中国ゲーム産業の実態。「解剖テンセント 〜ゲーム事業、クラウド活かし世界へ」聴講レポート(前編)

 2021年6月22日,日経×36Krセミナーで「解剖テンセント 〜ゲーム事業、クラウド活かし世界へ」と題したウェビナーが開催された。これは中国のテックサイト36Krと日経が共同で行っているもので,Tencentをテーマにしたセミナーの2回めとなるものだ。 

 話の主題はTencentなのだが,ここではまず中国のゲーム産業とゲーム市場についてまとめておこう。

 昨今ではモバイル分野で中国産ゲームの進展が目覚ましい。36Kr Japanの王瑩影氏は,日本の2021年第1四半期での売り上げランキングトップ100に中国産ゲームが29本も入っていることに驚いたと語り,中国産ゲームの存在感が増してきていることを強調し,中国ゲーム産業の現状を報告した。

 2020年のデータで見ると,中国ゲーム市場は年率20%という高い伸び率を維持しており,世界的に見ても今後の市場拡大が期待されるアジア太平洋地域で中心的な位置を占めている。世界のゲーム市場が19兆2000億円規模で,その半分近くの9兆3400億円はアジア太平洋地域が占めており,そのうち4兆7800億円を中国が稼ぎ出している。すでに日本の倍以上の市場規模だ。


 ゲームユーザー数は伸びが鈍化しているとはいえ,前年比3.7%増で6億6500万人規模の市場を誇っている。日本のゲーム人口が4800万人程度とされているので,ユーザーベース自体は14倍近く大きい。



 市場では中国国内産ゲームがほとんどだ。国内産ゲーム売り上げの伸びは26.74%と先ほどのゲーム市場全体の伸び率を超える数値になっており,このあたりはまだまだ中国への参入障壁の高さも感じられる。


 中国ゲーム市場が他国と大きく異なるのは,ゲーム専用機の輸入が正式には行われていなかったことに起因する部分が大きい。王氏はマリオなどで遊んだと語っていたが,任天堂のゲームが中国に正式に輸出されるようになったのはごく最近のことだ。
 コンシューマゲーム市場がほぼ存在せず,かつてはPCがゲームの中心だった。ネットカフェを中心としたオンラインゲーム文化(パッケージゲームは海賊行為により絶滅)が花開いていた。

 次にやってきたのはブラウザゲーム文化だ。家庭でPCを使うことも一般化してきたこともあるのだろうが,それでも高性能PCの普及は難しく,一般的なPCでも簡単に動作するブラウザゲームが主流となり,ソーシャルゲームのようなものから,それこそMMORPGをブラウザで動かすほどに,その分野の技術も発展していった。日本に輸入された中国産ブラウザゲームも多い。

 しかし最近ではスマホの普及により,ブラウザゲームの市場は全体の2.7%にまで縮小している。モバイルゲームは全体の75%を超える規模になっており,主流となっているのが分かる。オンラインゲームは20.07%で,これもまだ大きな市場を維持している。コンシューマゲームなどはその他(1.96%)に含まれるものと思われる。


 中国国内のゲーム業界関係図を見ると,大手プレイヤーに新興勢力が入り込んできていることもよく分かる。TencentやNetease,Perfect World,Giantなどの見慣れた名前もあるが,MiHoYoやLilith Gamesなどのアプリメーカーが目立つ。いまや「The 9 中国」で検索しても第九城市などはまったく引っ掛かってこないのは驚いた。かつては中国ゲーム企業の代表格だったShandaは現在では投資会社だ。


 そんな中国ゲーム業界では,現在海外進出が盛んに行われている。先に挙げたように日本の売り上げトップ100の3割ほどを占める勢いだ。その要因として王氏は,中国の対外投資額の増大,ユニコーン企業の増大,一帯一路政策,中国市場でのユーザー頭打ちなどを挙げていた。


 進出先の最大手はアメリカで27.55%,次いで日本が23.91%と,この2国で過半数を占めている。とくに日本市場はゲーム産業の基盤が成熟していること,ユーザーの課金傾向が高いことなどから魅力的な進出先になっているという。


 日本で行われた原神のプロモーション例などが紹介されたが,「お金がありますね」と言われることも多いという。実際,中国企業の資金力は膨大であると王氏も認めていた。日本の10倍以上の規模を持つ中国国内市場で収益を上げているタイトルであれば,海外展開の予算も十分に確保されているのだろう。

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 今後の中国ゲームの展開については,サブスクリプションとメンバーシップモデルの拡大,フィギュアなどのゲーム関連商品への展開,eスポーツを挙げていた。中国では以前から日本よりもメンバーシップモデルなどは充実しており,収益手法についての研究も進んでいる。このあたりはガチャが野放しだった日本は後塵を拝している分野かもしれない。フィギュアなども,日本製品の主な生産国は中国であることから,原型さえなんとかなれば展開は難しくないだろう。eスポーツについては,世界でも最先端をいくほど認知が広まっており,ビジネスとしての展開も可能になっている。


 技術的には,AI/ビッグデータ,5G,クラウドコンピューティングの部分がますます加速していくとの見通しが語られた。どれも中国が力を入れている分野だが,5G網自体の普及はまださほど進んではいないようだ。今後5G網が充実してくることで,さらなる大きな展開を見せてくるのだろう。技術革新の速度感は日本とは隔絶したものがある。日本ではなかなか進まないクラウドゲームもすでに560億円市場となっており,2023年には7480億円規模に拡大すると見られているという。これも5G網次第で重要なゲーム基盤となっていくのかもしれない。


 モバイルを中心に中国のゲーム業界は着実な進化を遂げている。市場が拡大し続けていることもあり,ゲーム会社の開発意欲も盛んだ。技術的にもすでに世界レベルであり,その質と量を合わせた開発力はますます拡充しようとしている。今後日本で人気を博する中国産ゲームが増えていくのも間違いなさそうだ。
 なお,本セミナー主題であるTencentのゲーム向けソリューションについては,後編でお伝えする。