ハイパーカジュアルゲームにおけるプレイヤー獲得のベストプラクティス

 前回は,ハイパーカジュアルゲームの人気について紹介しました。今回は,そのハイパーカジュアルゲームでゲームパブリッシャが収益化を図る方法を紹介します。
 ご存じの通り,モバイルゲームの主な収益化には「アプリ内課金(IAP)」と「広告」の2種類のモデルがあります。このコラムでは,ハイパーカジュアルゲームとより相性の良い,広告による収益化モデルに焦点を当て,ユーザー獲得を実現するベストプラクティスをAppLovinの林 宜多が解説します。

ハイパーカジュアルゲームにおけるプレイヤー獲得のベストプラクティス


ハイパーカジュアルゲームと相性が良い“広告”


 一般にアプリ内課金のゲームは,ほんの一握りの大口ユーザーからの収益に依存しがちです。これは大口ユーザーがゲームをやめた場合などに大きな変動要因となることが避けられません。一方で,ハイパーカジュアルゲームを広告でマネタイズする場合,アプリ内課金と比べてビジネスリスクを減らすことが可能です。ハイパーカジュアルゲームは,分かりやすく,短いプレイ時間でも楽しめるゲームプレイが特徴のため,多くのユーザーを獲得でき,アプリ内課金のように,ある限られたユーザーだけからの収益に頼らなくてよいのです。
 広告モデルならば,少しずつでも安定的なペースでアプリのオーディエンス全体からの収益化を図ることが可能です。数百万人規模のユーザーに働きかける広告モデルは,決まったユーザーからしか得られないアプリ内課金に比べて,顧客生涯価値(LTV)で上回ります。

 つまり,広告で運用するハイパーカジュアルゲームは,そのユーザーの規模が勝敗の別れ目になり,見ようによってはアプリ内課金より熾烈な競争があるかもしれません。ハイパーカジュアルゲーム市場を生き抜くには,ユーザーの獲得と継続をし続けられるようプロダクト開発やABテスト,クロスプロモーションなどの柔軟なアプローチが求められるのです。


正しい広告フォーマットを選ぶ


 ハイパーカジュアルゲームの収益のほとんどが広告に依存していることから,デベロッパは適切な広告フォーマットを選ぶことがとても重要です。
 主な広告フォーマットには,動画リワード広告,プレイアブル広告,ネイティブ広告,インタースティシャル広告,そしてバナー広告があります。広告フォーマットの選定では,ABテストを徹底し,広告のフリクエンシー(接触頻度)の測定やローカライズなどを微調整し,常に最適な状態に保つことが大切です。

 最も一般的でインパクトが最大になる広告とは,コアとなる部分のゲームループが1回以上流れてからスキップ可能になるタイプの動画広告です。この方法は動画リワード広告の効果もかなり高く,動画リワード広告をうまく実装できます。ユーザーに実質的な価値を提供できれば、すぐに広告売上が30〜40%伸びる可能性もあります。

 もちろん,広告の目的は収益化だけでなく,(ユーザー獲得がゴールのプロモーションの場合は)ユーザーを獲得できなくてはいけません。この点からは,ユーザーがインストール前にゲームを試すことができるプレイアブル広告は,ハイパーカジュアルゲームで最適なユーザー獲得方法です。シンプルなプレイが特徴のハイパーカジュアルゲームでは,プレイアブル広告でのわずかな広告エクスペリエンスだけでユーザーの興味を引くことができるからです。米国のマーケティング調査機関のMarketing Chartsによると,プレイアブル広告は高いクリック率とインストール率を生むことが分かっています。

 また動画広告も,想定されるユーザーがゲームのコアの部分がどんなものかをダウンロード前に知ることができるため,効果的です。

ハイパーカジュアルゲームにおけるプレイヤー獲得のベストプラクティス

 このほか,ハイパーカジュアルゲームを多数抱えるパブリッシャならば,それぞれのアプリで収益化とユーザー獲得の機会を最大化するために,クロスプロモーションをうまく活用することをおすすめします。クロスプロモーションについては,次章で詳しく解説します。


競合アプリの広告を受け入れることも選択肢の一つ


 クロスプロモーションとは,2つ以上のゲームアプリが相互に広告を出し合うプロモーション手法です。

 複数のタイトルと豊富な広告在庫があるハイパーカジュアルゲームデベロッパならば,自社のゲーム同士でクロスプロモーションを実施することで効果的なユーザー獲得を継続できます。ユーザーのエンゲージメントの高いゲーム内の場面で,自社のほかのゲームアプリをプロモーションすることは効果的な手法です。

ハイパーカジュアルゲームにおけるプレイヤー獲得のベストプラクティス

 一方,自社のアプリで他社のゲームのプロモーションを行う方法もあります。一部のハイパーカジュアルゲームデベロッパはこの方法で,競合ゲームアプリの広告を受け入れています。敵に自社アプリのユーザーを送ることになってしまいますが,そもそもユーザーがほかのゲームを知らないということはあり得ません。ゲームを楽しんでいるユーザーなので,同じような競合のゲームにも興味を持つでしょう。つまり,自社には広告在庫の売り上げが発生する可能性が高いのです。少しチャレンジングに感じるかもしれませんが,AppLovinではこの方法もおすすめしています。

 したがって,多数のハイパーカジュアルゲームのユーザーが自社アプリをインストールしてプレイしていれば,競合のコンテンツの広告を受け入れるのも一つの手段です。ユーザーを競合に奪われるリスクはありますが,リスクを取るべきタイミングを認識することもユーザー獲得戦略成功のカギの一つなのです。


ハイパーカジュアルゲームのこれから


 ハイパーカジュアルゲームのユーザー獲得戦略における広告モデルの利点は,すぐに収益化が始められるところです。すぐに広告の収益化が始められれば,ユーザー獲得戦略を早々に最適化することができるため,ハイパーカジュアルゲームのユーザー獲得は比較的予算が抑えられます。

 収益化を始めるのは簡単ですが,ハイパーカジュアルゲームの成功という点では,ユーザー数がそのすべてです。そのため,ハイパーカジュアルゲームはダウンロードの有無で,パフォーマンスを計測します。この場合,リテンション率(継続率)やKPI(重要業績評価指標)は,あまり参考になりません。多くの収益を得るためには,最初は惜しまず予算を投資してダウンロード数を増やしていくことが大切でしょう。

 といっても,ハイパーカジュアルゲームがモバイルゲームのなかでは新しくニッチな分野であるため,将来的には,ユーザー獲得と維持の方法は,大きく変わってくるかもしれません。メジャーリーグを題材にした映画「マネーボール」で,資金力の弱い野球チームが選手の評価や戦略をデータで分析して成功したように,ハイパーカジュアルゲームにも少ない予算で多額の収益を得て逆転できる瞬間がいずれは訪れるはずです。動きの激しいユーザーを引き留めるために,あるいはユーザーの獲得をさらに飛躍させるために,ほんの少しならば余計に資金を投じる価値があるような手法があるはずです。現時点で最適な方法は,ゲームのタイトルを増やし,魅力的な広告体験を生み出すために投資し,自社ゲームのボートフォリオまたは競合タイトルと積極的にクロスプロモーションを展開することですが,今後どのように発展していくか注視していきたいと思います。

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林 宣多(はやし・のりかず)
AppLovin日本法人代表取締役。GREE,Yahoo! Japanでの広告プロダクト立ち上げ後,米国に拠点を移し,設立直後のAppLovinに参画する。AppLovin本社の営業責任者として事業の成長をけん引した後,2016年4月にAppLovin日本法人の代表取締役に就任する。