リアルタイムCGはプリレンダーよりも優れているのか?

Oddworld:SoulstormのLorne Lanning氏とBennie Terry III氏は,効率性と反復速度が今後の鍵だと語る。

 今年のElectronic Entertainment Expoでは,OddworldのチーフクリエイティブオフィサーであるLorne Lanning氏とエグゼクティブプロデューサーのBennie Terry III世氏が彼らの最新プロジェクト,Oddworld:Soulstormについて語った。しかし,彼らは自分たちのブースを持っていたわけではなく,またパブリッシャやプラットフォームホルダーに便乗していたわけでもない。その代わりに,彼らはUnityによってホストされていたのだ。UnityはSoulstormを構築したゲームエンジンだ。

 当然のことながら,彼らはテクノロジーについて話をしたがっており,それには十分な理由がある。結局のところ,Oddworldシリーズは高い生産価値の上に構築されている。Lanning氏とOddworldの会長,Sherry McKenna氏は,ハリウッドのビジュアルエフェクトハウスRhythm&Huesで一緒に仕事をしたあと,90年代半ばに会社を共同設立している。そして同スタジオの初期の作品はシネマティックなビジュアルとストーリーテリングの感性を際立たせていた。Abe's OddyseeとAbe's Exoddusは,PlayStation専用ソフトとして大いに宣伝された。それから,MicrosoftはOddworldをソニーから誘い,専用タイトルMunch's OddyseeでXboxの技術的優位性を引き立たせた。


 しかし,その後は物事が複雑になり,業界におけるOddworldの位置が変わっていった。その4番めのタイトル,2005年のOddworld:Stranger's Wrathは,Xboxの寿命の終わりに,Electronic Artsからのぱっとしないマーケティングプッシュを受けて開始された。PlayStation 2版も予定されていたが実現はしなかった。Stranger's Wrathは批評家の称賛を呼んだが,商業的には失敗だった。数か月後,Oddworldは開発スタジオを閉鎖し,映画とテレビに焦点を移した(関連記事)。 Oddworldは数年後にゲームに戻るのだが,それはもはやAAAのシステム独占販売ビジネスではなかった。

「Xbox 360 / PS3世代ではプロジェクトにゴーサインを出すことや,パブリッシャから資金を調達することは,本当に難しくなっていました」
- Lorne Lanning氏

 「私が業界で起こっていることに気づいたのは,プロジェクトにゴーサインを出したり,出版社から資金を供給してもらうことが,Xbox 360 / PlayStation 3世代では本当に難しくなっていたことでした」とLorne Lanning氏は語る。「ゲームの見栄えは上がり,アート資産のコストがより高くなっていることもあり,アニメーションの忠実度がより良くなければならない,照明がより良くなければならない,ハリウッドのアートディレクター,脚本家などを招かねばなりませんでした……。すべてがより複雑に,すべてがより高価になっていたのです」

 「開発者にとってインセンティブは減っていきました。なぜなら,それは誰もがより多くのユニットを販売しているという意味ではなく,ゲームがより高価になり,市場が乱雑になり,成功の可能性がより低くなり,より多くの時間とより多くのエネルギーがかかることになったことを意味していたからです。そして投資家にとってより高いリスクとなるため,しまいには取り引きはさらに少なくなることになるでしょう。それはまさに資本主義です」

 その大部分はクリエイターにとって過酷な環境であったため,同社はSoulstormの自己資金調達が可能になるまで徐々に道を築き,ゲームを新しいプラットフォームに移植し,Just Add Waterと提携して2014年のOddworld: New 'n' Tastyを開発した。 同スタジオ初となるゲームの現代的なリメイクだった。

 「私たちは小規模です。これは無駄がないという意味です,」とテリー氏はスタジオについて語った。しかし氏は同社がまだ予算内で「ほぼPixarレベルの品質 」を目指して努力していると付け加えた。これはスタジオとUnityのパートナーシップの到達点だとTerry氏は語った。エンジンメーカーがエンジンができることを最もうまく利用するように開発者を導くことにおいて「絶対的に器用」であったとTerryが言うように,それはUnityとのスタジオのパートナーシップが起こるところです。

 「ニアPixar」品質目標は,リアルタイムレンダリングの品質とプリレンダリングされたコンピュータグラフィックとのギャップが狭まったことで可能になっているとLanning氏は語り,そして大きな品質上の恩恵は今や急速な反復からもたらされてるものではない。リアルタイムグラフィックスは,プリレンダーされたものほど技術的には印象的ではないかもしれないが,変更を加えてそれがどのような影響を与えたかを見るために一晩待つ必要がなくなり,何度も何度も調整して更新できるようになることは,その差を相殺する以上の価値がある。

 「モデルとコンピューティングの効率性は,我々が手がけたムービーシーンを誰かに見せたときに,それがおそらくMayaで作られたのだろうと思わせるような場合に現れます」とLanning氏は語る。「しかし,そうではないのですが。それらはUnityでリアルタイムにレンダリングされます。そしてそうすることで,我々はセット上のライトをリアルタイムで調整し,パフォーマンスをリアルタイムで調整することができます。我々は別の考え方ではより時間がかかったであろう,すべての種類のものに適用することができます。映画をプリレンダリングしているのであれば,明日までそのショットを見るのを待っても構わないでしょう。しかし,我々にはそんな時間と効率はありません」

 彼はスタンリー・キューブリックについての冗談を思い出させた。:「7日めに神は言った,『休みましょう』。そして8日めに,キューブリックは変更のためにそれを差し戻した」

 「私は自分を完璧主義者とは呼んでいませんが,それは完璧主義者の本質です」とLanning氏は言います。 「彼らはただ微調整をし続けたいと思っています。彼らが迅速にそれらの微調整をできるほど,あなたが得られるものの品質は上がるでしょう。そこに到達するパワーがあればですが」

Lanning氏は,ムービー部分と同じアセットをゲームプレイに使用することには多くの利点があると言う
リアルタイムCGはプリレンダーよりも優れているのか?

 Lanning氏によると,リアルタイムレンダリングは,ゲームプロジェクトとほぼ同じアセットを使用して映画やテレビ番組を作成することが可能なところまできているという。Soulstormの場合,ムービーシーンのモデルとリギングは基本的にプレイヤーがゲーム中に見るものと同じだ。ゲームではカットシーンに高解像度のテクスチャマップを使うだけである。Lanning氏は,そのような統一されたデータセットを持つことは,ゲーム開発者に作品を他のメディアに取り込むための途方もないビジネスチャンスを与えると言う。

「我々がこのプロジェクトに投資しすぎた理由の1つは,このデータベースがメディアのさまざまな分野に相互受粉するという夢を共有しているためです」
- Lorne Lanning氏

 「テレビシリーズを見ると,データベースは連続的なので,リアルタイムはエピソードシリーズに最適です」とLanning氏は語る。「私はAbeを持っています。私は彼を次のショットに連れて行きます,私は彼に走らせるように言います,そして私は何も再アニメ制作していません……。しかし,ハリウッド用にパイロットフィルムを作るとしたら,それは安っぽいものになるでしょう。もしゴーサインが出たら,あなたはちゃんとコストをかけることができます。リアルタイム機能の問題は,パイロットが最も高価なことです。こうした知識とロジックをすべて組み込んだリアルタイムデータベースを構築する必要があります。フィルムデータベースよりも賢くなければなりません」

 その意味で,Oddworld:Soulstormのようなゲームを作ることは本質的に将来のテレビシリーズのパイロットを作るようなものだ。

 「このプロジェクトに投資しすぎた理由の1つは,このデータベースがメディアのさまざまな分野に相互受粉するという夢を共有しているためです。そこに着くために,あなたはどうにかして,その最初の高価なパイロットのコストを乗り越えなければなりません……。ですので,IPの連続シリーズに興味を持っている人と話すならば,我々はこれが引き継がれるだろうと言うことができます。我々はそのパイロットを作ることができます」

 これはLanning氏の新しい目標ではない。氏はトランスメディアの願望について決して黙っていなかったからだ(関連英文記事)。映画やテレビ業界は,ゲームからフィルムにアセットを再利用することの潜在的な利点について懐疑的だが,このアイデアのメリットに対するLanning氏の主張は揺るがない。

 「ジョージ・ルーカスは,それが分かっており,スター・ウォーズのころからのすべてのモデルを保存していました。それを帝国の逆襲に償却しています」と,Lanning氏は語る。「間違いなく作られた小さなTIE Fighterはすべて償却されたはずです。彼はそのようなものをすべて節約しました。なぜなら,1つのIPを継続して使用することの利点と,どうすれば物事を再利用できるかを理解しているからです。ハンナ・バーバラもこれを理解しており,FredとBarnieに同じシームレス絵を背景に1万回走り回らせていました。なぜなら,彼女たちはより経済的なよりチープなディズニーをやっていたからです。しかし,その壁は壊されなければなりません。低予算CGのようには見えないもので,誰かがそれを証明しなければなりません。」

 Lanning氏は,ゲーム技術がついに土曜の朝のテレビアニメの費用より一段上のリアルタイムCGテレビ番組を制作できるところまできたと信じている。Oddworldのように開発者が実行可能なビジネスの構築を助けることができているにも関わらず,Lanning氏は効率性と急速な反復が,AAA市場で増大する価格競争を逆転させる,もしくは単に制御下に置くためにすら何かができるとは考えていない。

「それをさらに次のレベルに引き上げるための創造性は,より多くの時間とエネルギー,リソース,そしてお金を必要とします。あなたの才能がツールを押し上げる必要があるからです」
- Bennie Terry III氏

 「あなたがトップを目指していても無理です。常に誰かがもっと速く,より良いものを欲しいと思いますから(安くはなりません)」とLanning氏は語る。「そして,能力があれば誰でも凄いことができるようになったとしても,軍拡競争は,誰がより安く,より速く再びできるかで繰り返されます。その点で,スピードは常に問題になります。データベースの作成,リギングの作成,これらの分野はすべて,より高度に最適化され,よりスマートになる可能性があります」

 Terry氏はさらに「軍拡競争自体には,簡単で民主的な技術であるため,より安価にするのに役立つ要素があります」と付け加えた。

 氏は,2000年代のRhythm&Huesでの自身の制限について指摘した。その頃は,コンピュータグラフィックスで光を使用するために非常に深いレベルで光がどのように振る舞うかを理解する必要があったのだ。

 「我々は,不気味の谷を越えようと,エンジンの不自然な挙動を除去するため何十年もの経験を駆使していました」とTerry氏は語る。「いまでは数個のボタンを押すだけでそのクオリティが入手でき,実行するのにグラフィックスエンジニアも必要ありません……。しかし,それをさらに次のレベルに引き上げるための創造性には,より多くの時間とエネルギー,リソース,そしてお金が必要です。あなたの才能がツールを押し上げる必要があるからです」

 その才能は明らかにどのプロジェクトにも大きな違いをもたらす。Oddworld:Soulstormで,Lanning氏は,現実的には実際の開発予算よりもはるかに多くの費用がかかるはずのゲームを作成するのに役立ったと語る。

 「我々には長い歴史があります。我々は確かなやり方でやってきており,我々は深く関わっています。そして我々は眠りません」と氏は語る。

 これは我々のインタビューの後半部分に続く。そこでは,Lanning氏が,クランチ(修羅場)と労働組合化についての見解について議論している。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら