【ACADEMY】インポスター症候群を克服する10のヒント

Media MoleculeのシニアゲームデザイナーであるEilidh MacLeod氏が,自信喪失を克服し,自分の業績を認められるようになるためのアドバイスを共有してくれた

【ACADEMY】インポスター症候群を克服する10のヒント

※この記事は,ゲーム業界での生活についての見識や,ゲーム業界に入るためのアドバイスを学生に提供する企画「Get into Games」の一環です。

 学生時代は優等生で,アバーテイ大学を首席で卒業したにもかかわらず,Eilidh MacLeod氏(Media Moleculeのシニアゲームデザイナー)は,決して自分の実力が十分だと感じられなかった。

 多くの人と同じく,彼女も自分の成功体験と優秀さを無視してしまう一連の感情,インポスター症候群に苦しんでいた。

 「インポスター症候群の最も一般的な特徴には,自信喪失,自分の貢献の過小評価,自分の成功を外的要因に帰すること,自分自身に非現実的な期待をかけること,そして期待に応えられないことへの恐れが挙げられます」とMacLeod氏はEGX 2023のACADEMYステージで説明した。

 「インポスター症候群は無力感を強め,自分はそのようなことをする能力がない,そのような質問に答える能力がない,そのような会議で発言する能力がない,そのような意見を持つ能力がない,そのような役割を目指す能力がない,と思い込ませようとしてきます」

 MacLeod氏は長年にわたって,インポスター症候群の感情を克服するために努力しており,ゲームデザイナーの立場でそれをどのように克服したのかを親切にも教えてくれた。




ゲームではなく,ゲームデザインについて話す方法を学ぶ


 ゲームの各要素を理解して,それらを細かく分けることは,ただゲームに対する意見を持つよりも,MacLeod氏の発言力とコミュニケーション能力を向上させるうえで,非常に重要だと証明された。

 「ゲームをパーツごとに分解して,客観的に語る方法を学ぶことは,デザインにおけるコミュニケーション能力を真に向上させるための鍵になりました」と彼女は語った。

 「私は『Deconstructor of Fun』に参加して,ゲームを解体し,システムやデザイン決定の背後にある意図を理解する方法を学びました。ゲームに対する自分の理解に自信を持つことで,急な会話や会議,インタビューでも自分の視点を持って臨めます。なぜなら私は,デザインの背後にある意図を理解しているからです」

 「自分のデザインを伝えるために,これがどれほど有益であるか,言葉では言い表せません。デザインはとても主観的なもので,そこから偏見を取り除くのです。決断の背後にあるデザインの意図を理解することで,より自信を持ってデザインし,自分の決断を守れるようになりました」


プレゼンテーションが得意になる


 コミュニケーションと結びついているのは,自分の考えを同僚や仲間にプレゼンテーションする能力だ。以前のMacLead氏は,プレゼンテーションが怖くて夜も眠れなかった。インポスター症候群のせいで,自分が詐欺師であることがバレてしまうのではないかという不安があったからだ。しかし,彼女はその恐怖を克服するために,それと向き合うことにした。

 「『習うより慣れろ』ってね」と彼女は語る。

 「Fortitude Gamesで働いていたとき,『Exploding Kittens(こねこばくはつ)』のためにデザインしたすべての機能について,重要な情報をまとめたプレゼンテーションを作成するという,自分なりの課題を設定しました。私は,自分のデザインや単なる情報を,このように伝えることの価値を本当に理解し始めました。私は,あなたが望むであろう詳細をすべて盛り込んで,完全なデザイン資料を作ります」

Eilidh MacLeod氏(Media Molecule)
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 MacLeod氏は,解決すべき問題の概要と,自分のデザインがどのように問題を解決するか,それに必要な作業は何かを論理的に説明することが重要だと気づいた。その後,彼女はこれらのプレゼンテーションを同僚と共有し,やがて自分らしく振る舞えるようになった。

 「私はユーモアを使うようになり,チームの中で自分らしくいられるようになり,自分のデザインについて話すことをリラックスして楽しめるようになりました」と彼女は言う。「楽しんでいれば,自然とリラックスして自信が持てます。複雑なものについてプレゼンテーションを制作しましょう。ジャガイモでも木でも構いませんが,複雑なものを題材としてプレゼンテーションを作り,何度も何度も人々に披露し,何が効果的か,どんなジョークがウケないかを確認しましょう。練習あるのみです」


仲間の開発者と親しくなる


 同僚とのコミュニケーションに自信を持つためのもうひとつの方法は,より親密な関係を築くことだ。そうすることで,プロジェクトで働くほかの人たちとの共同作業が容易になり,仕事の改善にもつながる。

 「デザインが可能な限り堅牢であるためには,あらゆる確度から検討される必要があります」とMacLeod氏は語る。「自分のデザインが可能な限り良いものであると感じるためには,個人と1対1のコミュニケーションを上手にとれるようにならなければいけないと思いました。私は時間をかけて,さまざまなチームメンバーと1対1で話し,彼らの考えを理解するようにしました。デザインをサーバープログラマーに伝えるのと,アーティストに伝えるのでは,常に違うということを学びました」

 「このような人間関係に時間を費やすことは,結果的にあなたの意思決定を信頼させることになり,コミュニケーションへの自信にもつながります。私はデザインプロセスのどの段階でも,常に本当に良い,協力的なディスカッションを心がけ,できる限り幅広いやり方でコミュニケーションをとっています。仲間や友人と話すだけでなく,チームの構成や階層にかかわらず,常に新しい人たちとのコミュニケーションを改善するように自分を追い込んでください」


できるだけ人間らしく


 インポスター症候群の症例には,自分の能力を疑ったり,十分な作品を作れないのではないかと心配したりすることがある。これに対抗するには,まだ完成していない,あるいは完璧ではない作品を見せることにもっと慣れたほうがいい。

「正しい方法で自分を売り込む能力に自信が持てた唯一の方法は,実際にやってみることでした。私は面接官に好意的に受け取られたものや,もっと明確に説明する必要があるものを知りました」

 「自分の不完全さを見せましょう。インポスター症候群の最も不自由な側面のひとつは,期待に応えられないことや,自分の貢献が評価されず,馬鹿馬鹿しいと思われることへの恐れです」とMacLeod氏は言う。「そのため,完璧でないものを誰かに見せることが怖くなってしまいます。しかし,ゲーム開発でそれは通用しません。何事も1日では成し遂げられないのですから,不完全な仕事を見せ,自分らしくいることが,良い人間関係を育む鍵となります」

 自分らしくいることは,自分ができること,できないことを正直に相手に伝えることでもある。MacLeod氏が言うように,未完成で不完全な初期段階の仕事を共有し,フィードバックを得て素早く反復できるようにならないといけない。


強力なサポート体制を持つ


 インポスター症候群に対処するのはかなり孤独なことなので,自信を高めてくれて,ネガティブなときに支えてくれる人が周りにいればいい。

 「職場の内外を問わず,信頼できる人たちによる強力なサポート体制を持つことが重要です」とMacLeod氏は語る。「インポスター症候群はとてもつらいので,もし私にサポート体制がなかったら,100%ゲーム業界を離れていたと断言できます」

 「落ち込んでいるときに自分を奮い立たせてくれたり,自分が達成したすべてのことを思い出させてくれたりする人を見つけましょう。あなたが本当に尊敬している人や信頼している人から,あなたのデザインや,あなたがどんなデザイナーであるかについてフィードバックを受けることも,あなたを前進させるのに役立ちます。ネガティブなときに元気づけてくれる,自分だけのチアリーダーを見つけましょう」


自責の念にエビデンスで対抗する


 インポスター症候群がもたらす思考との戦いを助けてくれる人々によるサポートネットワークを持つことに加えて,否定的な声が間違っていることを示す証拠を集めることもできる。

 その方法のひとつは,MacLeod氏が「自慢袋」と呼んでいるもので,長年にわたって人々から自分の仕事について言われたポジティブなことをリストにしておくのだ。

 「最初は気恥ずかしく感じるかもしれません」と彼女は説明する。「しかし気分が落ち込んだり,何かをできないと思ったときに,この本は簡単に読み返すことができ,それは絶対にあなたの気分を軽くして,インポスター症候群の感情に対抗できるようになると約束します。否定的な考えに証拠を持って挑戦することは,実際にとても効果的です」


履歴書の特別な書き方


 MacLeod氏によれば,インポスター症候群に悩む人は,自分の業績について考え方を再構築することが効果的だという。単に成し遂げたことを列挙するのではなく,解決した問題と,その方法について考えるのである。

 「履歴書に自分の経験を書くとき,それを箇条書きにして,次の箇条書きに移ることがよくあります」と彼女は説明する。

 「しかし,その経験を提示する際に真に役立つのは,行動として述べ,ゲームやチームに与えた影響や意図を説明することでした。これは,仕事に応募する際の自信につながり,面接でとても役立ちました」

 「履歴書を反復して,自分の経験についてこのように書くことで,自信のなさに悩んだときに,より上手に自分自身を構成し,売り込むことができました。私が自分の仕事の価値を理解していることも示せたので,面接では常に有利でした」


とにかくやってみよう


 インポスター症候群に対処するためのMacLeod氏の次のアドバイスは,お騒がせハリウッド俳優であるShia LaBeouf氏の「Just do it(とにかくやってみよう)」だ。

 「仕事に応募し,テストを受け,常に履歴書に磨きをかけ,面接,面接,面接」と彼女は言う。「面接やテストを上手にこなすことは,それ自体が絶対的なスキルです。誰もが自然に得意になるものではありませんし,上手になるためには練習が必要です。だから,もしその仕事に就けなかったとしても,それはそれでいいのです。次を目指しましょう」

 「正しい方法で自分を売り込む能力に自信が持てた唯一の方法は,実際にやってみることでした。私は面接官に好意的に受け取られたものや,もっと明確に説明する必要があるものを知りました。面接の扱いを,上達しなければならないスキルそのものとすることで,自信も深まりました」


ポモドーロ・テクニックで先延ばしと戦う


 インポスター症候群に悩む多くの人にとって,受け入れがたい状況と向き合い,目の前の仕事をやり遂げようとすることは,しばしば負担になることがある。その結果,仕事を後回しにする傾向があるため,やるべきことを強制的にやる方法を見つけることが必要不可欠だ。

精神的な自慢袋を作ろう(画像はEtsyで見つけたもの)。自分の長所や成果を思い出させてくれる
【ACADEMY】インポスター症候群を克服する10のヒント
 「私たちの多くにとって,よくインポスター症候群は先延ばしを伴います」とMacLeod氏は語る。「ある仕事がうまくできないという感覚に圧倒され,完璧にこなすことに執着して,仕事を先延ばしにします。そして,それを完成させるために急ぎます。ポジティブなフィードバックを得たとしても,あれだけ急いだのだからいいものができるはずがない,自分は詐欺師なのだという気持ちになり,このサイクルを繰り返すのです」

 先延ばしを回避するには,ポモドーロ・テクニックを使うといい。これは,5分間の休憩の前に25分間仕事をする方法だ。MacLeod氏はこの理論を実践する手段として,pomofocus.ioというWebサイトを勧めている。

 「タスクがあるときはいつも,このWebサイトにアクセスしてタイマーをスタートさせてから仕事に取り掛かります」と彼女は語る。「不思議なことに,25分というやり遂げられる時間の中なら,自信喪失が軽減されるのです」


質問することを恐れない


 最後にMacLeod氏は,質問をすることは弱さの表出ではなく,実は自尊心を高め,インポスター症候群を克服するのに役立つと述べた。

 「以前は,会議で質問をしたらゲームオーバーで,欺瞞が明らかになると考えていました」と彼女は言う。「私が詐欺師だとバレてしまいます。でも実際は,ほかの人たちが大勢いる部屋で質問をすることは,会議でのあなたの自信を向上させます。それはおそらく,その部屋にいるほかの人たちの助けにもなるでしょう」

 「Media Moleculeで自信がつきました。昔の私は自分を雇ったのが間違いだったと気づかれるような気がして,質問できなかったんです。でも,そのことをリーダーに話したら,彼女は私がとても静かだと言ったんです。私は悩みを告げ,彼女は私にただ質問をするように言いました。なぜなら彼女も実は同じことを考えていて,尋ねるのを忘れていたのだと。質問すればするほど,自信がついていきました。今では手を下ろすのをやめられないので,上司の指示が悪かったのかもしれませんね」


Media Moleculeのスタッフによる追加のヒント


 MacLeod氏は講演の準備にあたって,Media Moleculeの同僚に,インポスター症候群を克服するための追加のヒントを求めた。

  • たとえ恐ろしくても,耐えられる限り脆弱かつ正直であれ。それは開発者仲間との重要な絆を形成するために必要なことだ。
  • いま知っていることと,新卒のときに知っていたことを比べてみる。そうすることで,物事が見通せるようになることが多い。
  • 自分の仕事について人から言われたことを記録しておくと,落ち込んだときに読み返せる。
  • 誇大広告のような友人を持とう。自分を高め,自分の功績や成功を思い出させてくれる人だ。
  • たいていの人には恐れや不安があることを忘れないようにしよう。自身に満ち溢れているように見える人でも,しばしば茫然自失となる。私たちは皆,どうにかこうにか生きているのだということを覚えておくと役に立つ。
  • 謙虚さを保ち,他人の視点を評価し,それを自分の意見を助けたり,活気づけたりするために利用しよう。そうすることで,常に前進していると感じられる。フィードバックや批判を率直に受け入れ,インポスター症候群を強めるのではなく,それを払拭するためのツールとして捉えられる。

※この記事は,特集企画「Get into Games」の一部です。そのほかの講演やパネルディスカッションはこちら,求職者に最適なACADEMYガイドの選りすぐりはこちら(いずれも英文)。

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