GamesIndustry.bizによる「私的」Games of the Year 2018

編集部のメンバーが選ぶ個人的お気に入り,サプライズ,そして,もっともがっかりだったタイトルを挙げる。

 年末恒例,ゲーム業界のライターが過去1年間にプレイしたすべてのゲームを振り返って,気に入ったものを読者の皆さんにお伝えする時節だ。

※本記事は英国版の昨年最終日に掲載されたものです

 2017年末は,我々GamesIndustry.bizにとっては珍しく,「ゼルダの伝説:ブレス オブ ザ ワイルド」が当サイトのゲーム・オブ・ザ・イヤーに選出されるべきだとスタッフの間で一致したが(関連海外記事),今年はそのようなコンセンサスはなかった。

 よって,当サイトとして一つのタイトルを選ぶのではなく,各ライターにそれぞれゲームを選んでもらい,2018年の最高のゲーム体験について書いてもらうことにした。The GamesIndustry.biz Podcastでは各ライターのセレクトについてより詳細にお聞きいただける(関連海外記事)。また,読者の皆さんが選ぶゲームをコメント欄でぜひ聞かせてほしい。



Christopher Dring


私的ゲーム・オブ・ザ・イヤー: Sea of Thieves
GamesIndustry.bizによる「私的」Games of the Year 2018

 生涯にわたりデベロッパRare のファンを自称する私としては「Sea of Thieves」を楽しむことは,もはや条件付けられている。バカバカしく,スタイリッシュで,面白く,美しく,昔風のモダン,そして素晴らしい音楽。同社を有名たらしめるこれらの要素に,このゲームはすべて当てはまる。

 同社がKinect向けのゲームを何年も開発した後に久しぶりにリリースしたゲームであり,同社にとって,いろいろな意味でこのゲームは返り咲きだ。

 リリースされたばかりの頃のSea of Thievesは間違いなく深さに欠けていた。ゲームの大部分を把握できるようになるまでさほど時間はかからず,そのコアループはすぐに繰り返しになった。年間を通じて,4つの大きなアップデートのほか,数え切れないほどの小さなアップデートを経て,Sea of Thievesはついに誕生した。乗り越えるべきチャレンジ,沈む船,追い払うべきメガロドン(編注:古代の超巨大ザメ),宝探し,クラーケン(編注:タコやイカのような巨大モンスター)からの脱出,やることや見ることが常に盛りだくさんだ。

「このゲームまた,現代のオンラインゲームへのアンチテーゼでもある。何時間プレイしても,ゲームが上達するわけではない。だから時間が限られている人にとっても,そうでない人にとっても同様にプレイしやすい」

 このゲームまた,現代のオンラインゲームへのアンチテーゼでもある。プレイヤーはより良い船,より良い鎧,より良い武器を手に入れることはできない(見た目がよりかっこいいものを選ぶことはできる)。何時間プレイしても,ゲームが上達するわけではない。だから時間が限られている人にとっても,そうでない人にとっても同様にプレイしやすい。そして,いつもそれが理由でDestinyのようなゲームをやり遂げられなかった,まさに私のような人間にとって,これは非常に魅力的なポイントなのだ。

 万人受けするゲームではないだろう。しかし,Sea of ThievesはXboxにとって大いなるAAAの賭けだ。今年発売された中でもっとも勇敢なゲームの一つであり,その人気は続くだろう。

選外佳作:ドンキーコング トロピカルフリーズ,スパイダーマン


最も驚いたゲーム:Doctor Who Infinity
 今年はたくさんの素晴らしいゲームをプレイしたが,慎重になりながらも本気でやったゲームの一つが,ふたを開けてみたらかなりいいものだった。「Doctor Who」シリーズの「Doctor Who Infinity」は小さなストーリーが詰まったパズル・ゲームだ。それぞれのゲームはジェム・マッチング(宝石のようなグラフィックスを連結する)のゲームプレイを特徴として,(著名な漫画家による)異なるコミックのスタイルとなっており,作者もすべて異なる。各ゲームの一部のキャラクターについては,実際にテレビドラマシリーズでその役柄を演じる俳優陣によるボイスオーバーもある。

 そう聞くとなんだか少し違うように聞こえ,そもそもDoctor Whoのゲームのこれまでを考えると,大した期待はしていなかった。しかし,デベロッパのTiny Rebelは,うまくまとめたと思う。このゲームはたくさんの賞を獲得するタイプのものではないが,ようやく私たちはDoctor Whoの原作本,コミック,テレビシリーズの世界観と一致するゲームに出会えたというわけだ。


最もがっかりしたゲーム:シャドウ オブ ザ トゥームレイダー
 リブート版のトゥームレイダー シリーズは大好きだ。トゥームレイダーと,ライズ オブ ザ トゥームレイダーはゲームタイトルの中でもとくに気に入っているタイトルだ。そして,率直に言って,アンチャーテッドよりもいいと思う(もう少しユーモアがあれば)。

 シャドウ オブ ザ トゥームレイダーはまあ良いゲームと言える。映像が素晴らしく,ジャングルや墓でのステルス要素が強化されたのもポイントが高い。だがしかし,過激なだけで,最初の2作を非常に魅力的にしていた感情や謎に関する要素が欠けており,繰り返しのセクションと新しいアイデアがないということで,せっかく幻想的だったララクロフト三部作にしては,かなり残念なフィナーレだった。


James Batchelor


私的ゲーム・オブ・ザ・イヤー: フローレンス
GamesIndustry.bizによる「私的」Games of the Year 2018

 私がどれほどこのタイトルを愛していたか,とても言葉にできそうにない。ほとんどのAAAのゲームでは40時間かかりそうな,より多くの喜び,創造性,独特のスタイルをたった40分でプレイヤーに届けている。「Less is more - 少ないほど豊か」の代名詞と言える。

 ゲームデザイナーKen Wong氏によるロマンチックなメイド イン ワリオ(WarioWare)は,思わず引き込まれるような関連性のあるラブストーリーを,言葉を使うことなく伝える。それぞれのミニゲームは,人生のさまざまな側面を表現するため,または物語にリズムを出すために使われる。ゲームのメカニズムはシンプルだが,文脈が深さを与える。会話のパズルがその典型的な例だ。そしてタッチスクリーンを通して登場人物と対話することは,あなたをより強く物語へと誘う。

「フローレンスはほとんどのAAAのゲームでは40時間かかりそうな,より多くの喜び,創造性,独特のスタイルをたった40分でプレイヤーに届けている。『Less is more - 少ないほど豊か』の代名詞と言える」

 アートが美しくて分かりやすく,音楽が心地よく,そして正しいペースで進むのがいい。それぞれのミニゲームを急いでやってしまわないように気をつけなければならないが(数秒の長さになるように設計されている),次に何が起こるのか,最後はどうなるのかが気になる。たとえそれが期待通りにならないかもしれなくても。それでも満足するのだ。Wong氏とMountainsのチームが次に何をくり出してくるのか今から待ち遠しい。

選外佳作:フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと(What Remains of Edith Finch)(確かにこれは2017年のゲームだが,私がプレイしたのは2018年に入ってからだった。良いゲームだった)

最も驚いたゲーム:Forgotton Anne
 単純化されたゲームプレイと安定したペースは,このゲームが,その(確かに印象的な)アニメーションのスタイルにやや依存しがちであることを示唆する。だがしかし,ゲームが盛り上がるにつれ,Forgotton Anneはプレイヤーを想像力豊かな冒険へと駆り立てる。

 パズルゲームのプラットフォームとスタジオジブリの映画を組み合わせたようなこのゲームで,プレイヤーは忘れられたモノたちが住む不思議なディストピアを探検する。登場するモノたちとどのようにやり取りするか,その道徳性は常に疑問の余地があり,その積み重ねで決まる結末で,最後はどちらを選ぶべきか,本気で迷ってしまった。

 声の演技は素晴らしく,インディーズのタイトルから予想するよりもはるかに優れている。そして,プレイヤーの最後の選択によってこの物語が伝えるメッセージは,所有物に対するプレイヤー自身の態度に根源的な疑問を投げかけてくる。

選外佳作:Yoku's Island Express,ピンボールを中心としたフンコロガシのメトロイドヴァニア,まさか私が欲しくなるとは思わなかった


最もがっかりしたゲーム:ハリー・ポッター:ホグワーツの謎
 好きなポイントはたくさんある。ゲームの構成はまるでプレイヤーをホグワーツの生徒のように感じさせる。映画と本,両方を網羅した内容は,このゲームの開発チームに超コアなハリーポッター・ファンがいることを示唆する。物語は魅力的だ。実際,私が想像していたよりもきちんと物語に即していた。そして謎を解きたいと心から思った。

「これはFree-to-Playタイトルなので,当然のことながら時間とお金の障壁がある。よって,私はあえて自分のペースで進めたいと願っている」

 しかし,私には無理だ。Free-to-Playタイトルなので,当然のことながら時間とお金の障壁がある。よって,私はあえて自分のペースで進めたいと願っている。

 ストーリーを進めるために,授業などの長さを踏まえつつスキルを一定のレベルに保たねばならないが,2年生でもう無理だった。フレキシブルさがまったくないのだ。例えば,8時間の授業を選択すればより多くのXPを獲得できる。そして最初にエネルギーを全部使ってしまった場合,回復するまでに最大3時間かかる。しかし,授業で星を5つ獲得するには,エネルギーはフルで3回分が必要だ。そのため,授業を終わりまで受けるためには,何度かログインし直さなければならない。

 このゲームのビジネスモデルが挟み込んでくるこれらの障壁がなければとても楽しいゲームになるはずなので,課金という選択肢が自分にあればいいのにと思った次第だ。

選外佳作:いまだにスパイダーマンをやっていないという事実……すみません,スパイダーマン。


Rebekah Valentine


私的ゲーム・オブ・ザ・イヤー:Minit 
GamesIndustry.bizによる「私的」Games of the Year 2018

 2018年は,私にとってAAAゲームをほぼ完全にやめ,キラリと光るインディーズの作品をプレイすることに集中する年となった。大きなゲームから小さなゲームへ飛び移ったきっかけは,一度のプレイにつき60秒で終わってしまうローファイでトップダウンの冒険,つまりMinitへの私の愛であることはなによりも明白だった。

 必要最低限のグラフィックス,短くはあるが一風変わった対話,そして不要な要素が一つもない環境は,Minitを輝かしいゲームの一例としている。プレイヤーが限られた時間でプレイを楽しむことをまったく邪魔しないのだ。明らかにこのゲームは,毎秒(プレイヤーは秒単位を思い切り意識することになる),プレイヤーがどのように動き,見て,そして反応するかについて慎重に配慮して作られている。決して十分な時間はないにもかかわらず,どういうわけか毎回ちょうど十分な時間がある。その結果,スムーズでやりがいがあり,スピーディな動きのループができあがり,私が操るアヒルのようなキャラクターが走り回っている間に私の頭もフル回転し,次のパズルへのルートを熱心に考えてしまう。

 Minitは,私が今までプレイした中で最もよくできたゲームだ。素敵なグラフィックスや100万のサイドクエストがなくても,きわめて強力なゲームコンセプトが核となっていればプレイヤーを十分楽しませることができるということが証明されている。

選外佳作: Celeste,GRIS,Forza Horizon 4,Hollow Knight


最も驚いたゲーム:Paratopic

「Paratopicは,一度プレイしてしまったら最後,ずっと頭に残るのだ。もう一度やらねばならないと思わせる」

 アメリカ中西部の真ん中で生まれた私が,Paratopic以前に,自分が育った場所を捉えたゲームに出会ったことは一度もないと言っても問題ないだろう。この奇妙で,落ち着かない短編は,PS1風のように見えつつ,あたかも,暇なときに見るつもりなくうっかり見てしまっただけなのに,その後ずっと頭から離れないホラー映画のようでもある。

 バードウォッチャー,密輸業者,そして暗殺者,3人の詳細については「満足できる程度に不満足」にしか語られることもないまま,それぞれの短いシーンが絡まり合い進んでいく。

 だが,ホラーにまったく興味を持っていなかったにもかかわらず,Paratopicは,一度プレイしてしまったら最後,ずっと頭に残るのだ。VHSテープに秘められた謎物語や奇妙な赤い鳥,森の中の不気味な影に込められた意味を掌握することを願って,もう一度やらねばならないと思わせる。このゲームの不気味極まりない親しみやすさ,巧妙なストーリー,そしてゲームで何ができるかについての素晴らしいアイデア(噴き出すケチャップのボトル! 対向車も人もいない道路をひたすら運転しながら,二つのラジオ局を代わる代わる聴くしかない!)は,今や当たり前になった銃撃戦や,驚きもしないホラー演出で溢れるゲーム業界にとって真に目新しいものだった。


最もがっかりしたゲーム: Where the Water Tastes Like Wine
 Where the Water Tastes Like Wineの最初の数時間は,まるで大学のアメリカ文学の授業のように楽しかった。民話,フロストの詩(編注:アメリカの詩人ロバート・フロスト),そしてマニフェスト・デスティニー(編注:Manifest Destiny,米国西部開拓の標語)。単にどう物語を語り,どのように展開するかという面では,ゲーム業界でもっとも素晴らしい話法でGood Shepherd(良き羊飼い ※キリストのこと)の物語は人生とその悩みを良く捉えていると思う。
 しかしゲームプレイが問題だ。いくつものナラティブが織りなす物語の折り目で,私は,動きが遅いガイコツ姿の主人公を引きずり回した。がらんと広がるアメリカの地図は地方ごとにトーンが変わる,だがしかし,ずっと同じ音楽(ただ音楽自体は素晴らしいものであることは認める)に合わせて数時間さまようことになったのだ。そして,話を進めるためにまたとぼとぼと歩いていかねばならない。

 Where the Water Tastes Like Wineは,プレイヤーが物語そのものをどう体験するかという点を犠牲にしてしまっている。短いストーリーを集めたものだったらもっと良かったと思う。


Haydn Taylor


私的ゲーム・オブ・ザ・イヤー: The Banner Saga 3
GamesIndustry.bizによる「私的」Games of the Year 2018

 80年代の漫画を彷彿とさせる美しいアートワーク,巧妙に深い戦闘システム,そしてゲームとしては最高ランクのストーリー,The Banner Saga 3は,ゲームではありがちなものを可能な限りの最高の方法で提供する。

「世界を救うことは,ゲームのストーリーの基本だが,『世界が救いを必要とする』と感じることはめったにない」

 多くのゲームの3部作では,それぞれのストーリーは緩くつながっていることが多いが,The Banner Sagaシリーズはあくまでも一つの物語だ。テクニカルには三つのゲームに分かれているが,それぞれ別モノというよりは,同じ作品内の一つの章のような感じだ。だが,それぞれがちゃんと固有なものであると感じさせる。

 The Banner Sagaは交互のターン制の戦闘で分割されたビジュアルノベルだが,インディデベロッパのStoic Entertainmentはその限られた構成の中で多くのことを成し遂げたと言える。容赦なく追跡されているという不快な感覚を呼び起こすことから,そのまさにその分割された継ぎ目で世界の崩壊を目撃することまで,The Banner Saga三部作は傑作だ。

 世界を救うことは,ゲームのストーリーの基本だが,「世界が救いを必要とする」と感じることはめったにない。The Banner Saga,そして最も注目すべきこの3作めでは,世界は取り返しがつかないほど崩壊したという感覚がいつまでも残り,憂いに沈む過去の記憶は,今やすべてが変わってしまったという純然たる事実に直面する。

 Banner Saga 3はシリーズの完結編として完璧であり,プレイしたあとも数日にわたって,自分はもっと違うプレイができたのではないかとぐるぐる考え込んでしまった。


最も驚いたゲーム:Mutant Year Zero: Road to Eden
 アートの方向性を見るに,漫画のように擬人化されたアヒルが文字通りヨタヨタとポストアポカリプス(=世界滅亡後)の世界をぐるぐる回っている。Mutant Year Zeroは不発だと完全に思い込んでいた。しかし驚いたことに,デベロッパのThe Bearded Ladiesは完全に異なる要素を,心から楽しくそして面白く,一つにまとめ上げている。

 また,戦術的なターン制の戦闘,サバイバル,そしてステルスを緊張感ある過酷なゲーム体験にしている。ここでも,The Bearded Ladiesはバラバラなアイデアをうまくまとめて特別なゲームを作ったと言える。

 若干不安定なところがあるMutant Year Zeroは,かなり容赦なく,微妙な要素を完全に把握するには数時間かかる。しかし,すべてのピースがきちんと収まると,慎重に配された悪役をやっつける前にステルスで敵を黙らせたまま敵地エリアを忍び歩くことができる。それがマジカルなことが起きる瞬間だ。実に素晴らしい。

最も期待はずれ:2018年全体
 前項で選外佳作は選ばなかった。選択肢が少なかったのと,2018年にプレイした(または改めてプレイした)ゲームのうち素晴らしいと思ったものは,往年のタイトルばかりだったからだ。

「全体的に見て2018年は,大衆受けを狙った目算違いなものが多かった。明らかに良い作品なのであろうが,私の好みではなかった」

 だが期待はずれなゲームについて考えてみると真逆だ。単調極まりないヒットマン2から,無駄に拡大したGuacameleeの2作めまで,一つだけ選べというのは不可能だ。

 Call of Cthulhuが一番の候補だった。浅く,つじつまが合わない,しっちゃかめっちゃかな最終作ではなく,もっと優れたものを心から期待していたからだ。Fallout 76も同様で,このシリーズはNew Vegas以来デキがよくない。失望する部分が目立つが,それは失望というよりも,むしろ厳しい容認と言えるが。

 ゴッド・オブ・ウォー,スパイダーマン,レッド・デッド・リデンプション2,そしてアサシン・クリード オデッセイ,これらは2018年のゲーム・オブ・ザ・イヤーに頻出するだろう。しかし,これらのゲームの規模やディテールは必ずしもゲームを面白くするのに十分とは言えない。

 Wolfenstein: The New Colossusの恐ろしいバイオレンス,ゼルダの伝説:ブレス オブ ザ ワイルドの優美なデザイン,ニーア オートマタの素晴らしい不気味さ,それらに匹敵するものはない。全体的に見て2018年は,大衆受けを狙った目算違いなものが多かった。明らかに良い作品なのであろうが,私の好みではなかった。


Brendan Sinclair


私的ゲーム・オブ・ザ・イヤー: スパイダーマン(Marvel’s Spider Man)
GamesIndustry.bizによる「私的」Games of the Year 2018

 スパイダーマンは,現在のAAAゲームに必要なものすべてを備えている。それは確立されたオープンワールドのAAAの形で,完璧に模写されたニューヨークの街並み,そしてある場所からある場所へ移動するという単純な行為を,説得力を持って楽しい経験にしてくれている。私が知る限り,それがこのゲームの中心だ。そのほかの部分はせいぜい標準以下であったかもしれないが,それでも全編プレイし,楽しめたと思う。

「確立されたオープンワールドのAAAの形で,完璧に模写されたニューヨークの街並み,そしてある場所からある場所へ移動するという単純な行為を,説得力を持って楽しい経験にしてくれている」

 幸いなことに,デベロッパのInsomniac自体は「標準以下」ではない。街の描写と鮮やかな動きがこのゲームの最大のアトラクションかもしれないが,ピーター・パーカーにとってのメイ叔母さんまたは妻のメアリー・ジェーンであるように,サブなこと(コンバット,サイド・アクティビティ,ナラティブ)はマーベルのスパイダーマンにとって不可欠だ。Insomniacによるスパイダーマンは,これまで制作されてきた数々のコミックをベースにしたどのバージョンのものよりも,現在のコミックの雰囲気に近づいている。当時のメロドラマ的なメインストーリーから,ときには戦いの途中の間抜けなジョークまで,このゲームはキャラクターのために確立された境界の中で動作するが,キャラクターや場所について制限や足りなさを感じることは決してない。古典的なテーマとキャクターのトーンを擁しつつ,それが果てしなく続く焼き直しではなく,テーマとキャラクターの間にずっと関連があると思わせてくれる。

 AAAオープンワールドゲームとスパイダーマンのゲーム,これらを数多く見てきて,デベロッパにとってたくさんの落とし穴があることを知っている。これらの要素二つをミックスしたゲームは,どれだけデベロッパが優れていようと,カネをかけて作ろうと,すべての側面が「全方位的に素晴らしい」と「単によくできている」の間に存在するわけではない。そのような中では,グッジョブ,Insomniac。

選外佳作:Wandersong,Night in the Woods,Flinthook,Yoku's Island Express


最も驚いたゲーム:Hollow Knight
 何を隠そう私も,任天堂がE3 2018に合わせて放送したNintendo Direct: E3でSwitch版をリリースすると発表するまで,このゲームが頭のレーダーに引っかかっていなかった一人だ。

 メトロイドヴァニアにはあまり興味がないが(Yoku's Island Expressが賞賛を得ているのは,メトロイドヴァニア寄りのところをピンボールの素晴らしさで相殺しているからだ),Hollow Knightの見事なビジュアルは,バックトラッキングを多用するゲームデザインを消化するために必要な一服の薬のようなものだった。

 もちろん私はゲームを終えてはいない。私の死体はいまだに真っ黒な未知のテリトリーのどこかに転がっているはずだ。探索を長く続け過ぎ疲れてしまった。しかし,(私がプレイしているときは)メトロイドヴァニアが出てこなかったので,思ったよりもはるかに楽しめた。


最もがっかりしたゲーム:Marvel vs. Capcom Infinite
 このゲームが2017年に出たことは知っているが,レビューを読んでなかなかやる気が起きず傍観していた。そして今は,傍観したままでいればよかったと思う。MarvelとCapcom両方のファンであり,Marvel vs. Capcom 2がこれまでプレイした中で一番気に入っているゲームであると標榜する身としては,何かしら好きなものを見つけられるだろうと思っていた。だが私は間違っていた。

 具体的に何がダメだと思ったのかもよく分からない。ダメな点はないように思えるのだ。アートワーク,キャラクターたち,各モード,インフィニティストーンのメカニズム……どれにも興味を持てなかった。ここでは「最もがっかりした」ゲームについて書くべきなのだが,嫌うほどの強い感情すら湧かないというのが本音だ。主に,私のような趣味の者のために正確にターゲットを絞られたものが,ここまで的外れとなったことにむしろ興味があるくらいだ。

 我々編集部のセレクトの詳細についてお聞きになりたい方は,「The GamesIndustry.biz Podcast」をお忘れなく!

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら