【ACADEMY】より没入感のあるサウンドデザインを作るためのヒント
レトロなプロセッサーやサウンドチップの「ピッ,ピッ,ピッ」という音だけがゲームのサウンドだった時代は過ぎ去ったが,今日の広大な3Dサンドボックスが2Dの横スクロールゲームより平板なサウンドにならないとは限らない。
サウンドデザインは,デベロッパがゲームの世界に深みを与え,微妙なディテールを織り込んで言葉にならない物語を生み出し,あらゆるゲームを真の没入型ゲームに変身させるための鍵だ。
適切なアプローチをとれば,サウンドデザインは2Dや3Dの世界に新たな次元をもたらし,仮想空間を実際よりも大きく感じさせるなど,プレイヤー体験に大きな影響を与えてくれる。
ここでは,Unlock Audioが最近手がけたWorld of Mechs(Studio369)のオーディオデザインから得た,デベロッパやサウンドデザイナーがサウンドでより良い世界を構築するために適用できる原則をいくつか紹介したい。
プレイヤーの視点に立った制作
World of Mechsは,そのVRフォーマットを考慮すると,この原則をとくによく示しているが,家庭用ゲーム機,モバイル,PC向けに作られたゲームでも,同様に重要だ。World of Mechsでは,プレイヤーは巨大な戦闘マシンの操縦席に座ることになるので,コックピットの中からどのように音を感じ取れるのかを検討する必要があった。
正真正銘の重厚感を出すために,我々は,動作音や砲撃音などの基本的な音に対して,可聴周波数の高域と低域の両方でレイヤー,残響,サブエフェクトを追加して,音を太くした。このようなディテールは,プレイヤーにとって必ずしもすぐに分かるものではないが,もしそれがなかったら絶対に見逃してしまうような密度を追加している。
上の動画では,サブエフェクトのオンとオフを比べている。World of Mechsのオートキャノンのサブエフェクトを交互にオン/オフする例で,サブエフェクトがもたらす違いを確認してほしい。
もしWorld of Mechsが三人称視点で作成されていたとしたら,サウンドデザインはまったく異なるアプローチが必要だったろう。メカの内部から聞こえてくる深い叩音やうなり,きしみ音の代わりに,敵メカが前進するときの土の音や,戦闘が激化したときに遠くの装甲から聞こえる安っぽい弾薬が鳴る音など,より広範な環境音をプレイヤーキャラクターが感じ取れるようになるかもしれない。
リードインとトレイルアウトでテクスチャを追加
現実の世界では,音が突然始まったり終わったりすることはほとんどない。音は自然に盛り上がったり,下がったり,余韻を残したりする。より有機的なサウンドを実現するには,コアとなるサウンドアセットの先頭と最後尾にテクスチャを挿入するようにする。
市販のサウンドパックから始めるにせよ,自分でサンプルを録音するにせよ,あるいはまったく新しいサウンドを合成するにせよ,最終的な出力はサンプルとエフェクトの多層サンドイッチになることが多いだろう。
このようなサウンドは単体では密度が高すぎて,詳細を聞き分けることはできないが,サウンドにリードイン やテールを加えることで,ゲーマーがプレイする世界についてより微妙な情報を得ることができるようになる。
たとえば,プレイヤーの操作するメカの巨大でメタリックなキャラクターに信憑性を持たせるために,リバーブの余韻をつけることができるが,突然,またはすぐに減衰するエフェクトを多用すると,その印象は薄れてしまうだろう。
上の動画はウェポンテイルだ。尾を伸ばすことで音を響かせる。ウェポンのエネルギー爆発を,リバーブあり,なしで比較したbehind-the-soundsの映像がこちらだ。
現実の音が突然始まったり止まったりしないのと同じように,大きな音も完璧に持続することはあまりない。ピッチを下げたり上げたりするだけで,長時間のエフェクトや音にリアルさを与えることができる。また,SF的な効果を狙うなら,どんな音でもトレモロやビブラートをかけると,今にも弾けそうな躍動感が生まれる。
現実の音からインスピレーションを得ることで,より多くのことを自然にプレイヤーに伝えることができるのだ。たとえば,コップに水を入れるときのリズムは,ゲーム内のテクノロジーを充電し,そのエネルギーが壮大なレーザー攻撃で放出できるようになるまでの過程を表している。
上の動画はリローディングのランプアップだ。ウェポンのリロードシークエンスで,音を太くすることで迫力が増す様子を見てほしい。
適合性ではなく,結束性によるスケールアップ
ミニボスやメインボスなど,これまで戦ってきた敵を単に大きく,手強くしただけのキャラクターがゲームに登場することがよくあるだろう? このようなキャラクターは,デザイン,動き,そしてサウンドに至るまで,似ているようでいて,明確な違いがあることが理想だ。大型で凶暴な敵の場合,ミニボスの音量を上げるだけでなく,音でも違いを表現する必要がある。
たとえば,鈍重なインパクトを強調する代わりに,複雑さを犠牲にするなどの工夫が必要だ。
World of Mechsでは,ライト,ミディアム,ヘビーの3段階のロボットの動作サウンドを設計した。偵察用スカウトのような素早い軽量メカの操縦であれば,ステップを踏むたびにチェーンの音が鳴るなど,軽快なディテールが感じられるだろう。一方で,低速で重量のあるメカでは,チェーンの軽快な音ではなく,より深く,より重々しいガラガラ音や軋みが聞こえる。
もし同じサウンドが,単にクラスごとに音量が異なるだけなら,元気なMedicとゴツいBrawlerのメカを操っているので何ら変わりはないだろう。
上の動画は軽武器,中武器,重武器の違い。各メックの大きさは,その動きだけでなく,武器の音でもアクセントをつけることができる。このbehind-the-soundsのクリップで,3つの層のニュアンスを確認してほしい。
サイズだけでなく,他の特性についてもサウンドをスケーリングできる。たとえば,機械化された軍隊の間で戦争が繰り広げられている別の世界では,派閥やクラスによって異なる機械の状態を考慮できる。戦場でピカピカに磨かれた新品の機械もあれば,戦場で試され,錆や磨耗の中でパワーを発揮するレガシーリグもあるかもしれない。
同じメカニカルなサウンドでも,異なるフィルタや感性で処理することで,本物の戦場を超えたより壮大なストーリーを伝えることができるのだ。
このように細部にまでこだわることで,プレイヤーたちは巨大な戦闘マシンが,敵対していながらも同じ時代に,同じ製造施設で作られたものであることを感じ取ることができるかもしれない。一方,各派閥の違いを誇張して表現すると,ハイテク対ローテク,地球人対宇宙人など,異なるストーリーが展開される可能性がある。
短いサウンドループに注意
ゲームにリアルな差異を表現するために無限のオーディオを提供するのは良いことだが,単純に現実的ではない。サウンドデザイナーとして,我々はゲーム内で繰り返し使用される限られたアセットの中から音を選択するのが仕事だ。そのため,各サウンドがどのように使われるかを理解して,プレイヤーの疲労を軽減するようなオーディオをデザインすることが重要だ。
各サウンドがどのように使用されるかを理解することが重要なので,プレイヤーの疲労に対抗できるようにオーディオをデザインできる
たとえば,足音。ゲームエンジンがランダムで抽出したさまざまな足音を集めて,歩行サイクルを変化させることで,プレイヤーがパターンを特定できないようにできる。しかし,実際には地形の違いによる変化に合わせて,2,3の足音だけを繰り返し再生させることのほうが多いだろう。このような限定的なケースでは,歩幅の均一性をマスクすることが重要だ。没入感を高めるために,1つのステップのサウンドが他のステップと極端に異ならないようにして,左右のステップのシーケンスのエッジを柔らかくするようにする。
仮に,片方のステップで甲高い音を出し,もう片方でヒスノイズを出すと,プレイヤーはアリーナを踏みしめながら,1-2の完璧な繰り返しに気づくはずだ。最初は面白いかもしれないが,その非現実的なパターンは,プレイ時間が長くなればなるほど,プレイヤーの没入感を削ぐことになる。
同じことが,砲撃やリロードなど,他のゲームプレイメカニズムにも言えるだろう。しかし,各サイクルのピッチ,テクスチャ,レベルを調整することで,ループの画一性をカバーし,プレイヤーのゲームへの没入感を維持できる。
さまざまな機器でサウンドをテストする
スタジオのスピーカーやヘッドフォンで聴くオーディオサンプルが素晴らしい音だからといって,プレイヤー側でも素晴らしい音が出るとは限らない。サウンドデザイナーは,小型のモバイルデバイスやラップトップスピーカーから大型のサラウンドシステムまで,ゲームが一般的にどのようにプレイされ,最終的にどのように聞こえるかを予測する必要がある。
World of MechsはMeta Quest 2ヘッドセット向けだが,ゲームが他のスクリーンにキャストされたり,キャプチャされてソーシャルメディアで共有されたりすることも考慮する必要があった。
最新鋭のサウンドスタジオで作業している場合でも,自宅のソファで作業している場合でも,利用可能な限りハイグレードとローグレードの機材でサウンドファイルを再生してほしい。ある状況下では素晴らしいオーディオが,別の状況下ではそうでないことが分かるかもしれない。その結果,ゲームエンジンにファイルを追加する前でも,あらゆるゲーマーにとってより良い調整と内蔵サウンドの満足度につながる。
上はビデオ サウンドの裏側を紹介するボーナス映像。たとえば,武器の爆発音に使われる楽しいビートボックスのように,奇妙なサンプルが最終ミックスに入ることもある。
Jon Ruse氏はUnlock Audioでサウンドデザインと実装に携わっている。氏は,オーディオポスト,サウンドデザイン,音楽制作,ミキシング,マスタリング,作曲の経験を積み,Clash of Clans,Brawl Stars,Boom Beach,Football Managerなどに携わり,業界内でのキャリアを積んできた。作曲家,サウンドデザイナーのFelix Barbarino氏とMathilde Hoffmann氏は,サウンドエフェクトデュオのKnaddersoundを結成している。彼らはUnrailedなどでコラボしている。
GamesIndustry.biz ACADEMY関連翻訳記事一覧
※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)