【ACADEMY】実習プログラムを立ち上げる際に考えるべきこと

Beyond-FXのCEOであるKeith Guerrette氏が,VFXスタジオの実習イニシアティブと直面した課題,そしてその価値について語る。

 今年3月,ロサンゼルスに拠点を置くビジュアルエフェクトスタジオBeyond-FXは,意欲的なVFXアーティストがゲーム業界の門を叩けるように,6週間の実習プログラム(apprenticeship program)を発表した(関連英文記事)。

 この有給のパートタイムプログラムは,ゲーム業界の人材発掘方法のダイバーシティ化を支援するために,企業ができることの一例だ。これは,GamesIndustry.biz ACADEMYが昨年,英国の人材プールに関連して触れたトピックで,従来のゲームへのルートと業界全体の多様性の欠如との関連性とこれらの問題を解決する方法を探っていた話題でもある(関連記事)。

 現在,業界は人材難に陥っており,多くの専門職が志望者不足で,スタジオも簡単に採用することができない状況だ。Beyond-FXは,このような問題に対処するために,実習プログラムの設立を決定したのだ。

対応できるアーティストがいないため,ほとんど毎週,素晴らしいプロジェクトの仕事を断っています

 「私のキャリア全体を通して,ビデオゲーム業界はVFXアーティストに飢えていました」と,スタジオCEOのKeith Guerrette氏は語る。「同時に,専門学校は,有能なジュニアアーティストを教えるカリキュラムを作成してサポートすることに苦労していました。私は,このような課題を抱える学校と頻繁にミーティングを行っていて,『この卒業生たちはとても惜しい……。あと少しで採用できそうなのに』と思うこともありました」

 「VFXプロダクションを経営している今,この人材不足をより鮮明に感じています。毎週のように素晴らしいプロジェクトの仕事を,ただ単に使えるアーティストがいないという理由で断っているのです。同時に,何週間もかけてトレーニングしなくてもいいアーティストをこれ以上雇うこともできません」

 「この実習生制度は,こうした問題を解決するための試みです。我々は,新卒者やインスピレーションを受けたアーティストを,わずか6週間でプロダクションに対応できるアーティストに変身させるという,指導と教育のプログラムを作ることに挑戦しているのです」

 Guerrette氏は,Beyond-FXがこのプログラムの運営から学んだことを,他の開発チームや教育機関と共有することに興奮していると語る。そして今,氏はGamesIndustry.biz ACADEMYで,実習の課題と利点について語っており,実習を開始する方法について指南してくれた。


Beyond-FXがUnreal 4で制作したProject Artifactは,実習プログラムのために特別にデザインされた1人称視点のアドベンチャーゲームだ
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法的な枠組みおよびサポート


 研修プログラムの立ち上げのような大きな仕事では,何から始めればいいのか分からないのが常にであり,Guerrette 氏も,Beyond-FX が「学ぶべきことがたくさんあることを承知で取り組んでいます」と認めている。しかし,彼は,学ぶための最良の方法は,ただ実行することだとも語っている。

 実習プログラムを作るのに,標準的な方法があるわけではない。Beyond-FXにとってのそれは,現地の労働法を遵守する方法を見つけ出すことから始まった。

 「実際に見習い制度の構築に着手してみると,カリフォルニア州の労働雇用法が,無償の訓練に無差別に取り組むことを強く禁止していることがすぐに明らかになりました」とGuerrette氏は語る。結局,実習生はパートタイマーとして雇用することになり,時間や給与の支払い,出入りの制限などについてパートタイマーの雇用法に従わなければならなくなったのです」

 そして,こう続けた。「我々は,かなり甘く考えていたのですが,分かってはいたのです。最初の一歩は,友人やコンサルタントに声をかけることでした。その結果,自分たちだけではなかなか学べないような,人事コンプライアンスなどに関するいくつかの教訓を得ることができました」

Beyond-FXのCEO兼スタジオ代表Keith Guerrette氏
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 「私は従業員を守るカリフォルニア州の労働法を支持していますが,数週間お金を払って勉強に来てもらおうとしたときに,真っ向からぶつかるとは思ってもいませんでした」と氏は微笑む。

 地域によっては,国からトレーニングの支援が受けられるところもあるが,今回の取り組みにはそれがなかったため,Guerrette氏は別のところで支援を受けることになった。

 「残念ながら,このようなプログラムに対する政府の援助があるかというと,まだ見つかっていません」と氏は語る。「我々は教育機関ではないので,通常なら援助してもらるはずの多くのリソースを利用することができませんでした。これは我々が自分たちで資金を調達しているという意味です」

 「一方,我々は,ハードウェア,ソフトウェア,そしてより重要な講師やコンサルタントの時間や専門知識といった面で,我々を支援してくれるパートナーの素晴らしいチームを結成することができたのです。Cobratype Computers,JangaFX,SideFXのサポートはもちろん,世界中から多くの著名なデベロッパがゲスト講師として知識を共有してくれることになったのです」

 ビジョンを実現するためのパートナーチームを集めることが重要であり,さらに,スタッフの協力も不可欠だ。Guerrette氏は,スタジオのアーティストが時間を割いて,研修生のためにゲームのデモやカリキュラムを作るのを手伝ってくれたことを「非常に幸運だった」と語る。


実務的な詳細について


 Beyond-FXでは,研修の期間,人数,報酬など,具体的な内容を決定する必要があった。このあたりも,魔法のような方程式があるわけではなく,リソースにもよってくる。

 「この実習制度の中心的な課題は,古典的な3Dアートの専門学校教育とプロダクションVFXアーティストのニーズとの間のギャップをいかに早くカバーできるかということでした。6週間のパートタイム勤務は,フルタイム勤務のおよそ1か月分に相当します。これなら,スタジオにとって,素晴らしい新チームメンバーの標準的な導入研修として検討するのは無理なことではありません。我々のビジネスにとって直接的に言えば,もしこの実習制度を簡単に持続できるように標準化できれば,それを活用してアーティストのチームを成長させることが,実は我々の将来の成功にとって最も重要な唯一の部分になるかもしれないのです」

もし我々がこの実習制度を簡単に持続可能なものにできたら,我々のチームを成長させるためにそれを活用することが,将来の成功の最も重要な部分になるかもしれません

 「採用する実習生の数については,小規模から始めたいと考えていました。我々は,自分たちがすべての費用を負担しているので,少人数から始めたいと考えていたのです。しかし,学習する際の仲間意識は非常に重要だとも考えていました。応募者が多すぎて選べない,ましてや良い人なんてそんなにいないだろうと3人に限定していたんです。しかし,ほとんど宣伝をしなかったのに50人を超える応募があり,上位10人に絞り込むのも大変でした。結局,今シーズンは5人の実習生を受け入れることになりました」

 選考の際には,さまざまな背景を持つ候補者が実習生として参加できるよう,適切な手段を講じるようにしよう。広告には性別にとらわれた表現を避け,給与がその地域の生活水準に見合うかどうか(該当する場合),柔軟な働き方の選択肢を用意する,などだ。

 Guerrette氏は,使用したツールの詳細については多くを語らなかったが,Beyond-FXは,実習生に多様性を求めることを前提として募集に臨んだという。

 「社会的な配慮のためだけではありません」と氏は付け加えた。「というのも,異なる背景を持つアーティストたちは,作品制作の際に異なる美しい芸術的な選択をするものだからです」

 VFXのような広大な分野をどのように指導するかは,難しい一面もあった。この課題は,どのような実習制度をどのような分野で作るかによって異なってくるだろうが,何をどのように教えたいかを本当に時間をかけて探る価値がある。

私は従業員を保護するカリフォルニア州の労働法を支持していますが,数週間我々から学ぶ誰かを支払いをしようというときに,真っ先にこれにぶつかるとは思いもしませんでした

 「リアルタイムVFXの分野は,混乱するほど多様です」とGuerrette氏は説明する。「ゲームエンジンはそれぞれ独自のツールや技術を使用しており,エンジンを使用する各企業は独自のワークフロー,テクニック,そしてもちろんアートスタイルを採用することが多いのです。プラットフォーム,ゲームのジャンル,アートスタイル,想定されるユーザーエクスペリエンス,そのゲームに携わったデベロッパにより,問題解決の方法はまったく異なります。これらすべてを教えようとするのは,正気の沙汰ではありません」

 「我々のゴールは,現在アーティストが業界全体で質の高いエフェクトを作成するために使用しているコアなアイデアと考慮事項を紹介することでした。同時に,実習生に実際のゲーム制作環境の中で働き,創造し,遊ぶ時間を与えたいと考えています」

 このためBeyond-FXでは,実習プログラム用に特別にデザインされた1人称視点のアドベンチャーゲームProject ArtifactをUnreal 4で制作した。Guerrette氏は,実習生が,業界の仕事に就くための聖杯であるポートフォリオの一部となるような作品を作ることの重要性を強調している。

 「6週間のそれぞれにVFXの新しいカテゴリーに焦点を当て,最初の週はVFX制作パイプラインの概要を大まかに説明します。そして,6週めには,より高度な議論や忘れ物をまとめることになります。このプログラムを通して,実習生にはProject Artifactの中でビジュアルエフェクトを制作してもらうのです。開発チームに参加してプロダクションVFXアーティストとして活躍するための経験を積むだけでなく,それを示すポートフォリオの実例も得てほしいと思っています」



実習制度のメリット


 実習期間を設けることのメリットの第一は,明白なことである。その人のキャリアアップにつなげられるからだ。その結果,多様な人材が集まる地域の人材プールの拡大に貢献し,ひいてはゲーム業界全体の利益にもつながる。これは好循環だ。

 「実習生がビジュアルエフェクトアーティストとしてのキャリアをスタートできるよう,我々は全力を尽くします」とGuerrette氏は語る。「我々は5人の実習生をパートタイム従業員としてスタジオに迎え入れており,6週間のカスタムトレーニングプログラムを経て,自分たちの作品に取り組むチームの仕事や会話に囲まれるようにしています」

 「ビジュアルエフェクトの職人技を学びながら,ゲーム開発のプロダクションアーティストになるということが実際にどういうことなのかを直接見ることができる,これ以上の環境はないと思います」

 しかし,もちろん会社にとっても,職場文化の向上から,良いPRや採用の機会まで,メリットがある。

 「社内では,メンターシップ,教育リソースの構築,説明,探求,指導のために協力するなどの文化をアーティストが作り上げることが,信じられないほどの推進力になっています」とGuerrette氏は語る。「我々はすでに,膨大な数のリソース,コンテンツ例,ドキュメントを作成しており,これをさらに拡大し,共有することに大きな期待を寄せています」

 「このプログラムを通じて優れたVFXアーティストを輩出できれば,彼らは我々の専門知識を示す実例となり,我々のチームにとってこれ以上のマーケティング方法は考えられません。また,このプログラムから得られた多くの教訓,コンテンツ,知見を,さまざまな公的リソースやパブリッシング物に再利用する予定です」

 「そして,最も現実的なのは,もちろん,数人の実習生に(あるいは全員に!)素晴らしい雇用機会を創出し,すでに信頼を置いているアーティストたちとともにチームを成長させることができることです」


実習制度設立の課題


 すでに述べたように,実習生制度を導入することは簡単なことではない。Beyond-FXにとってはまだ始まったばかりだが(プログラムは今週で終了する),Guerrette氏は,関係者全員にとって「1日8時間,週に3日,5人を指導するのにかかる時間とエネルギーの量について,自分がいかに甘かったかをすでに認めています」と語っている。

 「また,実習生を育てながら,制作会社の運営を円滑に進めるのは大変なことです」と氏は付け加えた。「シーズン2の計画を始めるにあたって,このことが最大の課題になると思います」

 Beyond-FXで生じた問題の1つはソフトウェアに関するもので,この課題は,プログラムを立ち上げる際に助けてくれる良いパートナーを見つけることの重要性を改めて浮き彫りにしている。

我々の業界には,新しい人材を育成し,採用費や入社時の非効率な作業を大幅に削減する機会が豊富にあります

 「VFXアーティストとして使用するツールは,非常に高価であり,また非常に多岐にわたります」とGuerrette氏は説明する。「1人のアーティストが1日に2万ドル以上のソフトウェアに触れることも珍しくありませんが,スタジオとして,これは我々のビジネスモデルのバランスのとれた部分であり,可能な限りライセンスを共有しています。5人の実習生を連れてきて,これらのソフトウェアパッケージを教えようとすると,我々のモデルは完全にバランスを崩すことになり,これを解決するのは非常に厄介なのです」

 「我々は,SideFXとJangaFXのサポートを受けることができて非常に幸運でした。HoudiniとEmergenに,それぞれ実習生が無料でアクセスできるようにしてくれたのです。他のソフトウェア会社はそれほど親切ではありませんでしたが,これは,我々が法的にはまだ教育機関ではなく,営利企業であるためです」

 会話の最後に,我々は,業界がトレーニングや実習プログラムに関連してより多くのことを行うべき理由について議論した。

 「実習期間というのは,一見すると新入社員の研修と大差ないように見えます。そう考えれば,我々の業界には,新しい才能を育て,採用費や入社時の非効率な作業を大幅に削減するチャンスが十分にあります」とGuerrette氏は語る。「私の経験では,ほとんどのスタジオは,単に新入社員をある部署に放り込み,極めて多忙で過労気味の部署のリーダーに研修プロセスを管理させています。その結果,新入社員が開発チームの生産的な一員となるには数週間かかるということが業界全体で認識されており,より多くの手間が必要になることを恐れて,ジュニア人材やエントリーレベルの候補者を採用することに大きな抵抗があるのです」

 この実習制度は,このプロセスに挑戦し,同じ1か月(または6週間のパートタイム)をかけて,「危険な」ジュニア候補から制作に適したアーティストを生み出すことが可能かどうかを検証するための壮大な計画なのだ。

 氏は締めくくった。「もし私がアドバイスをするとしたら,あなたのチームの共有や指導に対する欲求や,専門家から直接学びたいという一般の人々の欲求を過小評価するなということでしょう」

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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら