【ACADEMY】精神的に健康な職場に向けた4つのステップ
近年,ゲーム業界におけるメンタルヘルスは大きな論点となっている。この話題の流行は,職場でメンタルヘルスについて話すことを一般化し始め,組織はスタッフを支援する体制を整えつつある。
5月には,BAFTA(英国映画テレビ芸術アカデミー)とSafe In Our Worldが初のゲームメンタルヘルスサミットを開催した。私はこのサミットで初めて,ゲーム業界におけるメンタルヘルスをめぐる議論が,事後に従業員を支援する取り組みを発展させるという受動的なアプローチから,業界のメンタルヘルスにまつわる心配事の「理由」を深く掘り下げるという積極的なアプローチへと移行し始めたことを実感した。
ここでは,業界がそのような総合的な考え方を採用することを勧め,ゲーム開発会社が真に健康な組織になるためのステップを提案する。
メンタルヘルスを捉え直す
ゲーム業界は考え方を全面的に変える必要がある。簡単だろう?
最終目標は難しく聞こえるかもしれないが,まずは初歩的なところから始めよう。自分たちの組織を鏡のように見つめ,メンタルヘルスをどのように捉えているかを正直に評価するのだ。
これは実際に何を意味するのだろうか。「メンタルヘルス問題」という言葉をよく耳にするが,その後にはスタジオがすでに困難を経験している人々をサポートするために果たすべき役割についての議論が続く。これでは,完全に受動的な考え方に限られてしまう。身体の健康と同じように,心の健康についても考えるべきだ。
これは,Ripstoneで私たち自身が取り組んだ際に気づいたことであり,さらなる行動を起こすきっかけとなった。チームに活力を与え,より健康で幸せな個人を育てるため,私はゲーム業界に対して,メンタルヘルスに関する考え方や話し方を見直し,前向きで積極的な視点を受け入れることを求めている。
ゲームメンタルヘルスサミットでは,パネリストのLuke Hebblethwaite氏(BAFTAのゲーム担当)がこう語った。「私たちはどのような人にゲームを作ってもらいたいのでしょうか。不幸で,ストレスやプレッシャーを感じ,燃え尽きた人たち……,それとも幸せで,活力があり,創造的に満たされ,バランスの取れた人たち?」
メンタルヘルスのサポートや応急処置はまだ必要だが,私たちは最初から総合的な健康を促進するため,快活な環境を構築する方向に考え方を変える必要がある。結局のところ,活力のある人々が,楽しみながらバランスの取れた生活を送ることで,素晴らしいゲームが生まれるのだ。
会話をオープンにする
皆を巻き込もう。
各組織は独自の道を見つけるだろうが,最初から社内の全員を巻き込むことは極めて重要だ。
物事に積極的に取り組む唯一の方法は,組織全体として直面している課題を共有し,オープンに議論できる安全な空間を作り,解決策の可能性を一緒に探ることである。
アンケートは,投稿を匿名化するのに役立つ効果的なツールとなる。私たちは,あらゆる役職のメンバーがメンタルヘルスを意識する研修を受けられるようにすることが,非常に有益だと気づいた。これによって共通言語が生まれ,研修が終わった後もずっと会話が続いている。
積極的なメンタルヘルスケアが必要とされているだけでなく,利益にもつながるということを裏付けるデータはたくさん存在する
チーム全体を巻き込むことで,各個人が直面している課題について貴重な洞察を得ることができ,最初に取り組むべき共通項を発見できる。覚えておいてほしいのは,すぐにすべての答えを知る必要はないということだ。謙虚さがカギであり,全員からのインプットが必要だと認めることで,当事者意識と協力する姿勢が生まれる。しかし,誰もが快く自分の考えを共有してくれるわけではなく,それはそれで構わないと心に留めておこう。
このような会話を始めると,抵抗に直面するかもしれない。もしあなたが,積極的なメンタルヘルスケアの価値を誰かに納得してもらう必要があるのなら,それがゲーム業界で必要とされているだけでなく,利益にもつながるということを裏付けるデータはたくさん存在する。
2022年のUkieによる国勢調査では,回答者の38%が不安,うつ,またはその両方に苦しんでいることが分かった。これは,COVID-19によるパンデミック前の31%から増加している。より一般的な例を挙げると,デロイトの「メンタルヘルスと雇用者」レポートには,メンタルヘルスの支援に1ポンド投資するごとに,平均して5.3ポンドのリターンがあると書かれている。
必要性は確かに存在し,より良いメンタルヘルスケアの恩恵は明らかである。今は私たち全員が行動を起こす時だ。
アプローチをカスタマイズする
自分たちに合った変化を起こそう。
ベッドルームで働くインディーズの2人組には,国際的なスタジオのように「健康的な」変化を実行するためのリソースはないが,同じような必要性もないだろう。だから,あなた自身が進むべき道を選ぶ必要があるのだ。万能の解決策はないので,Ripstoneで「ブルース・リー」と呼ばれているものが求められている。
ブルース・リーがさまざまな武術のスタイルを借りてきて,適応させ,自分のものとすることで,アプローチをカスタマイズしたように,私たちは皆,メンタルヘルスの取り組みを「ブルース・リー」しなければならないのだ。
貴重な洞察や研修の機会を得るために,Safe In Our Worldのような業界に特化した慈善団体など,外部のリソースを探索しよう。彼らのDiscordチャンネルに参加し,より幅広い議論に参加しよう。研修やカウンセリングセッション,フレックスタイム制などの社内プログラムを導入し,「クランチ(修羅場)」や仕事関連のストレスを防ぐポリシーを採用しよう。
時間やリソースに余裕のない小規模なスタジオは,Be There Certificateのような外部の認定資格を検討するとよいだろう。これは無料で,かつ自分のペースで取り組める,従業員のためのメンタルヘルス意識向上トレーニングだ。また,Employee Assistance Programme(従業員支援プログラム)の検討もお勧めする。通常,24時間体制で従業員のメンタルヘルスケアを行っており,カウンセリングや危機管理支援などが含まれていることが多い。
私たちには,メンタルヘルスが優先され,個人が成長し,創造性が花開く場所に,ゲーム業界を変えていく力がある。前向きなウェルビーイングを業界の基本的な柱とすれば,各自の才能を育てられるだけでなく,世界を興奮,喜び,達成感で満たすようなゲームを生み出せるのだ。
現実世界でのアクション
何でもいいから始めよう。どんなに小さくても。
根本的,または費用のかかる変化だけでなく,どこに注意を向けるのかが重要なのだ。職場におけるどんな小さなメンタルヘルスの取り組みでも,そのきっかけになるかもしれない。
Ripstoneの社員は,私のカウンセリングを1対1で毎月受けられる。また,ランチタイムに散歩クラブで活動したり,毎週「R Talks」を実施したりしている。小さな井戸端会議は,社員が自分の人生における大きなことを,何でも話せる安全な場として機能する。
このような小さな変化は,私たちの企業文化に連鎖的な効果をもたらし,期待や態度を持続的に変化させる舞台を整えた。それは,私たちのあり方や行動の一部となり,結果としてメンタルヘルスに大きな効果をもたらしているのだ。
目指すべき長期的な目標は,互いを思いやり,前向きなメンタル・ウェルビーイングを支持することが皆の責任であるという文化を確立することだ。リーダーや管理職にチームのメンタルヘルスへの責任を持たせることが,この文化を築くカギとなる。
建設的な予防策は,真に,かつ積極的に社員をケアするゲーム開発コミュニティを作るために不可欠なステップだ
BAFTAのゲームメンタルヘルスサミットは,これまでとは違ったやり方をしようという大きなうねりの存在や,適切なフォーカスによって,真のインパクトを与えられることを示している。私たちの業界は若く,人々の情熱によって成り立っている。ほかの業界が陥っている落とし穴を避けるために,これを超能力として使おう。メンタルヘルスに対する新しい積極的なアプローチを受け入れる業界を,一緒に提唱していこう。
まずは小さな一歩から始めてみるのはどうだろうか。
何かを,何でもいいから行動に移してみよう。同僚や上司にもっと話をするようにうながそう。ときには,対話のきっかけとなる時間と場所が必要かもしれない。互いの心配事に思いやりを示そう。簡単な会話で,より健全な働き方への扉が開かれることに驚くかもしれない。
建設的な予防策は組織によって異なるだろうが,真に,かつ積極的に社員をケアするゲーム開発コミュニティを作るために不可欠なステップだ。
James Marquis氏は,メンタルヘルスとウェルビーイングの分野で16年以上の経験を持つ心理学コーチだ。最近,Ripstoneに社内専門家として入社し,社員が個人的な課題や業界特有の要求を克服できるようにサポートしている。
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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)