devcomに展示されたインディーズゲームから選ばれたdevcom NRW Indie Awardをレポート。1位はオランダのResistance Studio
ゲームの技術カンファレンスにインディーズゲームのブースが立ち並び,またカンファレンスの一環として展示されているインディーズゲームの中からアワードを選出するというのも,比較的一般的な慣習となってきた。
ドイツのケルンで開催されたdevcomにおいてもこれは変わらず,devcom NRW Indie Awardが発表されている(ちなみにNRWとはドイツを構成する10の州のひとつ,ノルトライン・ヴェストファーレン州のこと)。
本稿ではベスト3に入った作品3つのうち,3位と2位を簡単に,1位を詳しく紹介したい。
devcom NRW Indie Awardの結果は以下のとおり。
3位のJessika - Underneath the systemは,最も近いゲームを挙げれば「REPLICA」になるだろうか。謎のハッカーからの依頼でJessikaのPCへの侵入を行うことになった主人公は,実際のコンピュータの操作画面を通じてJessikaという人物の背景を調査していく。もともとは学生作品(参考URL)だ。
2位のMemorrhaは3Dのパズルゲームで,「The Witness」を思わせるスタイルの作品だ。美しいグラフィックが印象的で,自然と機械が入り混じった世界観が魅力的である。2019年9月28日にSteamでリリース予定となっている(参考URL https://store.steampowered.com/app/954080/Memorrha/?l=japanese)。
さて,では1位を獲得した「Pushy and Pully in Blockland」について,詳しく紹介しよう。
「Pushy and Pully in Blockland」を制作しているのはオランダのResistance Studioで,フルタイムで働いているのは3人だという。「日本の古いアーケードゲームが大好きで,ペンゴに着想を得て制作した」という本作は,レトロなドット絵で構成された2Dアクションパズルである。
制作者自ら「ペンゴに着想を得た」と語るとおり,ゲームシステムの根幹はペンゴそのままと言ってもよい。
プレイヤーはキャラクターを十字キーで操作し,大量のブロックが配置されたフィールドを移動する。フィールドには敵キャラクターも存在し,接触するとミスとなる(大変クラシックなことに,自機は3機までだ)。
フィールドに配置されたブロックは「蹴飛ばす」ことが可能で,蹴飛ばされたブロックは次のブロックにぶつかるまで床を滑っていく。こうして床を滑らせたブロックに敵キャラが巻き込まれれば,その敵を倒すことができる。ステージに存在するすべての敵を倒せば,ステージクリアだ。
「Pushy and Pully in Blockland」を面白くしているのは,ここで3マッチパズル(※3つ揃えて消す系パズル))の要素を組み込んだことだ。ブロックには3種類あり,ブロックを蹴飛ばした結果として同じ種類のブロックが縦か横で3つ連続すると,そこが特殊なアイテムに変化する。黄色いブロックは爆弾,赤いブロックは宝石,緑のブロックは特殊ブロックを発生させるのだ。
そして爆弾を蹴飛ばすと,爆弾はブロックと同じルールで床を滑り,何かにぶつかった段階でその周囲9マスを破壊する。敵だろうがブロックだろうが,おかまいなしである。
宝石はボーナス得点で,かなり大きめの配点となるのでハイスコアを狙うなら積極的に獲得していきたい。
特殊ブロックは,「蹴飛ばす」代わりに「持ち上げる」ことができ,持って移動をしたあと,好きな場所で「蹴飛ばす」ことができる。攻撃の起点が限定される本作において,攻撃の起点を自由に設定できるというのはとても便利だ。
もうひとつ,本作の大きなポイントとなるのはレベルデザインだ。
本作ではすべてのステージはデザイナーによって慎重に設計されており,比較的アクション主体となるステージから,ほぼ完全なパズル,そしてボスステージまで,さまざまなバリエーションが用意されている。
アクション主体のステージは「ブロックを蹴って敵を倒す」ことをアドリブでやっていても問題ないが,パズルが主体となるステージはそうも言っていられない。ブロックを適切に使わなくては「詰み」が発生することすらある。また敵にも様々な種類がある(ぼんやりと徘徊する敵・自キャラに向かってダッシュする敵・自キャラを見つけると目からビームを発射する敵など)ため,それぞれに応じた対応をしなくてはならない。
またボスは個性的な攻撃を仕掛けてくるだけでなく,ステージ全体に影響を及ぼすこともある。対ボス戦はほかのステージより確実に難易度が高く,プレイヤーの技術が最も要求されることになるだろう。
とはいえ,ゲームシステムを見るに,そこまで難しいゲームではないのではないか? と思う方も多いだろう。ここで効いてくるのが時間制限だ。
本作ではステージごとに設定された制限時間が0になるとUFOが出現し,レーザーで主人公を攻撃してくる。制限時間が0になったから即座にミスというわけではないが,UFOが出現してしまったらそう長い時間は持たないと思ったほうがいい。
しかるに本作では,なかなか制限時間がシビアに設定されている。ステージの構造に慣れないうちは,簡単にUFOを呼び込むことになるだろう。とはいえ,たとえUFOが出現しても,レーザー攻撃を避けきって敵を全滅させれば(UFOは倒せないし,倒す必要もない),それでステージはクリアだ。紙一重でステージクリアとなる場面も多く,すでにしっかりとテストプレイされていることが分かる。
ちなみに本作はタイトルが示すとおり,2人で協力プレイもできる。だが協力プレイといっても,最近の作品のように「仲間が敵に倒されたら,救助に行ける」といった猶予は与えられておらず,3機の自機を失ったプレイヤーはそこでゲームオーバーだ。
このあたりの割り切りは,むしろゲーム全体の見通しを良くしているように思える。
「Pushy and Pully in Blockland」はまだ開発中で,操作系に違和感が残る部分がある(十字キーでの操作がもたつく)。この問題については制作者たちも把握しており,改善に努めているとのことだ。またレベルデザインに多くの時間をかけているとのことだが,こればかりは本作の面白さを決定づけるファクターだけに,避けがたいだろう。
リリース予定としては,PC/PlayStation 4/XBox One/Nintendo Switchでの同時リリースを計画しているとのこと。Switchでのローカルマルチプレイにとても適した作品なだけに,期待したいところだ。
インディーズゲームの発表数は極めて多く,モバイルほどではないにしても「ゲームが埋もれる」問題はさんざん指摘されている。
それだけに,こういったアワードはとても有益だと,改めて今回のアワードを通じて痛感させられた。というのも筆者的には「Jessika - Underneath the system」こそ趣味に合致しているので注目していたが,1位を獲得した「Pushy and Pully in Blockland」は「よくある2Dドット絵のアクションパズルかな」程度の認識しかしていなかったのだ。しかしながら実際にプレイしてみると,本作は非常に練られた作品であるだけでなく,見た目よりはるかに独創性のあるゲームとして仕上がっていることが分かった。
こういった発見を個人で達成するのは非常に困難 ――とくに技術カンファレンスでは,セッション取材と並行して「すべてのインディーズゲームに触ってみる」のは不可能だ―― なだけに,アワードという形でそれを指摘してもらえる意義は非常に大きいと感じた。
アワードを出さない技術カンファレンスもあるが,願わくば参加者投票などを通じて簡単なアワードを出してもらえたほうがありがたいというのが,偽らざる感想である。
ドイツのケルンで開催されたdevcomにおいてもこれは変わらず,devcom NRW Indie Awardが発表されている(ちなみにNRWとはドイツを構成する10の州のひとつ,ノルトライン・ヴェストファーレン州のこと)。
本稿ではベスト3に入った作品3つのうち,3位と2位を簡単に,1位を詳しく紹介したい。
1位を獲得したのは「ペンゴ」リスペクトのアクションパズル
devcom NRW Indie Awardの結果は以下のとおり。
- 1位:Pushy and Pully in Blockland(Resistance Studio)
- 2位:Memorrha(StickyStoneStudio)
- 3位:Jessika - Underneath the system(TriTrieGames)
2位のMemorrhaは3Dのパズルゲームで,「The Witness」を思わせるスタイルの作品だ。美しいグラフィックが印象的で,自然と機械が入り混じった世界観が魅力的である。2019年9月28日にSteamでリリース予定となっている(参考URL https://store.steampowered.com/app/954080/Memorrha/?l=japanese)。
「Pushy and Pully in Blockland」を制作しているのはオランダのResistance Studioで,フルタイムで働いているのは3人だという。「日本の古いアーケードゲームが大好きで,ペンゴに着想を得て制作した」という本作は,レトロなドット絵で構成された2Dアクションパズルである。
制作者自ら「ペンゴに着想を得た」と語るとおり,ゲームシステムの根幹はペンゴそのままと言ってもよい。
プレイヤーはキャラクターを十字キーで操作し,大量のブロックが配置されたフィールドを移動する。フィールドには敵キャラクターも存在し,接触するとミスとなる(大変クラシックなことに,自機は3機までだ)。
フィールドに配置されたブロックは「蹴飛ばす」ことが可能で,蹴飛ばされたブロックは次のブロックにぶつかるまで床を滑っていく。こうして床を滑らせたブロックに敵キャラが巻き込まれれば,その敵を倒すことができる。ステージに存在するすべての敵を倒せば,ステージクリアだ。
「Pushy and Pully in Blockland」を面白くしているのは,ここで3マッチパズル(※3つ揃えて消す系パズル))の要素を組み込んだことだ。ブロックには3種類あり,ブロックを蹴飛ばした結果として同じ種類のブロックが縦か横で3つ連続すると,そこが特殊なアイテムに変化する。黄色いブロックは爆弾,赤いブロックは宝石,緑のブロックは特殊ブロックを発生させるのだ。
そして爆弾を蹴飛ばすと,爆弾はブロックと同じルールで床を滑り,何かにぶつかった段階でその周囲9マスを破壊する。敵だろうがブロックだろうが,おかまいなしである。
宝石はボーナス得点で,かなり大きめの配点となるのでハイスコアを狙うなら積極的に獲得していきたい。
特殊ブロックは,「蹴飛ばす」代わりに「持ち上げる」ことができ,持って移動をしたあと,好きな場所で「蹴飛ばす」ことができる。攻撃の起点が限定される本作において,攻撃の起点を自由に設定できるというのはとても便利だ。
もうひとつ,本作の大きなポイントとなるのはレベルデザインだ。
本作ではすべてのステージはデザイナーによって慎重に設計されており,比較的アクション主体となるステージから,ほぼ完全なパズル,そしてボスステージまで,さまざまなバリエーションが用意されている。
アクション主体のステージは「ブロックを蹴って敵を倒す」ことをアドリブでやっていても問題ないが,パズルが主体となるステージはそうも言っていられない。ブロックを適切に使わなくては「詰み」が発生することすらある。また敵にも様々な種類がある(ぼんやりと徘徊する敵・自キャラに向かってダッシュする敵・自キャラを見つけると目からビームを発射する敵など)ため,それぞれに応じた対応をしなくてはならない。
またボスは個性的な攻撃を仕掛けてくるだけでなく,ステージ全体に影響を及ぼすこともある。対ボス戦はほかのステージより確実に難易度が高く,プレイヤーの技術が最も要求されることになるだろう。
本作ではステージごとに設定された制限時間が0になるとUFOが出現し,レーザーで主人公を攻撃してくる。制限時間が0になったから即座にミスというわけではないが,UFOが出現してしまったらそう長い時間は持たないと思ったほうがいい。
しかるに本作では,なかなか制限時間がシビアに設定されている。ステージの構造に慣れないうちは,簡単にUFOを呼び込むことになるだろう。とはいえ,たとえUFOが出現しても,レーザー攻撃を避けきって敵を全滅させれば(UFOは倒せないし,倒す必要もない),それでステージはクリアだ。紙一重でステージクリアとなる場面も多く,すでにしっかりとテストプレイされていることが分かる。
このあたりの割り切りは,むしろゲーム全体の見通しを良くしているように思える。
「Pushy and Pully in Blockland」はまだ開発中で,操作系に違和感が残る部分がある(十字キーでの操作がもたつく)。この問題については制作者たちも把握しており,改善に努めているとのことだ。またレベルデザインに多くの時間をかけているとのことだが,こればかりは本作の面白さを決定づけるファクターだけに,避けがたいだろう。
リリース予定としては,PC/PlayStation 4/XBox One/Nintendo Switchでの同時リリースを計画しているとのこと。Switchでのローカルマルチプレイにとても適した作品なだけに,期待したいところだ。
どうしても埋もれがちなインディーズゲームを発掘するために
インディーズゲームの発表数は極めて多く,モバイルほどではないにしても「ゲームが埋もれる」問題はさんざん指摘されている。
それだけに,こういったアワードはとても有益だと,改めて今回のアワードを通じて痛感させられた。というのも筆者的には「Jessika - Underneath the system」こそ趣味に合致しているので注目していたが,1位を獲得した「Pushy and Pully in Blockland」は「よくある2Dドット絵のアクションパズルかな」程度の認識しかしていなかったのだ。しかしながら実際にプレイしてみると,本作は非常に練られた作品であるだけでなく,見た目よりはるかに独創性のあるゲームとして仕上がっていることが分かった。
こういった発見を個人で達成するのは非常に困難 ――とくに技術カンファレンスでは,セッション取材と並行して「すべてのインディーズゲームに触ってみる」のは不可能だ―― なだけに,アワードという形でそれを指摘してもらえる意義は非常に大きいと感じた。
アワードを出さない技術カンファレンスもあるが,願わくば参加者投票などを通じて簡単なアワードを出してもらえたほうがありがたいというのが,偽らざる感想である。