【ACADEMY】繁栄するゲーム経済を構築するための基本原則

Edward Castronova教授と,MachinationsのCEOであるMihai Gheza氏が,しっかりとしたゲーム経済を設計するための3つの柱について説明する

【ACADEMY】繁栄するゲーム経済を構築するための基本原則

 堅牢なゲーム経済を構築するのは,並大抵のことではない。これは,多面的な課題であり,慎重な検討が求められる。ゲームエコノミーデザインの目標は,長期的にゲームの活力を維持することだ。経済的な問題は,プロジェクト全体を崩壊させる可能性がある。

 この記事では,ゲーム経済を設計する際に心配しなければならない,3つの柱について掘り下げる。

  1. 通貨の安定性
  2. 価格の合理性
  3. 適正な分配

 通貨の安定性にスポットライトが当てられることが多いが,それぞれの柱は必要条件であり,十分条件ではないことを理解しなければならない。3つすべてが不可欠なのだ。どれか1つでもおろそかにすると,ゲーム経済全体の安定性が損なわれる。

 より深く掘り下げる前に,「なぜ,ゲーム経済にこだわる必要があるのか」という大事な質問に答えよう。よく練られた経済は,シームレスに機能すれば,ゲームの世界に生命を吹き込む力を発揮し,それをダイナミックで親近感のある,リアルなものとするからだ。

 もちろん,すべてのゲームが同じように経済を重視しているわけではない。1つのことに集中するものもあれば,プレイヤー間の取引やアイテムを購入できるバーチャルショップのように,経済的な要素をさりげなく取り入れたものもある。

 とはいえ,ほとんどのゲームでは何かしらの取引が行われている。成功するゲーム経済は,注目を集めることなく雰囲気を盛り上げるサウンドトラックのように,ほとんど気づかれることなく運営されているが,プレイヤー体験の明確な向上につながっている。

 ゲーム経済の設計は,ゲームの楽しさに結びつく。たとえ,経済が面白さを生み出す直接的な部分ではなかったとしても,それを邪魔にならないようにすべきであり,バックグラウンドで機能させるべきだ。うまく機能するゲーム経済を構築することは,良いことであり,あなたの利益にもなる。プレイヤーを幸せにし,課金にもつながるかもしれない。多くのプロジェクトが失敗するのは,経済がうまく機能しないからだ。




理論:成功するゲーム経済の3つの柱を解説


柱1:通貨の安定


 これがエコノミーデザインの真の目標であり,3つの中で最も重要だ。通貨とは,それ自体には使い道がないが,使い道があるほかのアイテムを手に入れるために,使われるアイテムとして定義される。

 安定した通貨は,以下の3つの機能をすべて提供する必要がある。

  1. 交換の手段―それは支払い方法として使用できる。ゲーム経済の中で,「あのラクダと600クラウンを交換しよう」とプレイヤーが簡単に提案できるシナリオを想像してほしい。なぜこの機能が重要なのか,次のように考えよう。プレイヤーはチーズバーガーが欲しいのに,ラクダしか持っていない。その取引はどのように行われるのか。通貨はその問題を解決してくれる。
  2. 勘定の尺度―それは取引における価値を測定できる。取引における価値の,数値化・記録に使用可能な標準化された単位やシステムがあることで,プレイヤーはさまざまな商品の価値について有意義な会話ができる。安定した通貨があれば,プレイヤーもあなたも,経済におけるさまざまな商品の価値について,大量の情報を手に入れられる。
  3. 価値の貯蔵―安定した通貨は,交換の手段であり,勘定の尺度であり,プレイヤーはそれを蓄えられる。数か月間休んで,また戻ってきたときにも,それまでに積み上げてきたものが,すべて戻ってくるという安心感がある。世界は安定していて,リアルに感じられる。

 安定した通貨は,時間が経っても,その価値を維持する。急激に価値が上がったり下がったり,使われなくなったりする通貨は,一夜にしてゲーム経済を破壊する可能性がある。例えば,「Diablo II」ではゲーム内でゴールドが非常に豊富になったため,プレイヤーはゴールドを捨て,一般的だが便利なアイテムである「ヨルダンの石」と交換するようになった。石は完全にゲームの主要通貨に取って代わり,ゲーム内アイテムの価格は,ヨルダンの石の数で決まるようになった。

 もし,あなたのゲームにおいて,少なくとも1つの財がこれらの機能を持っていなければ,ほとんど経済がないのと同じだ。プレイヤー同士が商品について話し合う必要があるのに,その手段がないという,非常に混沌とした状況となる。ドラゴンを倒して楽しむことに集中すべきときに,経済の困難によってプレイヤーの集中力が削がれてしまう。


柱2:価格の合理性


 価格の合理性とは,財の価格がプレイヤーの期待するものと一致し,需給の変化に適応することを意味する。これは当たり前のように聞こえるかも知れないが,ある財が価値を持っているならば,その価格は高くなければならない。剣は高く,ニンジンは安いはずだ。しかし,市場が意図したとおりに機能しないこともある。

価格が膠着する可能性がある

  • 真価を下回れば,需要過多となり,供給不足となる
  • 真価を上回れば,需要不足となり,供給過多となる

生産量と消費量がずれている可能性がある

  • 希少なアイテムが大量に生産されると,価格が下がる
  • 一般的なアイテムの需要が多すぎると,価格が上がる

よく練られた経済は,ゲームの世界に生命を吹き込む力を発揮し,それをダイナミックで親近感のある,リアルなものとする

 すぐに,あなたの経済は限界に達するだろう。公正な価格システムがないことは,連鎖的な効果を生み出す。価格が適正でない場合,プレイヤーにとって取引は困難となり,フラストレーションが溜まる。そのため開発者は,問題を引き起こしている商品を取引できないようにする,といった強引な対応を取ることとなる。これで価格の問題は解決するかもしれないが,今度はゲームに経済性がなくなってしまう。

 開発者がときどきやるのは,ゲーム内に定価で無限にアイテムを売買する商人を置くことだ。これは,価格を望むところに設定できるが,プレイヤーを排除するソフトな方法でもある。

 生活経済とは,物事を強制しないという考え方だ。開発者は「ファンタジーゲームを作りたいだけだから,どうでもいい」と言うかもしれないが,プレイヤー同士の売買によって成り立つ正真正銘のプレイヤー経済は,コミュニティにとって,より深くリアルに感じられる。

柱3:適正な分配


適正な分配で確認したいこと

  • 適切な品物が,適切な人々に届く。ウィザードが盾を,ウォリアーが杖を手に入れて,彼らがそれに対して何もできないようでは困る。それはプレイヤーをイライラさせる。
  • その一環として,適切な報酬がゲーム内にあることも確認したい。プレイヤーは適切なインプット(スキル,時間,努力)に対して,適切な水準の報酬を,誰にとっても合理的で公平と思われる方法で受け取るべきだ。

 さもないと,経済的正義の問題が出てくる。例えば,「ローグが戦いに入って,ボタンを1つ押すだけで,みんな殺されてしまうのは不公平だ」と,レンジャーのコミュニティがローグに腹を立てるようなことだ。

バーチャル経済が公正であるとみなされるために必要なこと

  • 機会の均等―すべてのプレイヤーが同じ条件で始める。
  • 努力に対する平等な見返り―より多くの努力をしたプレイヤーは,より多くのものを得られる。ほかのプレイヤーが,ほとんど努力をせずに大きな報酬を得ているのを見ることほど,プレイヤーを怒らせることはない。

 さて,この中で,あなたは完璧に予測できることを望んではいない。開発者としては何が起こっているのかすべて把握しておきたいが,プレイヤーは予測不可能性やランダム性を期待するものである。そうでなければ退屈だ。予測不可能性が,ゲームをより深く,面白くする


実践:健全なゲーム経済の構築と維持


 ゲームエコノミーを構築する際によくある質問の1つが,「何から始めればいいのか?」というものだ。ニンジンの値段は,1クラウンなのか,5クラウンなのか,500クラウンなのか,どうやって決めるべきか。

Edward Castronova教授(Ph.D)
【ACADEMY】繁栄するゲーム経済を構築するための基本原則
 開発者は多くの場合,仮説に基づいてシステムを構築する。既存の市場がない場合,ローンチ前は推測するしかないのだ。最初の見積もりを立て,それをプレイヤーコミュニティに展開し,間違いがあれば調整する。このようなことが何度も繰り返され,プレイヤーのフラストレーションが高まり,開発者のストレスも増大する。

 これを回避するにはどうすればいいのかと,あなたは尋ねるだろう。プレイヤーに提示する前に,仮説を検証できるような練習場所はないのか。私たちの答えはシミュレーションだ。

 さまざまなシナリオをシミュレートすることで,経済をコントロールする手綱をしっかりと握り,プレイヤーに充実した楽しいゲーム体験を保証できる。このシミュレーションは,特別に設計されたルールで行うにせよ,基本的なスプレッドシートモデルで行うにせよ,開発サイクルの早い段階で組み込むべきだ。そうでないと,経済に影響を与えるような問題を発見したときに,手遅れになることが多い。

 では,どのような展開になるのか見ていこう。

ルール1:ローンチ前に経済をテストする


 実際に,いろいろなものを投げつけてみよう。日曜朝の午前3時,運命のいたずらで,あなたのゲームに参加しているのは,富を貯め込むプレイヤーのみだった。そして月曜日の夜,ゲームをプレイしようとした人たちは,富を貯め込んだプレイヤーたちが持ち去ったために,すべての富がなくなっていることに気づく。そして今,あなたの経済は混乱している。

 このような大惨事を避けるためには,ローンチ前にゲームの経済を徹底的にテストすることが不可欠だ。シナリオを考え,その状況で経済がどうなるのかをシミュレーションしよう。

 この積極的なアプローチは,あなたとあなたのチームが活動する際の感情的な背景を変える。夜も眠れないような悪夢のような状況を,実験に変え,そこから学ぶことができる。うまくいかないことを心配する代わりに,こうしたシナリオをシミュレーションし,観察することで,経済の微調整が容易になる。すべてを予測することはできないだろうが,午前3時に起きて心配するよりはマシだ。

ルール2:経済内のコントロールポイントを理解する


 さまざまなシナリオをシミュレートする際は,意図的にゲームを壊そうとするアイデアを受け入れよう。そうすれば,ゲームが失敗する状況を発見できるだけでなく,ゲームのもろい部分も見つけられる。

 あなたは,システムの繊細な部分を知れる。つまり,どのパラメータが非常に敏感で,それを少し調整するだけで,システムに大きな影響を与える可能性があるのか,反対に影響力をあまり持たないパラメータはどれなのか。この差異は,どのレバーを引けば潜在的な問題を解決できるのかを示すので,情報に基づいた効果的な意思決定が可能となる。

ルール3:ローンチ後も積極的に経済を観察する


Machinationsの共同設立者兼CEOであるMihai Gheza氏
【ACADEMY】繁栄するゲーム経済を構築するための基本原則
 シミュレーションエンジンを導入したのなら,ゲームのライフサイクルを通じてそれを使い続け,サービス中のゲームから得た実際のプレイヤーデータを使って,常に経済の調整を行うべきだ。この水準のコントロールと洞察力を持つことで,単に問題に反応するだけでなく,プレイヤーの満足度とバランスを維持するために,積極的に経済を形成できる。

 これらのルールに従うことで,ゲームのシステムをより深く理解できるだけでなく,それをコントロールし続ける能力も得られる。こうしたアプローチによって,潜在的な問題を予見し,繊細なパラメータを微調整し,最終的には予期せぬ困難に直面しても,生き残るだけでなく,繁栄するゲーム経済を作り上げることができる。

 ゲーム経済を成功させるのは難しく,開発者の失敗例は数え切れないほど挙げられる。しかし,これらのヒントが,持続可能なゲームエコノミーの構築と維持に悩む,ゲーム開発チームの助けになれば幸いだ。


Edward Castronova教授は,2001年にバーチャルエコノミーの研究分野を立ち上げた。Mihai Gheza氏は,ゲームエコノミーデザイン用シミュレーションツール提供会社,Machinationsの共同設立者兼CEOであり,キャリアを通じてゲーム経済の設計に携わってきた。

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