【ACADEMY】ゲーム開発パイプラインとはどんなものなのか
すべてのビデオゲームは1つのアイデアから始まり,図面を描く前に多くの思考と計画を必要とする。どんなにシンプルなアイデアでも,それを実現するためには,デザイナー,デベロッパ,アーティストからなるチームが必要だ。
すべてのゲームアイデアの設計と制作を担当するチームには,さまざまなスキルセットと責任がある。ゲームデザインには,さまざまな能力が必要であり,楽しくエキサイティングな体験を生み出すためにそれらを的確に組み合わせなくてはならない。
デザイナーは,ゲーム制作のあらゆる要素にその芸術的なビジョンと創造性を注ぎ込む。しかし,芸術性だけでは十分ではない。チームには明確な目標が必要であり,すべてのリソースを適切に配分し,効率と協調性を高める必要がある。プロジェクトマネージャーは,すべての人にそれぞれの仕事に最適なツールを提供する必要がある。
スタジオが直面する最大の課題は,クリエイティビティと効率性の完璧なバランスを見つけることだ
言い換えれば,スタジオが直面する最大の課題は,創造性と効率性の完璧なバランスを見つけることだ。壮大なビジョンを持っていても,それを実現するための制作パイプラインがなければ意味がない。この記事では,典型的なゲーム開発パイプラインの概要と,開発ツールがデザインの状況をどのように変化させているかを紹介する。新しいスタジオの責任者やプロデューサーの方は,ぜひ読み進めてみてほしい。
ゲームデザイナーやスタジオの責任者とゲーム制作のプロセスについて話すと,彼らは通常,チームの構成とそれぞれの仕事について説明することから始めるだろう。
ほとんどのスタジオは,特定の責任と目的を持った部門に分かれており,互いに踏みつけ合うことなく最終製品を作り上げることができるようになっている。
これが,プロダクションパイプラインと呼ばれるものだ。
パイプラインは,最終製品のある部分に焦点を当てた,異なるステップに分けられた制作の連鎖として視覚化できる。
これは3つのフェーズに分けることができる:
プリプロダクション
プリプロダクションでは,コンセプトアート,キャラクターデザイン,絵コンテなどを,アーティストとアートディレクターの少人数で制作する。理想を言えば,新しいプロジェクトが始まるたびに,チームの役割が決まっていくことが望ましい。
最初に検討すべきなのは,オペレーションディレクターだ。そのポジションの下には,通常,デザイン,アニメーション,プログラミング,アート部門がある。プロジェクトの範囲や規模によっては,オーディオ,ライティング,QAなどが拡大することもある。
プリプロダクションの段階では,ゲームのストーリー,ゲームプレイスタイル,舞台,環境,伝承,想定するユーザー,プラットフォームといった詳細を明確にしていく。
これらの要素は,キャラクター,小道具,場所,武器などの最初のスケッチを作成する際に,非常に貴重なものとなる。
プリプロダクションが存在する最大の理由は,後の開発段階での推測を可能な限り排除するためだ。ここで,さまざまなアプローチやディテールの追加・削除,カラーパレットのバリエーションを試すことができる。後工程でそれらを変更するのは時間もかかり,コストもかかりがちなので,プリプロダクションですべてをまとめることが望ましいのだ。
プリプロダクションの存在意義は,推測をできるだけ排除することにある
次に絵コンテの段階だが,これはキャラクター同士や環境とのインタラクションを表現するものだ。ここでは,カメラアングルやトランジション,照明などの効果を想像する。そして,次の段階であるアニマティクスでは,いくつかのカメラエフェクトや参考となるサウンド,ナレーション,BGMを適用する。この工程を経て,ゲームやストーリーが形作られていくのだ。これらの要素をすべて試行錯誤したなら,最終的にストーリーのシナリオスタイルでコンセンサスを取り,アートスタイルを決定する。この時点で,没入感を高めるフォトリアルなものから,ピクセルアート,より漫画的な雰囲気を出すセルシェードのアニメーションまで,ゲームの個性が決まってくる。
最初のモデル,スケッチ,ストーリーボード,ゲームスタイルがすべて承認されると,制作パイプラインの次のステージに進む。
プロダクション
プロダクションは,ゲームのアセットがほとんど作成されるステージだ。一般的に,最もリソースを必要とするところになる。
●モデリング
この段階では,アーティストがビジョンを後工程で操作可能なアセットに変換することから始める。モデラーは,専用のソフトウェアを使用して,スケッチやアイデアを3Dモデルに変換する。現在の3Dソフトは,Maya,3DS Max,Blenderが中心となっている。
アセットをデザインする場合,最も分かりやすいのは,モデリングプロセスの最初に頂点から始めることだ。そして,その頂点を線でつないでエッジを作り,さらに面,ポリゴン,サーフェスという流れになる。このプロセスは時間がかかり,その複雑さはモデルをどれだけ詳細に見せたいかに依存する。
フォトグラメトリーで超リアルなモデルを作るというのは,1つの大きなブレークスルーだ
我々は通常,シンプルな3Dモデルからスタートし,スカルプティングによってディテールやシワを追加していく。ターゲットとするプラットフォームによって,モデルに求めるディテールレベルが異なる。ディテールレベルが高いモデルほど,三角形の数が多くなり,生成に必要な処理能力も高くなる。大きなブレークスルーは,フォトグラメトリーを使って超リアルなモデルを生成することだ。実在の物体から,都市やレース場などの地域全体の地形調査まで,広い範囲でさまざまなモデルを生成し,没入感を高めている。Forza MotorsportsやCall of Duty: Modern Warfareなどのゲームでは,フォトグラメトリーを多用して実在のオブジェクトやシナリオに命を吹き込み,プレイヤーにリアルな環境と小道具を提供している。フォトグラメトリーによって,スタジオは,手作業でアセットをスカルプトするのにかかる費用の何分の一かで,よりリアルなビジュアルを生成できる。モデリングやスカルプトの時間を大幅に短縮できるため,多くのスタジオがこの技術に移行しており,必要な投資に見合うだけの価値がある。
ソフトウェアについては,ZBrushを使用することで,キャラクターや小道具の3000万ポリゴン以上の超高解像度モデルをスカルプトまたは操作できる。さらに,技術的な要件やターゲットとするプラットフォームに応じて,特定のポリゴン数にモデルをリトポできる。このため,ZBrushは業界標準となっている。
多くのスタジオは,その使いやすさとパイプライン統合機能から,10年以上にわたってAutodesk 3Ds MaxとMayaのパワーを活用していた。しかし,Blenderはソロアーティストにとって,ワークフローに合わせたカスタムソリューションを問題なく導入できる,より多くの柔軟性を備えている。
Room 8 Studioは,特定のプロジェクトや要件に対応するために,いくつかのパイプラインを構築することを選択した(参考URL)。
●リギング
ここからは,少し技術的な話になる。リガーは,3Dモデルに骨格を与え,すべてのパーツを理にかなった方法でアーティキュレーションする役割を担っている。そして,これらのボーンを周囲のジオメトリと結びつけ,アニメーターが必要に応じて各部を簡単に動かせるようにする。
さらに,キャラクターの動きを制御するためのスクリプトを自動で作成することもある。同じ制御を他のキャラクターやプロジェクトにも使用できるため,プロセスが非常に簡単で効率的になるのだ。
●アニメーション
アニメーターは,適切にリギングされた3Dモデルを使用して,流動的な動きを作り出し,キャラクターに生命を吹き込む。この段階では,すべての手足や筋肉が有機的で信憑性のある動きをする必要があるため,細部にまで注意を払う必要がある。
アニメーションのプロセスは,とくにノンリニアパイプラインの採用以降,大きく変化している。
アニメーションが承認されたら,ジオメトリフォーマットにベイクし,すべてのフレームをシミュレーションとライトに使用する個々のポーズに分離する必要がある。
●見かけ
ここでは,すべてのアセットにテクスチャとシェーディングを適用する。すべてのオブジェクトとサーフェイスは,カラーパレットに従う必要がある。肌の色,服装,アイテムなど,この段階ですべてペイントされる。
また,プリプロダクションで合意されたスタイルに従って,オブジェクトにテクスチャを適用する。
物理ベースレンダリング(PBR)には,さまざまなツールがある。Adobe Substanceは,Pixarなどアニメ業界の大物にも愛用されているほど,汎用性の高いツールだ。
たとえば,Substance Designerでは,テクスチャやマテリアルを簡単に作成でき,ターゲットメッシュの構成に応じてプロシージャルに生成できる。
Substance Painterでは,3Dオブジェクトへのテクスチャの生成と適用が非常に簡単になり,パイプラインが大幅に効率化され,アーティストは成果物をゲームエンジンに直接インポートできるようになった。また,Substance Painterには素晴らしいベイクツールがあり,ハイポリメッシュのプロパティを失うことなくローポリメッシュにベイクする力がある。これは,ポリゴンの予算が限られている場合,ありがたいことだ。
オブジェクトにテクスチャを適用したあとで,光源とどのように相互作用するかを決定し,サーフェスの特性と選択したテクスチャを結合して,最終的な外観を完成させることになる。
パイプラインで最もパワフルなエンジンの1つであるUnreal Engine 5は,Lumenと呼ばれるレンダーエンジンを搭載している。これは,正確な照明を提供するためにライトマップをベイクすることなく,グローバルイルミネーションを実現するものだ。ライトマップのUVなど,ライティングプロセスを滞らせる面倒な処理が不要になったので,これはアーティストにとって非常に大きかった。
たとえば,ロケーションを作成する場合,以前はライトマップをセットアップしてシーンにベイクし,グローバルイルミネーションやリアルなシャドウなど,リアルな設定を実現するためのあらゆる側面を実現する必要があった。この作業には,UVチャンネルを正しく設定するためだけに,丸1日かかることもあったのだ。
また,Lumenは3つのトレース方法を効率よく切り替え,リソースを消費することなく,屋外と屋内の両方をカバーするダイナミックな照明を作成するために,高度に最適化された方法を提供してくれる。
●シミュレーション
手作業でアニメーションを作成するには,あまりにも複雑なものがある。そこで登場するのがシミュレーション部門だ。水の波やさざ波のランダム性,風や動きがテクスチャーや髪に与える影響などは,すべてシミュレータでプログラムされている。
現在の技術やシミュレーションのアルゴリズムでは,液体や気体,火,衣服,そしてアクションするキャラクターの筋肉量まで,非常にリアルなモーションを実現できる。
●アセンブリ
この段階では,すべてのアセットを組み立てて,最終的な製品を作り上げる。すべてのアセットがレゴのピースのように,レベルの構成要素になる。パイプラインで使用するゲームエンジン(Unreal,Unity,その他カスタムエンジン)によっては,アセットの統合がスムーズに行われるようにする必要がある。したがって,組み立てプロセスでは,すべてを手元に置いて,効率に影響するようなボトルネックを回避できるような強固なパイプラインが不可欠となる。
新しいUE5エンジンのゲームチェンジャーとなるのが,Nanite機能だ。この独自のソリューションにより,パフォーマンスを低下させることなく,高ポリ数の3Dモデルをリアルタイムでインポートおよびレンダリングできるようになり,パイプラインが劇的に変化した。
このエンジンは,アセットを,カメラからの距離に応じて動的に変化する,より効率的なメッシュに変換することでこれを実現している。たとえば,カメラが近づくと三角形が小さくなり,逆に近づくと三角形が小さくなるわけだ。つまり,従来のLODの微調整が不要になるのだ。
ポストプロダクション
ポストプロダクションにはさまざまな側面があるが,最も重要なのはカラーコレクションとライティングで,ゲームやトレイラーの最終的なトーンを設定する。ここでは,特定の色合いやフィルターを画像に追加することで,ゲームに独自のビジュアルスタイルを与える。映画マトリックスで使用された緑がかった色調は,ポストプロダクションの段階で適用された。
しかし,ポストプロダクションが重要な段階である理由はほかにもある。たとえば,プロファイリング,フレームレート数やフレーム時間の測定,ポリゴン予算がターゲットプラットフォームで割り当てられたメモリに収まるかどうかの確認,ライトやシャドウをベイクインするかダイナミクスとして処理するかの決定などだ。
アニメーション スタジオでは,従来,リソースの大半は制作段階に費やされていた。これは,現実のスタジオでは,製品を完成させるためのコストがポストプロダクションの段階でより大きなウェイトを占めているのとは対照的だ。
たとえば,映画監督は,制作段階において,従来のアニメーションスタジオで許容されるよりも大きな自由と柔軟性を享受している。リアルタイムなフィードバックループにより,監督,俳優,スタッフは,数ショットでスタジオのビジョンに命を吹き込むことができる。
今日,Unreal Engine 5などのツールは,アニメーターに同じような自由を与えている。デベロッパは,アセット,キャラクター,ロケーションを選択し,カメラやアングルを動かして,成果物を視覚化する能力を得ることができる。アセットがどのように操作できるかのアイデアを得たい場合は,エンジンから直接リアルタイムで操作することが可能だ。これにより,ディレクターが瞬時にアセットを操作し,即座にフィードバックできるため,プリビスとディレクターのギャップをなくすことができる。
さらに,あらゆるアセットをエンジンに集約できるようになったので,制作ステージ間を自由に行き来できるようになった。ノンリニアパイプラインを使えば,スタジオは制作段階間で支出を均等化し,より分散させることができる。
テクノロジーがどんなに進歩しても,これらのツールの活用法を理解した才能と経験のあるチームがいなければ,そのようなことはできない。
このアプローチの主な効果の1つは,プリプロダクションの段階からプロダクショングレードのアセットを提供して,それをパイプライン全体に問題なく伝播させることができるようになったことだ。このプロセスの最後のステップでは,品質保証部門が機能テストとコンプライアンステストを行い,製品が宣伝通りに動作すること,プラットフォームが課す要件に準拠していることを確認する。
今日のスタジオは,競争力を維持しながらビジョンを実現するために,最新のツールや技術トレンドの力を活用したアジャイルパイプラインシステムを導入する必要がある。ノンリニアパイプラインやリアルタイムエンジンへの移行は,小規模なチームでも業界の巨人と一歩も引けを取らない競争を可能にする,ゲームチェンジャーとなりそうだ。
しかし,この業界では,より強力なデザイン,アニメーション,開発ツールを使いこなすことが重要なポイントだ。どんなに技術が進歩しても,これらのツールを活用し,効率的なプロダクションチェーンを構築する方法を理解した,才能と経験のあるチームがいなければ,ツールはあなたをここまで導いてくれることはないのだ。
Maksim Makovsk氏は,Room 8 Studioの3D部門アートディレクターだ。ビデオゲーム業界で10年の経験を持ち,Call of Duty,Control,Overkill's The Walking Dead,Warthunder,World of Tanksなど,業界最大手のタイトルに携わってきた。
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