アリババクラウド,リアルタイムかつ多元的データ処理が可能な「Hologres」を拡充

 2021年6月14日,アリババクラウド・ジャパンザービスは「アリババクラウドオンライン記者説明会」を開催した。
 アリババといえば,中国最大のオンラインショップ淘宝(タオバオ)を運営する企業として知られているが,アリババクラウドはネットワークインフラを扱うデータセンター業だ。今回は,最先端データウェアハウスサービス「Hologres」の提供開始に合わせて,同社のデータセンター事業についての解説や事例の紹介が行われた。

 最初に同社カントリーマネージャーユニーク・ソン氏から,アリババクラウドの紹介が行われた。アリババクラウドは中国でサービスを開始してから12年めとなり,中国最大なのはもちろん,アジア太平洋地域でも最大,世界全体としてみてもIaaS分野で第3位の規模を誇っている。

 日本国内では2016年からサービスを展開しており,国内に2か所のデータセンターを設置している。新型コロナウイルスの流行時には,M3と共同で肺のCT画像から感染の診断を支援するAIを開発・提供し,200以上の医療機関で採用されているほか,東京オリンピックのオフィシャルパートナーも務めるなど,日本での展開に力を入れている。同社はアジア地域でのポテンシャルを感じているとのことで,今後も投資を続けていくとのことだ。

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 同社のサービスが採用される理由には,コストパフォーマンスの高さ以外に,幅広いプロダクトラインがあるという。IaaS,PaaS部分に加えて開発・運営の支援や海外展開のサポートなど,その内容は多岐にわたる。

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 同社が日本の中小ゲーム企業(SME)向けに行っているサポートプログラム「Japan SME Gaming Support(JSGS)」には,100社以上が参加している。ゲームでの採用企業の例では,enishやDMM GAMESなどの名前もあった。JSGSでは,毎日24時間の対応(駆けつけを含む),安定したインフラ,ビジネスマッチングや海外進出のサポートなどに加え,新規顧客の初期費用はアリババクラウドが全額負担といった手厚いサポートが行われているという。しかも一律のパッケージ商品ではなく,各社に合わせたサービスカスタマイズにも対応している。

 続いて同社シニアソリューションアーキテクト与謝野正宇氏からゲーム関連製品の技術的な紹介が行われた。
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アリババクラウドの全体的な構成IaaS(下段),PaaS(中段)以外にもさまざまなサービスを提供している
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ゲーム関連サービス

 まず,クラウドの基本となるバーチャルマシン関連のElastic Compute Service(ECS)では第6,7世代のVMを使い,サーバーハードウェア自体もハイパーバイザーと相性がいいものをアリババが設計することでパフォーマンスを上げているという。故障の予測などの技術も使い,シンプルインスタンスでの可用性99.975%,マルチインスタンスでの可用性99.995%というクラウドでもトップレベルの安定性を維持しているそうだ。

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 Kubernetes(Googleが開発した管理システム)によるコンテナサービスでは,幅広いニーズに応えて,見えるノードの範囲が異なる3種類が用意されており,サービスの追加もボタン一つで行えるという。
 データベースで使われるPolarDBは,アリババのECサイトが特別なイベント時に使用するものだそうで,スマートプロキシによる負荷分散,計算ノードを独立させることでスケーリングに対応し,分散共有型ストレージにアクセスする。このストレージはDB全体のバックアップが数十分ととくに高速だとのこと。

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 セキュリティ関連では,DDoSアタックへの高い耐性が挙げられていた。ある程度売れてくるとゲームは必ずアタックされるものであり,なかでも対処の難しいDDoS攻撃に対しては,通信の入り口を分散することで高い耐性を確保しているという。いざとなれば世界中のAnti-DDoSサーバーに分散するようだが,基本的にはDC以外にAnti-DDoSサーバーが国内でも多数稼動しているそうで,国内で分散される分にはゲームでの遅延も問題にならないとのことだった。Anti-DDoSは導入も簡単で,実際にDDoSが始まってから依頼されても最短2時間で対応可能だという。

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 そのほか,ビッグデータに対応したLog ServiceやAnalytics DBでゲーム内の状況を簡単に可視化することも可能だ。

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 そして今回の発表の中心となる「Hologres」の紹介が行われた。これは新しいデータウェアハウスへのアプローチとなるものだという。従来多く使われていたラムダアーキテクチャによるデータウェアハウスでは,大量のデータを扱うバッチレイヤーとリアルタイム処理を行うスピードレイヤーに分かれており,サービングレイヤーで両者を統合する複雑な構成で,データの抽出などで時間がかかっていたという。

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 昨今では,一部のテーブルをインメモリで持つことで転送と分析を同時に行うHTAP(Hybrid Transaction/Analystic Processing)を行うデータウェアハウスも増えているが,アリババでは,トランザクションよりもサービングを重視したHSAPアーキテクチャを開発した。それがHologresである。これもアリババのECサイトで使われていたものをゲーム用として転用したものだそうだ。処理能力はお墨付きと言っていいだろう。

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 結果として,より多彩なデータをリアルタイムかつ多元的に分析してゲーム運営を支援できるようになる。アリババクラウドの新しいセールスポイントとなりそうだ。

 最後にenishの技術部リーダー譚 琳氏からアリババクラウド導入の事例紹介が行われた。同社は,「五等分の花嫁」や「De:Lithe」などを現在アリババクラウド上で運用しているという。
 導入に至った経緯として同社には,元々,

  • デプロイ環境をKubernetesで標準化したい
  • DBやログの管理コストを削減したい
  • サーバーコストを削減したい
  • アジア圏にスムーズに展開したい

といったニーズがあったという。それがアリババクラウドによってすべて解決されたと譚氏は語っていた。

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 Container Service for Kubernetesを使うことでデプロイは標準化でき,PolarDBとLog Serviceを使うことで管理コストも下がり,データ処理時間は半分に,もともと安いサーバー料金はサブスクリプションを使うことでさらに引き下げができ30%のコストダウン,海外でも展開していることもあるが,とくになにかと難しい中国での展開がしやすいと,よいこと尽くめだったようだ。

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 同社が利用しているアリババクラウドの製品のうち,Kubernetes,PolarDB,DTS,SMCは本当にお勧めしたいサービスだそうだ。enishでは,今後はサーバーレスなコンテナサービスやHologresなども使っていきたいとのことだった。


enishが利用しているサービス群(左)とRe:Litheでのシステム構成例
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 中国巨大企業によるクラウドサービスは,その資本力,技術力,スケールメリットを背景とした強力なものだった。毎年3桁の成長というのも頷ける。新たなデータウェアハウス技術が加わることでオンラインゲーム運営にも革命が起きるかもしれない。JSGSなどの取り組みも合わせて,日本のゲーム業界でも考慮に入れなければならないデータセンターとなりそうだ。

「アリババ」公式サイト