[CEDEC]5G時代に備えよ。キーマンたちが語る5Gの特徴とゲームでの可能性

 CEDEC 2019の最終日となる2019年9月6日,NTT研究所,NTTドコモ,時空テクノロジーズによる「5Gでゲーム作りはどう変わる? 〜そろそろ気にしておきたい5G最前線〜」と題する講演が行われた。5Gのサービス開始を来年に控えていることや,5Gはとくにゲームで有効に使えそうだという前評判が高いこともあって,会場には多くの開発者が詰め掛けていた。

 この講演では5Gとはどんなものか,何が変わるのか,実際にゲームで使ってみるとどうだったのかといったものが,日本の基幹的ネットワークを維持するNTTの本間俊介氏と代表的なモバイルネットワーク運営者のNTTドコモの石塚広樹氏,そしてゲームを作る側としての時空テクノロジーズの春日秀之氏の立場の違う3者からそれぞれ語られた。
 おそらくかなり噛み砕いて説明されていたのだろうが,説明のない略語も多く,知識のない人には無理っぽい内容も多かったので,ここではこちらでいろいろ調べつつ,さらに噛み砕いて概要を紹介してみたい。その分,情報の正確性は若干怪しくなっているので,あくまでも「こんな感じ」という程度で見ておいてほしい。

NTT研究所の本間俊介氏
 さて,まず5Gとはどういうものか。携帯電話の基本ネットワークは約10年ごとに大きく世代交代を繰り返しており,現状の4G(LTE)に続いて2020年くらいから実用化される次世代携帯電話ネットワークが5Gということになる。

 NTTの本間氏は,3つのメリットがあると語る。
 つまり,

  • たくさんつながる
  • 大容量・高速
  • 低遅延

といったものだ。この「3つの特徴」というのは,なにかと重要だったりするので覚えておこう。

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 これらにより,IoTなど無数の機器をつなぎっぱなしでも大丈夫になり,人が多いところでつながりにくくなったりといったことがおきにくくなる。高解像度のストリーミング動画などが滑らかに表示される。ゲームがストレスなく遊べるといった効能が期待されている。

5Gは10倍速く,遅延は1/10で,100倍つながる(理論値)
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 ただ,これらはすべてを同時に実現できるわけではないことに注意が必要だと本間氏は語っていた。つまり,「高速(広帯域)で大量に接続できて低遅延なネットワーク」が一度に提供されるわけではなく,前述の3要素のどれかを選んで,用途に合わせて使うといった感じだ。

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 無線部分がどうして速いのかといった話もされていたが,ここでは割愛する。周波数帯が広がったり,アンテナをたくさん使ったりという話は,Wi-Fi機器などでもだいたい同じことをやっているのだが,別に細かいことを知りたいという人も多くはないだろう。

 一般ユーザーにはあまり関係のない話かもしれないが,ネットワーク側の新要素を少し紹介しておきたい。5Gでは,従来は専用のデバイスを使って行っていた処理を,汎用サーバー内で仮想的に構築することで運用コストを大きく下げているのも特徴だとのこと。バーチャルなので,基地局の内部でいろいろと柔軟に対応できるのだそうで,前述の3つの用途別のパケットを最適に処理する際にも重要な役割を果たしているようだ。

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 無線部分は,周波数帯や通信方式で高速になり,今回はとくに語られていなかったが,基地局側で対応できる回線数が増えることで接続キャパシティも格段に大きくなる。これらの主目的となるのはIoT関連なのだろうが,多くの人を集めたイベントでの活用といったものも当然考えられる。ゲームだと積極的に指定することはなくても,1か所での多接続が指定可能だということは覚えておいたほうがいいだろう。


低遅延とは


 ゲーム業界的に最も気になるのが遅延に関する話だろう。
 今回はあまり話が出てなかったのだが,基地局と端末間の電波部分の通信遅延が理論上1ms程度に短縮される。4Gでは理論上10msなので,1/10になる計算だ。一般に語られることが多い5Gが持つ低遅延性能の話はこれである。

NTTドコモ 石塚広樹氏
 それ以外に5Gで,ゲームにとってとくに重要になりそうな特徴的な機能が2つある。それがMECとSliceだ。それぞれについて軽く紹介しておこう。

 MECは,基地局内の演算リソースを使って,従来クラウドサーバーで行っていたような処理を,近くの基地局内で行うためのものだ。データセンターの機能を多数の基地局に分散させるものである。いわゆるエッジコンピューティングのことだと思ってよい。処理するサーバーが物理的に近くなるので,ゲームの処理など,遅延を非常に嫌うようなものも,MECを使うことできわめて低遅延で通信処理を行うことができるようになる。
 近場にサーバーを置いてやれば応答が速いというのは分かりやすい話ではあろう。

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 もう一つのSliceはちょっと分かりにくい概念かもしれない。これはすでに説明したデータの要求属性,つまり「大容量を使いたい」とか,「低遅延がいい」とか,「接続数を増やしてくれ」といった要求ごとのパケットを,それぞれに適したように処理してくれるネットワークの仕組みだと思っておけばよいだろう。
 物理的なネットワークは変わらないが,論理的に目的ごとのネットワークを構築し,用途に最適化した処理をするといったものになるようだ。ちゃんと要求項目に従ってSliceを指定することで,無指定の場合よりよい結果が出せることは後半の実験のところでも紹介されていた。
 もっとも,「広帯域がほしい」と誰も彼もが要求しても,最終的には基地局の回線次第なので必ずしも要求が通るとは限らないわけだが,少なくともなにもしないよりは優先してくれる。

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 Sliceでは,そういった優先指定をSIMカード単位ないしアプリ単位で指定できるのだという。NTTドコモの石塚氏は,SIM単位での運用は現実的ではないだろうと述べていたが,すぐにアプリ単位でSliceが使えるわけでもないような発言もしていたので,もしかしたらしばらくはSIM単位で,将来的な拡張機能という位置づけなのかもしれない。

 とにかく,ことゲームで5Gの性能を引き出そうとするなら,MECとSliceの活用は必須になるという雰囲気ではあった。

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テストプログラムでの検証


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 それでは実際に5Gネットワークをゲームで使うとどうなるのかについて,3社で行われた実証実験(?)の話が紹介された。
 題材は「XR Ping-Pong」つまり平たく言えばVRでの卓球ゲームである。5G世代では,4G世代よりも細かなインタラクション性が求められるゲームにも対応可能なので,非常に素早い動きで遅延などにシビアな卓球が題材として取り上げられた。

 とはいえ,一流選手のスマッシュは初速50m/sにもなるそうで,さすがにそのクラスになるとゲームにならないので,普通の人が打つピンポン玉の平均速度を秒速7mと設定している。卓球台の長さは2.74mでプレイヤー間の距離は4.5mと想定されている。

 この設定だと,片方のプレイヤーが打った球は560ms後に相手のところに届くことになる。そして,プレイヤーの腕の長さやラケットの大きさから,プラスマイナス80cm,114msの範囲でなら打ち返すことができるという仮定してプログラムが作られた。

時空テクノロジーズ 春日秀之氏
 そのプログラムで行われたのは,遅延がどこまで大きくなったらゲームが破綻するかの確認だ。理論上限界の114msは,通信以外の処理もあるので,Ping値にすると85ms以下でないと成立しないというのが事前の推定である。

 テストは2種類の環境で行われた。1つは対戦者だけのネットワークでプレイヤー2人しか接続されない。もう一方は,観客を加えた構成で,VRで観戦する観客と固定カメラの映像をストリーミングで観戦する一般の観客という2種類が想定されている。

ラグの影響を調べる簡易型のネットワーク構成
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 このテストから,許容される遅延は100msまで,パケットロスは5%まで,ジッタ(遅延の揺らぎ)は10%までが限界であるという結論が導き出されていた。

ネットワークラグを隠蔽しない場合,どこまでがプレイアブルか
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 デモの様子として対比映像も提示されたのだが,おそらく「遅延が起きるとどんな感じに見えるのか」を非常に極端に示したものと遅延なしのものの様子だけで,100msの遅延とか5Gで想定される遅延での様子は(たぶん)提示されなかった。
 「遅延が大きくなるとゲームが破綻しますよ」ということで,遅延付きのデモでは,プレイヤーの横をボールが通り過ぎたかと思うと,おもむろに相手が腕を振って,気がつくとボールが打ち返されているといった事象平面の彼方の対戦が繰り広げられていた。おそらく普通のゲームなら,遅延がだいたい分かっていれば遅延時間も加味してボールが移動するように作るのだろうが,今回はあくまでもネットワーク遅延のゲームプレイへの影響の実証実験である。5Gの実証実験ではなかったのが残念だ。

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 なお,検索すればすぐ分かると思うが,現在の4G回線でのPing値はだいたい60msくらいになることが多いようだ。5Gなら最終段だけで18msは短縮されるはずなので,PC用の回線よりちょっと遅いかもしれないくらいの感覚でやればいいのだろう。今回想定されているPing値85ms以内というのは,かなり緩い想定のようだ。

 続いて行われた実験は,本格的なネットワーク上での動作のシミュレーションだった。テスト以外のパケットもたくさん流れていることが想定された環境で,実際のパケットを流し込んだ輻輳のある環境での,Sliceを設定した場合としない場合の例が示された。

ユーザートラフィックも引っ張ってきて,実運用に近い環境での実験が行われた
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 会場で公開されたテストのデモ映像を見る限り,Sliceを設定しない場合にはパケットロスもかなり出ているようで,相手プレイヤーの動きがカクカクでしか表示されない。ゲームとして使うのはちょっと無理といった映像だった。それに対して,「優先指定」や「低遅延」などのようなSliceを適切に設定してやると,ごく普通にゲームが進行していた。

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 結論としては,VRゲームでは遅延を100ms以内に抑える必要があり(VR屋さんからは異論が出るかもしれない),従来の4Gネットワークでは対応は難しく,5Gネットワークが有効であるとしていた。こういった話の前提として,MECやSliceの指定は有効というか,ほぼ必須であるように感じられた。

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 今後の課題・懸念として大きく上げられたのは,ネットワーク事業者間での差異が発生することだ。なんらかの標準化が必要になるのではないかとしていた。
 5Gを展開する側としても,ゲームというのは通信への要求がシビアで話題性もあり,応用範囲として魅力的に見えているようだ。なにより医療や自動運転などと違って,なにかあっても人命に影響がないというのが重要だという。
 今回のデモを制作した時空テクノロジーズによると,5Gのよいところは,とくに携帯電話だということを意識せず,一般的なPCゲームと同じ感覚でゲームを作っても大丈夫なところだという。ゲーム制作者側としては,ゲームを作りやすくなる環境だとも言えるだろう。

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 まもなくやってくる5Gでは,漠然と「ゲームが凄くなる」という世間の期待も高まっている。業界はそれに応えられるのだろうか。実際のところ,5Gを推進するNTTなどでもまだ見えないところも多いようで,どんな機能が必要かなどでゲーム業界の意見を求めているという。要望を挙げるならいまがチャンスだそうなので,5G時代を切り開こうというメーカーはコンタクトを取ってみるといいだろう。ちなみに,NTTドコモによるプレサービスは9月から開始される予定だ。

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余談


 今回の講演で,個人的に5Gについて分かったこともあるが,まだよく分からないことも残っている。

 5Gの構成図での「低遅延」の部分や実証実験のネットワーク構成図での「低遅延」パケットがどれもMECにつながっているのが分かる。やはり5Gのゲームでの低遅延というのは,MEC(エッジサーバー)を前提としたもののようだ。

 今回のデモもMECを前提としたものであり,長距離間での運用は想定されていないとのことだった。一般的なゲームを5Gで行う場合には,最終段の無線部分の遅延分しか改善されないという(それなりに意味はあるが)。
 MECでなくてもコアネットワーク内なら低遅延はある程度保証されそうなのだが,コアネットワークにつながるサーバーは,結局MECという扱いになるのだろうか。

 MECがあるのはコアネットワークにかなり近いところながら,外部業者のMECというのも可能なようなので,おそらく既存のクラウドサーバー業者が各地に分散クラウドを展開していくのだろう。携帯事業者ごとにいろいろ違っても,きっとクラウドサーバーのほうでなんとかしてくれるのだろう(頑張れクラウドサーバー業者)。そのほか,コストやカバレッジ,1MECあたりの人口なども気になるところだ。ネットワークの規模が変われば,実現できるゲームも変わってくる。なにか目安のようなものがあるといいのだが。

 5Gでは卓球ができるくらいの反応性が期待でき,オンラインアクションゲームも作れる。ネットワーク規模は不明だが,おそらくそんなに小さいということもないだろう。どういったことができるようになるのか,どう使うのかはアイデアが必要になる部分であり,ゲームクリエイターにはチャレンジングな分野になりそうだ。

 個人的に最大の問題だと思っているのは,現在のモバイルゲーム業界のソシャゲ&ガチャの収益性が高すぎて,新しいゲームプラットフォームを必要とするだろうかという点だ。モバイルゲーム各社は全体に下降気味だという話もあるが,高コストでリターンが不明な分野に投資するだろうか,ジャンル違いな分野に対応できる技術力があるだろうか。アクションゲームについてはコンシューマゲーム業者のほうが得意な分野だが,高いネットワーク技術も備えたところはそれほど多くないかもしれない。モバイルゲームやネットワークゲームも展開している大手コンシューマゲームメーカーが,5Gゲームの最右翼となりそうだ。
 とはいえ,開発者を集めて分かりやすいオンラインアクションゲームのようなものを全力で作っているソシャゲ業者などを見ると,すでに戦いは始まっているのかもしれないなと感じるCEDEC 2019だったりもした。