Opinion:ゲーム業界における人員削減はテクノロジーの問題ではなくアート次第だ

SJN Insights のコンサルタント Sam Naji氏が,最近の人員削減の背後にある無数の要因について考察する。

Opinion:ゲーム業界における人員削減はテクノロジーの問題ではなくアート次第だ

 ビジネス評論家やアナリスト・投資家は,ハイテク産業でこれほど多くの雇用が失われた理由を説明しようとテレビで議論しているが,これはパンデミック(世界的大流行)のときに行われた雇用の波の反動であるというのが,だいたいの共通見解のようだ。当時は,在宅勤務に対応するための技術的解決策やパンデミックでなければ必要とされなかったシステムの技術的代替策に投資する必要があったのだ。技術系企業では,自社のビジネスがより必要とされたため,より多くの人を雇用する必要があった。そのため,技術系企業はより多くの人材を必要とし,その結果,より多くの人材を雇用することができたというのだ。

 しかし,2022年には,ビジネスサイクルは「通常」に戻り始めた。人々はマスクなしで家を出て,パンデミック前の日常がゆっくりと,しかし確実に戻ってきた。これは,ハイテク企業の収益増加予測が鈍化するか,低い数字に修正されることも意味した。中には,収益が反転し始めたところもあった。

 非上場企業であれば,収益が減ることは決して大きなことではないが,こうした損失は,事業に直接関与している経営陣によって軽減されることが多い。上場企業の収益低下は,まったく別の問題である。上場企業で収益が落ちると,一定の利益成長しか望まない,あるいは期待しない投資家にとっては災難となる。そこで,何かを与えなければならない,その何かが仕事であった。


拡大,拡大,拡大のCOVIDパーティのあと,削減,削減,削減の二日酔いになった

 アナリストはインフレを取り上げたが,これはすべての産業に当てはまることで,他のほとんどの産業は何万人も仕事を減らしているわけではない。借入コストの上昇(これも全産業に影響す),投資の天井への到達。また,技術系企業は,自社製品の需要が落ち込むと「予想される」不況に備えて,先走った行動に出ている。

 この2週間で報じられたAmazon(参考URL),Alphabet(参考URL),Microsoft(参考URL)の大量解雇のニュースは,2022年末の雇用削減の余波のように感じられる。このサイクルは,Elon MuskとMark Zuckerburgが,何万人もの従業員を辞めさせなければならないと判断したときから始まった。Twitterのような意味のない会社,Metaのような意味のある会社,理由はさまざまだが,このような事態は避けられない。雇用の喪失は,ビジネスを「再調整」するために必要だったのだ。どちらのケースでも,コアビジネスで新しい収益を生むアイデアに軸足を移そうとして失敗したことに起因している。

 Satya Nadella氏がMicrosoftの社員に宛てたブログで(参考URL),人員削減は,同社がコアビジネスを倍増させると同時に,技術的な投資で新しい機会を他の場所に求めるために必要であると述べている。どうやら,Microsoftは食べたケーキを得ようとしているようだ(※原文はtrying to have its cake and eat itで,You cannot have your cake and eat it「食べたケーキは残らない」という故事をもじったもの )。つまり,現在の人員削減は,将来,より少ない従業員でMicrosoftの財務的健全性を確保するために必要なのだと言っているのである。最終的には,このメッセージは,私やあなたのような人たちのためではなく,Microsoftに投資しているヘッジファンド,投資会社,銀行などのためのものである。投資家へのシグナルとしては,ビジネスを再び黒字化(場合によってはもっと黒字化)することが目的であれば,雇用を失うこと自体は悪いことではない,というものだ。

 拡大,拡大,拡大のCOVIDパーティのあと,削減,削減,削減という二日酔いになったが,すべては会社の財政的安定という大義のためであった。TwitterやMetaが雇用を削減したとき,投資家は出資しているテクノロジー企業に質問を投げかけたわけだ。「なるほど ― 彼らがやっているのに,なぜうちはやらないのか」と。

 これらの多国籍企業の多くが数十億ドルの利益を継続的に計上しているのに,そのメガネは曇って見えないと言えば十分だろう。とくにMicrosoftは,1万人の従業員を解雇すると公言しながら,同時に690億ドルを投じてActivisionを買収し,さらに100億ドルを投じてChatGPTに投資しているのだからこれはひどい話だ。また,これらの企業には一種の群集心理が働いているという事実もある。企業は,他の悪いニュースの発表が乱立する中で,自分たちの悪いニュースを隠すことを狙っているのだ。

Microsoftは,数万人の従業員を解雇した多くの大手ハイテク企業の1つである
Opinion:ゲーム業界における人員削減はテクノロジーの問題ではなくアート次第だ

 これらのことから,ビデオゲーム業界は影響を受けないのだろうかという疑問が湧いてくる。短い答えは「ノー」だ。長い答えは,「複雑」だ。

 343 Industries(関連英文記事),Unity(関連英文記事),GameSpot(関連英文記事),Giant Bomb(関連英文記事),Riot Games(関連英文記事)などのXboxチームからの人員削減はあったが,今のところ,全体的に大規模なレイオフが発表されたわけではない。これは,ビデオゲーム業界がテクノロジー産業と同時にエンターテインメント職に片足を踏み入れているからだと思う。最終的にビデオゲームのデベロッパ,スタジオ,パブリッシャは,ヒットメーカービジネスを行っており,映画と非常に似たコンセプトを持っている。

 収益の源泉は,新作ゲーム,カタログ(旧作)ゲーム,マイクロトランザクション,ライブサービス,サブスクリプションのいずれかだ。カタログゲームは,デッドインベストメントに分類され,これらのゲームの制作に費やされた労働力が計上される。カタログゲームは,パッチや発売後のサポートが少なくて済むため,メンテナンスのための人員を最小限に抑えることができる。マイクロトランザクションやライブサービスでは,作業内容に応じて,スケルトンから大規模までのチームが必要になることがある。チームの規模を拡大する必要がある場合,短期的なギャップを埋めるには,請負業者が最適であることがよくある。

ゲーム業界は雇用の削減をためらわないが,これは経済的な理由というよりも,販売実績によるものである

 サブスクリプションの収益は,最終的に新しいゲームコンテンツに依存している。つまり,ビデオゲームにおける労働力の大部分は,「新しいコンテンツ」の作成とサポートに費やされているのだ。その新しいゲームコンテンツの収益は,(アーリーアクセスやクラウドファンディングからの収益を除いて)発売されるまで実現されない。新しいゲームの大部分は,技術的なソリューションを提供し,より高い予約収益を持つ製品とは異なり,収益は販売時点で認識される。

 ビデオゲームは「ビッグテクノロジー」の世界でリリースされるが,本質的には芸術作品でもある。ビデオゲームは,その性質上,主観的なものだ。好きか嫌いか,どちらかだ。必需品ではなく,贅沢品なのだ。娯楽以外の目的はない。そのため,将来の収益を数値化することは難しい。

 期待以上の売れ行きで利益を上げるゲームもあれば,発売後大爆死して会社の金庫が空っぽになるゲームもある。つい最近も,期待作The Callisto ProtocolのパブリッシャであるKraftonが,予想以上に高い目標を達成できなかったため,販売予想を大幅に引き下げることになった。一方,ポケットモンスター スカーレット&バイオレットは,ゲームプレイにバグや問題があるとの報告を受けつつも発売され,同フランチャイズの売上記録を塗り替えた。わけが分からない。

 収益予測は科学的ではなく,より難解なものになる。ハリウッドは,1980年代からこの問題に取り組んできた。脚本家のWilliam Goldmanは,完璧に言い表した。「誰も何も知りません……。 映画界全体で,何がうまくいくかを確実に知っている人は1人もいません。毎回がただの推測です。運が良ければ経験に基づいた推測かもしれませんが」これは,ビデオゲームにも当てはまる。さらに,ゲーム業界はマクロ経済の悪化に強いという問題も加わってくる(関連英文記事)。

 歴史的に見ても,ゲーム業界は雇用の削減やスタジオの閉鎖をためらうことはなかったが,その理由はマクロ経済の状況や他のハイテク企業の動向というよりも,新作ゲームの売れ行きによるところが大きかった。ときには,景気がよくて,主流の技術産業が雇用を増やしているときに,こうした閉鎖が起こることもよくある。これは,ゲーム業界が収益計画において独自の運命を歩んでいるためだ。そのビジネスサイクルは,ゲーム機のライフサイクル,ゲームのトレンド,消費者行動,そしてゲームの出来に大きく支配されている。

 2023年はゲームの当たり年になると予想されており,この分野での雇用喪失が緩和されることを期待したい。

 パブリッシャとゲームスタジオは,唯一の収益源であるゲームを開発する必要があるため,開発期間中にあまり早く切り上げることはできない。多くの場合,パブリッシャは,独自のタイムスケールやリリース日に合わせて作業を行う。ゲームスタジオの問題は,従業員が多すぎることではなく,人数が足りないことである場合もある。厳しい納期に間に合わせるために,コーダーが大きなプレッシャーの中で仕事をする「クランチ」は,以前からこの業界を悩ませている。どちらかというと,パブリッシャは,クランチが起こったときに,人を減らすのではなく,より多く必要とするが,人を最も効率的に訓練するために必要な時間はそこにはないのだ。

 ビデオゲームの雇用保障の問題が起きるのは,ゲームが発売されてパブリックドメインになったときであって,それ以前ではない。もし,約束された収益が実現できなければ,パブリッシャやゲームスタジオは「痛みを伴う決断」をしなければならない(デベロッパや下・中堅の管理職に影響が及ぶ可能性が高い)。パブリッシャごとに新作ゲームの開発期間と発売日が異なることを考えると,今日のように大手ハイテク企業の間で雇用喪失の波が押し寄せるのではなく,いつ雇用喪失が起きてもおかしくないのだ。

 同様に,新しいスタジオや開発会社は常に生まれており,それは何十万ものコテージ型インディーズゲームスタジオを掘り下げる前の話だ。これらはすべて,雇用を生み出す。LinkedInやIndeed.comでビデオゲームの求人情報を見れば,何百もの結果が返ってくる。ビデオゲームの世界では,雇用や人員削減に関して,次のパブリッシャが何をするか,何をしないかについて,追随することに意味はないのだ。この業界は,隣人に追従するには,あまりにもダイナミックすぎるのだ。

 結局のところ,これは収益がどのように発生するかに帰結する。大手ハイテク企業の人員削減は,エンターテインメント部門とは大幅に異なる収益を上げている企業との間で行われている。それは,オンライン広告,技術の研究開発,定期購読,応用科学ソリューションのいずれかから得られるものだ。アートからは生まれない。ゲーム産業は,テクノロジーとアートの2つの産業が混在していることが強みであり,同時にアキレス腱を露呈している。

 つまり,ゲーム業界の雇用喪失は今後も続くが,それは投資家が求めているからではなく,ゲームそのものが期待はずれだからである。2023年はゲームの当たり年になると予想されており,この分野での雇用喪失が緩和されることに期待したい。


Sam Naji氏は,ビデオゲーム分析およびコンサルティング会社SJN Insightの創設者だ。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら