3D&バーチャルリアリティ展で,VRヘッドセットと触覚グローブ2種を試す
前回の取材では出展ブース数が少なく困ったのだが,今回もあまり状況は変わっていなかった。来場者数は回復したものの,出展ブースは13しかなかった。本稿ではTooブースの出展を紹介しておきたい。
VRヘッドセット「Varjo Aero」
Varjo Aeroは,PC接続型のVRヘッドセットである。PCとは1本のケーブルで接続され,Steam VRのベースステーションで位置認識が行われるタイプのシステムとなっている。
特徴は,画面解像度が片目あたり2880×2720ドットと高めであること,加えて独自方式のアイトラッキング機能を備えていることである。対抗機種となりそうなVive Pro Eye(1440×1600ドット)より格段に解像度が高く,Vive Pro 2(2448×2448ドット)をも凌駕する。視野角はVive Pro Eyeの110度とVive Pro 2の120度の中間となる115度であった。
また,接眼レンズがフレネルレンズではないということも特徴の1つだ。逆光時などのアーティファクトは発生しない。
行われていたデモは,背景球の中にリアルな自動車をレンダリングするというものだった。起動時にアイトラッキングのキャリブレーションが行われたものの,デモ自体はアイトラッキングには対応しておらず,視点を移動してもフォーカスが変わるといったことはなかった。それでも起動時に少しだけアイトラックマーカーが見えたのだが,この手の技術でお馴染みのTobii製のものと比べると1テンポ遅れて追従するような印象だった。
オブジェクトのエッジではさすがにエリアシングは出るものの画素もほぼ気にならず,高画質である。というか,かなり綺麗だ。RGB OLEDか液晶なのか判別できなかったので(OLEDぽいなと思いつつ)聞いてみると,パネルは液晶とのことだった。カタログを確認すると,バックライトにはミニLEDが使われており,エリア制御を行っているようだ。VRヘッドセットもそこまでやるようになったようだ。
ちなみに,miniLEDとは小さなLEDをたくさん並べて,エリアごとのバックライトの明るさを個別に調整するシステムのことである。これにより常時点灯型バックライト液晶の弱点であった,黒浮きが抑えられると全体的な画質は大きく向上するだろう。さすがプログレードの製品だ。
触覚グローブ2種
Tooブースのデモコーナーで長蛇の列を作っていたのが,触覚グローブだ。Manus Prime XとSense Glove Novaの2製品が出展されていた。これらは,VR空間上で手の動きを再現しつつ,VR空間内のオブジェクトとの触覚を再現できるデバイスである。
Manus Prime Xは,手袋状をしており,手の甲に本体,指の関節部に3軸センサー,指部分に曲げセンサー,指先(爪側)にボイスコイルの振動子を備えている。位置情報を取るには別途Viveトラッカーなどが必要になるのだが,手首から先の動きはこれ単体で追うことができる。指を使ったモーションキャプチャに利用できるほか,ゲーム(など)のプレイ時に手をVR空間内に表示して操作する,その際のオブジェクトとの接触判定を振動で伝えるといったことができる。
振動子が指の腹側でないのが気になるのだが,握るなどの動作で邪魔になるのでしかたがないのであろう。リアルな触感という感じではないが,とりあえず接触したことは分かる。
地磁気を使っているであろう3軸センサーは電波雑音に弱く,会場内では少しノイズの影響を受けていた。それでも滑らかに指の動きをだいたいトレースしており,インサイドアウトなフィンガートラッキングよりも安定感がある。あまりにノイズが多いようなら3軸センサーを切ることもできるそうだ。
一方のSense Glove Novaはフォースフィードバックに対応したグローブである。どうやっているのかというと,手の甲にある本体から指(小指を除く)に対して2本ずつのワイヤーが伸びており,このワイヤーのテンションを制御することで指の曲がりにくさを制御し,最終的にオブジェクトの触感を作り出しているのだ。
たとえば,ソリッドな立方体のデモでは,指を曲げていくと,オブジェクトに触れたところで(接触時に振動もあるが)指が曲がらなくなるのである。柔らかい物体では,その弾力に応じた抵抗で揉み揉みでき,最高硬度にすると,指が曲がらないわけではないが,かなり力を要するといった感じだ。卵を握るデモでは,ある程度以上の力を加えるとパリンと割れる触覚が再現されていて面白かった。そして,これらは指1本単位で制御できるのだ。
非常に夢のあるデバイスなのだが,プロ用ということでお値段は両手で150万円くらいとのことだった。前述のManus Prime Xは80万円だ。
VRでハンドコントローラはもはや常識的なものとなり,一般的なコントローラでも最低限の指操作,ものによってはより細かな指の動き,さらにカメラによる画像認識によるものではリアルな指の再現もできるようにはなってきた。だが,触ったときの触感についてはまだまだ課題を残しているだろう。このような製品の技術が民生用にも降りてくる日に期待したい。