【ACADEMY】VRに新たな攻略本が必要な理由。業界は何から始めるべきか
6月,AppleがXRヘッドセット「Vision Pro」を発表すると,インターネットを大いに賑わせ,その性能を称賛する報道やアーリーレビューが後を絶たなかった。同様に,Metaが昨年発表した「Quest Pro」も,VRの世界と,その可能性のすべてにスポットライトを当てた。大まかに言えば,業界はこの2年間で,VRゲームをよりエキサイティングで没入感のあるものにしてきた。
しかし,あらゆる宣伝にもかかわらず,業界は多くの人が期待していたVRのマスアダプション(大規模な普及)をいまだに逃し続けており,IDCは2022年のVR売上が20.9%減少したとさえ示している。そのうえ,Metaの幹部は,所有者がヘッドセットを数週間しか使用しないことを発見し,明確なエンゲージメントの問題を明らかにした。
開発者たちは,「モノを作ればヒトが集まる」というアプローチに信頼を置き続けている。しかし,誇大広告と普及のギャップが拡大していることは,業界が広く普及するためにアプローチの再検討が必要だと示す最大の指標だろう。
ここでは,VRの収益が2026年までに288億9000万ドルを突破する軌道に乗せるため,市場を拡大し,より広範な普及をもたらすと,私が考える4つの戦略を紹介する。
開発者にデータを提供する
古いことわざにはこうある。「計測できないなら,管理もできない!」
デベロッパが直面する最大の課題の一つは,データの不在だ。Meta,ソニー,Apple,そのほかの主要なヘッドセットメーカーは,正確な人口統計学的情報や,エンゲージメントおよびリテンション評価のベンチマークを含む,ユーザーに関する包括的な分析をゲーム開発者に提供することを優先しなければならない。
誇大広告と普及のギャップが拡大していることは,業界が広く普及するためにアプローチの再検討が必要だと示す最大の指標だろう
Facebook,Instagram,WhatsApp,そして現在のThreadsといった有名会社の親会社であるMetaは,数十億人のユーザーにカスタマイズされたコンテンツを提供するグローバルリーダーだ。しかし,ゲーム開発者とは同じデータを共有していないため,開発者はユーザーや潜在顧客にパーソナライズしたタッチポイントを作ることが難しくなっている。ユーザーベースをより深く理解することで,ゲームデザイン,コンテンツ制作,マーケティング戦略について,十分な情報に基づいた意思決定を行える。ユーザーの興味や年齢層に関する分析によって,ゲーム開発者はターゲットとするユーザーに合わせた体験を提供し,魅力的で没入感のあるコンテンツを作成し,潜在的なユーザーに効果的にアプローチできるのだ。
その一例として,外部のデータからVRの最大のオーディエンスは18〜24歳であり,多くの開発者が当初考えていたよりもかなり若いことが明らかになった。その結果,開発者が作成するゲームも,モデレーションの要件も再考されている。
体験型マーケティングへの投資
VRにおいて「百聞は一見にしかず」であり,ヘッドセットを購入せずに体験の機会を得る人はあまりにも少ない。Appleの新ヘッドセットが3500ドルという高価格にもかかわらず,有利に参入できる理由はここにある。人々は新製品を試すためにApple Storeの行列に並ぶだろう。こうした没入的で触覚的な体験こそが,人々を呼び込み,VRの魔法を確信させる。
実店舗がなくても,Metaのような企業はショッピングモールに設置したり,ポップアップショップを作ったり,教室で使用するための教師向けトレーニングセッションを主催したり,あるいはジムと提携してフィットネスでの使用例を紹介したりすることができる。
ソーシャルグラフ(つながり)を活用する
Instagramで友人と近況を共有したり,BeRealで自分の生活をありのままに見せたりと,今や人と人とのつながりの多くはバーチャルなものになっている。Metaは当初から,Facebookを利用して,つながりのないユーザーを素早くフレンドのネットワークに取り込むことで,これを最も発展させた企業の一つだ。VRは本来,そのようなつながりを促進するものだが,ユーザーに幅広いネットワークとの関わりをうながすという点では,まだまだ的外れである。
ヘッドセットを持っている友達を見つけ,誰がオンラインなのかを確認し,一緒に遊ぶために異なるプレイ環境に飛び込む時間を作ることさえ,より簡単になるはずだ。勝利するのは,Appleやソニーのような企業がすでに構築しているエコシステムを含め,既存のソーシャルグラフを活用し,協力とエンゲージメントを強化する開発者だろう。このつながりは,ユーザー数を増やすだけでなく,ユーザーをリピーターにするための鍵でもある。
マーケットを拡大し,ユーザーを魅了し続ける
業界にとって最後の重要な改善点は,潜在的なプレイヤーのプールを拡大すること,そして彼らを維持することだ。VRの本質は,ゲームであれ,フィットネスであれ,教育であれ,時空を超えた探検であれ,誰にとっても何かがあるということだ。
家族全員がユニークな目的でヘッドセットを活用できるのに,ゲーマーだけのものという誤解がある。これに対処する一つの方法は,新規ユーザーに最も人気のあるアプリのリストではなく,特定のユーザーが最も楽しめそうなアプリを見せることだ。
さらに,デベロッパやメーカーは,座ったり寝転んだりするプレイヤーであれ,片手でのプレイであれ,あらゆる能力を持つ人が幅広くゲームを楽しめることに注力する必要がある。我々が知る限り,AppleのVision Proは物理的なコントローラーを必要とせず,代わりにジェスチャーに頼るだろう。その可能性はエキサイティングだが,アクセシビリティに関する潜在的な懸念があり,それに対処することが求められる。
また,人々は歓迎されていない,あるいは居心地が悪いと感じる場所に戻ることを選ばないだろう。VRの没入的な性質は,ほかの人が物理的な境界線を尊重しない場合,プレイヤーが侵害されたと感じやすいことを意味する。VRが真に誰にとっても利用しやすいものになるためには,プレイヤーの保護が体験の中心になければならない。
プレイヤーの安全が確保された後は,継続的なエンゲージメントが焦点となる。このようなユーザーに再び訪れてもらうためには,新しいゲームに関するカスタマイズされたプッシュ通知,友人がログインした際のアラート,継続的なチャレンジなど,習慣を構築する方法が必要だ。
VRゲームは3年足らずで目覚ましい進歩を遂げ,私はその可能性を心から信じている。しかし業界には,より広範な普及とエンゲージメントの改善に向けて,まだ多くの課題がある。Metaは,すでに販売した2000万台のVRヘッドセットによって称賛されるべきだが,毎月使用されているのはわずかな割合に過ぎないという事実は,成長の余地があることを示している。
適切なアプローチと投資によって,VRゲームはメインストリームに到達し,ゲーマーにも非ゲーマーにも無限の可能性がある世界を開くことができる。
Marcus Segal氏は,現実世界の人気ゲームをVRで再現するForeVRというゲーム開発会社のCEO兼共同設立者だ。ForeVR以前は,Zyngaのグローバルオペレーション担当シニアバイスプレジデント,およびWorldwide Game StudiosのCOOとして黎明期のソーシャルゲームに貢献した。
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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)