[TGS 2019]Oculus Questは,VRの起爆剤となるのか? TGSフォーラムでキーマンがVRの未来を思い描く

[TGS 2019]Oculus Questは,VRの起爆剤となるのか? TGSフォーラムでキーマンがVRの未来を思い描く
 2019年9月13日,東京ゲームショウと併催されてた会議型イベント「TGSフォーラム」では,「スタンドアロンHMDはVRマーケットの起爆剤になるのか?」と題したセッションが行われた。登壇するのは,Oculus Questを開発したFacebook TechnoogiesのOculus VR(以下,Oculus)から,クリス・プルエット氏,Questをはじめとした多くのデバイスにVRアドベンチャー「Last Labyrinth」を開発する,あまたの高橋宏典氏,そしてバンダイナムコアミューズメントで,VR ZONEやMAZARIAを展開する小山順一朗氏田宮幸春氏という面々だ。モデレーターは日経XTECHの東 将大氏が務めた。

左から,日経XTECHの東 将大氏,Oculusのクリス・プルエット氏,あまたの高橋宏典氏,バンダイナムコアミューズメントの小山順一朗氏と田宮幸春氏
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Questで仕掛けるOculusのVR展開


 セッションの前半では,プルエット氏によるプレゼンテーションが行われ,後半では参加者によるパネルディスカッションが行われた。

 なお,プルエット氏は,Oculusに入る前はVRゲームの開発をしていた人物だ。GDC 2015ではRobot Invaderの開発者としてVRゲームについて講演していたのだが,TGS 2015ではOculusの社員としてTouchコントローラの紹介をしていた。
 現在は,VRコンテンツの制作者との窓口として,サポートとコンテンツのエコシステム構築を目指して働いているという。

 今回のテーマの主役はスタンドアロン型VRヘッドセット,つまりほぼOculus Questになるわけだが,プルエット氏は,Quest以前の同社がRiftとGoというハイエンドとローエンドの展開をしていたことについて語った。GoはVRへのアクセスを簡単にすることを主眼に開発されたものであり,Riftはクオリティ重視のハイエンド機種だ。当時,Facebookで問題にされたのは,VRで大切なのは価格なのかクオリティなのかという点だったという。3DoFでいいのか,6DoFが必要なのか。当時の人気コンテンツにゲームに次いで旅行というものがあったが,ゲームができるスペックは必要なのか。

 元々,Riftはハイスペックで,ゲーマーを前提としている。そもそもかなりハイスペックなゲーマー向けPCをすでに所有していることが前提だ。当然ながら,コンテンツの主力もゲームとなる。

RiftのCMはゲームをテーマにクールさを強調して作られている
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 一方のGoは,誰でも扱えるデバイスを目指したものであり,一般人を対象としている。ゲームよりは,VR的な体験や動画などのコンテンツが前提とされていた。Facebookという会社はテストをしないと信用しない会社だそうで,GoとRiftの市場やユーザー動向が調べられたわけだ。


 で,調査の結果Facebookの出した結論は,価格もクオリティも「両方必要」というものだった。
 そして求められているコンテンツはゲームであり,「ゲームでないとダメ」だということが分かった。上記の「旅行」についても調べたところ,外国などにVRで旅行したいというよりも,実際には行けないところに旅行したいというニーズが強かったのだという。行ってみたい旅行先が「宇宙」では,用途はゲームとほぼ変わりがない。

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 また,ゲーマーにもいろいろいるが,Facebookではゲーマーを分類し,VRの認知度や消費傾向などを調べている。図のように,コアゲーマー,ミドルゲーマー,モバイルゲーマーなどに分けているのだが,そこにストーリー重視派という分類を加えているのが面白い。一般的に言うと,ライトゲーマーという単語が入りそうな位置ではある。あえてストーリー重視派という呼び方にしているのは,好むゲームの傾向がそれだけ顕著なのだろう。

 Facebookは,コンシューマゲーム機のような位置付けとなるVR専用機を投入することで,大きな集団を構成しているこの層を取り込むことができると考えているようだ。

 こうして「価格」と「品質」を両方備えることを余儀なくされ,VRデバイス界でのコンシューマゲーム機の位置付けを目指したQuestは,スタンドアロン型ながら6DoF必須,コンテンツはゲーム寄りのところを目指して作られることになったようだ。

 Questの特徴は,無線(ケーブルレス)であること,6DoFのモーショントラッキングに対応していること,そして「手」だという。VR空間での手の存在が非常に重要だとプルエット氏は強調していた。かつて,DK1やDK2などで,VR空間に没入するという視覚体験が実現したときに,誰もが待望したのが「手」だった。現実のように見えるようになったものに「触りたい」という欲求が高まったのだ。

 思えば,プルエット氏と出会ったのも,確かTGS 2015でTouchコントローラを紹介されたときだった。デモがとてもよかった。手そのものではないが,ちゃんと手として使えることに思わず笑ってしまったのを覚えている。当時,VR用のコントローラでOculusは出遅れていたわけだが,TouchはPS MoveやViveコントローラよりも確実に一歩先を進んでいた。

 Questに同梱されているTouchコントローラは,ヘッドセット側のカメラからの認識に対応するため形状が変更されているが,基本的には,オリジナルのTouchコントローラと同じ性能を有している。VR空間内で両手が使えるのだ。これはVR体験を大きく強化する。

 加えて,無線……と書くとなんとなく違うものを連想しそうだが,ケーブルレス,紐なし,英語で言うとアンテザーなVR環境は実際のところとても快適だ。PC用のVR環境がそれまで面倒すぎたというのもあるだろうが,VR機器を使ってきた人ほど開放感を味わったのではないだろうか。セットアップの簡単さと紐なしの快適さがセットになっている。
 プルエット氏は,自宅でQuestを使って歩きながらゲームをする様子をムービーで示していた。Questのガーディアンってそんなに広く設定してもよかったんだ……。

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 このように,現在のVRデバイスで実現できる体験を,どれも最上位レベルで詰め込んだのがQuestというデバイスなのだ。Touchコントローラが片方8800円と計算し,スマホ+αの機能で,本体は3万2200円で,と考えると,Questの価格の異様な安さが分かる。Facebookの戦略製品なのだろう。

 続いてプルエット氏が展開したのは,氏の仕事に近しいソフトウェアに関するもので,ストアを開いてもなにを買えばいいのか分からないという問題だ。
 Oculusのストアは,Valveを除く同業他社よりは情報が多いとは思うのだが,VR専用に作られたタイトルは,(なにかのVR版でない限り)聞き慣れないものが大半であり,よく分からないタイトルを購入するのはちょっと怖いと思う人が多いようだ(すぐなら返品も可能ではあるが)。
 そこでOculusがQuestでは一定のクオリティコントロールを行っている。完成した作品を審査して「ダメです」とやるのはあんまりなので,作品を作る前にコンセプトの文書を提出してもらい,それをレビューして可否を決めるという方針だ。Quest用のソフトは一定以上のクオリティになるように担保するのが目的で,ここで開発にゴーサインが出たタイトルについては,Oculus側で技術サポート,ビジネスサポートを行い,とくにQAについては無料で請け負ってくれるという。

 ユーザー視点から見るとクオリティが保障されるというのはよいことだろうが,これはQuest用のコンテンツがなかなか拡充しない理由ともなっている。現在Quest用のソフトは104本(デモ版を含む)だ。そのうちの半分くらいは移植モノだ。個人的な感想では,RiftやGoでそこまで評判がよかったわけでもないようなタイトルが早々と移植されているのを見ると,クオリティコントロールが中途半端であるような印象もある。優良なオリジナルタイトルが順調に出てくるようになるまでは,デメリットのほうが多く出ている感じだ。まだエコシステムはちゃんと回っていない。プルエット氏は来年あたりには,Quest専用に作られたゲームが出てくるはずだと述べていた。期待しよう。

 さて,ここまでの話の多くは米国や欧州でのものだったとプルエット氏。
 日本ではオンラインでしか販売されておらず,基本インタフェースは日本語化されているものの,検索などは日本語でできないなど,ローカライズはまだ足りていない状況だ。それにもかかわらず,なぜか日本での売り上げが好調なのだという。Oculus Goも同じ傾向だったそうなのだが,Facebookでは日本は無視できない国だという認識が広がっているという。
 日本市場へのアプローチとしては,日本製のアプリの拡充が有効ということで,今後開発者のサポートをさらに広げていく模様だ。まず,開発ドキュメントの日本語化を年内に完了させる予定だとのこと。

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 また,同社のVR最新情報を伝えるイベント「Oculus Connect 6」が9月25日からサンノゼで行われる。講演の模様はストリーミングされるので興味のある人はぜひ見てほしいとのことだった。ただ,Unite 2019 Tokyoと丸かぶりな日程のため,リアルタイムでの市長は難しい人も多いかもしれない。動画は後日YouTubeに日本語字幕つきでアップロードされるとのことなので,ストリーミングで見逃した人はそちらで確認しよう。

 日本人の開発者がついてこないと日本市場は開拓できない。Facebookでは日本製のゲームは欧米でもよく売れるということが分かっており,同社としても力を入れていく模様だ。なかには日本製のゲームしかしない人もいる多いのだという。日本でしか実現できないゲームへの期待は高いようだ。
 「こんなゲームを作りたい」といった希望があれば,ぜひ前述のコンセプトドキュメントを送ってほしいとプルエット氏は語っていた。
 3ページくらいのドキュメントで,作りたいゲームの内容,キャラクターについて,チームについて,いつ頃どれくらいの値段で出したいのかといった基本情報をまとめて送ってほしいという。すべてが審査に通るとは限らないが,これが日本のコンテンツを増やすことにつながっていくのだ。


VRの現状:ロケーションベースVRはどうなっているのか


VR ZONEなどのプロデュースでお馴染みのコヤ所長こと小山氏とタミヤ室長こと田宮氏
 続くパネルディスカッションでは,VR市場の現状とQuestなどが登場してどのように変わっていくのかなどが議論された。

 最初の話題は現在のVRゲーム市場についてだ。
 まず,VRアミューズメント施設などのロケーションベースでの盛り上がりについてバンダイナムコアミューズメントの両氏に質問が行われた。バンダイナムコアミューズメントによる都内の何千人かを対象としたアンケートによると,9割はVRについて知っているという回答が得られたという。認知度自体はかなり上がっている。
 しかし,実際になんらかのVR機器や施設を体験したことがあるという人になると,わずか6%しかいないのだそうだ。VRという言葉が一般化したものの,体験はしていないにも関わらず「だいたいこういう感じでしょ?」という先入観ができあがってしまっているのが問題だと田宮氏は語っていた。

 バンダイナムコアミューズメントがお台場や新宿にVR ZONEを出したときには「VRを体験したい」という動機でアクションできる状況だったが,もはや「VRが目新しいから遊びに行こう」という雰囲気ではないという。「こういうことができる」というのが先にあって,その手段がVRだったという順番に変わってきているのだと小山氏は説明する。

MAZARIAの様子
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 小山氏はVRChatを例に挙げた。VRChatは本気で使おうとすると,VRにそこそこ詳しい人でも結構大変なのだが,実際にVRChatを楽しんでいる人たちには,ゲーム機やPCすれ持っていなかったような人がかなりいるのだそうだ。VRChatを始めるのに必要だから,ハイスペックPCやVRヘッドセットを買ったという順番であり,VR自体が目的ではない。
 重要なのはVRそのものではない。「どんな体験ができるのか」というコンテンツの内容が問われるようになってきており,デバイス自体はなんでもよいのだという。
 お台場,新宿に続く池袋のアミューズメント施設では,知名度の高い「VR ZONE」というブランドを捨てて,「MAZARIA」というVRを主張しない名称に変更されているのは,そういう理由もあるのだろう。


VRの現状:家庭用VRゲームでは?


 次に家庭用VRではどのような状況かが高橋氏に問われた。かつて「どこでもいっしょ」などを開発していた高橋氏は,いくつかのスタジオでの仕事ののち,2008年に独立して,あまたを立ち上げている。
 高橋氏は,2016年にVR元年と呼ばれた時期の勢いと比べると,普及度などはいまひとつという認識のようだ。ただ,さまざまなプラットフォームで合計1000万台程度にはなってきており,Steam VRのアクティブユーザー数などを見ても,減ることはなくゆっくり増えている状況である。結論として,時間はかかったものの,普及台数としてはポジティブな状況だと見ているということのようだ。

あまたでは,VRでのアドベンチャーのあり方を模索している。Last Labyrinthは,PS4,Rift,Vive,Win MR,そしてQuestにも対応予定だ
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 ではVRはどんな商品になればいいのか? 
 VRの用途はいろいろあるのだが,少なくとも現在はクオリティが高いゲームが望まれているとプルエット氏は語る。VRを知らない人に言葉で説明するのは非常に困難だが,よいコンテンツを一度体験させれば,一瞬で理解してくれる。そのような体験の機会を増やすことが重要だという。
 とはいえ,実地に体験させるのは難しいことも多く,VRの魅力を効果的に伝える手法として,氏はMR(Mixed Reality)による実況動画の有効性を挙げていた。Beat Saberは人気作品だが,その人気の一端は,実況動画にあるとプルエット氏は推察している。VR空間内の絵のみならず,実際に操作しているプレイヤーを表示させることで,その楽しさを伝えているというのだ。

 また,IPモノも有効だという。なんらかの作品で見知った世界観であれば,安心感があり,没入するのもそう難しくない。
 実際のところ,IPモノは有効だろう。個人的体験では「スター・ウォーズ」で思い知った。現在は「Vader Immortal」が人気だが,私が痛感したのは「Trials on Tatooine」でのことだった。1作めしか見ていない,ほとんどスター・ウォーズに思い入れのない私でも,「おお!」と思うようなスター・ウォーズ感があふれていた。IPは強すぎると当時は思ったものだ。


 ILMxLABが作った「本物」のビジュアルというのもポイントだが,ビジュアルよりも効果音やBGMが本物ということのほうが重要だったと思う。ライトセーバーをぶんぶん振っていると,それだけでそれっぽい気分になるのだ。
 有名IPの世界観には,それなりの説得力と安心感がある。導入機会を増やす「有名であること」自体も十分な強みだが,導入後の没入速度でも差が出てくる。行ったことのないところ,ありえないところに行きたいというニーズがある半面,旅行コンテンツも堅実な人気を保っているのは,逆に行っても安心できる場所というのも求められているのかもしれないとプルエット氏は語っていた。

 では,そんな世界に入り込みやすいコンテンツを作るコツというのはあるのだろうかというテーマで話は進められた。
 ハードを買ってでもやってみたいゲーム,つまり「スーパーマリオをやりたいからファミコンを買う」というくらいのキラーソフトがVRでも求められているが,刺さるものは人によって違うので,なんとかしてVRの特性を生かしたものを作るしかないというのが高橋氏の回答だった。まあキラーソフトを作ろうと思って作れるものなら誰も苦労はしていないので,とても正直な意見だろう。
 キラーコンテンツがどんなものになるのかは分からないが,VRの特性を生かすことは大前提という認識であり,会場ではVRの魅力についての話,とくにQuestで実現されるVRの魅力に話は移っていった。

 3DoFでは伝えられなかったものが6DoFでは味わえる,スタンドアロンだから,それを友達のところに持ち運んで使える,Questの魅力を小山氏はそのように伝えていた。これまでは,友達に見せるとしても,簡単なゲームや3D映画の予告みたいなものに限られ,VRってそんなものかと思われてしまっていたのだが,Questで6DoFでのデモを見せると,VRの世界に入っていけるという体験に対して,これまでとはまったく違った反応が返ってくるとのことだった。布教用ツールとしてのQuestは有能だ。
 田宮氏も,可搬性の魅力については同意し,Questを買ったおかげで初めて実家の父親に自分がどんな仕事をしているのかを見せることができたと語っていた。ちなみに,父親に最も喜ばれたのは,Oculusが提供しているQuestのチュートリアルだったという。

 ひょんなことから,「Oculus Rexチームの作ったデモはいいよね」という話題に移行した。最初に話題になったQuestのチュートリアルは「First Steps」と名付けられたもので,指示に従っていろんなものを操作し,ブロックを積んだり,紙飛行機を飛ばしたり,花火を打ち上げたり,ラジコンを操縦したり,ダンスをしたりとさまざまなVR空間内でのインタラクションを教えてくれるものだった。


 Touch発売時に公開されていた「Oculus First Contact」もRexチームによるものだ。こちらも,VR空間内でモノをつかむ,操作する,銃を撃つといった「手」の使い方を教えてくれるコンテンツだった。
 手が使えると,VR世界に入ったということの説得力が違ってくるとプルエット氏は語っており,登壇者は皆納得していた。


 イベントから大きく話はそれてしまうのだが,ぜひもう一つのデモ「Toybox」も紹介しておきたい。
 前述のように,Touchが初めて紹介されたときのデモも非常によくできていたのだ。それがToybox(のプロトタイプ?)だ。個人的にはOculusのデモで,一番衝撃的なのはこれだったと思う。内容は,Touchの機能を紹介するものであり,QuestのチュートリアルであるFirst Stepsと似たところも多く,位置付け的にはあまり変わらない。おそらく開発されたのは,Toybox→First Contact→First Stepsの順だ。


 Toyboxは,First Contactほど作り込んであるわけでもなく,要素自体はFirst Stepsほど多くないものの,よりサンドボックス的で,コミュニケーション機能が付いていたのが特徴だろう。First Stepsよりも広いテーブルにたくさんのものが置かれており,ガイド役の人(頭と手しかない)とボイスチャットをしつつ同じ空間で遊べるものだった。これが実に楽しいのだ。当時誰もがVR空間にあるものを手に取りたいと希求していたこともあってか,「デモが終わるとみんな笑顔」みたいな幸せ空間が作り出されていた。もちろん,当時でもPS MoveやViveコントローラでもトリガーでつかむようなことはできたのだが,「手」感覚ではなかったのだ。ディスカッション内で,抽象化が1階層なくなることは非常に大きいとプルエット氏は言っていた。まったくそのとおりだ。
 当時テクニカルライターだった新 清士氏がこのときのデモに衝撃を受けてよむネコを立ち上げたのは有名な話だ。同社がTouchコントローラを生かした作品作りを続けているのも,これの影響が強いのだろう。
 Toyboxは,リアルなVR世界とのインタラクトとコミュニケーションという,VRの未来を一足先に体験させてくれたデモだったのだ。

 閑話休題。
 ハンドプレゼンスの重要性についての熱い議論に続いて,最近になってLast LabyrynthのQuest対応を発表した高橋氏に,Questへの対応を決めた経緯などが質問された。
 高橋氏によると,やはりQuest対応を決めた理由としては,6DoFとハンドプレゼンスがサポートされていることが大きかったという。実は,Goが発売されたときも対応が検討されたようだが,VRならではの体験にはならないことが分かったので見送られている。この作品では,「手」が必要だったのだ。

会場で公開されたQuest版の映像より
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 さらに高橋氏は,Questは携帯ゲーム機に近い存在だと語っていた。一家に1台的なものではなく,「1人1台」の非常にパーソナルな製品だとみなしている。これは,持ち運んでどこででも使えることや価格などによるものだろう。VR自体が非常にパーソナルなものであり,それに応えることのできる製品であるQuestはヒットする可能性が高いと見ており,なんとか頑張って対応せねばということになったようだ。
 実際問題として,現在苦労しているところだそうで,今回のQuestを中心としたパネルディスカッションに参加する際も,ぎりぎりになってゲームのQuest対応を発表できたので,なんとか格好がついた形とのことだった。

プルエット氏がQuestで有効な高速化手法として紹介していた,Fixed Foveated Renderng。画面の中心部はフル解像度で描画するが,周辺部の描画解像度はだんだん下げていくという手法
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 PCやPS4用に作っていたゲームをモバイルGPUを搭載したQuestに移植するのは簡単ではない。やはり3D性能が劣ることは否めず,違いを感じさせないように最適化を進めているとのことだった。
 バンダイナムコアミューズメントもMAZARIAでQuestを使ったアクティビティとして,「パックマンチャレンジ」を展開している。その開発経緯について語られた。

 初めてプルエット氏からQuestのことを知らされたときに,小山氏はモバイルのチップ搭載にたいそうがっかりしたそうで,最悪「ドット絵でもいいよね?」と題材としてパックマンが選ばれたのだという。
 田宮氏からもフォローが入ったが,Quest開発の初期の頃から話をもらっていたものの,どこまでパフォーマンスを出せるのか分からないので,グラフィックス性能がそこまで出なくても体裁が整う題材としてパックマンが選ばれたのは間違いないようだ。プルエット氏からは「東京ドームくらいの広さで何人でも大丈夫」と言われていたそうだが,さすがに鵜呑みにすることはなく,「まず4人くらいで」と慎重なスタートとなっていた。

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 もちろん,パックマンはバンダイナムコを象徴するようなコンテンツであり,VRゲームの新展開で使われるのはなにも不自然なことではない。かなり余談だが,バンダイナムコグループの中にはCPO(チーフパックマンオフィサー)という役職も存在するくらいだ。IPを大事にすることでは他社を寄せ付けない。さらに余談だが,一般企業だと,CTOはチーフテクノロジーオフィサーなのだが,バンダイナムコグループのCTOはチーフたまごっちオフィサーだ。当然,CGOもいる。

 ただ,よい意味で期待は裏切られたようで,開発中に見せられた画像では「こんなに綺麗な絵が出るのか」と驚かされたとのことだった。
 Questでの開発については,(企画職の両名ではなく)開発は大変そうとのことではあった。モバイルチップなので限界はあるものの,昔ゲーム機の能力の限界が問題になっていたときに,いろいろ開発したことがある人なら,それを思い出してやれば大丈夫らしい,と田宮氏は表現していた。ちょうどPS2と3の間の頃の技術が生かせる感じで,テクスチャの描き方ひとつで綺麗に見せることができるといったような,かつての匠の技が再評価されているとのことだった。

これはOculusによる「Dead and Buried」の最適化事例。ハイエンドPCと同じというわけにはいかない。なお,Questには「Dead and Buried II」しか発売されていない
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 ロケーションベースのVRにQuestを導入することについては,上記のように苦労はあるができあがった体験の質の違いは大きいという。
 同社はこれまでのバックパックPCでのフリーロームVRをいくつか公開している。ドラゴンクエストVRなどがそうだ。それとQuestでは,自由に動けるという意味では同じなのだが,ウェットスーツに酸素ボンベを背負って行うスキューバダイビングと,水中眼鏡と簡単な吸気管で行うシュノーケリングくらいの差はあると田宮氏は例えていた。

 バックパックPCを背負って行うフリーローム型のVRアトラクションは,ある意味でVRコンテンツの頂点であり,VR世界に真に入り込む体験ができるものだった。ただし,それには機材や環境などへの投資が必要で,とても手軽に楽しめるものではない。
 それとほぼ同じものが,非常に手軽に一般家庭でもできるようになったということのインパクトは大きい。
 高橋氏もアンテザーなVRの魅力について,それまで家庭用VRで自由に動いているつもりだったのだが,実はケーブルを意識して遠慮しながら動いていたんだというのが,Questを使うと分かったと語っていた。これまでもある程度の範囲を自由に動くことはできていたのだが,ケーブルがないということで自由度が一段向上するのだ。

 ケーブルから解き放たれることの衝撃はVRに慣れていた人ほど大きいのかもしれない。日本にQuestが初めて届いたときに,プルエット氏は簡単なシーン内でオフィスの人の手を引いて部屋の端から端まで歩かせたそうなのだが,毎日VRをやっているような人たちがみんな声を上げたのだそうだ。
 バンダイナムコアミューズメントでも同様で,最初に届いたQuestは,Goのメニューのままのものだったという。本来は3DoF用なので,キョロキョロしかできないはずのものなのに,メニュー画面を置いてきぼりにしてどこまでも歩けるというのは衝撃的な体験だったと田宮氏は振り返る。
 こういった,もうVRで驚くことなどないだろうと思っていたような人たちでも,VR世界を歩くという新しい体験は非常に感動的だったのだ。


目指せ1億台! QuestでVRはどう変わるのか?


 このQuestのような端末が登場したことで,今後VRにどういう変化が起きるかというのが次のテーマだ。

 肝心のQuestの状況だが,現在は作っただけQuestが売れているので,天井がどこにあるのか分からないとプルエット氏は語る。まだまだ売り続ける必要があり,ユーザー層をもっと幅広くすることを目指すという。それがコンテンツの幅広さにもつながっていく。そういったエコシステムの構築はまさにこれから始める段階だそうだ。
 Questも1人に1台。そういった携帯ゲーム機のような存在になることで,開けてくる世界がある。
 脱線気味となるが,1人1台の時代になると「カラバリはいけますよ」と田宮氏。壇上ではカラバリを欲する人が続出していた。
 実際のところ,カラバリについては担当者に言ったことはあるのだとプルエット氏。ただ,言ったタイミングが製品発売直前で,担当者は1週間くらいほとんど寝ていない状況だったため,華麗にスルーされていた模様だ。

 カラバリに準ずる着せ替えカバーのようなものについてはOculusとしてはノーコメントだった。放熱などを考えると,メーカーとしてはお勧めしたくないものではあろう。
 Oculus製品は,かろうじてGoが真っ黒ではないものの,ほぼ無彩色のモノトーンである。カラフルなものがほしいといういう声は予想以上に上がっていた。

 続いて,高橋氏に対して,Questが普及すると家庭用VRゲームも変わっていくかという質問が行われた。
 高橋氏は,現状ではマルチプレイなどは対戦する人も多くないので難しいが,今後はトラッキング技術も進化して,実際に東京ドームで50人くらいのゲームも本当に出てくるのでないかと,これまでのゲームのスケールを超えた展開を予想していた。

 一方,ロケーションベースではどうかという問いに対して,業務用ではすでにマルチプレイも行われているが,単純にハードの価格がまったく違うのでメリットは大きいと田宮氏は語る。また,有線だと動き回るとコードの断線などでメンテコストがかかるので,Questのような機材は素直にありがたいとしていた。

 今後のVRへの期待を問われて,小山は所感を語った。曰く,氏はかつて「ゲームんp本質とは何なんだろう?」を自身に問うて,「心の美と健康」であるという結論を出していたのだそうだ。ただ,実際にはゲームをしているときは動かずピコピコやってるだけで,道程は遠い。
 しかし,実際に身体を動かすVRは,新しい美と健康をもらすものとして期待しているという。今後は長寿時代で健康価値は加速度的に高くなり,まったく新しい需要が生まれると予測していた。

 ここでプルエット氏は,知り合いがいきなり筋肉マンになっていたという話を持ち出した。なんでも手足にウェイトをつけてBeat Saberをやっていただけなのだそうだが,VRならインドア派のゲーマーでもムキムキマッチョになれるのだ(昔,Wiiのゲームでも似たような話はあったかもしれない)。

 プルエット氏自身は,次は「物語ゲームが流行るはず」というFacebookによるリサーチ結果を再度持ち出して,VRゲームの可能性語った。一般のゲームであれば,物語を語る前に,ゲーム世界に入っていることを納得させるために全精力を使う必要があるが,VRであればそれが一瞬で解決するという。そのうえでどんなゲームが構築できるか,今後のVRに期待を馳せていた。


VRの未来はどうなるのか? どうしていくのか?


 最後に,ゲーム以外も含めたVRの未来に対する展望が問われた。
 田宮氏は,ハードは進化するだろうが,理想系は何もナシの状態でVRが体験できることだと語る。ゴーグルはメガネと一体化して常時装着で……といったものはよく聞く話だ。しばらくはヘッドセットを小型化するのは大変かもしれないが,そろそろコントローラはナシでいいのではないかと,手そのものを直接認識する方式の早期登場に期待を示していた。現状だとHololensやMagic Leapなどがそちら方面では頑張っているところだ。
 今後VRが広がっていくためには,エンタメだけでは弱いだろうと田宮氏は語る。一度,ARなどで実用方面に振って,ビジネスや生活で便利に使えるようにして,普及台数を増やし,開発者も増えて,ノウハウも溜まった段階でエンタメに戻ってくるといった展開に期待していた。

 小山氏は,早くも定年後の生活を考えている。定年後さらに40年くらい生きるといったことを考えたときに,VRがあると楽しめることが尽きないといった考えのようだ。
 確かに,歳を取ってあまり動けなくなってもVR空間では関係ない。プログラマにToyboxなどをやらせると豹変する人もいるとかで,VR内での人格は現実のものとは関わりなく行動ができるのも魅力のようだ(オンラインゲームでも同じかもしれないが)。VRchatでカエルの姿になることの楽しさなどを熱く語っていた。
 VRコミュニティに大きな可能性を感じているようだ。VR内でものづくりもできるようになれば,社会に不可欠な基盤として確立されていくことも十分にありうる。老いも若きも関係なく,VR世界で生活できる。いろんな意味でセカンドライフな展開を期待しているようだった。

 高橋氏は,将来的にこういったものが当たり前のものになれば,いまどき「インターネットをやってる」という人がいないのと同じく,もはやVRやXRと呼ばれることはなくなるだろうと語る。
 氏が思い描く未来は,世界カメラや電脳メガネ的な方向のようで,ARクラウドの情報を現実にオーバーレイして見られるような世界が来るだろうと予測していた。もちろん,そこまでいくにはまだ何世代かハードウェアは進化する必要はあるだろうが,そういう世界を見据えてVRならではの体験を作っていかなければならないとする。

 プルエット氏は,技術の進化は続くので,さまざまなことが現実化するのは時間の問題だろうと語る。そのうえで,VRはなんのために存在するのかと意義を問うていた。答えは1つではなく,たくさんある。その1つはゲームであり,さらに1つは動画かもしれない。そしてさらに人と人をつなぐコミュニティの機能だと氏は語った。
 たとえばこのフォーラムのような講演をVRで参加できるようにするのは技術的に難しいことではない(Oculus Venuesなどか)。VRで旅行をするにしても,そこに住む人に会いたくなるものだと氏は語る。VR世界に自分しかいないというのは悲しいことだ。人と人をつなぐ技術としてのVRが重要だとした。
 ただ,対人向けの表現力では現在のアバターなどはまったく力不足だという。もっと感情をストレートに伝えられるような技術を求めているようだった。現在よりも遥かに高次元なところでVRコミュニティを構築できれば,VRは文字どおりバーチャルな現実空間として存在しうるかもしれない。VRは人と人をつなぐ技術として進んでいくとFacebook社員らしくまとまったところで講演は終了となった。