Develop 2023で，Code CovenのCinzia Musio氏は，会社が社会的弱者をどのように支援するのかという，スタジオのリーダーが考えるべき問いを投げかけた


　年初に開催されたDevelop Brightonで，Code Covenの共同CEOであるCinzia Musio氏は，ゲーム業界において，社会的弱者の支援を改善することを提唱した。

　「ゲーム業界における，社会的に弱い性別の支援：責任はどこにあるのか」と題したMusio氏の講演では，責任感を強め，多様性と包括性のある雰囲気を作ることを狙ったスタジオの取り組みについて語られた。

　また彼女は，GamesIndustry.bizがパートナーを務める，Code Covenの新しいEvolve（進化）プログラムについても紹介した。Evolveは，責任とDEI（多様性・公平性・包括性）の基準を，ゲーム業界に設定することを目的としたスタジオ認定プログラムであり，バンクーバーに拠点を置くEast Side Gamesが，Evolveの認定を受けた最初のスタジオとなった。

　「公平性，多様性，包括性に向けた現実の道のりは，必ずしも簡単なことだらけではありません」とMusio氏は述べた。「時には，困難で不快な会話をしなければなりません。尻込みするのではなく，受容できるようになるためには，こうした会話に慣れることが重要です。不快なことに慣れなくてはいけません」

　「抜本的な改革は簡単ではありませんが，今ある特権的なシステムに立ち向かい，学び直さなければなりません。それは前進するために必要なことです」

　講演を通じてMusio氏は，デベロッパやスタジオが組織的な変革に取り組めば，エンターテインメント業界全体で，差別やハラスメントの発生を未然に防げると強調した。

　彼女は，表面的にはわずかに改善しつつあることを認めたが（UKIEの最新調査によると，2020年から2022年にかけて，ゲーム業界で働く社会的弱者は4％増加している），リーダーシップのような分野でのシステム的な問題は改善されていないとする。

公平性，多様性，包括性は，有害な人物を故意に雇用し続けることとは相容れません

　またMusio氏は，今年のSummer Game Festにおける多様性の欠如は，さまざまな問題の兆候だと指摘した。CBCとのインタビューで，司会のGeoff Keighley氏はこの問題を認め，「Alan Wake 2」の新主人公であるSaga Anderson役の女優・Melanie Liburd氏がステージに登場する予定だったが，スケジュールの都合で出演できなかったと語った。

　「このことは，私たちが多様性と包括性をチェックボックスとして，業界の多くの場所で扱い続けていることを浮き彫りにしています」と彼女は説明する。「1度でも何かをして，1人の女性を招待すれば，それで全員が解決したことになっています。もし，その1人の女性がステージに現れたとしても，このショーケースが依然として大規模な多様性の問題を抱えていたことは明らかです」

　Musio氏は「誰であろうと，誰もが安全に値する」と強調し，人々は「この会話を続け，どのように業界を発展させるかを検討できる」としながらも，社会的弱者が取り残されることはありえないと述べた。

　「社会的弱者の安全を確保するというゴールについて話していないなら，この取り組みをしている理由を忘れているのです」と彼女は語った。

　どのようなスタジオでも，その規模にかかわらず，個人が報復を恐れることなく，懸念を表明できる環境を提供する義務がある。これは法的な義務であり，その義務を果たさないスタジオは，従業員を尊重していないことになるとMusio氏は付け加えた。

　そしてMusio氏は，スタジオが体系的な変化を受け入れるための実践的なツールとして，厳しい選択をすること，懸念を表明できる安全な環境を醸成すること，職場から有害な人物を排除することを例示した。

安全な空間を作る

　Musio氏は，従業員が自信を持って問題を提起し，建設的なフィードバックを受けられる安全な職場環境を，スタジオは育成する必要があると提言した。

　「これらの問題を解決するのは，従業員の仕事ではないことを忘れないでください。スタジオにある体系的な問題を解決するのは，上級リーダーの役割です」

　安全な職場を作ることは，時には人を排除することを意味し，スタジオはその考えに慣れる必要がある。

スタジオにある体系的な問題を解決するのは，上級リーダーの役割です

　「公平性，多様性，包括性は，有害な人物を故意に雇用し続けることとは相容れません」とMusio氏は続けた。「もし，あなたのスタジオの社会的弱者が，あなたが雇おうとしている人を有害になりそうだと言っているのなら，彼らを信じてください。限界にある従業員の健康を危険にさらす価値はありません。そのような人たちを雇用しないでください」

　そして，もしスタジオ内に有害な人間がいるのなら，Musio氏は彼らをすぐに排除することを提案し，安全でポジティブなスタジオ文化は，壊すのと同じくらい簡単に作れるものだと指摘した。

　「ええ，それは不都合なタイミングで，熟練した社員を再雇用することになるかもしれませんが，彼らを維持するリスクのほうが大きいです」

　「信頼関係が崩れてからの再構築は，上級スタッフの再雇用よりも難しいです。だから，手遅れになる前に取り組みましょう。どうにもならなくなるよりも前に」

会社にあるガラスの天井を探す

　Musio氏は，多くの職場には昇進を阻む壁があり，特に社会的弱者にとっては，ヒエラルキーの中で昇進を見送られることが多いと強調した。

　「私たちはそれを『ガラスの天井』と呼んでいます。それは完全に透明ですが，すり抜けることはできません」

　Musio氏は，会社のリーダーたちに次のことを考えるように促した。

• あなたのビジネスのどこにガラスの天井がありますか？
• 社会的弱者の参入を妨げているものは何ですか？
• あなたの会社で社会的弱者が一貫して昇進していないのは，どの分野ですか？
• 成長につながる機会は，どのように分配されていますか？

　「スタジオ全体のデータを見て，どこに取り残されている人がいるのかを把握しましょう。その理由を調査し，早急に対策を講じるべきです」と彼女は説明する。「体系的な問題を扱うのですから，簡単なことではありません。しかし，もしあなたが効果的に取り組み，スタジオ全体に変化を起こせば，革新の機会が増えて，よりオープンなスタジオとなり，最終的には誰もがより豊かになるでしょう」

スタジオをより包括的に

　Musio氏は，安全で生産的な職場のためには，包括的なスタジオ環境を育てることも重要だと指摘した。

　「あなたのスタジオが，あらゆるレベルの人にとって包括的であることを確認するために時間をかけてください」とMusio氏は勇気づける。「それは，革新のためだけでなく，雇用や定着にも役立ちます。包括的で，それについて会話しているスタジオは，より多くの人々が長期的に滞在する可能性があります」

　彼女は，特に雇用という観点で，多様性と包括性を重視するスタジオは，あらゆるレベルで従業員を大切にするスタジオだと人々が気づいていることを強調した。「（個人は）待遇が良くなり，クランチを要求されたり，一般的に不利な扱いを受けたりすることが少なくなります。人々はそうしたスタジオの一員として働きたいと考えるようになります」

　Musio氏は，ゲーム会社の経営者に向けて，次のようなことを考えるように提案した。

• 福利厚生をより包括的なものにする方法
• どのような通報プロセスがあるか，従業員は報復を恐れずにそれを利用できるか
• あなたのスタジオの方針や福利厚生について，従業員はどのように考えているか
• 男女間の賃金格差
• 人種間の賃金格差

社会的弱者の安全を確保するというゴールについて話していないなら，この取り組みをしている理由を忘れているのです

　講演の最後にMusio氏は，ゲーム業界が数時間にわたって他人の人生を歩む機会を人々に与えるユニークな立場にあること，そしてそれを，より大きな善行にどのように利用できるかを聴衆に思い出させた。

　「あなたがその責任を真剣に受け止めて仕事に取り組めば，すべての場所にいるすべての人のために変化をもたらすことができます。ユニークなストーリーを語ることで，社会的弱者に，より多くの共感を与えられるのです」

　「スタジオを変え，業界を変えるだけでなく，社会全体をより良く変えるチャンスがここにはあります。そしてそれは，スタジオで社会的弱者に時間を投資することから始まるのです」

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