ゲームを通じてよりよい世界を築き上げるには

RiotのSoha El-Sabaawi氏,MicrosoftのGabi Michel氏,Tru LuvのBrie Code氏,そしてUbisoftのKaitlin Tremblay氏は,業界と世界をよりよいものに変える課題と戦略について議論した。

 国際女性デーは明日なのだが(※記事掲載は3月7日),MicrosoftのWomen in Gamingイニシアティブは,Ubisoftの助けを借りて少し早めのお祝いをしていた。

 昨日,Ubisoft Trontoで各社が集まって「ゲームを通してよりよい世界を作る」というパネルディスカッションが行われた。これには,Riot Gamesのダイバーシティ&インクルージョンリードSoha El-Sabaawi氏, Microsoft DevicesのシニアハードウェアプログラムマネージャーGabi Michel氏,Tru LuvのCEO Brie Code氏が援助している。モデレータを務めたのは,Ubisoft Trontoのナラティブデザイナー兼Dames Make Gamesの共同設立者であるKaitlin Tremblay氏だ。

※ダイバーシティは,個人の多様性を認める方向性。インクルージョンは多様な人々が受け入れられる環境作りのこと。

 Tremblay氏はその夜のメインテーマに対処するのにまったく無駄な時間は使わなかった。それぞれのパネリストにとって,ゲームを通してよりよい世界を作るという考えがどういう意味を持つのかを聞いて回っていた。

 「私にとって,それは,業界としての我々は,世界に還元すべき社会的責任を負っているという事実を意味します」とEl-Sabaawi氏は語った。「もし,あなたがそれを認識していなければ,なにをやっても大きな影響は作れないでしょう。(Riotは)人々を集めて,単にゲームを楽しむだけでなく,ゲームをプレイしている間に実際になにかを学び取ってほしいと考えています。我々は人々を結集し,統合します。そして協力することを期待しています。しかしもし彼らの行う協力が,1日1日を美しく生きる方向でなかったとしたら,いったいどれくらいの協力を期待できるでしょうか?」

左からTremblay氏,El-Sabaawi氏,Michel氏,Code氏(写真:Jordan Probst Photography)

 MicrosoftでXbox Adaptive Controller(※身障者でもゲームを楽しめるように足でも使えるコントローラ)の開発を率いたMichel氏は,同コントローラのスローガンを紹介した。「誰もがプレイしているときこそ,我々みんなの勝利だ」だ。製作中はこれがチームのモットーを兼ねることになったという。

 「ゲームは社会的なものです」とMichel氏は語る。「それは人々にとって対話の手段であり,もしなんらかの理由で正常に対話できない人がいたら,彼らをゲームの中に誘うべきです。ゲームの中では彼らは(※健常者と)なにも変わりません。それが,私にとっての,いかによりよい世界を作れるかです。そしてそれに加えて,誰でも社会的側面を持つことができ,ビデオゲームの世界を共有できるインクルージョンでもあります」

 Code氏の回答はもう少し具体的だった。彼女はゲームデザインをアドレナリンベースの「fight-or-flight(戦いか逃走か)」のシナリオから,オキシトシンを作り出す「tend-and-befriend(思いやりと絆)」に変えていこうという試みについて話した。これは彼女がTru Luvの#SelfCareアプリで取ったアプローチでもある。それについては彼女が以前詳細にGamesIndustry.bizに語ってくれている(関連英文記事)。Code氏はこのような大きな変化の影響は投機的だど認めていたが,彼女はそれが最終的に現実世界でのプレイヤーの行動を変えてくれればと願っている。

※神経医学では,fight-or-flightは男性に多いストレスに対する反応,tend-and-befriendは女性に多い反応として知られている。tendは子供を守る行動,befriendは集団で結束する行動を表す。

 「ここで興味深いのは,私が一緒に働いていた神経学者によれば,我々はどちらのストレス反応が支配的になるかを培うことができるという点です」とCode氏は語る。「なので,もしあなたがfight-or-flightループに大いに晒されているのなら,生活でモノを支配しようとする反応をしがちになるかもしれません」

「(ダイバーシティやインクルージョンの取り組みでは)ほしいものをすぐ手に入れることはできません。なぜなら,あなたがやろうとしていることがどう役立つのか,3000人の人を説得しなくてはならないからです」
-Soha El-Sabaawi

 パネルがだいたい肯定的な論調で進んでいたのに対し,ほとんどのディスカッションはだいぶ否定的な文脈で行われていた。たとえば,文化を変えることや職業的な課題,個人的な成功に対する質問でのEl-Sabaawi氏の回答はすべてRiot Gamesの敵対的な労働環境との闘争,とくに昨年kotakuが詳細にレポートしたあとのもの(関連英文記事)に根ざしていた。

※Riot Gmaesにおける性差別の実態をレポートした記事。

 「業界にいるあなたがたの多くはご存じのように,Riotは昨年大きな変化を迎えました」とEl-Sabaawi氏語る。「これは実際,私の焦点を絞らせました。Riotに入った最初の頃,私は,誰もが貢献できるのだと感じられるような空間を作りたいと思っていました。現在では,ほぼNoといっていいでしょう。私が会社の一員である限り,私は誰もが心理学的に安全で最高のキャリアを得ることができると感じるまで休むつもりはありません。みんなのための部屋を作る背景はいつもこうです。そして今は,これが恩送り(※恩を受けた人以外に対して返すこと)のための瞬間なのかと感じています」

 その焦点にもかかわらず,El-Sabaawi氏は彼女の会社文化を改善しようという努力が均等に成功してはいないことを認識している。

 「(ダイバーシティやインクルージョンの取り組みでは)ほしいものをすぐ手に入れることはできません。なぜなら,あなたがやろうとしていることが彼らにどう役立つのか,3000人の人を説得しなくてはならないからです」と氏は語った。「なので,あなたは近道はどこ? 状態になります。もし私がすべてを変えられないのであれば,私が変え始められるところはどこでしょう? これは失敗とは限りません。なぜならあなたは自分が持っているものを使ってのみ取り組むことができるからです。とくに信頼を築き上げようと思っているときには」

 「我が社のような危機に至るまでの,失敗は我々が本当に空想的なディバーシティとインクルージョンの戦略を築いていたことです。しかし,実際には我々の文化の重要な部分をそれほど深く変えていたわけではなかったのです。それらは我々が手を触れてはいけないと思い込んでいた部分であり,永遠に続きそうなものでした。しかし文化は永遠ではありません。永遠であってはならないのです。もしあなたがそれに手をつけようとしても,あなたはそれが成長し,思っても見なかった形に進化するのを目にするでしょう。それでもそれは誇れるものなのです」

 ほかのパネリストも同様に,企業文化の問題に取り組むうえで重要な特徴として永続性を強調していたが,個人レベルでの取り組みの重要性に焦点を当てたものとなっていた。

 「文化は変えにくいものです。とくにMicrosoftのように大きな会社では」とMichel氏は語った。「なので特定の人が障害になるときにはときどき,私は彼らと1対1でやるようにしています。ただ人対人で向かい合って座るだけ……。ほんの30分,人対人で話すだけでなにができるかは驚きに値します。彼らを部屋から送り出すときには,彼らはなにかを証明しなければならないと感じているのです」

 Code氏は,そういった個人が,彼らの構成する文化のようなものを時間をかければ変えることができると認識することの重要性を指摘した。

 「誰かと最初に話すときには,彼らは惨憺たる問題を山ほど突きつけててきたり,本当にひどい言葉をかけるかもしれません」と彼女は語った。「そして,そのとき彼らが耳を貸さなかったとしても,大丈夫です。彼らを知るほかの人のところに行って彼らが何を考えているのかを聞いてみましょう。それからゆっくりと時間をかけて全体像を理解していきましょう」

「女性を雇いなさい。彼女たちと話しなさい。…… 彼女たちを参加させなさい。なぜなら,女性や境界上の人々は女性や境界上の人々がいないところには行きたがらないからです」
-Kaitlin Tremblay

 パネル後のQ&Aセッション中に,ある観客受講者は彼の会社では雇用問題でトラブルを抱えていると話した。そこで分かったのは,大学のSTEMプログラム(※科学技術工学数学の頭文字,平たく言えば理系)の女性はとくにゲーム業界での仕事を避けていることだった。なぜなら,よく取り上げられるハラスメント運動や頻繁にさまざまな会社でインクルージョンに苦戦していることが報道されるからだという。

 Tremblay氏は素早く回答した。「女性を雇いなさい。彼女たちと話しなさい。彼女たちを雇用プロセス,面談プロセスに組み込みなさい。彼女たちをゲームの擁護者にしなさい。彼女たちを代弁者にしなさい。彼女たちを参加させなさい。なぜなら,女性や境界上の人々は女性や境界上の人々がいないところには行きたがらないからです」

 El-Sabaaawi氏は,昨年のスキャンダルをきっかけに,Riotの戦略はなにが起こったのかについてすべての採用候補者に対して,直接的かつオープンになったという。

 「我々は採用担当者に,我々のよくないところと彼らがどのように感じているかに正直になりなさいと語っています」と彼女は言った。「そうして我々は担当者に会話を始めさせました。ですので,我々に関する記事が出てきたら,採用担当者はこう言うでしょう。「この記事は我々のことです。そしてこれは,あなたが会社に入る決断をするかどうかにおそらく影響するだろうと我々が認識しているということを知っておいてください」

 多くの就職者は正直さを評価していたと彼女は語った。そして最終的に同社に入社した何人かは彼女に,こういった会話が同社が改善に向けた正直な努力を続けていることを確信できたと語っている。

 「我々は非を認めます」とEl-Sabaawi氏は語った。「我々はそれが起きていなかったふりはしません。我々は改善すべき部分をいい加減にするようなことはしません。このレベルの正直さで始めるなら,少なくともこれが痛みや問題に感じられるのではないでしょうか。あなたは少なくとも,真実ではないものを売り込むのではなく,それに面と向かおうとするのではないでしょうか」

 しかしながら,Michel氏は,女性がゲーム業界に入る際に,彼女たちがそこに留まることを確信できなかったら,それはあまり引きにはならないことを強調した。

 「もっと大きなスケールで,とくに女性とSTEM分野では,女性を獲得しようとする動きが非常に多くありますが,女性をSTEM分野に留めるのに十分なところまできてはいません(変わり始めたばかりではありますが)。安全な文化を作ること,我々すべてが成功できるようにすることです」と氏は語った。「なぜなら,私がこれまでたくさん見てきたことだからです。たくさんの違った理由で,―文化,利益,家庭― 女性はSTEMを立ち去ります。そして帰ってきません。ですので,あなたは彼女たちを得るために,この作業をすべて行い,彼女たちを押し出すのです」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら