初期投資を求めるデベロッパにとって変わったものは?

Global Top RoundのPontus Mahler氏が,モバイルの指標,インディーズの受け入れ,そして同社の新しいシードファンディングプログラムについて語る。

 Global Top Roundは7年前からGTR Accelerator Programを運営しており,2015年から毎年10社のプレシード企業にジャンルや国を選ばず投資している。

 投資額は比較的少額だ。GTRは投資するすべての会社に最低80万ドルの評価額を与え,最初の投資額は4万ドル(会社の5%以下),のちに3%から6%を追加購入するオプションがある。

 GamesIndustry.bizの取材に応じたGTRのグローバルビジネス開発担当副社長Pontus Mähler氏は,長年このプログラムを扱ってきた中で,チームはある特定の種類の状況が現れていることに気づいたと語る。

Pontus Mähler氏,Global Top Round
初期投資を求めるデベロッパにとって変わったものは?
 「我々のプログラムの欠点の1つは,我々のモデルを気に入ってくれていても,『あなたのやっていることは素晴らしいけれど,我社のバーンレートは月4万ドルです』というようなチームに出会うことがあることです」とMähler氏は語る。「ですから,我々の資金では長くは続かないんです」

 GTRの親会社であるGXCは,既存のアクセラレータプログラムに手を加えるのではなく,シリーズA資金として約1400万ドルを調達し,GTRシードプログラムの設立を支援した。このプログラムは,アクセラレータプログラムに合格した企業よりも少し進歩した新興企業に15万ドルから30万ドルの資金を提供するものだ。

 GTRでは,シードプログラムを通年で実施しており,アクセラレータプログラムの年間10社に加え,年間5社を支援したいと考えている。

 近年,ゲーム投資シーンは大きく変化しており,とくにパンデミックでゲーム分野のスタートアップ企業に提供される資金量が増加している。しかし,そのような資金が出回っていても,このアクセラレータは業界の切実なニーズを満たしているのだと,Mähler氏は語る。

最初の資金調達するのに,良いバーチカルスライスを構築するための初期資金を持っていないような人に(資金を)与えたいと思う人はいません

 「昔から変わらないことは,本当に良いバーチカルスライスを構築するための初期資金を持たないような人々には誰も(資金を)与えようとしないということです。……そんな人はいません」と氏は語り,GTRは,彼らが最初に素晴らしいデモを持っていなくても,プロジェクトを支援することを望んでいるという点を強調した。

 「昔から変わらないこと,そして変わってほしいことは,より多くの人々が我々のように最初の企業にプレシード投資を始めることです」

 では,変わったことはどうだろうか? 1つは,モバイルゲームへの投資だ。

 「最近のモバイル投資は,データのみか,純粋にコネクションによるものばかりです。誰かが大手AAAスタジオを辞めると,VCに友人がいて,ゲームを作るためのスタートアップ資金を得るのです」とMähler氏は語る。

 Mähler氏が言う「データのみ」とは,デベロッパがすでにソフトローンチしたゲームを持ち,リテンション数などの指標で一定の基準を満たすことを前提に投資が行われることを意味する。GTRは以前,非常に質の高いと思われるモバイルタイトルに投資したが(パブリッシャからのフィードバックも同様だったそうだ),初期の段階で十分なリテンション数を得られなかったため,GTR以外の誰も彼らにお金を出そうとはしなかったという。

 「ここで面白いのは,そのような実績があれば,そもそも資金を必要としないということです」とMähler氏は語る。「儲かるビジネスにするために必要なデータに到達するまで,誰もお金を出してくれないのなら,なぜVCのお金が必要なのでしょう?」

 この状況は,Mähler氏がほんの数年前にモバイル市場で見た投資とはまったく対照的だ。

 「人々がリスクを取っているのを見てきました」とMähler氏は振り返る。「少なくとも数十万ドルは出していました。数百万ドルの本格的なシリーズAではなくても,モバイルスタジオがGTRや我々の友人のところに来て,20万ドル,あるいはこれだけの資金を調達した,と言っているのを目にしたものです。みんなリスクを取ろうと思っていたんです」

 最近では,彼が会うモバイルデベロッパの100人に1人は,何らかのスタートアップ資金を受け取っていると推定している。GTRアクセラレータプログラムは,誰も資金を提供しようとしないプレシードスタートアップに資金を提供するために設計されたが,現在のモバイルゲーム投資シーンは,GTRがまさにそれを行うことを難しくしているとMähler氏は語る。

 「モバイルは,より資本集約的なビジネスです。つまり,スケーリングや市場テストのための追加資金が必要になるのですが,現段階ではGTRが提供できるものではありません」とMähler氏は説明している。

 GTRは現在も,モバイルゲームについてパブリッシャと定期的に話し合っており,GTRシードプログラムの初期5社のうち1〜2社はモバイル分野のスタートアップにしたいと考えているが,Mähler氏によると,パブリッシャは依然としてデータに焦点を合わせているとのことだ。

この業界で変わったのは,人々がゲームの出所をもはや気にしていないことです

 Mähler氏は,AAやAAAパブリッシャからのインディーズへの関心も変わったと語る。

 「この業界で変わったことは,人々がゲームの出所をあまり気にしなくなったことです」とMähler氏は語る。「以前は,Blizzardのゲーム,Ubisoftのゲーム,あるいはAAAパブリッシャであれば,人々はそれを購入し,プレイしたものです。しかし,最近の消費者は,良いゲームであれば,どこのゲームであろうとプレイすると思います。たとえば,Hadesのようにね。私自身,90時間遊んびました」

 「一般的に消費者はインディーズゲームに肯定的で,素晴らしいゲームをプレイしたがるので,パブリッシャや投資家はこの業界でリスクを取ることが容易になったのだと思います。我々のポートフォリオやネットワークのポートフォリオに,より大きな関心が集まっていることに気がつきました」

 Mähler氏は,新しいプロジェクトを求めるパブリッシャが「圧倒的に多い」と述べ,その影響がすべてプラスに働くわけではないが,業界にとっては全体的に健全だと考えている。とくにデベロッパは,よりクリエイターフレンドリな取引とより大きな資金調達のための競争から利益を得ることができる。

 また,パブリッシャは,以前はスタジオの完全買収に重点を置いていたのに対し,マイノリティの株式投資に対してよりオープンになっていると語る。Mähler氏は,パブリッシャが,断ったスタジオが手ぶらで帰ることがないようにするため,デベロッパの待遇改善は,ビジネスパートナーとなったデベロッパ以外にも及んでいると語る。

 「大小さまざまなパブリッシャが,常にデベロッパに確かなフィードバックを提供してくれるようになったことは,非常に喜ばしいことです」とMähler氏は語る。「もしデベロッパが採用されなかったとしても,少なくともその理由についてはきちんとした説明とフィードバック文書があるわけですから」

 他の傾向として,Mähler氏は,仮想現実や拡張現実にはあまり関心がなく,それらの分野での大きな取引の欠如を指摘している。

VRとAR業界では,次のステップがないため,我々が他のスタジオで行ったように,スタジオのスケールを支援することは本当に難しいです

 「我々は,(Half-Life: Alyxと)Beat Saber,およびそのようなタイトル以外の多くの成功を見ていません」とMähler氏は語る。「ですから我々はVRスカウトの規模を縮小したようなものになっていますが,最近のGDCでは新しいファンドがこれを探しているという話をたくさん聞いたので,もしかしたら変わるかもしれません」

 さらに,「まだ非常にトリッキーな業界です。我々のモデルは,ゲーム全体に資金を提供するためのものではありません。我々のモデルは,あなたのゲームに資金を提供し,我々があなたと一緒に時間とお金を失う可能性があることを示し,プロジェクト,株式,パブリッシングなど,さらなる資金調達を見つける手助けをすることを目的としているものです。VRやARの業界では,次のステップがないため,我々が他のスタジオで行ったように,スタジオの規模拡大を支援することは本当に難しいのです」

 最後のトレンドとして,ブロックチェーンゲームについて説明する。今,ブロックチェーンやメタバース系のゲームにはたくさんの案件があり,関心も尽きないが,GTRはそれらの市場も避けている。

 Mähler氏によると,GDCの翌週に20件のブロックチェーンに関するピッチを受けたが,GTRは各プロジェクトに同じことを語ったという。「今はブロックチェーンやメタバースゲームは見ていません。長期的に存在するものであること,消費者が求めるものであることを確認し,それから検討したいのです」

 GTR全体ではなく自分自身のことだけを言えば,Mähler氏はこの投資によって今後数年でたくさんのプロジェクトが立ち上がるだろうと思っているが,そのうちのいくつが定着するかは分からないという。彼は,ささやかな資金さえ確保できなかったスタートアップ企業が,同じプロジェクトをブロックチェーンに移行して,急により大きな金額を受け取るのを何度も見てきたと指摘していた。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら