ゲームの世界を構築するための現実とファンタジーのバランス
CroteamのNika Dvoravic女史が説く,Serious Samの開発現場で建築学が役に立ったこと,そうでなかったこと。
Nika Dvoravic女史が建築学を専攻していた当時,よもや実際には存在しない建物や世界をデザインする職業につくとは思っていなかった。だが,現在,ゲームデベロッパCroteamの環境アーティスト兼レベルデザイナーとして彼女が取り組んでいることは,まさにそれにほかならない。Serious Sam 4の開発では,学業経験と最新のテクノロジーの両方を駆使して,シリーズ最大の世界観を構築しようとしている。
さて,意欲ある建築家はいったいどういう経緯でゲーム業界に進んだのだろうか。年初に開催されたReboot Developで話を聞いたところによれば,3Dモデリング好きであることに由来するらしい。もともとアートと写真(とくに建築写真)への関心が高かった彼女は,すぐに情熱をもって取り組めることが何であるのか気づいた。
「まだ学生だった頃,自分の情熱は3Dのほうに向いていると気が付きました。当時は2008年,2009年のような3Dモデリングの黄金期でしたが,私の周囲ではまだ目新しいものだったので,最初から3Dを始めたのは私の大学ではまれでした。ほとんどの学生は手書きか,写真を撮る方法で設計をしていましたが,私はコンピュータでやっていました」
「私はそもそもゲーマー,そして,建築家なんです。ですから当初は,自分のスキルをModに生かしつつも,ゲーム業界でのキャリアはあまり考えていませんでした。単にそれがキャリアになるとは思っていなかったのです」
Croteamに就職したのは「ある意味,偶然」だという。2015年のRebootで,現在の上司を含むチームに出会い,すぐ採用されることになったという。
「Rebootで見て,考えて,『インディーズのゲームスタジオで,3Dで何かできるかも』と思ったんです。思いつきで,じゃあやってみようかな,という感じでした。当時,1年かけてポートフォリオを準備していました。フルタイムではありませんでしたが,いい感じのものができました。Croteamは私や私の方法論を気に入ってくれて,面白いと思ったようです。当時はCroteamのメンバーも時間があったので,いろいろ教えてくれて,結局,私はそのまま居つくことになりました」
彼女が手伝ったのは,現実的な建物と一緒に収まるような建築物を想像してデザインすることだったが,すぐに,ゲーム開発においては実世界の建築ルールを忘れなければならないことに気が付いた。
「それは私自身が新たに学ばねばならないものでした。『さあ,現実世界にあるもののような理にかなったものを作ろう』と考えたものでした。でも残念ながら,それではゲームプレイがつまらなくなってしまうのです。よいFPSを作るには何が必要なのかを学ばねばなりませんでした」
PCや家庭用ゲーム機のグラフィックスや計算能力が前世代に比べて向上し,多くのデベロッパは,ときにはタイトルに実世界の都市名をつけてまで,可能な限り最もリアルなエクスペリエンスを作ることに特化してきた。それは彼女の内にある建築家魂にも訴えかけるものがあるものの,今となっては,ゲームプレイを楽しくするのはファンタジーであると知っている。
「プレイヤーを導いていく場所,出てくる障害物,そういうものは現実世界にあるものをレプリカで作っても面白くならないでしょう」
「建築に興味があるすべての芸術家にとって,実存するものに基づいて何かを発明することは夢の仕事のように思えることでしょう。それはある意味,私のプロジェクトにはないフリーダムです。私にとって最大限の自由は奇妙で,SFチックな建物を設計することであり,それはそれで構いません。でも実際の建築とファンタジーの建築を統合したり,偽の歴史を作ったりするのはピンときません」
しかし,それは実際,楽しいものなのだろうか? もし Dvoravic女史がプロの建築家になっていたら,現実的で,構造的に健全なものを設計することに制限されていただろう。CroteamでSFやファンタジーのゲーム開発をすることは,建築技術的には不可能なものでも作れるということを意味する。
「ええ,楽しいですよ」と彼女は認める。彼女の仕事にあるフリーダムの素晴らしい例としてSerious Sam VRでのエピソードも紹介してくれた。
「レベルデザインとゲームプレイで,リーダーたちはほぼ完全な自由を与えてくれました。『惑星ごとに4つのレベルがあるから,デザイナーたちは一人一つ担当するように。もしうまくワークしなければちゃんと言うので,好きなようにデザインしてよい』と言ってくれたのです。そういう責任感は楽しいものです。自由にアイデアを思い描いて,もしそれが評価されれば「やってごらん」と言ってもらえる,それこそがCroteamなんです」
当然だがバーチャルリアリティは,スクリーンベースのゲームよりもプレイヤーをアクションに近づける。これはおそらく,レベル・環境デザイナーに一層強いプレッシャーをかけるだろう。ヘッドセットをしてバーチャルリアリティの中にいると,どんなに解像度が高いディスプレイでも目立たないようなミスや矛盾にも気が付いてしまうのだ。
「それは思いました。でもプレイヤーは攻撃を受けまくっているので,重箱の隅まで小さなミスや矛盾を探す時間はありません」とDvoravic女史は主張する。「私たちのゲーム開発ではそれぞれのレベルが卓越していますから,ミスがある場合は遅かれ早かれ誰かが気付くでしょう。そして,モデルを作成するときも極めて優秀なスタッフばかりで,すべてのベースをカバーしているので,ミスは多く発生しません」
「それぞれのデザイナーが自分たちのレベルをテストしたり,プレイテストもして微調整していたので,このプロジェクトはうまくいきました。VRと通常のゲームの視点は異なるので,画面で見るとよくても,ヘッドセットを装着するとすごくぎくしゃくして見えてしまうこともあり,勉強になりました」
Serious Sam 4の開発の進行と共に,Dvoravic女史とチームの作業を助ける新しい技術も出てきた。リアリティとファンタジーの建築的に絶妙な組み合わせを実現するものだ。例えば,フォトグラメトリ(写真から測定値を生成するプロセス) は開発のやり方を根本から変えたという。この技術はクロアチアの小さな町を訪れ,そこにある古い石造りの家を何軒かスキャンするのに使われた。
「私たちは10軒ほどの家をフォトスキャンし,そこから20軒の家を作って,[別の村を作るために]それらを並べ替えました。E3のテック・デモに参加したときに紹介しましたが,いいでき上がりで,本物のように見えました。テクスチャをペイントして組み合わせるだけではそうはいきません」
「また,私たちの新しい技術である地形エンジンは,実世界の景色を手に入れたことを意味します。例えばこのような丘があります」と言って,彼女はRebootが開催されていた,山が迫るクロアチアの海岸線で手を振った。「簡単です。私たちにはデザイナーとアーティストがいますから,ちょっとブラシをかけて『そうだ,丘はこれくらい大きくしたい。ここに何本か木がほしい』といえば,プロシージャルに生成された木や草が生まれます。木がほしいところにわざわざ木のモデルを置く必要はありません。『ここに森がほしい』で大丈夫です。これでデザインのプロセスは大いに簡略化されます」
Nika Dvoravic女史が建築学を専攻していた当時,よもや実際には存在しない建物や世界をデザインする職業につくとは思っていなかった。だが,現在,ゲームデベロッパCroteamの環境アーティスト兼レベルデザイナーとして彼女が取り組んでいることは,まさにそれにほかならない。Serious Sam 4の開発では,学業経験と最新のテクノロジーの両方を駆使して,シリーズ最大の世界観を構築しようとしている。
さて,意欲ある建築家はいったいどういう経緯でゲーム業界に進んだのだろうか。年初に開催されたReboot Developで話を聞いたところによれば,3Dモデリング好きであることに由来するらしい。もともとアートと写真(とくに建築写真)への関心が高かった彼女は,すぐに情熱をもって取り組めることが何であるのか気づいた。
「私はそもそもゲーマー,そして,建築家なんです。ですから当初は,自分のスキルをModに生かしつつも,ゲーム業界でのキャリアはあまり考えていませんでした。単にそれがキャリアになるとは思っていなかったのです」
Croteamに就職したのは「ある意味,偶然」だという。2015年のRebootで,現在の上司を含むチームに出会い,すぐ採用されることになったという。
「Rebootで見て,考えて,『インディーズのゲームスタジオで,3Dで何かできるかも』と思ったんです。思いつきで,じゃあやってみようかな,という感じでした。当時,1年かけてポートフォリオを準備していました。フルタイムではありませんでしたが,いい感じのものができました。Croteamは私や私の方法論を気に入ってくれて,面白いと思ったようです。当時はCroteamのメンバーも時間があったので,いろいろ教えてくれて,結局,私はそのまま居つくことになりました」
「『さあ,現実世界にあるもののような理にかなったものを作ろう』と考えたものでした。でも残念ながら,それではゲームプレイがつまらなくなってしまうのです」
Serious Samといえばド派手なアクションだが,近年フォトリアリスティックな環境に向かっているCroteamにとって,彼女の建築学に関する知識は極めて有用だった。その代表的な例が,SFパズルアドベンチャー「The Talos Principle」で,そこでは崩壊しつつある高架橋や遺跡などの景観が描かれている。彼女が手伝ったのは,現実的な建物と一緒に収まるような建築物を想像してデザインすることだったが,すぐに,ゲーム開発においては実世界の建築ルールを忘れなければならないことに気が付いた。
「それは私自身が新たに学ばねばならないものでした。『さあ,現実世界にあるもののような理にかなったものを作ろう』と考えたものでした。でも残念ながら,それではゲームプレイがつまらなくなってしまうのです。よいFPSを作るには何が必要なのかを学ばねばなりませんでした」
PCや家庭用ゲーム機のグラフィックスや計算能力が前世代に比べて向上し,多くのデベロッパは,ときにはタイトルに実世界の都市名をつけてまで,可能な限り最もリアルなエクスペリエンスを作ることに特化してきた。それは彼女の内にある建築家魂にも訴えかけるものがあるものの,今となっては,ゲームプレイを楽しくするのはファンタジーであると知っている。
「プレイヤーを導いていく場所,出てくる障害物,そういうものは現実世界にあるものをレプリカで作っても面白くならないでしょう」
「建築に興味があるすべての芸術家にとって,実存するものに基づいて何かを発明することは夢の仕事のように思えることでしょう。それはある意味,私のプロジェクトにはないフリーダムです。私にとって最大限の自由は奇妙で,SFチックな建物を設計することであり,それはそれで構いません。でも実際の建築とファンタジーの建築を統合したり,偽の歴史を作ったりするのはピンときません」
しかし,それは実際,楽しいものなのだろうか? もし Dvoravic女史がプロの建築家になっていたら,現実的で,構造的に健全なものを設計することに制限されていただろう。CroteamでSFやファンタジーのゲーム開発をすることは,建築技術的には不可能なものでも作れるということを意味する。
「ええ,楽しいですよ」と彼女は認める。彼女の仕事にあるフリーダムの素晴らしい例としてSerious Sam VRでのエピソードも紹介してくれた。
「レベルデザインとゲームプレイで,リーダーたちはほぼ完全な自由を与えてくれました。『惑星ごとに4つのレベルがあるから,デザイナーたちは一人一つ担当するように。もしうまくワークしなければちゃんと言うので,好きなようにデザインしてよい』と言ってくれたのです。そういう責任感は楽しいものです。自由にアイデアを思い描いて,もしそれが評価されれば「やってごらん」と言ってもらえる,それこそがCroteamなんです」
当然だがバーチャルリアリティは,スクリーンベースのゲームよりもプレイヤーをアクションに近づける。これはおそらく,レベル・環境デザイナーに一層強いプレッシャーをかけるだろう。ヘッドセットをしてバーチャルリアリティの中にいると,どんなに解像度が高いディスプレイでも目立たないようなミスや矛盾にも気が付いてしまうのだ。
「それは思いました。でもプレイヤーは攻撃を受けまくっているので,重箱の隅まで小さなミスや矛盾を探す時間はありません」とDvoravic女史は主張する。「私たちのゲーム開発ではそれぞれのレベルが卓越していますから,ミスがある場合は遅かれ早かれ誰かが気付くでしょう。そして,モデルを作成するときも極めて優秀なスタッフばかりで,すべてのベースをカバーしているので,ミスは多く発生しません」
「それぞれのデザイナーが自分たちのレベルをテストしたり,プレイテストもして微調整していたので,このプロジェクトはうまくいきました。VRと通常のゲームの視点は異なるので,画面で見るとよくても,ヘッドセットを装着するとすごくぎくしゃくして見えてしまうこともあり,勉強になりました」
Serious Sam 4の開発の進行と共に,Dvoravic女史とチームの作業を助ける新しい技術も出てきた。リアリティとファンタジーの建築的に絶妙な組み合わせを実現するものだ。例えば,フォトグラメトリ(写真から測定値を生成するプロセス) は開発のやり方を根本から変えたという。この技術はクロアチアの小さな町を訪れ,そこにある古い石造りの家を何軒かスキャンするのに使われた。
「私たちは10軒ほどの家をフォトスキャンし,そこから20軒の家を作って,[別の村を作るために]それらを並べ替えました。E3のテック・デモに参加したときに紹介しましたが,いいでき上がりで,本物のように見えました。テクスチャをペイントして組み合わせるだけではそうはいきません」
「また,私たちの新しい技術である地形エンジンは,実世界の景色を手に入れたことを意味します。例えばこのような丘があります」と言って,彼女はRebootが開催されていた,山が迫るクロアチアの海岸線で手を振った。「簡単です。私たちにはデザイナーとアーティストがいますから,ちょっとブラシをかけて『そうだ,丘はこれくらい大きくしたい。ここに何本か木がほしい』といえば,プロシージャルに生成された木や草が生まれます。木がほしいところにわざわざ木のモデルを置く必要はありません。『ここに森がほしい』で大丈夫です。これでデザインのプロセスは大いに簡略化されます」
※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)