【ACADEMY】ゲームをアクセシブルにするためのビギナーズガイド
先週のDevelop:Brightonでは,RebellionのCari Watterton氏とLowtekのAlastair Low氏が,アクセシビリティをテーマにした講演を行った。
今年3月にアクセシビリティのシニアデザイナーとしてSniper Eliteの開発会社に加わったWatterton氏は,ゲームをよりアクセシブルにするための集中講座を提供し,インディーズデベロッパLowtekの創設者でディレクターのLow氏は,失読症のプレイヤー向けのデザインについてのアドバイスに焦点を当てていた。
この記事では,Watterton氏の講演を取り上げるが,Alastair Low氏の講演や失語症を考慮したデザインについては,今後に期待してほしい。
では,アクセシビリティとは何だろうか,なぜそれが重要なのだろうか。これが,Watterton氏が講演で答えようとした最初の質問だ。
ゲームはみんなのものであり,少なくともみんなのものであるべきです
「アクセシビリティとは,障壁のことであり,障壁は,人々があなたのゲームをプレイしたり,あなたが意図した方法でそれを経験することを妨げるものです」と氏は語った。「たとえば,目の見えないプレイヤーは,メニューのナレーションがなければ,メニューを操作することができず,基本的になにもない画面を体験するだけで,ゲームを起動する方法さえ分からなくなります」「では,なぜそれが重要なのでしょうか。ゲームはすべての人のもの,少なくともすべての人のものであるべきです。Game Accessibility Guidelines(参考URL)の統計によると,ゲーマーの約20%が障害を経験しています。WHOによると,身体的障害を持ちながら生活している人は10億人以上いるそうです」
しかし,Watterton氏は,「アクセシビリティは身体的障害だけを意味するのではない」と強調し,考慮すべき障害にはあらゆる種類のものがあることを示した。とくに,男性の12人に1人は色盲であることや,成人の7人に1人は11歳程度の読解力しかないことなどが挙げられている。
万能の解決策はありません。あるプレイヤーには役立つことが,別のプレイヤーには妨げになることもあるのです
「誰でも一時的に障害を経験することはあり,将来的に何かを発症する可能性もあります」と氏は語る。「私の師匠がよく言うように,我々は皆,一時的な健常者にすぎません。年をとれば視力や運動能力といったものを失い始めるでしょうから。アクセシビリティは,さまざまな人を助けることができるため,すべての人に利益をもたらすのです」「ビジネスで例えるなら,より多くの人がゲームをプレイできれば,より多くの人がゲームを購入できます。しかし,非常にたくさんの種類の人々に有用なものですので,万能の解決策というものはありません。身体的障害や機能障害は多彩であり,あるプレイヤーに役立つものが,別のプレイヤーの妨げになることもあります。アクセシブルなものを作るには,プレイヤーに選択肢を与え,そのプレイヤーの能力に合わせてゲームが適応できるようにすることが一番です」
しかし,ゲームをよりアクセシブルにするために可能な機能の豊富さには圧倒されるとWatterton氏は認めている。そこで,Watterton氏は,アクセシビリティのためのキックスタートガイドを作成した。
-1. はじめに
-2. 競合他社の分析
-3. 具体的にする
-4. 内部テスト
-5. 外部テスト
1. はじめに
Watterton氏は,アクセシビリティに関する最初のステップとして,現在プロジェクトにどのような障壁が存在するかを確認する必要があると語る。
「人々がゲームをプレイしたり体験したりすることを妨げているものを見つけたいのです」と氏は説明する。
氏はGame Accessibility Guidelinesに目を通すことから始めるようデベロッパに勧めている。このガイドラインには,3つの階層に分かれたリストが掲載されている。
「というのも,これらのガイドラインは,多くの人に適用される,幅広いガイドラインだからです」とWatterton氏は説明する。「これらのガイドラインに目を通し,自分のゲームに当てはまるものは何かを確認し,リストを作成してください。そして,コピー&ペーストを恐れず,よりスマートに,よりハードに作業してください」
リストができたら,これらのアクセシビリティ機能にどのようにアプローチし,優先順位をつけるかについて考えてみよう。
「そこで必要なのは,影響とコストについて考えることです」とWatterton氏は語る。「影響とは,ゲームからどのような障壁を取り除くのか,どの程度その障壁を取り除くのか,といったようなことです。その障壁はどの程度まで取り除けるのか? 何人の人を助けることができるのか? コストとは,どれだけの変更,どれだけの新しいコンテンツが必要で,どれだけの人,時間,テストが必要かというようなことです」
時間や予算がない場合は,Watterton氏が「ビッグ4」と呼ぶ,優先的に取り組むべき影響力のあるアクセシビリティ機能を紹介した。
- 字幕
- 文字の拡大縮小
- 色覚異常
- コントロールリマッピング
「さらに影響力のある4つの機能が必要な場合は,私の個人的なリストから言うと,メニューやHUDのナレーション,全文字幕,ハイコントラスト,照準システムの補助などについて考えてください」と氏は続けた。「一般的なルールとして,私は,デジタル入力だけを使っている人が,このゲームと完全に対話できるかどうかを考えたいのです」
2. 競合他社を分析する
また,競合他社が何をしているかを見ることも,アクセシビリティについて考える良い方法であると付け加えている。競合他社の分析は,すべてのスタジオが新しいプロジェクトに着手するときに行う(あるいは行うべき)ことであり,アクセシビリティの観点から競合他社を見ることも価値があるとWatterton氏は説明している。
「Can I Play That(参考URL)とGames Accessibility Nexus(参考URL)は,どちらも障害を持つゲーマーが作ったサイトであり,アクセシビリティに関するレビューが掲載されています。競合他社がうまくいっていることで,自社がすべきことは何か,うまくいっていないことで,より良くするために何ができるか,競合他社が犯した間違いから学ぶことができるのです」
3. 具体的にする
障壁のリストができ,何を優先させたいかが分かったら,次は具体的にしていく。Watterton氏は「各機能に何が必要かを正確に考え,仕様書をまとめる必要があります」と語っている。そのために,彼女は,Xbox Accessibility Guidelines(参考URL)に目を通すことをすすめた。
ゲームをプレイしたり体験したりすることを妨げているものを見つけ出したいのです
「これは,非常に圧倒されます。テキストはたくさんありますが,非常に包括的です。これを読めばあなたも『この機能で達成できる業界標準は何だろう』と考えることができるようになるでしょう」「たとえば,テキストの明瞭性については,家庭用ゲーム機やプラットフォームごとに異なる表示サイズ,明瞭なフォントの使用,斜体や全角文字,下線は避ける,コントラストの良い色の使用などを確認できます」
やるべきことを正確に分解したら,実装の段階に入る。
「ここまでくれば上出来です」と,Watterton氏は語る。「そして,これをテストしなければなりません。それには2つのやり方があります」
4. 内部テスト
内部テストを行うことで,実装したものを仕様書の基準と照らし合わせて確認できる。また,Xboxストアのアクセシビリティタグ(参考URL)と比較することで,ゲームをプレイできるかどうかを確認することもできる。ゲームをプレイできるかどうかを確認する良い方法だ。
「これらは,(Xboxの)アクセシビリティガイドラインの延長線上にあります」とWatterton氏は語る。「このタグには,特定の機能タグがあり,すべての基準を満たすと,Microsoft Storeでゲームに小さなラベルが表示されます。これだけで,どのような機能があるのかをプレイヤーに伝えてくれ,ゲームをプレイできるかどうかの判断材料になるので素晴らしいものです」
さらに氏はこう続けた。「社内でできるもう1つのことは,アクセシビリティのテストケースを実行することです。 たとえば,そのゲームは片手でプレイできるのか? 音声なしでプレイできるか? フルカラーでなくても遊べるか? このようなことは,誰かが簡単にシミュレーションできるのです」
5. 外部テスト
最後に,Watterton氏は,実際にその機能を使用し,必要としているプレイヤーに対してテストを行う必要があるため,外部テストを強く推奨している。
自分では素晴らしいと思って導入した機能が,実際にプレイしてみると「全然役に立っていない」と言われ,修正する必要があるかもしれない。そのような場合,テストを行い,ワークフローに組み込むことで,出荷前にそのような問題を発見できる。直感的でない障壁を特定するのにも役立ち,設計している機能がプレイヤーのニーズを満たしていることを確認するのにも役立つ。
(テストは)あなたが設計している機能がプレイヤーのニーズを満たしていることを確認するものです
Watterton氏は,さまざまな能力を持つプレイヤー,または特定の機能をテストしている場合は同じような障害を持つプレイヤーを集めて,観察インタビューを行うことを推奨している。氏は,セッションを次のように構成することを提案した。- イントロ(15分)
- ゲームプレイ(45分)
- インタビュー(60分)
「この最後のインタビューは,実は60分ではなかったのですが,この時間を設けることで,人々がフィードバックについて本当に話すことができるようになります」と氏は説明した。「しかし,人によって能力が違うので,その時間制限を守れない可能性があることを心に留めておいてください。何度かセッションを重ねる必要があるかもしれません。募集する際には,人々の能力を考慮する必要があるのです」
ユーザーテストと正しい質問の仕方についてもっと知るために,WattertonはAnders Drachen氏,Pejman Mirza-Babaei氏,Lennart Nacke氏の「Games User Research」という本と,昨年ユーザーリサーチの内容についてインタビューした(関連英文記事)ベテランユーザーリサーチャーSteve Bromley氏の書いたものをすすめた。
参加者にはお金を払わなければなりません。必ず参加者にお金を払ってください!
それを一言で言うと「シンプルに,プレイヤーに体験してもらい,体験したことを自分なりに解釈してもらう」ということだ。たとえば,米国の慈善団体Able Gamersは,ユーザーテストのための独自のプログラムを持っている(参考URL)。
「一度に10人まで無料で選手を募集できます。しかし,参加者にはお金を払わなければなりません。参加者には必ずお金を払いましょう。 最低でも1時間20ポンド/25ドルを推奨します。また,ゲームのクレジットにテスターとAble Gamersを記載したり,ゲームがリリースされたときに無料で提供するなど,これらのテスターに報酬を与えることも考えてみてください」
Watterton氏は講演の最後に,このプロセスに慣れてきたら,アクセシビリティを開発に織り込んだインクルーシブデザインなどを視野に入れ,さらに物事を推し進めることができると述べた。
また,時間をかけてチームを教育し,スタジオにインクルーシブマインドセットを作り出すことも忘れないでほしい。これは,テーマの専門家を招き,学習スペースを作り,人々にトレーニングを受けさせたり,アクセシビリティチャンプスプログラムを運営したりすることによって行うことができる。
アクセシビリティは怖くありません
「アクセシビリティは怖いものではありません」と氏は締めくくった。「そして,現実的には,より多くの人がゲームをプレイできるようにすることは,良いことなのです。それこそが,ゲーム体験をできるだけ多くの人と共有することなのです。チームを教育しましょう。障害を持つプレイヤーだけが,あなたの機能を検証できるのですから,始めるのに遅すぎるということはありません」このトピックについてもっと読むために,Cari Watterton氏は,アクセシビリティリソースパックをまとめている(参考URL)。
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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)