[GTMF]GTMF 2019展示会場で見た最新ゲームツール&ミドルウェア動向

 2019年7月12日,東京・秋葉原UDX GALLERY/NEXT/THEATERにおいて「Game Tools & Middleware Forum 2019」(GTMF 2019)の東京会場でのイベントが開催された。
 GTMFは日本国内のゲーム関連ツールとミドルウェア業者を中心に,展示とセミナーなどを行う総合イベントで,毎年,大阪と東京の2か所で開催されている。今回は東京会場の展示の模様をピックアップしてお伝えしたい。

●Genvid Technologies
 元シンラ・テクノロジーというか,元スクエニ社長の和田洋一氏が参画した話題になっていたGenvid TechnologiesがGTMFに出展していた。
 Genvidの技術は,ゲームのストリーミング配信にイタラクティブ性をもたらすものだ。配信画面に映ったUIなどを視聴者が操作できるといったイメージだ。ゲーム自体の操作はできないものの,現在プレイ配信されているゲームでの,マップやパラメータなどを視聴者が確認できるようになる。それ以外に,ゲーム側が対応していればプレイヤーに対して声援を送ったり,マップ上にアイテムを出したりといったゲームに関わる操作も可能になるという。カウンターストライクの大会で使われて話題となったが,詳しくはこちらの記事が参考になるだろう。


 そもそもの発想は日本のゲームセンターに影響を受けたものだという。ゲームをプレイしている人の後ろにいるギャラリーもそのゲームを楽しんでいる。オンライン対戦やストリーミングではそういうことはできないかと考えて作られたのが,こういったシステムになる。
 カウンターストライクのように既存のゲームに対して機能を加えることもできるが,最初からこういった要素を考慮に入れてゲームデザインをすることで,これまでにないゲーム体験を作ることができるだろうと,タッチ機能を前提に作られたAngry Birdを挙げて説明していた。

 なお,Genvid対応のゲームバイナリは,普通のゲームのものとは異なるものとなるので,別途デベロッパなりパブリッシャなりが配布することになる。
 最初からGenvid対応のバイナリで市販すればよさそうな気もするのだが,ゲーム内の多くの情報にアクセスしうるバイナリではチートも懸念されるので,そのあたりはパブリッシャの判断に委ねるということらしい。
 ゲーム配信に視聴者側からの参加を可能にする技術は,どのような体験をもたらしてくれるのだろうか。日本語ドキュメントも揃っているとのことなので,気になる人は連絡を取ってみよう。

Genvid Technologies公式サイト


●オートデスク
 オートデスクブースではShotgunとMaya 2019のデモが行われていた。最新版Mayaでの見どころをアピールしていた。とくに目立っていたのはMayaだ。アニメーションなどの高速表示機能がアピールされていたのだ。
 「10倍速い」という高速化はキャッシュを使ったものだそうで,変換後のジオメトリをキャッシュするのではなく,途中の演算結果をキャッシュしておくことで実行時の演算負荷を下げる仕組みが用意されている。モードとしては,ビューポートなどを問わないもの,メインメモリにキャッシュするもの,グラフィックスカード側にキャッシュするものがあるようだ。


 グラフィックスカードにはQuadro RTX 8000など,48GBものグラフィックスメモリを搭載した製品なども存在するわけだが(うちのメインメモリより大きい……),そういったものをこれまで以上に活用できるようになる。
 これまではゲームエンジンに持っていって動作を確認するといったこともMaya上で完結するので作業効率は上がりそうだ。

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 今回の展示では,「あえて」GeForce GTX 1050搭載の薄型ノートPCが使われていたのだが(メインメモリは16GB),そのようなマシン上でもちゃんと動くことが示されていたのだ。
 そのノートPCで,1次反射のみのようではあったがArnoldレンダラーを使ったデモの実演が行われていた。ビューポート内のアニメーション表示でキャッシュを使わない場合は1fpsを切っていたものが,キャッシュを使うことで20fps以上が出ていた。メモリをもっと積み,さらにいえばグラフィックスカード側に大容量のメモリがあればはるかにスムーズに動くという。「メモリは食います」と念を押されたが,ハードウェアへの投資で目に見えた効率アップが図れるのなら検討する価値は十分にあるだろう。

Autodesk Maya製品情報ページ


●Too
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 Mayaつながりで,もうひとつ注目を集めていたのが,VR空間でMayaの操作ができるという「Marui 3」だ。
 通常のMayaの操作はすべてVR空間で可能になるという。さらに,TiltBrushのように,空間に手で線を引いたりといったVRならではの処理が追加されているという。これを使って生産性は上がるのかは多少疑問だが,実際に目の前で見ることで細かい部分のチェックは捗りそうだ。VR向けのプロジェクトであれば,いっそう効果的だろう。
 こればかりは写真や説明だけでは動作を紹介できないので,公式サイトにあったムービーを貼り付けておく。どんな感じで使えるものなのか参考にしてほしい。


MARUI製品情報ページ


●Photon
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 通信ミドルウェアのPhotonでは,新しい「Photon Quantum」が紹介されていた。Quantumは予測処理を行うことによって「遅延はゼロ」だと謳っている。
 通常はフレーム開始時にそれぞれの入力を受け入れて,それに従って処理を行うわけだが,このような投機的実行では,入力が届く前に予測値で処理を始めておき,入力が届いて間違っていたら巻き直すことになる。つまり最悪の場合でもこれまでの処理と変わらない? 
 ある程度安定した回線間での運用が想定されているのだろうが,予測が当たっている間は確かに遅延はまったく発生せず,レンダリングが反映されるまでなら予測が外れても齟齬は表面化しないのは分かる。巻き戻しでややペナルティはあるかもしれない。こういった処理が手軽に利用できるとオンラインゲームも変わってくるのだろうか。

国名は失念したが,国をまたいでの格闘ゲーム風デモ
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Photon Quantum製品情報ページ


●ダイキン
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 ダイキンが展示していた「Golaem」は,Maya用のプラグインで,映画の超大量モブシーンなどで使われる群集処理ソフトだ。人や動物など,さまざまな種類のキャラクターを多数配置してそれぞれを独立して動かすことができる。
 デモを見ると,次々と砦に押し寄せる軍勢,おそらく数万人はいる。条件によって動作を変えることができるようで,どこまで自動化されているのかは分からなかったが,砦に到達するとはしごをかけて登る様子などが示されていた。それぞれが自律的に動くというのがウリのようだ。
 基本的に映像用でゲーム用ではないのだが,ムービーシーンなどでは活躍しそうなツールである。おそらく映像用とだとは思われるが,一応Unreal Engine用のプラグインもあるという。


Goleam製品情報サイト


●東陽テクニカ
 展示会場入り口にあった東陽テクニカブースでは,Perforce関連製品を展示していた。主なものは3つ。HelixCoreは,かつてPerforceと呼ばれていたバージョン管理ツールだ。HanSoftは,Microsoft Projectのようなガントチャートによるプロジェクト管理ツール。そしてはCheckmarx CxSASTは脆弱性の静的解析ツールだ。
 Checkmarx CxSASTは,20種類ほどのプログラミング言語に対応し,複数の言語が混在しても大丈夫だという。
 とくにサーバーサイドのソフトウェアでは,脆弱性は非常に大きな問題となりうる。こういったツールを使うことで,事前にハッキングやチートなどを防ぐことができるのなら活用しない手はないだろう。

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東陽テクニカ ソフト開発支援製品情報ページ


●CRI・ミドルウェア
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 CRI・ミドルウェアでは,以前紹介したこともあるリップシンク用ミドルウェアとUnreal Engine 4に組み込まれたサウンドミドルウェアのデモが展示されていた。
 Unreal Engineで動いていたのは,場所によって環境音を切り替えることができるというものだった。ポリゴンで囲んだエリアごとに環境音を設定しておくと,そのエリアに近づくと音が聞こえるようになるという。
 たとえば,川にせせらぎの音を入れようとすると,従来は川沿いに点音源を多数設置しなければならなかった。今回の手法を使うと,エリアに指定された空間でキャラクターに最も近い位置にスピーカーが移動するような処理が行われるようだ。音が聞こえる範囲も別途設定できる。洞窟内ではくぐもった音が響いたりといった表現もできる。距離によってブレンドされるので複数の音源を設定しても不自然に聞こえることはないだろう。

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CRI・ミドルウェア公式サイト


●Epic Games Japan
 Epic Games Japanブースでは,Unreal Engine 4.23で追加される「Unreal Insight」の様子がデモされていた。これは,Unreal Engineで実行されるプロジェクトの処理にかかる各部の実行時間を可視化して最適化をサポートするツールである。プレビュー版の公開が7月10日なので,大阪では展示されてないと思われる出たばかりの新機能だ。
 画面では,単純なテンプレートのプロジェクトで,関数単位にどんな処理にどれくらいの時間がかかっているのかが図示されていた。これまでにもログの出力を行うことはできたのだが,Insightはそれを可視化するツールとしてまとめられているわけだ。
 表示はスレッド単位になっており,時間軸を変えることで,細部を拡大してみることもできる。テストプレイの模様を記録しておいて,あとで分析することも可能だ。
 デモはPC上で行われていたが,今後はターゲットハードウェア上での実行時間を調べられるようにするような方策も考えられているとのことだった。まだ正式版という扱いではないが,Unreal Engineでのゲーム開発には非常に役立つ機能になりそうである。

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Unreal Engine公式サイト


●マイクロソフト
 マイクロソフトはモノビットエンジンと共同出展して,Hololensでのデモを行う予定だったのだが,当日のWi-Fi環境が悪く,デモは中止となっていた。
 ブースではAzure関連の展示がメインでGame StackやPlayFabなどが紹介されたチラシを配っていた。今回はあえてx-Cloudについて聞いてみた。Xbox用のバイナリに手を加える必要はないというのがウリ文句となっているが,本当にそうなのか? 改めて確認した。場合によっては微妙なタイミング調整が必要なものは出てくるかもしれないが,基本的にはまったく手を加える必要はないとのこと。
 ただ,接続が途中で切れた場合にどのようにするのかは現在も検討中だという。インスタントセーブの仕組みを入れるのか,自動で復帰できるようにするのか。ゲーム側に手を入ないという条件で最適な復帰方法を探るのは確かに難しそうではある。

Microsoft Game Stack