【ACADEMY】デベロッパとパブリッシャの関係を構築するための5つのヒント

PlaystackのHarvey Elliott氏が,スタジオがパブリッシャに求めるべきこと,その関係がうまくいく方法についてアドバイス

【ACADEMY】デベロッパとパブリッシャの関係を構築するための5つのヒント

 セルフパブリッシングを選択するデベロッパの数は増加傾向にあり,パブリッシャの必要性について疑問が投げかけられている。パブリッシャは単なる仲介者であり,方程式から完全に切り離せるのだろうか。

 私見では,パブリッシャの必要性はかつてないほど重大となっている。厳しい時代には脂肪を減らすために短期的な決断を下すことがあるが,その決断は長期的に見ると弱点を露呈することになりかねない。厳しい時代には安全な避難所を見つけ,嵐を乗り切った経験を持ち,繁栄のための戦略を構築する方法を知っている人たちに囲まれるほうがはるかに賢明だ。

 では,どのようにすれば優れたパブリッシングパートナーを見つけられるのだろうか。最適なパートナーを探すには,まずお互いが何をもたらすかを確認することだ。パブリッシャは常にゲームをパブリッシングしており,プロジェクトごとに仕事の流れを作り出している。そのため,異なるトレンドや複数のジャンルのタイトルを市場に送り出してきた経験から,貴重な知識を持っているはずだ。これは重要なノウハウと経験である。

 デベロッパが市場に出る必要がある場合,もちろん自分でやることもできるが,パブリッシャが何度も経験して,回避する方法を知っているような落とし穴にはまる可能性が非常に高い。




ヒント1:自分に合ったパブリッシャを選ぶ


 ゲーム開発は長期的な取り組みで,マラソンとなるので,一緒に長期的な仕事を楽しめるパブリッシャと組むことが不可欠だ。パブリッシャと個人的なつながりを感じられなければ,プロフェッショナルな関係を追求する意味はない。

 お互いのことを十分に理解し,信頼し,尊敬し,分かり合える関係こそが,長続きするプロフェショナルな関係だ。

パブリッシャと個人的なつながりを感じられなければ,プロフェッショナルな関係を追求する意味はない

 パブリッシャは,業界内で知られているさまざまな専門分野や経歴を持っていることが多い。これらの要素は,パブリッシャのアウトプットしたゲームよりもはるかに重要だ。パブリッシャがデベロッパとの協業で高い評価を得ているのか,彼らが自分のプロジェクトに注力してくれると確信できるのかを考えよう。

 あるパブリッシャが,スタイルやジャンル,メカニクスなどの作風があなたと似ているデベロッパと仕事をしてきたからといって,そのパブリッシャがあなたのゲームに適しているとは限らない。ゲームにはそれぞれ個性があるので,そのパブリッシャがあなたにふさわしいか,しっかりと見極めるべきだ。

 最初に会話した相手とは仕事をしないほうが賢明である。あなたのゲームが印象的で,愛と品質をともなって作られているなら,多くのパブリッシャから興味を持たれるだろう。そうでない場合は,その理由を考慮すべきだ。目の前にある選択肢をじっくりと考え,それをきちんと検討するための時間を十分に確保しよう。

  • ビジョンの大切さ

 自分自身に2つの質問をしてみるべきだ。このパブリッシャはゲームにおける自分のビジョンを理解しているか。そして同じくらい重要な,ゲームにおける自分のビジョンを尊重してくれるかということだ。パブリッシャがゲームにサインする前に,それが彼らの求めているプロジェクトではないことを,十分に理解しているケースは数え切れないほどある。

Harvey Elliott氏,英国のゲームパブリッシャ・PlaystackのCEO兼創業者
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 これは将来的にパブリッシャが,デベロッパの目標ではなく自分たちの目標に最も適したゲームにするため,特定の変更を要求し始めるという困難につながる可能性がある。デベロッパ自身がゲームの明確な最終目標を持っていないケースもあり,こういうことはよく起こるので,ビジョンを押し付けずに,あなたのビジョンをサポートしてくれるパブリッシャを選ぶことがきわめて重要となる。

 ゲームのビジョンを明確にすることで,デベロッパはターゲットとするオーディエンスをより明確に理解できるようになり,パブリッシャはターゲットにアプローチするための戦略を考案できる。

  • やりたいことに精通しているパブリッシャを選ぶ

 具体的な決断をする前にリサーチを行い,オープンマインドで包括的な視野を持つべきだ。デベロッパとして,自分のプロジェクトを完全に把握し,(グローバルな文脈で)どこでゲームが成功しそうかを理解することだ。これは,パブリッシングパートナーを探す際にも念頭に置くべきである。あなたのゲームがアジアで成功すると思うなら,アジア市場を理解しているパブリッシャと組むか,その市場への参入を手助けできないパブリッシャには,権利を除外するように求めよう。

 あなたのゲームは,どのゲームエンジンで作られているだろうか? そのエンジンに精通した人と話すことが,あなたの助けになる時を予見しているだろうか? 例えば,Unrealでゲームを開発した場合,そのエンジンで実証済みの経験を持つパブリッシャ,理想的にはその社内チームから選ぶとよいだろう。パブリッシャとスタッフは,あなたが困ったときに頼れる存在であるべきで,必要なときには特別なサポートを提供し,あなたのゲームに最高の結果をもたらすのを助けてくれるはずだ。

 パブリッシャの選択は大きな決断だ。時間と余裕を持って選択肢を検討し,パートナー候補についてできるだけ理解し,あなた自身,あなたの個性,あなたのゲームに最も適したパブリッシャを見つけよう。


ヒント2:型にはまったアプローチに注意する


 契約書を作成する前にリサーチする必要があるのは,デベロッパだけではない。パブリッシャにもその責任がある。パブリッシャがデベロッパと契約交渉を始める前に,デューディリジェンスを実施するのは一般的だ。

 型にはまったパブリッシャとは,収益分配率が決まっていたり,あなたのゲームに提供してくれる労力が決まっていたりという,さまざまな要素を意味する。納品物の明確なロードマップ(発表トレイラー,マーケティング用ビート,ソーシャルメディアなど)があり,そこから逸脱することのない規則正しいシステムだ。多くの場合,デベロッパは手軽さとシンプルさから,このアプローチを取るだろう。

 もちろん,デベロッパが何を求めているかによって,このプランは特定のシナリオで機能することもあるが(すでにオーディエンスが判明していて,リリースまでのビジョンも明確な場合),代替手段が存在するのには理由があり,より厳選された丁寧なパブリッシャは,型にはまってリリースされたゲームを凌駕できることもある。

 そのうえ,ゲーム業界は動きが速い。より個性的で,より厳選されたパブリッシャを選ぶことは,どのように方向転換するべきか緊密に連携し,市場のトレンドや変化に合わせるのに適していることを意味する。


ヒント3:良い契約書の重要性を理解する


 主要な取引条件を定めた契約書にサインして,それっきりというのは理想的なシナリオだが,現実にはそれぞれが相手に対して抱いている期待をすべて文書化することが重要であり,将来的にさらなる話し合いにつながる可能性がある。

 良い契約書は,各当事者のコミットメントをすべて記載し,デザイン,スケジュール,マーケティングプランの変更への対処を定め,信頼関係の基盤を提供するものである。

  • よくある契約上のトラブル

 最大のトラブルは,パブリッシャが当たり前のように考えている事柄を契約書に盛り込まない場合に起こる。多くのゲームにとってアルファビルドというマイルストーンは重要で,リリースに向けて順調に進んでいることを確認するための大きなステップだと考えられている。しかし“アルファ”という用語は,業界のさまざまな場所で異なる定義がされている。明確に定義されていないのならば,マイルストーンが実際に達成されたかどうか,どのように判断すればよいのだろうか。

最大のトラブルは,パブリッシャが当たり前のように考えている事柄を契約書に盛り込まない場合に起こる

 これは,契約書にこれらの言葉やフレーズが明確に定義されていることを確認して,誤解を生まないようにするための一例に過ぎない。

 成功するパブリッシャは,開発・販売プロセスで発生するあらゆる変化に対応できるビジョンと先見性を持っている。パブリッシャは,さまざまなことが変化する可能性を認識し,その対応をする必要がある。

 パブリッシャとして契約で遭遇する最大の間違いは,マイルストーンの納品が予定されているのに,仕様書が作成されていない場合だ。ゲームのロードマップと仕様書には,マイルストーン1,マイルストーン2,マイルストーン3,アルファ,ベータ,出荷という試金石が使われている。それらの意味と,どのように協力して到達していくのかを理解しよう。


ヒント4:初期段階でパブリッシャの意見を聞く


 ゲームを成功させるために考慮すべき要素は数多くあるが,パブリッシャが作品の可能性を引き出す鍵をしばしば握っている。デベロッパは,ゲームを市場に投入するための最善の方法について,特に初期段階や発売前の段階で,パブリッシャの意見に耳を傾けることが重要だ。

 パブリッシャは,リソースだけではなく,専門知識も持ち合わせている。信頼できるパブリッシャは,ゲームのマーケティング,問題点,特定の機能を効果的にアピールする方法などについてアドバイスを提供し,戦略を練ってくれるだろう。

  • ローンチ前の重要性

 両者は,ゲームの成功という同じ目標を共有している。優れたパブリッシャは,ゲームの成功のためにローンチ前の活動,コミュニティ形成などの手綱を握るが,これは単独ではなく,スタジオと協力して行うべきだ。

 コミュニティの構築は,ゲームの発売前から期待感を有機的に高めることにつながる。また,発売後の強力な口コミにより,より長い寿命のための強固な土台を築くことができる。

 主要なプラットフォームで何千もの選択肢が存在する現代のゲーム開発環境において,強力なプレリリース戦略を実施しないことは,あなたのゲームがプレイヤーから注目されないという結果につながりかねない。


ヒント5:もしもの時のプランをしっかり用意する


 ゲーム開発の長いプロセスでは,うまくいかないことや落とし穴が発生することがある。契約書に記載するか,事前にパブリッシャと話し合うなどして,もしものことがあった場合にどうなるかを初期段階で知っておくことが重要だ。

 プロジェクトの開発が長引いた場合,追加の資金が必要になることがある。このようなオプションがあるかどうか,事前にパブリッシャに確認しておこう。ゲームの開発遅延はよくあることなので,有能なゲームパブリッシャであれば,開発プロセスで問題が発生した時のため,(契約上またはその他の方法で)あなたをサポートするオプションを持っている。

もしものことがあった場合にどうなるかを初期段階で知っておくことが重要だ

 小規模な独立系デベロッパと仕事をする際に陥りがちなのは,1つのプラットフォームにしか焦点を当てないということだ。ゲームはマルチプラットフォームでこそ,より多くの人々に認知され,経済的な成功を収めることができる。パブリッシャはデベロッパと密接に連携してゲームの移植をサポートすることができ,多くの場合は外部スタジオの協力によってこれを実現する。スタジオが単独で活動している場合,マルチプラットフォームの実現はさらに困難だ。

 開発チームの主要メンバーが離脱するなどの問題によって,ゲーム開発が予想以上に長引くこともある。パブリッシャは業界内の人脈が豊富で,スタジオの新しい人材の採用などにも手を貸してくれるはずだ。最も重要なのは,ゲーム開発を理解し,共感し,解決策を一緒に考えてくれる,真のパートナーとなるパブリッシャを見つけることだ。


Harvey Elliott氏は,英国のゲームパブリッシャ・PlaystackのCEO兼創設者で,同社は最近The Entropy CentreとBAFTAにノミネートされた「The Case of the Golden Idol」をリリースした。EA, Acclaim Entertainment,Marmaladeでシニアポジションを務めるなど,25年以上にわたってゲーム業界で活躍している。

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