Epic対Appleの判決は,iOSにさらなる法的攻撃を加えることになるのか?

法律の専門家が,現在進行中の紛争における最近の判決の影響について議論する。

 Epic Games の Apple に対する訴訟は話題になっていたが,判決はやや拍子抜けするようなものだった。しかし,おそらく多くの報道機関が報じた内容からは,そのような印象は受けなかった。

 週末には,「Epic wins big in Apple trial(Apple裁判でEpicが大勝利)」という見出しが多く見られたが,Yvonne Gonzales Rogers判事は,iOSメーカーに対して行われた10件の訴訟のうち,1件でFortniteを支持しただけだった(関連英文記事)。

 裁判所は,Appleを独占企業とは分類せず,短期的には独占企業になる可能性があることを示唆したものの,不正または違法な手段でここまでの規模になったとは認めなかった。また,裁判所は,iOSをサードパーティ製アプリのマーケットプレイスに開放するよう要求したり,App StoreにFortniteを復活させるよう命じたりしなかった。

 しかし,Appleがユーザーを外部の決済システムに誘導することを制限していることは反競争的であり,変更しなければならないことは認めた。

 2008年にiOSプラットフォームが登場して以来,AppleがiOSの運営方法の基本を変更することはほとんどなかったことを考えると,この勝利はもちろん過小評価されるものではない。しかし,2021年12月9日までにデベロッパが外部の支払い方法にリンクできるようにすることをAppleに命じる全国的な差し止め命令が出されたとしても,批判の多い,すべての取引にかかる30%の手数料から確実に逃れることができるわけではないという事実によって,この勝利はある程度損なわれている(しかし,Appleが自社のプラットフォームで直接処理されていない取引を監視して手数料を得ることは,論理的にはより複雑だ)。

David B Hoppe氏, Gamma Law
Epic対Appleの判決は,iOSにさらなる法的攻撃を加えることになるのか?
 Epic Gamesは,Fortniteに直接決済を導入するためのHotfixを使用してAppleとのデベロッパ契約に違反したことを認めたため,判事は同社に対し,2020年8月以降にiOSバージョンを通じて集められた金額の30%をApple社に支払うよう命じた。この金額は,10月までに1200万ドルに達している。

 Gamma Law のマネージングパートナーである David B. Hoppe氏は,主要なアプリプラットフォームに対する監視の目が厳しくなっていることを考えると,Epic Games の単独勝訴は必然だったのかもしれないと語る。

 「判決が出る前の1か月ほどの間に,米国やその他の国で複数の動きがあり,AppleやGoogleのアンチステアリングポリシー(※より安い決済に切り替えることを禁ずる方針)は,いずれにしても長くは存続しないと思われるようになりました」と氏は語る。「ですから,Appleにアプリ内での代替決済手段へのリンクを許可するよう求めた今回の判決は,Epic対Appleの訴訟が起こされたときのようなインパクトはありません。この点において,Epic は,1年以上前にこの問題に取り組んだことに対して,正当な評価を受けていないかもしれません」

 The Hoeg Law FirmのマネージングパートナーであるRichard Hoeg氏は,30%の「Apple税」を回避するルートが開かれたことを喜んでいる人は,今はその熱意を抑えたほうがよいと付け加えている。同氏が「Virtual Legality」シリーズの最近のエピソードで詳しく説明しているように(参考URL),iOSのデベロッパライセンス契約では,外部の決済プロバイダを介して行われる取引であっても,Appleから何らかの手数料を徴収することが定められている。iOSプラットフォームを介して獲得したユーザー,たとえばiPhoneアプリでアカウントを登録したユーザーからの取引であっても,課金される可能性があるのだ。そしてGonzales Rogers判事は,それをまったく変えなかった。

判事はAppleに対する次の訴訟のための潜在的なロードマップを提供したと言う人もいるかもしれません -David Kesselman氏,Kesselman Brantly Stockinger

 「Appleが外部リンクを禁止することを決定的に差し止めた裁判所の判断は,Appleがアプリ内でApple IAPを要求することを妨げるものではなく,また,単にアプリ外に誘導することでデベロッパがAppleの委託を回避できることを示唆するものでもありません」と Hoeg氏は説明する。「裁判所は,Appleがそのエコシステムの一部として提供するサービスに対して何らかの料金を受け取る権利があること,さらにその配布とIAPモデルが反競争的ではないことを明示的に認めました」

 実務的には,Appleの30%はアクセスから「得られる」ものであり,その割合自体については合理的な考えが異なるかもしれないが,Appleのライセンスはすでにある程度行われており,デベロッパに契約上の支払い義務を負わせるためには,単に「アプリ内リンクから発生した資金を受け取ったら,当社の手数料を報告して送金してほしい」と言えばよいことになる。

 「見出しを読んで,Appleに一銭も払わずにリンクをコード化できると信じてしまうデベロッパがいるのではないかと心配していますが,裁判所が判断したこととはまったく違います」

 また,裁判所の判決が確定したわけではないことも忘れてはならない。Epicは(必然的に)この判決に対して控訴状を提出しており(関連英文記事),Appleも敗訴した1つの訴因に対して反論する権利を持っている(本稿執筆時点では,そうしていないようだが)。これにより,Epicが控訴審でより大きな勝利を収めることができるかどうかは分からないが,法律専門家たちは決して楽観視はしていない。

デベロッパは,iOSプレイヤーに別の支払い方法を案内できるようになるが,Appleは各取引の分配を受ける権利を有している

 「AppleとGoogleがともに規制面での逆風に直面していることから,Epicの勝算は第一審裁判レベルよりも少し高いと評価していますが,(第9巡回区の2020年の年次報告書によると)それでも控訴の10%未満は完全な逆転となるでしょう」とHoeg氏は語る。

 「勝つためには,Epicは成功する可能性が最も高いものに集中する必要があると思います。おそらく,『IAPを別の製品として』という主張や,独占的な主張をやめて,フラットな取引制限を追求することになるでしょう。しかし,ここでの戦略については合理的な考え方が異なるでしょうから,Epic が控訴に向けて完全に全力投入しても,私は驚きません」

Richard Hoeg 氏,The Hoeg Law Firm
Epic対Appleの判決は,iOSにさらなる法的攻撃を加えることになるのか?
 Hoppe 氏は,iOS を競合アプリストアに開放することが Apple の潜在的な反競争的行為に対する追加的な救済策であると Epic が控訴裁判所を説得する「可能性」があることに同意しているが,「可能性は低い」と強調している。

 「とくにAppleが独占企業であるとの認定がない限り,裁判所が民間企業の運営に介入することはかなり大きな意味を持ちます」と氏は説明する。「また,大規模なプラットフォームに競合するアプリケーションストアを許可するよう求める,まさにそのような法案が米国議会に提出されたばかりの状況もあります。このような状況下で,裁判所が介入して,議会が投票しようとしていること,あるいは議会が決議したばかりのことを強制しようとする可能性は非常に低いと思います」

 多くの人が業界のあり方を変える可能性があると推測していた事件(とくに,小規模なデベロッパを代表してアプリの公平性のために戦うという Fortniteの美辞麗句を信じていたデベロッパにとっては)では,今回の判決は期待していたものではないかもしれない(とくに Epic にとっては)。しかし,AppleのiOSの庭の壁を壊したいと思っている人にとっては,まだチャンスの可能性がある。Epic Games は,大きな変化をもたらすことはできなかったが,他のより強力なケースへの道を開いたのかもしれない。

 カリフォルニア州の法律事務所 Kesselman Brantly Stockinger のパートナーである David Kesselman 氏は,Gonzales Rogers 判事のコメントの行間を読めば,この判決は "魅力的" であると指摘している。

裁判所は,30%のレート自体が問題であると考えていることを明確に示唆していました -Richard Hoeg氏,The Hoeg Law Firm

 裁判長は,Apple が「伝統的な」反トラスト法 (連邦シャーマン法第1条および第 2条,カリフォルニア州の Cartwright 法) に違反していたことを Epic が最終的に証明する義務を果たせなかったとしながらも,そのような認定が不可能ではなく,Epic がその義務を果たせなかったけであることをわざわざ示唆しているように見えました」と氏は語る。

 「実際,判事は,Appleがモバイルゲーム市場において市場支配力を持っていることを明確にしました (Epicは市場の定義を提示していなかったが,判事は本件で問題となっている市場を最もよく捉えていると考えた)。また,Appleが市場に反競争的な効果をもたらすような制限を課していることも明らかにしました」

 「実際,彼女は,Appleの30%の手数料率は人為的なものであり,市場原理の結果ではないことを繰り返し指摘しています。それにもかかわらず,裁判官は,Appleがセキュリティと知的財産に関して有効かつ十分な正当性を提示したことを認めました。そのため,Epicが主張したAppleの制限が,伝統的な反トラスト法違反をもたらしたとは認められなかったのです」

 Hoeg氏もこれに同意し,次のように付け加えている。「裁判所は,30%の税率自体が問題であると考えていることを明確に示していますが,この項目に関する係争中の事件がないことを考えると,その攻撃の方向性は不明です」

 「法的な分野以外では,Epicは『この法律がどれほど壊れているかを見てほしい,何かする必要がある』というようなロビー活動を続けることで,成功を収めることができると思います。何とかする必要があります。政府のほぼすべてのレベルにおいて,巨大IT企業に対する反感があるのは明らかです」と語る。

 また,Epicには他にも戦いを続ける機会がたくさんあることを忘れてはならない。仮に控訴が却下されたとしても,EUとオーストラリアではAppleに対する訴訟が残っており,米国,英国,オーストラリアではGoogleに対しても同様の訴訟が起こされている。Hoeg氏は,今回の裁判の経験が,Appleの主要なライバルに対抗するための潜在的な勝利戦略を示したのではないかと語る。

David Kesselman氏, Kesselman Brantly Stockinger
Epic対Appleの判決は,iOSにさらなる法的攻撃を加えることになるのか?
 「このことは,EpicがGoogleに対して攻撃するための多くの良い手段を提供してくれると思います。とくに,OS 自体が独占された前市場であるために,配信や IAP の後市場で反競争的な行為が行われているという Epic の主な理論に関しては,Epic にとって Google に対するいくつかの良い攻撃手段があると思います」と氏は説明する。

 「というのも,Apple の訴訟で Epic がその理論に失敗した主な理由の 1 つは,Apple がその iOS を外部に販売したりライセンス供与したりしておらず,市場が存在しなかったからです。Google の訴訟では,OS を製品としてとらえ,90 年代の MS/Windows の訴訟で得られたいくつかの判例を参考にすることで,Epic はより成功を収めることができると思います」

 「それでもEpicは,Googleの行動が不当に正当化されたものであると立証することに引き続き問題を抱えているでしょう。明らかに裁判所のシステムは,当初の裁判の進め方を好ましく思っていません」

 とはいえ,この最初の判決,とくに(少なくとも現在のように)Appleを独占企業としなかった判事の判断は,今後の判決に影を落とすことになるだろう。しかし Hoppe氏は,他の市場にはまだ十分な違いがあり,Epicに勝機があると考えている。

 「米国の連邦裁判所の判決が米国外での訴訟に説得力を持つことは否定できませんが,反トラスト法は国によって大きく異なるため,裁判官は他の多くの要因を考慮することになります」

 「Epicが海外での訴訟に向けて戦略を調整する理由は見当たりません。一般的に,米国外の反トラスト法はEpicのような原告に有利です。Epicが米国の連邦裁判所からかなり重要な譲歩を勝ち取ったことや,米国の判事がAppleは『初期の独占企業』である可能性があると述べたことは,これらの他の訴訟にとっておそらくプラス要因となるでしょう」

裁判官は,Appleは独占的ではなく,プラットフォームホルダーにとって「ウォールドガーデン」は依然として実行可能なビジネスモデルであると判断した
Epic対Appleの判決は,iOSにさらなる法的攻撃を加えることになるのか?

 Kesselman氏は,Gonzales Rogers判事の判決は「複数のレベルで深刻な影響を与える」と警告し,次のように付け加えている。「まず,伝統的な反トラスト法に関して言えば,判事はAppleに対する次の訴訟のための潜在的なロードマップを提示したと言えるかもしれません。判事は,(少なくともモバイルゲーム市場における)Appleの市場支配力を指摘し,Appleが請求する30%の手数料は恣意的で市場原理とは無関係であるとの見解を含め,いくつかの反競争的効果を特定しました」

 「このロードマップを手にした他の企業は,Epic が成功しなかったところを成功させようとするかもしれません (Epic の焦点がわずかに異なる市場の定義に置かれていたことや,その主な目的が Apple に Apple 自身のウォールドガーデン内で競争力のある支払いオプションを許可するよう求めることであったように見えることも理由の1つです)」

 「第2に,判事がカリフォルニア州の不正競争防止法を使用したことは,他の潜在的な原告に(Apple を訴えたいと思っている人に限らず)ロードマップを提供することにもなります。カリフォルニア州最高裁は,問題となっている行為が従来の反トラスト法に基づく請求の要件をすべて具体的に満たしていなくても,不正競争防止法に基づく請求を維持できる可能性があるとしていました」

 「しかし,私の知る限り,裁判所が実際にこのような方法で法律を適用し,このような違反行為を認めたのは初めてのことです。とくに,多くの大手テクノロジー企業がカリフォルニアに拠点を置いていることから,カリフォルニア州の不正競争防止法に再び注目が集まる可能性があります」

 変化の可能性は残っているものの,Gonzales Rogers判事が昨年,この結果が任天堂,ソニー,Microsoftなどに「深刻な影響」を与える可能性があると警告していたことは,今のところそれほど問題ではないようだ。競合するゲーム市場を立ち上げることができないことや,30%の手数料に対する不満など,Epicの主張の多くはゲーム機メーカーにも同様に当てはまるが,今回の最初の判決では,そのビジネスモデルが守られている。

 「Xbox,PlayStation,Switch の関係者は,安堵のため息をつくべきだと思います」とHoeg 氏は語る。「しかし,裁判所が指摘したように,完全に所有しているブランドであっても OS をコントロールすることは基本的に独占的であるという Epic の理論と,ソニー,任天堂,Microsoft が自社のゲーム機でビジネスを行っている方法との間には,実際には法的な隔たりはありませんでした」

 「キュレーションが好きな人にとっては今日は良い日でした。裁判所が,ウォールドガーデン自体を,よりオープンなシステムとの差別化においてとくに競争力のある,有効なビジネスモデルとして正式に確立したことも重要です。これは,よりオープンなシステムとどのように差別化するかという点で,とくに競争力のあるものです」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら