[CEDEC+KYUSHU]周波数分解によるプロシージャルなメカデザインとは?
ここでは,ポリフォニー・デジタルの齋藤 彰氏による「Procedural Hard surface Modeling メカデザインを周波数で分解したモデリング手法の紹介」の概要を紹介したい。これはHoudiniを使ったプロシージャルモデリングの講演である。
氏は,CEDEC 2017では,Houdiniでは建物をプロシージャルに生成するための手法を解説していたが,ポリフォニーでは主に景観デザインを担当しているという。要するにGTシリーズのコースを作成している人である。
普段は景観を作成している人なのだが,講演でのスライドでは,メカや人物,モンスター的なものなどがあふれていた。そういったものをHoudiniでプロシージャルに生成しているというのだ。
GTでプロシージャルで生成されたコースが使われたこともあるとのことで,同社ではデータ作成でHoudiniが活用されているようなのだが,今回の齋藤氏の講演はポリフォニーデジタルの社名付きで出てはいるものの,氏の個人的なプロジェクトに関する内容だった。どうやら,デジタルなプラモデルやフィギュア的なものの作成にHoudiniを趣味で使っているということのようだ。会社では背景アセット作成でHoudiniを使い,家に帰って趣味でHoudiniを使っているという。
氏は飛行機的なメカを例に,SOPネットワークでの処理の流れを示していた。ボディ形状を決めて翼を取り付け,エンジンなどの構造を加えて,さらにディテールを付け加えて色をつけていくといった流れだ。
まず,基本形状をスライダーで変形させていき,適当に気に入った感じになるまで形状ガチャを続けていく。ざっと見たところ左右対称くらいしかルールはなさそうな感じだ。さらに設定した各種パラメータのスライダーを操作することで変形こともできるようだ。
そういったボディの基本形状に対して,さらにサブの形状データをランダムで配置していってシルエットを決めていく。
ちなみに,塗りの細かいところは自分でやりたいので自動化はしていないそうだ。やはりプラモデル感覚なのだろうか。
ボディの大まかな形を決める |
翼をつける |
エンジンをつける |
パーティショニングラインを入れる |
ディテールで穴などを空ける |
色をつける |
このような流れで,全体的なシルエットからディテールに向かって仕上げていくらしいのだが,いきなりこんなモノを生成するようなことは簡単ではないだろう。こういった複雑なプロシージャルワークフローを構築するにあたって,齋藤氏はそれを周波数の粗密に例えた段階的なモデリング手法として紹介していた。
高周波成分となるディテール部分は,複雑な形状になるとそれっぽく配置することが難しくなる。齋藤氏はディテールをつける際のテクニックとして,UVに展開して配置することを勧めていた。複雑な曲面に対して均等に穴を空けたいといった場合などに,UVを使うとよい感じで処理ができるようだ。
そのほか,ディテールを加える手法としてVORONOI分割も多用していることが紹介されたが,そちらについての詳細はSIGGRAPH ASIA 2018で発表しているとのことだった。
続いて,低周波部分,すなわちモデルのシルエットをどのように作っていくかという話に移っていった。
デモでは基本形状に対して,ランダムノイズを使った形状ガチャを繰り返していた。適当な形状を決め,さらに別の形状をランダムに配置して複雑度を上げていくようだ。
その段階で,斎藤氏が持ち出したのがL-Systemだった。L-Systemは植物のプロシージャル生成でよく使われるもので,一定の規則で枝の階層を伸ばしていくようなアルゴリズムだ。これをシルエットの各部のモデリングとディテールアップに使用しているのだ。結果として,複雑かつなんとなく有機的な雰囲気の形状ができあがる。
ちょっと驚いたのは,そのL-Systemを人型形状に適用していたことだ。手足の関節などは決まっているので伸ばしようがないように思えたのだが,あまり気にせずに伸ばしていくようだ。ちょっと脚が短いので1段足す,手も足しておくみたいな感じでデモンストレーションが行われた。結果的には,確かに,頭や手足といった基本構造は残しつつ,複雑度を上げた形状が生成されていた。
段数を上げると自然とディテールアップされて派手になるので,同系列のモンスターのグレード分けなども簡単にできるだろうとのことだった。
すでにあるモデリングデータを,シルエットのベースになる形状としてプロシージャルな形状を生成していくこともできるという。
スライドでは人体データが示され,その上に一定のルールで形状を作っていくと,服や装備をになることが示された。モデリングデータにぴったりフィットしているので,そのまま歩かせても不自然さはない。
また,その応用で,骸骨のデータにランダムで筋肉的な要素を加えて血管や臓器などを段階的に皮膚まで生成していくと,人間そのものではないのだが,それっぽいモンスター的なものができあがる。犬の骨格,蜘蛛の骨格(??)などでの例も示され,モンスターの量産ではかなり威力を発揮しそうに思われた。
中周波についてはとくに言及がなかったのだが,さまざまなパーツをどう配置していくかは,プロシージャル処理で氏が重要だと述べていた「手」「目」「脳」の機能の実現で行われるものと思われる。形状を加工する手に相当する部分と,どこに配置するかを判断する目にあたる部分,そして形状を見分ける脳にあたる部分に分けて考えると,SOPのワークフローが整理できるという。
最後に齋藤氏が挙げたのが「可能性の空間」という概念だった。これはCEDEC 2018でEmbark StudiosのAnastasia Opara氏が提唱していたものだそうで,いくつかのインスピレーションの組み合わせで構成される「可能性の空間」から最適なものを削り出していくのがアートディレクションであるという主張だ。
例として挙げられたのは,クルマと昆虫という2つのインスピレーションだった。まずこの2つの尺度で定義される平面上から,「タイヤがない」などの破綻する部分を真っ先に削り,次に絵としてつまらないものを削り落としていく作業を繰り返してデザインを突き詰めていく。この削り落としを繰り返す部分でプロシージャルが有効であるというのだ。
プロシージャルであれば多くの可能性を簡単に生成して示すことができ,アーティストはその中から最適なものを選択できるということだろう。手作業だと1個ずつ回すガチャも10連でやれば効率的になるようなものだろうか。
こういった手法はコンピュータによって自動生成されたバリエーションから選択していくことで,人手では到達できないようなものを作り上げるというジェネレーティブデザインの考え方にも通ずるものがある。
純粋にデザイン的なものということからか,とくに定量的な評価による最適化過程などは含んでいないようだったが,アーティストのセンスだけで選んでいく過程が効率化すれば,それだけ多彩で高品質なものが期待できる。
今回はハードサーフェスに限定したノウハウが公開されていたが,メカ以外にモンスター的なものにまで有効な手法であり,応用範囲は広そうだった。今後,さらに分野や方向を拡大した知見が蓄積されれば,デザインの現場は大きく変わっていくことになるのかもしれない。