【月間総括】日本市場の将来に悲観的?〜低すぎるソニーグループの成功ハードル〜

 今月は,最初にPS5について話を進めたい。NPDによると,米国の2月と3月のPS5は記録的なセールスだったようだ。また,ファミ通の発表したデータを見ると,日本でも2月は36万台を超える販売を達成し,6年目ですでにピークアウトしつつあるSwitchを2年以上かけてようやく上回った。

 PS5は長らく店頭に並んでいなかったので人気ゲーム機だと思っている人も多いだろう。そこで発売日から150週のグラフを取り上げる。これは,PS2以降の歴代ハードと類似例としてのドリームキャストをプロットしたものである。


 PS5は2023年2月の販売が好調だったといっても,PS2やSwitchの年末年始商戦期の増加ペースを下回っていた。
 Switchは初年も2年目も,12月は1か月で100万台以上のセールスを達成しているのである。2月のPS5の台数が36万台といっても,それほど販売が強かったとは言えないだろう。

 そして,ゲーム機ビジネスを手掛ける多くの経営者が先入観として捉えている年末商戦の需要の強さは,平時とものすごく差があるわけではなさそうである。
 Switchは数字だけ見ると,確かに平時と年末商戦では4倍近い差があるように見えるのだが,Switchはほとんどの期間店頭になかったので,実際の需要がそもそも強く,年末は供給が増えて店頭にある状態になったわけで,数字ほどの差はなかったのではないだろうか。やはり,ゲーム業界は迷信だらけに思えてしまう。

 話を戻そう。
 筆者は「形仮説」を提唱していて,人間は購買を視覚情報で行っていると考えているが,これを当てはめると,多くの人は店頭やオンラインショップに在庫があるかどうかで販売の好不調を判断しているだけかもしれない。

 PS5は,このグラフを見ると21世紀に入ってからの基本推移であるPS3,PS4,PS Vitaを下回る供給量しかないのだが,長い間店頭にはなかったので傍目からは売れているように見えたと考える。そして,PS5の供給量を増やして,販売台数はPS4をやっと超えたわけだが,PS2やSwitchとの差は依然大きい。

 PS2とSwitchは,3年目に入って急速に販売を伸ばしていくので,この角度では,いつまでたっても日本では追い付けないことになるだろう。やはり,PS4を超えるという,そもそもの目標設定に問題があったようにしか思えないのである。


 そしてもう一つ,PS5の今年の実売推移は,店頭でPS5が買えるようになったことで,ずっと購買できなかった人たちがようやく買えたこともあり,2月は9万台を超える実売が続いていた。このときはSNSなどでも購入報告が散見できていた。

 この2年間のPS5の国内における不振をソニーグループは「生産できなかったこと」としているが,ビジネスというのは想定外の連続であることが多いので,その準備ができていなかったのはそもそも大きな問題だと言わざるを得ない。任天堂が比較的素早くリカバリできたのとは大きな違いがある。

 ゲーム機はハードを買ってソフトを楽しむものなので,ハードがなければビジネスは成り立たない。PS5を購入できなくてユーザーが不満を述べるのは当然だろう。しかし,ソニーグループは,ユーザーがそのことを非難することも許容できてない。これはソニーグループの余裕のなさが色濃く出ているように思う。

 PS5は高性能で凄いゲーム体験が実現できているので,日本ユーザーがもろ手を挙げてほめてくれないことが不満なのだろう。東洋証券では,ユーザーは動的に変化していると考えているので,SIEひいては,ソニーグループが,ユーザーの変化に対応できていないだけだと思うのだがいかがだろうか。

 ソニーグループは,PlayStaionシリーズは素晴らしい製品なので,売れるに違いないという前提があるように思ってしまうのだろう。しかも,マーケティングを一元化した弊害だと思うが,State of Playが世界共通の動画紹介になっており,「地域特性を無視しているのではないか?」と感じる。結果,日本やその他地域に米国風のやり方を押し付けてしまっているように見えてしまっている。

 SIE(ソニーグループの米国にあるゲーム事業本社)は,「こんな素晴らしい商品を買わないユーザーが悪い」という考えになってしまったと言われても仕方ない状況にある。このあたりの改善を図らないと,いつまでたっても日本での販売は良くならないと思う。SIEにはもっと高い目標と施策を打ってもらいたいものだが,批判を恐れる人たちには筆者の意見自体が怖くて仕方がないのであろう。

 グラフに話を戻そう。ジム・ライアン氏は今後の出荷増でPS4を上回ると言っていたので,日本や米国ではその目標を達成できたように見えるが,おそらく,相当数が国外に流出していると思われる。なので,日本国内での実態はPS4以下であると見ている。

 仮にこの数字が全量国内だったとしても,執筆時点(4月25日)では,累計で330万台に届いていないので,同時期のSwitchが830万台かつ需要が旺盛だったことを考えると,やはり少なくとも国内ではPS5の需要が弱そうなのである。
 米国ではPS5が売れているのだが,SIE本社からは実売がPS4を上回ったとのリリースがないので,ほかの地域ではまだPS4を上回れていないようだ。
 
 最後に,4月の大きな話題は映画「スーパーマリオ ザ・ムービー」だろう。
 評論家の前評判は決して高いとは言えなかったようだが,公開直前にオープニング期間の興行収入が大きくなるとの予想がでたとの報道をきっかけに,同映画に対する高い人気が分かってきた。
 4月10日には興行収入が500億円を突破したとの報道がでて,米国を中心に米大陸では高い人気となっているようだ。また執筆時点では1000億円も目の前との報道も出ている。

 この件を見て思い起こされるのが,ソニックの映画である。これらは評論家の評価はそれほど高くなったのだが,ユーザーの評価が高くヒットした。なぜそんなことが起きたのかというと,映画を見に行こうとする一般人はゲームの映画化と認知しているので,ゲームをどう映画に落とし込むかが評価基準なのに対し,映画評論家は映画としてのテーマや,ビジュアルといった厳然とした評価軸があるためだと思う。そして任天堂の宮本 茂氏が,映画がヒットした一因として,評論家の評価が低かったことがユーザー間で話題になった点を挙げていた。SIEの,ユーザーに軽視していると言われて悲しい気持ちになったという考え方と逆である。これでは前述した日本市場で成功のハードルが低くなってしまうのも無理はない。
 そして,ゲームでもソニックやポケモンはメタスコアのレビュアースコアが低く,ユーザースコアが高いといった現象があるので,似たようなことが映画でも起こっているのであろう。

 また,この盛り上がり方は2016年の「ポケモンGO」を彷彿とさせる。ポケモンGOは決して前評判が良かったわけでないが,7月11日に突然人気化し,あっとういまに世界中で大ブームとなった。「スーパーマリオ ザ・ムービー」も,評論家のレビューは決して良くなかったたが,興行収入予想がでるや,大ヒットするのではないかという雰囲気になり,興行収入の数字が日を追うことに増えたことでメディアの露出が増え,人気化した印象がある。

 任天堂は,業績が不振だった2015年に故岩田社長が,IP戦略を強化し,露出を増やすことで収益を多角化し,業績の安定化を図ると説明してきた。
 あれから10年近い時間が経過し,ようやく岩田氏の構想していた状況が出現していると言えるだろう。メディアが自発的に報道することで,IPひいては任天堂の知名度が向上するというポジティブなスパイラルが形成されているのである。
 執筆時点ではまた日本で公開されていないが,映画のマーケティングでは「全米で人気沸騰」というフレーズがある。実際にアメリカでの盛り上がりがどう日本に影響を与えるのか,また次回以降みていきたい。