【ACADEMY】ダイバーシティに対応した雇用のために
たとえば,自社の従業員を見てみて,将来見込まれる顧客のダイバーシティ(多様性)とは一致していないことに気づいたとする。あなたの会社は今はもう小規模ではないが,これからも成長したいと考えており,成長することでこの問題を解決できるのではないかと期待しているとしよう。
英国を拠点とするパブリッシャであるSuper.comは,米国市場への進出を目指しているが,その目標達成に向けて責任を負っている人物の一人が,同社のチーフピープルオフィサーであるChris Davies氏だ。
GamesIndustry.bizの取材に応じてくれたDavies氏は,米国進出にあたり,多様性,公平性,包括性(※DEI:Diversity, Equity & Inclusion)に対するアプローチを「洗練」させてきたと語り,とくにダイバーシティに対応する採用パイプラインを確保することに注力してきたと語る。
リクルートパイプラインの多様化
「まず第一に,我々が一緒に働こうとしているコミュニティを反映した方法で人材を調達することです」とDavies氏は語る。「それは,我々の仕事が人々にとって身近なものであることを確認することです。ダイバーシティに対応する人材を採用のパイプラインに加えることができるようにすること,そして,採用したあとは,社内で成功するための準備をすることです」
まず第一に,我々が一緒に働こうとしているコミュニティを反映した方法で調達することです
これは,Super.comが採用活動において単一のソースに依存せず,LinkedInを超えて活動していることを意味している。Davies氏は,歴史的に社会から疎外されているコミュニティがある学校や,そのようなコミュニティをターゲットにした採用プラットフォームを利用して,候補者がすでにいる場所にアプローチしたいと考えている。「求人情報を人々にとって親しみやすく,利用しやすいものにすることも重要です」とDavies氏は語る。「10年の経験や学士号を持っていなければならないというのではなく,転用可能なスキルを受け入れたり,業界内の他の場所での実績を見たりすることに非常に力を入れています。そして,その人たちを会社に招き入れ,会社での新しい役割に必要なトレーニングを提供することで,成功に導くことができるのです」
では,疎外されたコミュニティに属する人々を,彼らのような人材が不足している企業に入社させるにはどうすればよいのだろうか?
「常に前向きな方法でプロセスを始めることが大切です」とDavies氏は語る。「我々は,このプロセスを支援してくれる調達業者やコンサルタントと協力しています。現在,我々が経験していないような分野は,それをアドバイスしてくれる有能な専門家で補っていきます。これが第一です」
「しかし,それだけでなく,異なる働き方を必要とする人々をサポートするための社内プロセスを構築することも重要です。たとえば,彼らはフレックスタイム制を導入している会社や,異なる方法で社員を評価している会社などに興味を持つかもしれません。重要なのは,誰もがアクセスできる会社を作ることです」
阻害されたスタッフの確保と再雇用
新しい人々を入社するように説得するだけでは不十分だと強調する。説得するだけではなく,入社したあともきちんとサポートしなければならない。
「DEIの取り組みで企業が失敗しがちなのは,採用することで問題全体を解決しようとするという,非常に表面的な処理をしてしまうことです」とDavies氏は語る。「我々は,より長期的な視点に立って,人材を会社に入れ,成功に導き,スキルとサポートを提供すると同時に,多様なリーダーシップの後継者になるパイプラインを構築し,理想的にはC-suite(※Chiefで始まる役職)レベルまで会社で昇進できるように支援しています。我々は長期的な視点に立ち,表面的な解決を目指すのではなく,会社のDNAに最初から組み込まれるようになることを目指しています」
阻害された集団に属していないDavies氏は,阻害された従業員を形骸化させたり,彼らがDEI問題に取り組むものと思い込んだりしないように気を配っている。
我々は自分自身を教育する必要がありまっす。この件に関して重い腰を上げるのは味方の責任です
「この分野に特化したポジションを持つことが重要だと思います。これはCPOである私がその責任を負うことになります。なぜなら,これまで疎外されてきたコミュニティの出身者に,我々を教育する責任があるとは思えないからです」と氏は語る。「我々は自分自身を教育する必要があります。これは我々の責任です。『あなたは多様なバックグラウンドを持っているのだから,この件に関してはあなたに責任がある』などと言わせたくありません。なぜなら,これは大多数の人々を会話から排除することにもなるからです。これは本質的に,『あなたは歴史的に疎外されてきた背景を持っていないから,あなたの責任ではない』と言って,責任を免れることにもなります。我々はそんなことを言っているのではありません。なぜなら,教育を行い,視聴者を真に反映した組織にすることは,我々以外の誰の責任でもないからです」
氏はまた,DEI問題に関する業界の過去の失敗からも学びたいと考えているが,その失敗は数多くある。
「歴史的に見て,多様性,公平性,包括性が非常に表面的なレベルで扱われてきたことが,核心的な問題の1つだと思います」と氏は語る。「投資家を満足させるために付け加えられたり,やらなければならないと思って行われたりしていました。ビジネスケースの話をしたくはありません。人はビジネスケースではないからです。人は人です。我々がこの道を進むのは,それが道徳的に正しいことだと信じているからだけではなく,我々のステークホルダーがこの実践から利益を得ることができ,投資家が利益を得ることができ,さらにゲーマーが360度の視点からDEIを見ることで利益を得ることができるという,Win-Win-Winのシナリオがあると信じているからなのです」
人事部への信頼を取り戻す
近年,ワークカルチャーやDEIの問題を抱える企業に共通して見られるのは,公の場ではこれらの問題の重要性を語っていても,プライベートではそれらを無視していることが多いということだ。とくに人事部の評価が問われている。
今,DEI問題で会社を売り込んでいる人事担当者として,Davies氏は,繰り返し失望させてきた人々から,この分野が信頼を取り戻すにはどうしたらいいと考えているのだろうか。
「本当に変わりたいと思っていることを示さなければ,信頼を回復することはできないと思います。最近の業界で見られる大きな課題の中には,『悪いことをしたと認めて,変えていく』と言っておきながら,何も変わらず,何も起こらないものがありました。そして,あなたが従業員、あなたの投資家,そしてゲーマーに,より良くすることにコミットしていると言うことができるならば,その信念に責任を負わなければなりません。もし何も起こらなければ,あなたはそのことを指摘されるでしょう」
「しかし,業界が表面的なアプローチを維持している限り,それは実現しないでしょう。これは何かを約束し,それが重要であることを人々に伝え,その責任を負うものでなければなりません。それが実現しない限り,何も改善されません」
「正義が行われるだけでは不十分で,正義が行われているところを見られなければならない」という古い格言があります
Davies氏は,そのためには透明性と説明責任が不可欠だと強調する。そのためにSuper.comでは,DEIの問題,採用,昇進などを1人の人間が担当しないようにしているそうだ。これらの機能はすべて,組織のあらゆるレベルの人が参加する委員会で処理される。理論的には,物事が隠蔽されたり,優遇措置が見過ごされたりすることは少なくなる。「また,問題が発生した場合には,その問題に対処するという姿勢が必要です。DEI関連の問題について苦情を言えば,その問題は解決されると思っている従業員が30〜40%はいるのではないでしょうか……。『正義がなされるだけでは十分ではなく,正義がなされていると見られなければならない』という古い格言があります」
また,「企業は測定できないものを優先しない」とも言われるが,ダイバーシティは数字で表せるような簡単なものではない。一部の市場では,雇用主が従業員に特定の疎外されたグループに属しているかどうかを尋ねることが法律違反となっている。また,従業員に危険を及ぼす可能性があるとDavies氏は語る。
「追跡は良い質問ですが,完璧な解決策はないと思います」と氏は語る。「しかし,オープンであること,採用やリーダーシップのパイプラインを持つこと,社内の透明性を確保することは,多様性を促進するために大いに役立つでしょう。我々は,従業員のためになること,従業員にとって邪魔にならないこと,そして必要とされる地域の規制に完全に準拠することを見つけていきます」
また,DEIへの取り組みを正確な数字で示すことができないことが,会社の成長を遅らせることになっているとは考えていない。
「我々は,完璧になるのを待ってから行動するのではなく,積極的に行動したいと考えています。積極的に行動し,前向きなステップを踏んでいきたいと考えているのです。もし,これが測定できなくても,必ずしもそれが原因で前向きな行動ができなくなることはありません。人に敬意を払い,人を全体として扱うことができれば,より多様性のある人間になることができます。数値化できなければ価値がないという感覚に囚われないようにしたいものです」
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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)