【ACADEMY】ゲーム会社と音楽の関わり方を改善する
音楽によるブランディングは,どのようなプロジェクトにおいても重要だ。ゲームであろうとなかろうと,プロデューサーやマーケティング担当者にとって,音楽は常に文化的な位置づけを決める最大のツールの1つである。
FIFAやGTAを見れば,音楽を製品やマーケティングの中核に据えていることが分かる。HaloやRocket Leagueの音楽は,必ずしも消費者が純粋に音楽を楽しむために聴くようなものではないが,これらのブランドが置かれている文化的空間を即座に知らしめることができる。音楽はゲームのアイデンティティの重要な一部となっており,環境を形成し,しばしば長期的に高い認知度を得ることができるのだ。
新しいクライアントから数週間後にリリースされるアセット用のトラックが決まっておらず必要だと電話がかかってきたとき,それが12か月以上前から計画していたプロジェクトだったりすると,音楽がいかに後回しにされるかを思い知らされる。
音楽は,現在あまり活用されておらず,ゲームにもっと活用できるツールだ
音楽にはさまざまなものがあるが,私は,音楽は現在あまり活用されておらず,ゲームにおいてもっとうまく活用できるツールであると考えている。音楽業界は音楽の活用に対してオープンで,アーティストもこの分野で仕事をすることに非常に熱心だ。しかし,権利関係が非常に複雑であり,それを乗り越えるのは大変なことだが,努力すれば報われることもある。
ここでは,ゲーム会社が音楽を扱う方法を改善するためにできる7つの重要なことを紹介したい。
- 1. 最初から始める
- 2. 音楽に対する主観的アプローチから客観的アプローチへの進化
- 3. 自分に合うものを探す
- 4. 音楽で本格的なテストをする
- 5. 音楽の予算はケチらない
- 6. 楽譜を超える
- 7. 専門家への依頼を検討する
1. 最初から始める
音楽をチェーンの最後に置くのは間違いだ。特定のシーンや予告編に合わせるのではなく,早い段階でスタイル,トーン,ジャンルを選択する必要がある。このような選択は,特定のアセットに対して行う必要があるが,最初から方向性を示すガイドを用意すれば,音楽選択の舵取りをできる。こうすることで,ブランド(というよりアセット)をどのような文化的空間に座らせたいかが分かり,プロジェクトが進展するにつれ,具体的な指針が得られるのだ。
音楽は利用できる種類が非常に多いので,可能性を絞り込まないと,かえってプロセスが難しくなり,失敗しやすくなる。
初期の段階でこのような仕組みを作らないと,音楽について個々に判断することが多くなり,互いに独立した判断になりがちだ。これは,全体的なメッセージに一貫性がなくなり,消費者がゲームのアイデンティティについて混乱することにもつながってくる。
シナリオやレベルデザインに何年も時間をかけても,音楽が開発の最終段階になってからでは,期待どおりの結果は得られない
このような初期の選択肢の進化や動きには,ゲーム開発という砂上の楼閣にある他の多くの分野と同じように,ある種の必然性がある。重要なのは,固定したり制限したりするのではなく,アプローチに配慮して,できるだけ早い段階で音楽によるブランド戦略の比重を高めておくことだ。より現実的には,社内やサードパーティが音楽に関して適切な判断を下すことができるようになる。最初から予算を含めたプランと戦略を立てることは,成功への最良の道であり,多くの場合,ある程度の経済性をもたらす。シナリオ,キャラクター,レベルデザインに何年もかけても,音楽が開発の最終段階になってからでは,期待どおりの結果は得られないのだ。
2. 音楽に対する主観的アプローチから客観的アプローチへの進化
最も一般的で基本的な間違いは,主観的な好みに基づいて音楽を選択することだ。このような直感的な判断や個人的な選択は,個々のアセットには有効な場合もあるが,長期的に見ると,まとまった音楽の使用や強力なブランドアイデンティティの開発にはつながらない。
より客観的なアプローチは,ゲームが市場で占める空間と,ターゲットとするコアなユーザーに関する文化的な参照点から始まる。この場合,特定のアセットクリエイターではなく,第三者の客観性が必要となる。少なくとも,包括的なガイダンスなしにさまざまなステークホルダーに音楽の選択を任せるのではなく,ブランドのサウンドを定義する唯一のコンセプトが最初から存在すべきだ。
最も一般的で基本的な間違いは,主観的な好みに基づいて音楽を選択することだ
個人的な好みと音楽の決定を切り離すことは,多くの人にとって,とくにその分野の知識が豊富だと感じている大の音楽ファンにとっては,非常に難しいことである。できるだけ意識して,客観的な第三者を使って選択をセンスチェックすることが重要になるだろう。プロジェクトの成功には,クリエイティブなビジョンを持つことが重要だが,それは常に客観的な視点を持つ必要がある。クリエイティブリードは,ルック&フィールのビジョンを持っているが,そのビジョンを実現するためにスペシャリストと一緒に仕事をする。スペシャリストは,経験に基づいたより客観的なアプローチを持つ傾向がある。
3. フィットするものを探す
ゲーム,ブランド,プロジェクトは,そのクリエイティブの主要な柱とうまくフィットしていなければならないので,ここでも客観性が求められる。これは音楽にも言えることで,他のどんなものにも当てはまる。アーティストや楽曲とゲームやアセットが,マクロ的にもミクロ的にも自然に馴染んでいるか。特定のニーズに対してうまく機能しつつ,より広いブランドにも適合しているだろうか?
共有された聴衆や,少なくとも重複は不可欠だ。最低限でも,楽曲とゲームの間に文化的な共通点がなければならない。
グローバル市場では,音楽に対する認識は大きく異なるため,視聴者側の観点から適合性を強く考慮する必要がある。
アーティストや楽曲との相性が良ければ,一般に,その組み合わせは部分の総和よりも大きなものになる。その組み合わせは,そうでない場合よりも大きな価値を与えるのだ。ライセンス契約では,アーティストや曲のファンとゲームのファンの両方に対して,より大きなアピールができることになる。
両方のグループが,自然で意味のある組み合わせだと感じるので,より高く評価される。スコアについては,単純に,そのシーケンスが,そうでない場合よりも,より良く,よりプレイしやすく,より記憶に残ることを意味する。
当たり前のように聞こえるかもしれないが,最高の選曲はすべて,ごく自然な形でうまく機能するものなのだ。しかし,そのスイートスポットを一貫して見つけるには,最善の練習が必要になる。
4.音楽で本格的なテストを行う
テストを使用すると,貴重なことができるが,すでに行われた選択を確認するために行うのは無意味だ
プレイテストやフォーカスグループによる個別の選曲は,簡単に導くことができる。テストは貴重なものだが,すでに決定された選択肢を確認するためにやるのは無意味だ。もしテストを行うのであれば,実行可能な選択肢を与え,客観的なフィードバックを求めるのがよいだろう。また,プロセスの早い段階から音楽を確認することでより有意義なものになるが,時間の制約上,まったく不可能ということもよくある。
外部でのテストができない場合でも,内部で,あるいはすでに関与しているパートナーとの管理されたテストは有益だ。
5.音楽予算はケチらない
音楽にかけたお金の価値を数値化・具体化するのは難しいのだが,間違いなく価値は存在する。音楽著作権は高価なので,賢くお金を使い,主要なニーズに合わせて予算をどう使うか,戦略を立てよう。音楽へのアプローチを進化させることにお金をかける必要はないが,後回しにされがちなので,制作予算のうち適切な割合を音楽に確保しておくことは良い習慣と言えるだろう。
トレイラーのCGIに大金をかけておきながら,別の目的のために作られたゲーム音楽でそれをより効果的にできると期待されることは,私が望む以上に一般的であり,予算上の判断でないことのほうが多いように思う。
優れた楽曲を作るのは,繊細さ,ニュアンス,そして長い時間,奥行きを持たせる能力であることが多いのだあ,トレイラーは短時間で注目を集める必要があり,繊細さを表現する余地はほとんどない。
楽曲は多くのゲームにおいて重要な柱であり,そのために確保された予算は反映されるべきだ。音楽で有名なゲームを調べてみれば,そのほとんどは,最初から予算面で音楽を優先していることが分かるだろう(他の点でもそうだ)。
6. 楽曲を超える
ライブパフォーマンス,キャラクターとしてのアーティスト,OST,BTSコンテンツ,独占配信,商品化など,音楽クリエイターとのコラボレーションは,ゲームブランドに大きな付加価値を与えることができる興味深い方法ばかりだ。
想像力次第でいくらでも可能性は広がり,双方が意欲的であることも多い。しかし,共生する方法を見つけるには,少し余分な時間と労力が必要だ。
7. 独立した専門家を雇うことを検討する
音楽の世界で客観性を保つのは意外と難しいものだ。個人的な好みはさておき,さまざまなチームメンバーの好みを管理するのは非常に難しい。また,作曲家の代理人であったり,音楽著作権を所有していたりして,特定の議題を押し付けてくるような,独立した立場ではない専門家が数多く存在する。
完全に客観的であることは稀だが,独立した専門家を雇い,彼らの意見を聞くことは,誰にとっても最も身近なことなのだ。
Ben Sumner氏は,ゲームとメディアの分野を専門とする音楽コンサルタント会社,Feel For Musicのマネージングディレクターだ。
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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)