ジェネレーティブAIの可能性と危険性

ゲーム開発者が語る,アイデア出しやアセット制作,雇用の確保に機械学習が与える影響とは

Midjourneyによるメインイメージ
ジェネレーティブAIの可能性と危険性

 AIが生成したアートからChatGPTの心配になるほど理路整然としたアウトプットまで,ジェネレーティブAIはこの2か月で脚光を浴びたが,ゲーム開発におけるその役割は,いまだに不明確だ。

 最近の会話を聞き逃した人のために説明すると,ジェネレーティブAIとは書かれたプロンプトから何かを作り出すことができるツールだ。ChatGPTに何かの短い要約を書くように頼むと,そうしてくれる。また,Midjourneyに人物や場所(実在を問わず)の説明を入力すると,その内容に合った4種類の画像を提供してくれる。

 私たちは,さまざまなゲームメーカーと連絡を取り,この新しいが,ますます目立ちつつある技術について,意見を求めた。何人かは,ジェネレーティブAIとそれを使うことの意味について(まだ)十分に理解していないので,意見は言えないと断ったが,回答してくれた人たちは,歴史的な例え話から決して離れようとはしなかった。

 Panivoxの共同設立者で,ベテラン開発者のPhilip Oliver氏は,馬の代わりに耕運機や,のちのトラクターを使うことで効率を高めた農民のようにジェネレーティブAIを好み,「Code Is Just」の著者でインディーズ開発者のShahid Ahmad氏は,機械学習と産業オートメーション導入の類似性を指摘した。

Shahid Ahmad氏,画像はLensa AIによるもの
ジェネレーティブAIの可能性と危険性
 「機械や,最近ではロボットの利用により,私たちの生活から多くの単純作業が取り除かれました。しかし,大規模なコンテンツを制作するビデオゲームスタジオは,これまで機械化の恩恵を受けてきませんでした」と彼は説明する。

 「芸術だと思っているものが機械化されていると聞くと,最初は違和感を覚えるかもしれませんが,ゲームで作られるアセットのほとんどは工芸品であり,人間の手による工芸品は原子のレベルで機械化できています。なぜ,ビットではできないのでしょうか」

 Bossa Studioの共同設立者であり,クリエイター最高責任者のImre Jele氏は付け加える。
 「テクノロジーの根本的な変化は,産業全体を再編成する可能性があります。このような変化には,常に必然的な損失が伴い,人々や企業は適合することを強いられます。そして,その変化が十分に大きければ,経済全体が危険にさらされ,社会の変革が必要になるかもしれません。AIは,そのような抜本的な変化をもたらす可能性があり,必然的にそうなるとも言われています。ジェネレーティブAIが,ゲーム業界を根底から揺るがす可能性を持っていることは間違いないと思います」

 「しかし,まだ課題は残っています。例えば,トレーニングセットの法的な枠組みは未解決で,いくつかの裁判の結果次第でリスクや摘発が発生するかもしれません。このようなツールを使ってゲームを開発する前に答えなければならない,いくつかの大きな疑問があります」

 「結局のところ,この分野は急速に発展していますが,企業が頼れる実際の生産準備ツールはごくわずかしかありません。ですから,ゲームの作り方を根本的に変えるには,まだ少し時間がかかると言えるでしょう」

Rok Breulj氏,Proxy Studios
ジェネレーティブAIの可能性と危険性
 Proxy Studiosの創設者でオーナーのRok Breulj氏は,彼が「ゲーム開発で最も労力を要する部分」だと考えているコンテンツ制作のプロセスを,AIが容易にできると語る。彼のチームは,近日発売予定の4Xストラテジーゲーム「Zephon」で,建物などのコンセプトアートを生成するためにAIアートツールを使用したが,Breulj氏はいずれもっと大規模に使用されるようになると考えている。

 「AIによって,ゲームの幅と領域が拡大することは間違いないでしょう」と彼は語る。「私たちは,より大きな世界,より大きなゲームを期待すべきで,プレイヤーはそれを求めています」

 彼はこう続ける。「ジェネレーティブAIは,古いアセットをリミックスしたり,アセットパックを使ったりすることに似ているところがあります。これらはすべて,非常にセンスよく行われることもあれば,非常に不愉快に行われることもあります。本来は悪いものでも良いものでもないのです。私たちはジェネレーティブAIを怖がるべきではありません。試しに使ってみて,遊んでみて,その限界を探り,あなたのワークフローを向上させられるのか確かめてみてください」

Proxy Studiosは,近日発売予定の「Zephon」に登場する建物のコンセプトアートをAIで生成した
ジェネレーティブAIの可能性と危険性

 開発者が一連のプロンプトからゲームのコンセプトをプロトタイプ化するのに役立つツールLudo AIを提供する,同名会社のCEOで創設者のTom Pigott氏は,ジェネレーティブAIはアートデザイン,コンセプトのアイデア出し,アセット制作に最も有用であると語っている。これは,スタッフの数を減らすという意味ではなく(詳細は後述),各プロセスに費やされる工数を抑えるものだと主張している。

 「ゲーム開発者は,開発時に『費用』『時間』『労力』という3つの問題に直面しています」と彼は語る。「これらの問題が重なると,失敗率は飛躍的に高まり,また開発者の多くは競争力を維持するために必要なツールをすべて購入することはできません」

 Ahmad氏は,AIによって小規模なスタジオでも「実力以上の力を発揮」できるようになるため,インディーズにとっての潜在的な利益を強調する。イギリスのデベロッパ Hello Gamesが手続き型生成を使って,通常はAAA級タイトルにしか到達できない規模のゲーム「No Man's Sky」を制作したことを例に挙げている。

“ジェネレーティブAIは,ゲームの作り方や内容を根本的に変えると思います。問題は,どれくらいのスピードかです”
Imre Jele氏,Bossa Studios

 しかし,彼は使い方を間違えると,AIのアウトプットは「退屈,または不格好」に見えると警告する。その証拠は,AIアートツールが作り出す突然変異の手を見れば分かるだろう。Ahmad氏は,再びHello Gamesを例に挙げ,手続き型生成によって無限の惑星や生物が生み出される一方で,システムを調整し最高のアウトプットを選択するのは人間の開発者に委ねられていると強調した。

 Breulj氏は,もうひとつのデメリットとして,ゲーム市場に「思慮の足りないジェネレーティブコンテンツが氾濫」することが考えられると警告している。Steamでは,あらかじめ用意されたアセットを組み合わせて作る「アセット・フリップ」ゲームが増えていることから,このような形でジェネレーティブAIが使われるのは恐らく避けられない。

 「考え抜かれたコンテンツが上位に来るのはますまず難しくなり,開発費から広告費に再分配される可能性があります」と彼は付け加える。

 Pigott氏は,AIツールをあくまでツールとして捉えるべきだと強調する。

 「特にゲーム業界でジェネレーティブAIについて語る時,これは二重の意味で真実です」と彼は付け加える。「必ずしも正確な結果とは限らないので,AIツールに頼りきりではいけません。Dall-E 2やChatGPTのようなサービスによる,ひどい仕事の例を見ると分かります」

 PanivoxのPhilip Oliver氏は,ジェネレーティブAIがムードボードやコンセプトアートを素早く作成でき,プランニングやプリプロダクションに最も有用であると期待している。また,最終的なゲームでAIの効果を発揮するためには,人間の指導が必要であることを強調する。

Oliver Twinsは,グローバルゲームジャム2023で,AIアートを使ってナラティブゲーム「Roots & Shoots」を制作した
ジェネレーティブAIの可能性と危険性
 「ゲームにおけるジェネレーティブAIは,創造性に取って代わるものではなく,創造性を強化し,高めるものであるべきです」と彼は語る。「AIはゲームの開発スピードを上げ,チームのイテレーションを速めます。今年のグローバルゲームジャムでは,ChatGPTやMidjourneyなどのAIツールを使い20分のゲームを制作しましたが,約60人時で完成し,開発プロセスを劇的にスピードアップするジェネレーティブAIの可能性を実証しました」

 「AIはゲーム業界の大きなディスラプターですが,好奇心を持って新しい技術を受け入れることが重要です」

 ジェネレーティブAIをめぐる最大の懸念は,雇用の損失につながるかどうかだ。Midjourneyにワードを入力してコンセプトアートを生成できるなら,スタジオはコンセプトアーティストを必要とするのだろうか。木や家具など,ゲームの世界に配置できる3Dアセットを生成できるなら,現在手作業でこれらを作っている人たちはどうなるのか。
 
 Jele氏は語る。「ほとんどのケースで,AIは労働者を置き換えるのではなく,加速させると信じています。とはいえ,雇用の損失について重大かつ妥当な懸念はあります」

 さらに彼は,もっと微妙な問題が出てくるだろうと語る。例えば,彼のチームのメンバーはAIが美術部門の低スキル職の必要性をなくすかもしれないと指摘する。そうなると,若いアーティストがその役割を確保し,スキルアップに必要な経験を積むことができなくなり,結果として市場で訓練されたスタッフの数が減ることになる。

 「結局のところ,AIが仕事を置き換えるというのは,束の間の懸念ではなく,事実だと思います」とJele氏は続ける。「ジェネレーティブAIは,多くの仕事を変えるだけではなく,完全に置き換えてしまう可能性が高いでしょう。唯一の論点は,それがどれくらいのスピードで起こるのか,その影響がどれくらいの範囲に及ぶか,ということです」

Imre Jele,Bossa Studios
ジェネレーティブAIの可能性と危険性
 「歴史が教えてくれるのは,進歩の歩みを止めることはできないということです。私たちに残された最良の選択肢は,自分たちのチームや業界において避けられない影響について慎重に検討し,準備をすることです。AIの発展の軌跡は,私たちが社会的なレベルでの変化に直面することを示唆しており,それらの問題は最終的にそのレベルのツールによってのみ対処できるといえます。『Universal Living Wage』などの解決策です」

 Ahmad氏は付け加える。「仕事は変化します。これまでもそうでした。数十年前は,どのチームも自分たちでグラフィックスエンジンを書いていましたが,それらの仕事はなくなりました。しかし,多くの単純作業が奪われるでしょう。椅子は何脚必要なのか? テーブルの数は? AIに任せられないか? というように」

 私たちが話を聞いた開発者たちは,ジェネレーティブAIの利用についても誤解があり,それが仕事に取って代わるという懸念が高まる要因になっていると語った。例えば,Oliver氏は,どんなAIツールも,コードやアート,会話を自力で生み出すことはできないと強調する。

 「ChatGPTやMidjounreyのようなAIツールは,開発者の創造性を置き換えるものではなく,問題解決,プロセスの加速,創造の補助として扱うべきです」と彼は語る。「ゲーム開発ツールは仕事をしてくれません。ジェネレーティブAIも同様です」

 Pigott氏は付け加える。「ジェネレーティブAIは魔法の箱で,心を読むものと思われがちですが,事実ではありません。ジェネレーティブAIは,機械学習の一種で,ユーザーからのプロンプトに対応してコンピュータがオリジナルのコンテンツを生成できるというものです」

 「機械学習では,開発者がどのようなゲームを作りたいか予測することはできません。それは,ユーザーがプロンプトを入力した後にしかできないことです。どんなジェネレーティブAIツールでも,最も重要なのはそれを使うユーザー,つまり人間なのです」

「ゲーム開発中のAI」,Midjourney
ジェネレーティブAIの可能性と危険性
 さらなる例として,この記事のメインイメージは(フル画像は右),Midjourneyが「ゲーム開発中のAI」というプロンプトから生成したものだ。Take-TwoのCEOであるStrauss Zelnick氏でさえ,最新の収支報告で投資家に対して,ジェネレーティブAIがプロンプトからより優れた「グランド・セフト・オート」を作る危険性はない(関連英文記事)と断言した。

 最終的に,私たちが話を聞いた開発者たちは,AIがあらゆる規模のスタジオに利益をもたらす可能性があると考えている。AAAデベロッパは,より低いコストで,より多くのコンテンツを作成して,さらに効率化できる。一方,インディーズは通常ではリソースを確保できないような,より野心的なプロジェクトに挑戦できる。

 「(両者の)境界は曖昧になるでしょう」とAhmad氏は語る。「これは良いことです。最終的には,このテクノロジーによってAIが利用しやすくなれば,より公平な競争の場が生まれるでしょう。Unreal Engineは,2002年にライセンス料が50万ドルもかかりましたが,今ではインディーズでも実質的に無料で使用できます」

 Jele氏は,ゲーム自体がAIツールを使って新たなコンテンツを瞬時に生成し,各プレイヤーの嗜好に合わせたコンテンツを提供する世界を想像している。

 「より大きなゲームを,より速く作るという単純な結果は,大きな前進であるだけではなく,ゲームコンテンツの範囲と品質に関する軍拡競争が続いていることを考えると,率直に言って必要なことです」と彼は結論づける。「しかし,私は優れたAIツールによって,大きいだけではなく,より良いゲーム(より奇妙なゲームでさえも)を見られることを願っています」

 「ジェネレーティブAIは,ゲームの作り方や内容を根本的に変えると思います。問題は,どれくらいのスピードかです」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら