【ACADEMY】テクニカルアート職:その内容と就職方法

Radical Forgeの専門家によるパネルディスカッションでは,この分野への有力なルートと,就職確率を高める方法について議論された

【ACADEMY】テクニカルアート職:その内容と就職方法

※この記事は,ゲーム業界での生活についての見識や,ゲーム業界に入るためのアドバイスを学生に提供する企画「Get into Games」の一環です。

 ゲーム業界にある無数の仕事の中で,おそらくアーティストは部外者にとって最も理解しやすいポジションの1つだろう。プログラマーも名前の通りの仕事をする。だが,テクニカルアーティストはどうだろうか。その両方の世界にまたがり,アートをまさに思い通りのゲーム内アセットやキャラクターに変えるためのツールを作る人たち? ああ,それはもう少し複雑だ。

 EGX 2023の講演では,Radical Forgeのテクニカルアートチームに所属するCalvin Simpson氏(元プリンシパルテクニカルアーティスト,現Blueshift Interactive CEO),Anthony Marmont氏(シニアツールエンジニア),Piotr Sidorowicz氏(ジュニアテクニカルアーティスト)のほか,同社CEOのBruce Slater氏と,Liquid Crimsonでコミュニケーション部門の責任者を務めるLauran Carter氏が,テクニカルアートとは何か,そして新規開発者がどのようにキャリアを築けるのかを説明した。





テクニカルアーティストとは何か


 テクニカルアーティストとしてキャリアを始めたSlater CEOによれば,テクニカルアートには2つのタイプがあるという。

フロントエンド:ビジュアルエフェクトとシェーダー(彼の言葉を借りれば「アートの見栄えを良くする」)

バックエンド:ツールと制作工程の管理(「アートをゲームに取り込むこと」と「AからBに物事を進めるワークフローの効率化」)

 興味深いことに,この2タイプのテクニカルアート職の中にも「多くのサブ領域」があり,テクニカルアーティストの仕事はスタジオ間のみならず,同じ会社の中でさえ大きく異なることがあるとSlater氏は語った。


ゲーム業界でテクニカルアーティストになるための第一歩


 Sidorowicz氏は3Dアーティストとしてキャリアをスタートし,スケートボードの最中にSlater CEOと偶然出会ったことがきっかけで,現在はシェーダーやエフェクトを担当する「フロントエンド」のテクニカルアーティストとして働いている。この仕事を始めたとき,モデリングの経験は「良い足がかり」になったという。

Piotr Sidorowicz氏(Radical Forge)
 「それはとても良い基礎になります」とSidorowicz氏は語った。「プログラミングのバックグラウンドを持っていても,アートのバックグラウンドを持っていてもいいです。私の場合はアートでした。モデリングができれば,それに一歩近づくことになります」

 そして,そうしたスキルを学ぶ方法や機会もたくさんある。Simpson氏が指摘するように,現在ではより詳細なゲームデザインについて教える大学の学士課程が大幅に増えてきており,この業界を志望する人たちは,10〜15年前の新規開発者たちよりも,業界のツールやプログラムにかなりアクセスしやすい。その結果,テクニカルアーティストの志望者は「ほぼ経歴不問」となっているが,「結局のところ,自分が楽しめるものを選ぶべき」だという。

 「スキルはいつでも学べるので,もしあなたが何かに情熱を注いでいるのであれば,どのような仕事に就くとしても,個性がスキルよりも役立つことがあると思います」とSimpson氏は言った。

 Slater CEOもこれに同意し,Radical Forgeで働くパネリスト全員が「情熱を持っている」だけでなく「信じられないほど仕事ができる」と付け加えた。

 「スタジオに彼らがいることはとても幸運です。しかし,大事なのは情熱です。(Sidorowicz氏は)情熱によってテクニカルアートを身につけたのです」

 もちろん,だからといって自分の情熱を他人に利用されたり,搾取されたりすることはあってはならないが,ゲーム業界では「上を目指す」ことを厭わない姿勢が必要という点には,パネリスト全員が同意していた。また,たとえ「常に自分のやりたいことに取り組めるとは限らない」としても,楽しくない仕事でさえ勉強となる。

 「苦痛を伴う仕事も確かにありますが,結局のところ,すべて勉強なんです」とCarter氏は付け加えた。「スタジオに入って1か月が経ったころ,周囲のモチベーションが自分と同じではなく,目線が合わないことに気づくかもしれません。できる限り多くのことを吸収し,うまくいかなかったことと,その理由を突き止めましょう」

 一方,シニアツールエンジニアのMarmont氏は,インディーズ時代にツール制作の楽しさに目覚め,そこにテクニカルアートを見出した。

 「ツールを作り続けたことで,私はこのパネルディスカッションに参加しています」と同氏は説明する。「私はスタジオに通い,ゲームプレイプログラマーとしてツールを作っていました。サーバープログラマーとしてツールを作ることもありました。そして,実際にフルタイムでツールを作る仕事に就いたんです」

 「もし情熱があるなら,それはポートフォリオに表れます」と同氏は付け加えた。「テクニカルアートは,ポートフォリオを作成するうえで非常に良いスキルだと思います。それは私が仕事のスタイルを確立するのに本当に役立ちました。私はボクセルアートとピクセルアートが大好きで,いくつかの個人的なプロジェクトでそれに取り組んだことで,私のポートフォリオは本当に素晴らしく,一貫したものになりました。また,ゲームシステムが舞台裏で何をしているのかを理解できるようにもなります」


新しいテクニカルアーティストを採用するときにスタジオが求めていること


 Radical Forgeのようなスタジオにとって,最も重要なのは,しっかりとしたポートフォリオとゲームデザインに対する明らかな情熱だ。

 今回のパネルディスカッションでは,次のようなことも推奨された。

  • ポートフォリオには,一握りの最高の作品だけを載せること
  • 機構やテクニカルアート作品をどのように作っているか示すこと

Bruce Slater氏(Radical Forge)
 Slater氏によると,フロントエンドかバックエンドかによって,必要な人材はまったく異なるという。チームにフィットするかどうかは,ポートフォリオと同じくらい需要なので,Radical Forgeでは新入社員が働くことになるチームのメンバーを採用プロセスに含めている。またSlater氏は,現段階では技術的な優秀さよりも,仕事とゲーム開発全般に対する情熱を証明できる人を探していると再び語った。

 「学ぶ気があるなら誰にでも,あらゆることを教えられます」とSlater氏は説明した。

 さらに,ポートフォリオでは最終的な作品だけでなく,それをどのように達成したかを示す必要があると付け加えた。

 「ある機構をリアルタイムでどのように作ったのかを見たいんです」とSlater氏は例示した。「機構やアートそのものを見たいのではありません。どのように成し遂げたのか,その過程を見たいのです。そして200個も見る必要はありません! あなたの最高の作品だけを見たいのです。ポートフォリオに載っているもので,先週の作品よりも劣っているものは捨てましょう。取り除きましょう。あなたは最悪の作品で評価されることになりますよ」

 Marmont氏が初めてゲーム開発職に就いたとき,同氏は自分で設計したツールを持ってスタジオに行き,デザイナーに見せた。

 「開発者やデザイナーが新しいツールを手にしたとき,彼らはいつも目が回るほど興奮します」と同氏は語った。「『なんてこった! これで何ができるんだろう?』という感じで,そのとき私はこの仕事に就けたと確信しました」

 「それは今,私の日々の仕事で起こっていることでもあります。Slater CEOにツールを共有すると,彼は『これを使うのが待ちきれない!』と言うんです」


どのプログラミング言語を優先して学ぶべきか


 最初の開発職として直接テクニカルアートの道に進んだSimpson氏は,競争に打ち勝つための「大きな足がかり」としてコーディングを学ぶことを勧めている。

 「PythonかBlueprintsを調べてみてください。最近はUnrealを使うプロジェクトが増えてきているので,Blueprintsは間違いなくお勧めです。これらは間違いなく大きな足がかりになります。C++を勧める人がいるかもしれませんが,それはもっと高度なものなので,ジュニアテクニカルアーティストには期待できないでしょう」と同氏は付け加えた。

 「コーディングが苦手なら,テクニカルアートのサブ領域であるVFXに進むのもいいです。パーティクルエフェクトを作ったり,シェーダーを作ったり,これもいいルートです。ライティング分野もありますが,正直なところジュニアのライティングアーティストを見たことがありません。そのためアート制作工程の,より技術的な部分に集中してください」


ゲーム開発者はどうすれば最近の人員削減の波から身を守れるのか


 Carter氏は,大規模レイオフのようなことが起こると,その分野に直接関わっている人は,実際より大きな影響を感じることが多いと述べた。

 「しかし,いつもそうなるわけではありません」とCarter氏は語った。「レイオフが起こったとき,とくに最近見られたようなものが立て続けに起こったとき,それは少し衝撃的なものとなります」

Lauran Carter氏(Liquid Crimson)
 この業界に15年間いるCarter氏は,閉鎖した3つのスタジオで働いたことがあるが,それが足かせになったり,ゲーム業界で働くことへの躊躇につながったりすることは,まったくないという。

 「ゲームに携わることへの絶対的な興奮が冷めたわけではありません」と同氏は説明した。「それは当然の浮き沈みとして起こることのひとつで,何にせよすべてがプロジェクトのローンチにかかっています。プロジェクトがローンチして,『金の亡者』たちが期待するような成功を収められなければ,物事は少しずつ削られていきます」

 「しかし,そのような人たちはまだ,この業界に対して非常に熱心です。いつまで経っても,これまでやってきた仕事をやりたがります。そしてそれは,新しいスタジオや新しいIP,本当に大切なものである,ゲーム業界における多様な考え方を生み出します」

 Carter氏は,ゲーム業界は「スタジオの内外を問わず」,解雇された開発者が次の仕事を見つけるのを助け,仕事を与えようとする「多くの人々」がいる場所だと語った。

 「漂流することにはなりません。基本的に,彼らは常にどこかにいて,誰かがあなたの世話をしてくれます」

※この記事は,特集企画「Get into Games」の一部です。そのほかの講演やパネルディスカッションはこちら,求職者に最適なACADEMYガイドの選りすぐりはこちら(いずれも英文)。

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