「alive 2023」,基調講演から見えてきたLive2Dの現状と未来

 2023年12月1日,Live2Dは都内,秋葉原UDXでイベント「alive 2023」を開催した。通算10回目となる今回は4年ぶりのリアル(ハイブリッド)開催となった。
 オンライン開催の時期のレポートは掲載していなかったので,最近のLive2Dの状況については把握していない人も多いことだろう。進化を続ける2Dアニメーション作成ツールの現状についてレポートしてみたい。

 会場では,マーケティンググループ取締役の東舘氏による簡単な挨拶のあと,基調講演の上映が始まった。これは同社の動画サービスであるLive2D JUKUの特別版という形で制作されたもので,オンライン配信と会場内での上映が同時に行われていた。MCを務めるのはLive2D JUKUの公式VTuberである音咲ユナさんだ,


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 まず,CEOの中城氏からはLive2Dの現状が語られた。国内のユーザー数はほぼ飽和しているのか伸びは落ち着いている。それに対して海外でのユーザー数は安定した伸びを見せている。2022年時点で海外ユーザーのほうが上回っており,現状では6割が海外ユーザーになっているという。海外勢はアメリカが4割,中国/韓国などで2割,ヨーロッパなどのその他の国で4割といった感じだ。それを受けて,今回のaliveでは全セッションで日本語と英語による配信が行われている,

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 同社の教育支援プログラムは2015年から世界中で展開されているが,2023年8月にLEAP(Live2D Education Aid Program)としてリニューアルされ,高校などの部活動での利用にまで枠が広げられている。現在,344校3万名を超える学生・教育関係者にPROライセンスが無償貸与されているという。75%offでPROライセンスを使用できる学割プログラムも利用が広がっている。

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 Live2Dは,100年後もクリエイターに愛されるツールを目指して開発されていると,中城氏は語る。Version 1発売から10年目となる今年をひとつの節目と考えているようで,クリエイターやコミュニティに感謝を述べ,今後も共に発展していきたいとまとめていた。

 海外展開が著しいLive2Dだが,海外で最大のコミュニティとなっているDiscordサーバーの管理者であるRan氏からのビデオメッセージも紹介されていた。ユーザー同士の交流のほか,クライアントを見つける場としても機能しているという。2024年には大規模なリニューアルを予定しており,ユーザーの協力を呼び掛けていた。

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 9月にCubism 5.0が正式発売されたばかりだが,Cubism担当の佐藤氏からはCubism 5.1に関する最新情報が提供された。5.1ではモデルテンプレート機能が刷新される。これまでは工程の最初に全体にかかるテンプレートしか扱えなかったのだが,5.1では部位ごとのテンプレートが扱えるようになり,制作中にいつでも適用可能になるという。これを使えば部位ごとの動きがライブラリ化できるため,今後の制作活動が大きく効率化されそうだ。

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 外部ソフトとの連携機能も強化され,相互連携のAPIが提供される。これによりモーショントラッキングアプリなどからトラッキング情報をエディタに送ったり,エディタからモデルへの操作をトラッキングアプリ側の画面で確認できるようになる。

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 また3D表現が簡単にできるようになる。角度やパースの強さなどを指定するだけでさまざまな方向に対応した動きがまとめて作成できる。これで作った動きを基に細部を調整していくことも可能だ。

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 Cubism 5では顔の動きを半自動で付けてくれるAI機能が搭載されたことが話題になっているが,5.1ではデフォーマの適用範囲が全身にまで拡大される。AIが自動的にどの部分のアートメッシュなのかを判断してデフォーマを生成してくれるのだ。もちろん間違っていた場合は手動で修正できる。さらに,髪や衣服などの揺れモノに対しては自動で揺れのモーションを付けることもできるようになるという。いい感じで揺らしてくれるようになるのだろう。

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 こういった便利な機能を紹介する一方で,佐藤氏はLive2DでのAI開発ポリシーについて説明を行った。同社では,クリエイターに取って代わるようなAIではなく,あくまでもクリエイターをサポートするAIを開発していくという。ゼロから絵を作るとか,全自動で動画を作るといった方向を目指すのではなく,制作工程のうちのあまりクリエイティブでない部分を効率化するためにAIを開発していくという感じだ。

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 生成系AI自体はニュートラルな存在だが,場合によってはクリエイターの敵ともなり,強力な味方ともなりうる。昨今では生成系AIに危機感を抱いているクリエイターもいることからこのような説明をわざわざ行っているのだろう。うまく使えば極めて強力なツールになることも間違いないので,今後も創作活動を支援する方向での開発宣言は心強く感じた人もいるのではないだろうか。

 Cubism5.1はαバージョンの日本語版,英語版,中国語版を2024年春に公開予定だという。また,その前に公開されそうなツールもある。こちらもAI関係で,Adobe Photoshop上でAIによる素材分け補助を行ってくれるプラグインが公開予定だ。パーツごとにだいたいの範囲を指定すれば,自動で切り抜いて,パーツの抜けた背景部分を自然に描き足してくれる。しかもパーツには自動でアンチエイリアスもかかるという便利ツールだ。そのほか,Unreal Engine用のSDKが開発されていることも紹介された。

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 企画制作の石川氏からは,Live2Dを使った映像制作プロジェクトTR3の進捗などについて語られた。TR3はLive2Dで映画制作が実現できることを証明するためのプロジェクトで,ステップ1,2の2段階が予定されており,すでにステップ1の成果は昨年公開されている。

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 一般的なLive2D動画と比べても動きの幅が大きく,手が動くと,その陰影がぼんやりと身体に落ちていて動く様など,独特な表現が目につく。
 コストや手間は度外視して,やりたい表現を実現できるようにするのがステップ1の狙いだというが,それを現実的なところに落とし込むはずだったステップ2は,現在チームが商業作品に注力しているため中断しているとのことだ。

 とはいえ,工数の削減や現実的なアニメーション制作体制の構築は,ツールの機能改善と並行して行われており,商業作品の制作を通して本格的なアニメーション事業の立ち上げが始まっている。

 石川氏からは,映像用に開発されているCubismMの機能がいくつか紹介された。CubismMはCubismから派生したエディターで,映像作品制作に特化している。Cubismは映像製作とリアルタイム向けのSDKの両方を扱うエディターだが,リアルタイム向けの表現では対応しづらい豊かな表現も,映像特化のCubismMを用いることで容易に取り入れられるようになっているという。



 まず,一般的な3Dアニメーションツールではお馴染みのボーンやスキニングといった概念がLive2Dにも持ち込まれていることが紹介された。IKにより,足の接地位置を設定して腰を上下させる様子なども見て取れる。

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 そのほか,オブジェクトの移動をパスで直接指定するような機能や,3Dオブジェクトの表面にLive2Dオブジェクトを張り付けるような3Dの変形を行うデフォーマ機能が開発されているという。

 Live2Dになんらかの3Dモデルを取り込むとなると,3Dツールのほぼ全体を組み込む必要も出てくるだろう。そういうことは3Dツールに任せ,Live2Dをテクスチャとして扱うほうが効率がよさそうに思うが,単なるアニメーションテクスチャでは機能的に不足らしい。2Dと3Dを組み合わせた表現を模索中とのことだ。

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 制作面では,従来2チームだったCreative Studioの内部を1本化し,50人体制で業務を行っているという。CMやカット制作,次回予告など小さいものが多いものの商業作品8作品に制作参加をしている。2024年のショートアニメ作品では,Live2Dを主体に全話制作する予定だそうだ。
 ただ「ショートアニメ」というのがイマイチよく分からない。確認したところ,詳しい内容は聞けなかったが普通のテレビアニメっぽい感じではあった。4コマ漫画が原作になっているのだろうか? 

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 続いて,Live2D作品のマーケットサイトnizimaの現状が上島駿介氏によって紹介された。

 nizimaは10月に5周年を迎えており,9月には登録会員数が10万人を突破したという。サイトの機能も改善が施されてきており,2023年に行われたアップデートでは,まずクリエイター評価機能で過去の実績や評価が確認できるようになっている。クリエイターを探す際に役立つだけでなく,クリエイター側のモチベーションアップにつながることが期待されている。

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 10月にはオーダーメイドプランが実装されている。nizimaではクリエイターが制作した作品をサイトで展示して販売するというのがメインではあるが,オーダーメイドでの発注もできる。その際に,クリエイター側が,自分の提示できるプランを明示してアピールできるようになり,選ぶ側も分かりやすくなった。具体的にできることや納期が表示される。これまでの名前とサンプル画像2点と価格だけであとは相談というのが無理すぎたという気もしないではないが。

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 クリエイターがオーダーメイドプランを作る際や,クライアントがオーダーメイドの相談をする際に,テンプレート的なフォームが用意され,相互の情報伝達をスムーズに行い,かつ最低限の項目を漏れなく伝えることができるようになった。

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 nizimaのLive2Dならではといった機能であった,モデルのプレビュー機能では,設定されたモーションがランダムで表示されるようになり,より多くの動きを見せられるようになった。スタートモーションが設定されている場合にはそちらが優先されるので,どうしても見てほしいモーションはそれを設定するとよいとのことだ。

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 そのほか,セキュリティ対策などが強化されており,今後はさらなる検索の高速化や,法人ユーザーの購入を整備するなどのアップデートが予定されているという。

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 nizima LIVEからは原氏が,現在の状況を解説した。nizima LIVEは,Live2Dの公式VTuber向けトラッキングツールであり,VTuberやLive2Dのクリエイターが自由に自己表現を楽しめる世界を作ることを目標としている。そのため後発ではあるが,Live2D自身がツールを開発して,よりよい環境を構築し技術向上を目指すための基盤となっている。

 4月に公開されたバージョン1.5ではVTuber向けツールの基本とも言えるリップシンク機能が追加された。音声によって自動的に口の形状が変化する。また,nizima LIVEだけで表情の変化が作れるようになっている。

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 9月の1.6ではハンドトラッキング機能が拡張され,手の形状モデルも同時に公開されたので,手に対応していないモデルでも簡単に手の動作を追加できるようになった。また,エフェクト機能が用意され,背景レイヤー,モデルレイヤー,画面全体のそれぞれに15種類以上の特殊効果がかけられるようになっている。

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 そのほか,X(旧Twitter)チャンネルの新設やショート動画コンテスト「nizima LIVEチャレンジ」などを開催,公式サイトの強化,英語対応の強化などが行われている。

 今後の予定としては,プラグイン機能が追加され,ユーザーがnizima LIVE対応のソフトを開発できる体制が整備されるほか,エフェクトの追加,Cubismのモーションシンク機能との連携などの機能が強化されるとのこと。

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 最後にLive2D JUKUのキューブ先輩から,JUKUの状況が紹介された,Live2D JUKUはLive2D Creative Studioが運営するLive2Dのオンライン講座サービスだ。月額990円で学び放題となっている。

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 主な活動としては,毎月動画講座が公開されており,話題になった配信としては,簡単なパラメータで90度回転する高可動モデルの作り方やCubism 5のAIによる顔の動きの自動生成の使い方講座などが紹介された。普通のLive2Dの動きとは明らかに違う印象となる高可動域モデルはなかなかインパクトが強く,この講座で広く普及すればLive2Dの適用範囲も大きく広がるのではないかと思わせた。

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 毎月の講座以外にも生配信を数多く行っており,講座の補足であったり,JUKUメンの作品の公開添削などが人気となっているという。ほかにも1分程度で見られるショート動画でポイントを絞った配信を行っている。これまでの講座は28本,生配信は270本,ゲストクリエイターの出演は35名にも及んでいる。

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 JUKUに登録すると会員限定のDiscordサーバーにもアクセスが可能となり,こちらで相談することでJUKUメン同士で悩み解決が行われていたりするとのことだ。
 今後の予定としては,クリエイター同士での対談が企画されているという。近いジャンルのクリエイターを招くことでクリエイター間の交流を促しつつ,気になる話題などについて情報を交換してもらうといった内容だ。また,プロのクリエイターによる添削配信も予定されている。

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 初心者向けの導入から,中上級者向けのハイテクニックな講座,さらに新機能の紹介などの最新情報へのアクセス,さらにコミュニティによる交流など,Live2D JUKUは単なるオンライン講座の枠を超えて,Live2Dクリエイターにとって必須の情報チャネルに成長しつつあるように思われる。今後の展開にも期待したい。

 基調講演のあとにはLive2D Creative Awardの発表が行われたのだが,入賞作品のクオリティには少し驚かされた。



 こちらの作品などは,無料版のLive2Dで360度回転するモデルを作成している。Live2Dで普通に回転できるのは30度なのだが,ぐるんぐるんと回っているのだ。まあ,これだけやっていれば入賞もうなずけるところではあるが,見ているとそういうのが何作かで行われていたのだ。もう最近はEuclidじゃなくても普通に360度の回転ができるようになったのかと聞くと,そんなことはなく,モデルの切り替えをすればできるが,決して簡単ではないとのことだった。Creative Awardは年々クオリティが上がっており,関係者も驚くような作品が送られてきているそうだ。

 それでも,高可動域モデルの講座の反響などにも表れているように,可動域の拡大はすべてのユーザーの願いであろう。映像作品での必要性なども考えると,Euclid化というか,360度ぐるぐるという「夢」は意外と近くなってきているようにも思われる。ただ,Euclidには難点もあった。頭だけでも複数枚の絵が必要だったように思うのだが,こういうところこそAI化して,正面画像から足りない画像を自動生成し,必要に応じて手描きで修正できるといった方向で処理できないものだろうか。

 昨今はAIをどう使っていくかが問われる時代となっている。なんとなく気に食わないからとか言っていられる状況ではないのだ。Cubism 5.1の機能紹介の際にわざわざ言及があったのも,クリエイターに寄り添ったツールを展開していくという同社の立ち位置を示すものであろう。
 
 生成系AIが登場して以降,絵が描けるということの意味が少し変わりつつある。かなりの絵が生成できるようになったといってもまだまだ普通の人には縁遠かったAIによる画像生成も,Microsoft Copilotで一気に「誰でも使えるもの」になってしまった。

 日本はAI学習に向けた著作権法の整備が世界に先駆けて進められ,その意味では先進的であったのだが,実際に生成系AIによる成果物が一定の水準に達してしまうと,一気に日和って著作権問題がどうのと蒸し返す人が増え,なんとなく使ってはいけないものだといった風潮の報道が多くされるようになっていた。クリエイティブ業界の反応も似たような風潮だ。それがPhotoshopやCopilotといった外来勢力によってなし崩し的に取り払われようとしているのが現在の状況である。日本が動かなくても世界は動くのだ。

 誰でも絵が作れる時代になれば,やはり自分の作った絵に新たな命を吹き込みたいという需要は存在する。AIによる画像生成でもプロンプトベースでカメラ位置やキャラクターが少しだけ動くような動画を生成したり,既存の動画をベースにしてAIで動きのある動画を生成するといった手間のかかるチャレンジを続けている人もいる。

 この状況は,Live2Dにとっては,大きく市場が広がるチャンスを迎えつつあるのかもしれないのだが,同社の立ち位置にとっては微妙なものでもある。ビジネスとして見ればチャンスでも,新しいタイプのクリエイター(?)を無制限に受け入れるとどうなるのかはPixivという先達が示してくれている。だからといって,手を出さなければどこかが丸ごと持っていくだろう。時代は容赦なく動いているのだ。今後は同社におけるクリエイターの再定義が問われることになるのかもしれない,と個人的に,かなり気の早いことも考えてしまった今年のaliveだった。

「Live2D Creative Awards 2023」公式サイト