるいはスタッフに影響を与える可能性がある現実世界の厄災などの，変化の中でのコミュニケーションについて指南し，情報をスタッフに共有する際の人的影響を考慮する方法についても語った。

　Channon氏はゲーム業界で30年以上の経験を持ち，直近ではEAのグローバル・コーポレート・コミュニケーション担当のバイスプレジデントとして，23の拠点で働く1万3000人の従業員を監督するチームをサポートしていた。彼女はWarner Bros.や，Vivendiの子会社だったころのBlizzard，Take-Two，NCSOFTなど，小さなスタートアップから業界の巨人まで，さまざまな国で長年にわたって働いてきた。

　「これら一つひとつが私に教えてくれたのは，コミュニケーションに伴う文化的なニュアンスと，それがいかにコミュニケーションの結果に大きな影響を与えるかということです」とChannon氏は語った。「私は自身の経験から，もし私たちが言葉を適切に使わなければ，変化の時期に言葉がどれほど重くのしかかるかを知っています」

変化の定義

　彼女の講演は，これらの経験を通して学んだことを共有し，変化する状況を伝える際に，ほかの人々を導くことを目的としている。

　「変化として定義される領域は多岐にわたります」と彼女は語り，視点を明確にした。「よく見出しを飾るのはリストラや人員削減ですが，変化は必ずしもそれらだけではありません」

　彼女は職場に影響を与える変化になり得るものをいくつか示した。

• 経営陣の交代（彼女は経営陣の交代による影響を理解することが重要だと指摘した）
• リストラと解雇
• 合併，買収，スタジオの閉鎖
• ポリシー/福利厚生の変更（書類上は小さな変更に見えるかもしれないが，福利厚生の変更は従業員の気持ちに大きな影響を与えるかもしれない）
• 現実世界の変化（戦争やパンデミックなど）

「変化の人的・感情的影響を理解することは，ビジネス上の要求が本当に深刻であるにもかかわらず，軽視されたり，優先されなかったりしがちです」

　「合併，買収，閉鎖によって企業文化が変化することはよくあります」と彼女は言う。「これは2つ以上の組織で，2つの異なる言語を使っている際に，理解が最も難しくなるものの1つです。2つの異なる世界が1つになったとき，コミュニケーションが一方からどのように意図され，他方からどのように受け止められるかには，劇的な違いがあるかもしれません」

　「また，解雇への恐れと仕事への不安は大きいです。そこで，どのように示すか，何を言うか，どのように言うかが非常に重要となります」

　彼女はまた，企業が意思決定をする前に考えるべき，変化がビジネスに与える影響についても強調した。

• 株価
• 風評被害
• 人材の維持・獲得
• 従業員との関係性（「変化の方法，変化の理由，変化の目的，新たな計画を，どうすれば皆が迅速に納得してくれるのか？　この問題における大事なポイントは，コミュニケーションです」とChannon氏は言う）
• 事業の開発（自分たちと価値観が合わない企業と仕事をしたい人はおらず，変化を決定する際に準備不足だと失敗につながる可能性があると彼女は指摘した）
• 事業の継続

変化の人的影響

　Channon氏はゲーム業界の人事担当者に対して，変化を計画する際に人的影響を考慮すること，そして明確なコミュニケーションによってネガティブな影響を緩和し，ポジティブな影響を促進することを強く勧めた。

　「職場の外では，人々がかつてないほどの変化と不安定さを目の当たりにしていて，私たちの業界は比較的変化しにくいように感じていました」と彼女は語った。「（しかしパンデミックによる追い風を受けて）私たちの従業員は非常に不安定な状況に置かれました。そしてパンデミック後，私たちはほかの多くの業界と同じように，あるいはそれ以上に苦しんでいます」

　「立ち直っている人もいますが，私たちはそうではありません。そのため，これまでは安全で，堅固で，安心で，馴染み深いと感じていた職場において，変化を導き，持続させるために，現実世界の影響が従業員の能力にどのように作用するのかを理解することは，本当に重要です」

　Channon氏は，ここ数年のかつてない変化によって，私たちは今「変化疲れ」の影響に直面しており，職場の問題に加えて世界中で起きているさまざまな危機が，変化を乗り切る能力を劇的に低下させていると述べた。

　「変化の人的・感情的影響を理解することは，ビジネス上の要求が本当に深刻であるにもかかわらず，軽視されたり，優先されなかったりしがちです」と彼女は付け加えた。「経営陣はブレーンに給料を払い，明かりをつけ，機械を動かし，従業員を雇用し続けられるかどうかについて，しばしば非常に難しい『運命を左右する』決断を下しています。このような決断の後は，たとえビジネスを急速に進めて，締切に間に合わせなければならないという劇的なプレッシャーがあったとしても，どのようにコミュニケーションをとるかを考えることが大変重要になります。何を言うか，どう言うか，いつ言うか，どこで言うかを考えることは本当に大事です」

　Channon氏は自身の変化，特に解雇の経験について触れ，良いコミュニケーションがもたらす違いを強調した。

　「私は2度，人員削減の対象となりました。1度目は20代前半で，自分はビジネスの一部であり，エクセルシートのどこかの点にすぎないという現実を突きつけられました……。劇的な体験でしたが，それをめぐるコミュニケーションは非常に明確でした。彼らは非常に一貫していました。私に関するものではありません。これは誰かが下した難しいビジネス上の決断でした。そして私は去り，素晴らしいキャリアへと進み始めました」

　彼女は続ける。「2度目の解雇は，これ以上ないほど劇的な違いがありました。変化は本当に稚拙に管理され，コミュニケーションには一貫性がなく，人事部の言っていることと法務部の言っていることは矛盾し，それは直属の上司が言っていることとも違っていたのです。皆が実際のプロセスのあるべき姿を理解せずに，灰色の隔たりを埋めようとしていました」

　彼女は，この2つの事例の「決定的な違い」はコミュニケーションにあると指摘した。

　「1度目は明確で，きちんと管理され，可能な限り良い気分で去りました。2度目は雑然かつ混沌としていて，まったく調整されていませんでした。そのことが私に与えた人的影響は，必要以上に大きかったです」

　なお，GamesIndustry.bizでは最近，RiotとMicrosoftのレイオフの違いについても取り上げている（英文記事）。

変化の時代における上手なコミュニケーションのとり方

　（TwitterのレイオフやUnityのランタイム料金をめぐる問題など）変化の中のひどいコミュニケーションの例をいくつか取り上げたあと，Channon氏はそれを正しく行い，効果的にコミュニケーションをとる方法について説明した。

1. 思考をテストする

　先に進む前に，Channon氏は起こり得る反応を経営陣に突きつけることが不可欠だと強調した。

　「『これが見出しになり，これが人々が言うことで，これが変化に対するSNSの反応だ』とあなたは発言できます」と彼女は語った。「つまり，あなたは本当に思考をテストし，鏡となれます。あなたはインターネットの登場以降に彼らが発言したことすべてを比較でき，それが変化によって蒸し返されるものなのです」

　「これらの変化は必要ですか？　唯一の方法ですか？　適切な方法ですか？　正しい理由に基づいて行っていますか？　非常に難しくかつ目の前にある疑問を経営陣に投げかけられるパートナーを活用できるので，コミュニケーションは素晴らしい方法です」

2. 計画を持つ

　変化に直面したとき，上層部の誰かが決断を下し，人事部，法務部，コミュニケーターが「それを実現する」ために連れてこられただけ，というケースはよくある。

「これらの変化は必要ですか？　唯一の方法ですか？　適切な方法ですか？　正しい理由に基づいて行っていますか？」

　「私は，何度も何度もそれを見てきました。計画がなかったり，計画を守らなかったりすれば，その代償を支払うことになります」とChannon氏は語った。

　「そして計画は綿密であるべきです。すべての人を気にかけなければなりません。どこで話すのか，どのチャンネルを使うのか，誰が話すのか，どんな声で話すのか，どんなオーディエンスがいるのか，ビジネス上の目的は何なのかについても考えましょう」

　「変化の中のコミュニケーションで多大なリスクがあるのは，人々が計画に賛同していない場合なので，すべてのことを計画し，それを主要な利害関係者に共有し，全員を納得させましょう。誰かはそれに同意しません。誰かは自分なりのアレンジを加えたいと言います。誰かが経営陣の言っていたことは，彼らが言おうとしていたことではないと決めつけたいです」

　「計画を立て，それを貫き，全員がそれに賛同することが本当に重要です」

3. ストーリーを明確にし，それを貫く

　会社の変化を伝える前に，ストーリーを確認しよう。それは「絶対的な真実ではないにせよ，真実に近い」ものでなくてはならないとChannon氏は語り，「信頼性と透明性」の重要さを強調する。

　「隠れることはできません。なのでストーリーを考えましょう。同じ言葉を何度も繰り返し使えるように，キーメッセージを設定しましょう。オウムのようには聞こえずに，社内の全員が同じ考えを持っているように聞こえるでしょう」

　「従業員がしばしば不安になるのは，何かを誇張する人々や，コミュニケーションの道を外れる人々のせいで，ニュアンスの違いを見つけたり，質問を促されたりするからです。そのため，自分のストーリーをはっきりさせ，それを貫きましょう」

4. オーディエンスの要求を考える

　どのようなメッセージを誰に伝えるにせよ，その相手が何を必要としているかを考えることは絶対に必要だとChannon氏は言う。

「（私たちの）業界は一般的に発達における多様性のあるオーディエンスを持ちます。あなたがコミュニケーションに使用するチャンネルに対して，彼らはどのような反応を示しそうですか？」

　「これは本当に重要です。変化の中の経営陣は，ビジネスの要求，数字の要求，投資家の要求，財政面の要求，自分自身の要求について考えることに長けています。しかし，オーディエンスが何を必要としているかについては，必ずしも考えていません。この変化の中で彼らが必要なものは？　彼らにとって重要になるものは？　彼らが大事にしているものは？　彼らはこれらのコミュニケーションをどのように受け取るでしょうか？」

　「一般的に私たちは，まさに発達における多様性があるオーディエンスを持つ業界です。あなたがコミュニケーションに使用するチャンネルに対して，彼らはどのような反応を示しそうですか？　つまり多様性のあるオーディエンスの要求に配慮して，あなたのコミュニケーションをどのように透明で，正直で，オープンで，本物で，包括的なものにしていくかを考えることは本当に重要です」

5. コミュニケーションのタイミングを考える

　Channon氏はタイミングも重要であり，そこには複数の要因が関係してくると付け加えた。

　「変化の知らせを届ける日を，週の半ばに設定することはよくありますが，それは素晴らしいです。また，木曜日には誰かがテーマに目を通さず，金曜日の午後になって，金曜日の午後だからという理由で皆が目を通し，今すぐ変更を発表すると決めた場合……それはひどい考えです」

　「そして，あなたのオーディエンスが世界のどこにいるのかを考えましょう。あなたにとって金曜の午後ではなくても，アジア太平洋地域のチームに向けたものなら，彼らは疑問の波が押し寄せる中で週末を迎え，この変化の影響について話したくても，経営陣，サポートサービス，人事部，法務部にアクセスできないかもしれません。なので，いつ人々に伝えるのかを考えましょう」

　講演の最後に，Channon氏は要点をまとめた。

• 人的影響を考える：「それは，私たちが変化について本当に考えなければならない視点であり，非常に重要です。人道的な観点だけでなく，ビジネスの観点からも，人的影響を考えましょう」
• コミュニケーションパートナーを早めに迎える：「彼らはあなたのために多くのことができ，パートナーシップの締結が早ければ早いほど，戦略の推進に役立ちます。すでに出来上がっている構成のために，後から言葉を書くために彼らを呼び寄せる……それが公開されるころには地獄絵図になっているかもしれません。早い段階で手を組みましょう。早ければ早いほど良いサポートができます」
• 思考をテストする：「それは本当に正しいことですか？　動機は真正で，言葉は適切ですか？」
• 計画を立て，それを貫く：「全員を計画に納得させましょう。なぜなら，皆がこの計画に賛同していないなら，そこに亀裂が生まれ，足並みが揃わなくなるからです。明確で一貫性のある計画にしましょう」
• オーディエンスに配慮する：「従業員には何が必要ですか？　ビジネスに必要なものや，経営陣に必要なものだけではありません。どこの誰に対しても，個人レベルに至るまで，これが彼らにどのように感じられるか，これが彼らにどのように見えるか，そしてあなたのしていることがどのような人的影響を与えるのかを考えましょう」

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