日野晃博氏が堀井雄二氏に聞くシナリオ作りのコツ:CEDEC+KYUSHU 2018基調講演レポート
モデレーターを務めたレベルファイブ代表取締役社長/CEOの日野晃博氏からは,どうやって作っているのか積極的なツッコミが行われ,ゲームデザイナーにとってもためになる講演となっていた。長い歴史を持つシリーズだけにすでにどこかで語られていることもあるかもしれないが,大人気シリーズがどのように作られているのかを示した講演を紹介してみたい。
堀井氏は元々は漫画家志望で,ライターの仕事をしているうちになぜかゲームを作るようになったという。いまや日本を代表するゲームクリエイターだ。
一方の日野氏は「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」(以下,DQIII)がきっかけでゲーム業界を志したとのことで,当時,長い行列が報道されるなど非常に大きな社会現象となっていた「DQ」を,半信半疑で買ったら無茶苦茶凄かった,エンディングで感動して泣いたと熱く熱く語っていた。その後,「DQVIII」と「DQIX」では開発を手がけ,堀井氏を恩師,道を示してくれた人と語っていた。
日野氏自身も屈指のヒットメーカーとして知られており,この二人による対談はかなり貴重なものといえるだろう。
まず,歴代のシリーズ作品それぞれの開発経緯などが語られた。
シリーズの発端となる最初の「ドラゴンクエスト」のそもそものきっかけは,当時,堀井氏がRPGを面白いと思っていて作りたかったことと,ファミコンの流行が重なった辺りにありそうだ。当時,堀井氏はアドベンチャーゲーム「軽井沢誘拐案内」の最終章はRPG仕立てにするなど,RPGを作りたいという気持ちはかなり強くなっていたようだ。「こういう面白いゲームがあるんだ」と子供たちに教えたくて「DQ」を作ったと,堀井氏は語っていた。
●ドラゴンクエストI
しかし,当時はやっていたファミコンはアクションゲームが主流だった。さらにファミコンでRPRGは無理だと言われていたという。なぜなら当時のROM容量は最大64KBしかないからだ。半角文字で6万4000文字分。プログラムコードもグラフィックスデータも音楽も込みである。RAMは2KBだ。ストレージもなかったので,ゲームを進めてもデータをセーブできない。入力はスティックと2ボタンである。
RPGだからデータが多いというのは一概に言えるものではなく,実装法次第というところだろうが,堀井氏が目指したRPGの姿をファミコンで実現するにはかなりの苦労があったようだ。その代わり,最初の「DQI」の時点でJRPGの基本的な姿がかなり確立されているように思われる。日野氏はコマンド選択式のUIについてもファミコンでは初めて導入されたことを指摘していた。この1作から日本のゲームの基本フォーマットの一つが作られていったといってもいい。
ゲームシステムについては,アクションゲームなら向こうから襲ってくるがRPGは自分から動かないとなにも起きないと堀井氏は語り,自分からいろいろ試してもらうために,最初はお城の8×8マスの部屋に閉じ込めることにしたという。最低限の操作をそこで覚えてもらうためだ。なにぶん初めての種類のゲームでもあり,導入はかなり丁寧に行っていたようだ。
●ドラゴンクエストII 悪霊の神々
「DQII」では,メモリが増えてパーティプレイができるようになったことが大きな特徴だ。PC用のRPGでもパーティーを組んで冒険に出かけるものが一般的であり(ソロもあるが),さまざまなクラスを組み合わせて行う戦闘は,ある意味,RPGの醍醐味ともいえるものだった。
問題はどうやってパーティーを組ませるかだ。「仲間を探していくことにしよう」という方針でゲームを作っていき,苦労して見つけにいくと「いやー さがしましたよ」と言われる。これは「探したのはオレだよ!」という突っ込みを期待したセリフだそうだ。そして,次の仲間も同じやり方ではつまらないので,三人(?)めは犬にしようということに決めたという。
●ドラゴンクエストIII そして伝説へ…
「DQIII」の特徴はというと,開口一番で大容量になったことが挙げられていた。「DQI」の4倍になる256KBのカセットが作れるようになったのだ。また,セーブ機能がついたことも大きなトピックだ。
最大52文字ものふっかつのじゅもんを入れなければならなかった前作に対して,カセット内にセーブされる機能は画期的な機能だが,ふっかつのじゅもんを惜しむ声もあったそうだ。ふっかつのじゅもん式であれば,途中のさまざまな状態を無限に記録しておくことができる。それに対して,バッテリーバックアップされたセーブ領域は三つしかない。さまざまな思い出を残しておきたい人という人が多かったのは,ようやくセーブ機能を実現した堀井氏には意外な驚きだったようだ。
前述のように「DQIII」にひときわ思い入れのある日野氏は,シナリオの後半で「DQI」のフィールドが出てくることに衝撃を受けていたようで,これはシリーズを作るときに最初から考えていたのかと問うていた。
「よく聞かれるが,全然考えてない(笑)」と堀井氏。うーむ。
展開が同じではつまらないだろう,「III」はちょっと変えてやろうということで,そういった要素が取り入れられたらしい。
●ドラゴンクエストIV 導かれし者たち
さて,「DQIII」が綺麗に終わったので,「IV」は凄いプレッシャーだったと堀井氏は語る。「III」まででやりたかったことはだいたいすべて入れ終わってしまったのだそうだ。「DQIII」はストーリーも長かったが,これ以上長くするのもどうだろうかということで新しい展開が模索された。
「IIIでは仲間がいた。仲間たちにも人生があるはずだ」
こうして,「DQIV」ではパーティーメンバーそれぞれのストーリーが紡がれていくことになったという。
最初におっさんを操作するところから始まるあたりは驚きだったと日野氏も振り返り,こういうストーリーテリングもあるのかと感心させられたという。とくに3章では,トルネコが商売をするという要素が加わり,ゲームの幅も広がっている。
仲間のキャラクターを出したあとで主人公を出し,それから仲間を探す。知らない人を探すよりもよいだろうという方針だ。実際,ストーリーに感情移入しやすかったと日野氏も語っていた。
●ドラゴンクエストV 天空の花嫁
そして「DQV」だ。
「DQIV」も評判がよく,次はどうしようというのは堀井氏もかなり悩んだようだ。このタイトルからプラットフォームもスーパーファミコンに変わっており,「スーファミでのDQ」が世間から注目されないはずもない。
プレイヤーにゲーム内で本当に悩む体験をしてもらおうと,堀井氏が導入したのが有名な「結婚」という要素だ。「ビアンカかフローラか」というのは,このタイトルをやってなくても耳に入ってくる話題だった。Yahoo!知恵袋にも「どっちと結婚したらいいんですか?」といった質問も寄せられているほどで,うかつにキャラ性能だけで発言すると人間性を疑われることになるらしいこともなんとなく分かった。
「ビアンカ,普通選ぶでしょ?」日野氏は完全にビアンカ派のようだった。
ちなみに,3DS版ではみんなもう相当やっているだろうということで,新たな花嫁候補としてデボラを追加したそうなのだが,実は,候補を増やすのはマップやシナリオを増やすのよりもコスト的に安かったのだという裏話も明かされた。
●ドラゴンクエストVI 幻の大地
二重世界を扱った「DQVI」は,シリーズに新たな要素を持ち込むことになった。ラストで新しいマップに行く展開はよくあるが,いきなり新しいマップへ行ったり来たりするゲームはどうだろう? と思って作ったものだそうだ。
さらに当時,自分探しがはやっていたとのことで,それを取り入れることに決めたという。それをどういった話にすればいいのだろうと,世界観を絡めて複雑に展開していくものとなったようだ。現実かと思ったら夢で,夢かと思えば現実というどんでんがえしの展開。ゲームがラスボス戦から始まるのに驚いたと日野氏は振り返っている。
一応,天空シリーズのラストということになるのだが,天空シリーズはシリーズとしてはそれほど意識していないとのことで,共通して天空の城が出てくるくらいでそれほどつよいつながりはないとのこと。
●ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち
プラットフォームがPlayStationに変わり,新たな飛躍も期待されていた「DQVII」。「なにをしようか?」と全体の方針を決めるのは毎回もの凄く悩んでいることがうかがえる。毎回こういったことを考えるときに,ドラゴンクエストシリーズはなにかを探す物語だと堀井氏は気づいたようだ。ドラゴンを探したのは最初だけのような気もするが,「V」は嫁クエスト,「VI」は自分クエストとなにかを探している。では,「VII」でなにを探そうかと考えた堀井氏が思いついたのが「マップを探そう」というものだった。
「DQVII」について,日野氏はほかの作品とはちょっと違った思い入れがあったようで,操作性もよかった素晴らしい作品だが,それでも不満点があったと語る。
「石版が見つからない!」
だそうだ。後のリメイクでは改善されているが,最初の「DQVII」では非常に見つけにくく,「DQ」はユーザーフレンドリーなはずなのにどうなっているんだ! と思っていたそうだ。
堀井氏は,とくにそこを難しくしたつもりはないのだがと首を捻る。間違い探しで7つの間違いがあると6つまではすぐ見つかるのに7つめは見つからない法則を挙げて(しかも見つからない部分は人によって違う),単純な難度の問題ではないようなことを語っていた。
当時すでにゲーム業界での道を歩き始めていた日野氏は,その「見つからない」という意見を当時のエニックスの人にぶつけた結果,そこから「DQ」愛が伝わって,縁ができたと振り返っていた。
●ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君
という毎回の悩みに対して,堀井氏は開発を変えることを思いつき,それでレベルファイブに話が回ってきた。前述の奇妙な縁がつながったのだ。そして「DQVIII」,「DQIX」をレベルファイブが開発することになる。
「3Dで作りましょう」という提案で,子供たちがお城を見上げたときにその大きさが感じられるようなものがいい,世界のリアリズムを感じられるものをとアピールしたという。一緒に「DQ」の世界を3Dにする作業がとても楽しかった,勉強になったと振り返る。ここで学んだことで「レイトン」シリーズなど,その後のタイトルのヒントをもらったのだそうだ。
堀井氏も,マップ内のどこにでも行け,あれはある意味,当時はまだ数が少なかったオープンワールドのはしりのようなものだったと思い起こしていた。
●ドラゴンクエストIX 星空の守り人
「DQIX」は,「DQ」の本編を携帯用ゲーム機であるニンテンドーDSでやるというチャレンジングな1作だ。
そのコンセプトとして,日野氏は当初アクションで戦う「DQ」を提案していたそうだ。しかし,「DQ」はコマンドで誰でもできるものでなくてはいけない。「DQ」本編はこうあるべきだという堀井氏の信念は堅く,アクション路線は採用されなかった。あとになって,やっぱりそれで正しかったなと日野氏も納得したそうだ。
「DQIX」は,みんなで遊ぶ「DQ」だった。すれちがい要素が導入されて話題になった。中でも「まさゆきの地図」は社会現象にも似たものとなった。
作っているときにあそこまであのシステムが話題になるとは思わなかったと,両者ともに興味深く語っていた。後半にサクッと作ったシステムなんですがねえと日野氏。
ちなみに,「DQIX」は「世界一すれちがったゲーム」としてギネス世界記録に登録されているとのことだ。
●ドラゴンクエストX オンライン
オンラインゲームとなった「DQ」が「DQX」だ。
「DQ」をオンライン化するにあたって,出だしの部分はとくに苦労したと堀井氏は語る。いきなりオンラインはきついだろうと,オフラインからゲームを始め,ある程度なれたところで転生してオンラインに移行するという流れが取られている。
また,「DQX」には人間以外の種族が登場する。
「DQ」に人間以外の種族を出すのには抵抗があったと堀井氏は語る。しかしオンラインはいろんな人がいなければならないと,種族要素を追加することに決定している。
実は,日野氏も,開発初期にはプロジェクトに関わっていて「DQX」合宿で,後に「FFXIV」のプロデューサー兼ディレクターとなる吉田直樹氏とも知り合ったとのことだった。
本作はそうとう遊んだと語る日野氏は,チャットとかしてるのかと聞かれると,もちろん身分は隠しているが「ちゃんとやってください!」と怒られたりするのが凄く楽しいと語っていた。
●ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて
そして最新作の「DQXI」だ。最新作かつNintendo Switch版も出るということで,ネタバレ系の話は控えめだったので,ふんわりした部分もあるかもしれないことをお断りしておく。
堀井氏は,「DQXI」は「DQI」に並ぶ新しい出発だと位置づけている。
「DQXI」では完全にお客さんだったという日野氏は,シナリオは凄い評判で,シリーズの集大成かつ絵が最先端と,シリーズ最高傑作だったと評価していた。それに対し,堀井氏はスタッフがすごく頑張って,いろんな素材を使って出し切ったと語っている。「次どうしよう?(笑)」
主人公を「ああいう」ふうにしようとかは堀井さんが指示しているんですか? と日野氏が問うと,そのとおりだそうで,途中にああいうことになって,ああなってこうなってと,斜め上に展開して,それで終わらせないようにしているとのことだった。指示代名詞満載で申し訳ないが,実際こんな感じで話されていたのでしかたない。
堀井雄二氏を知る
歴代作品の振り返りだけでもかなりのボリュームになっているのだが,以下では日野氏から堀井氏への質問とその回答が展開された。
●「DQ」がヒットすると思っていたか?
堀井氏は,当時RPGは面白いと信じており,ファミコンをやっている層にも分かりやすくすればヒットするという感触はあったと語っている。
当時の日本にはまだ,海外のPCゲームのような本格的RPGは少なかったので,「ドラゴンクエスト」が初めてになる人が多かった。
最初に名前を入れると王様から名前を呼ばれること自体が当時は画期的だったと堀井氏は語る。人はリアクションを求める動物であり,それが最初の感動になっているのだそうだ。加えて,友達とやった,兄弟とやったといった周りの環境も含めてのゲーム体験が形作られる。これまでにない体験を提供する作品ということで,話題性も含めてゲーム体験を強化できる要素は揃っていたのかもしれない。
当時週刊少年ジャンプのライターだった堀井氏は,誌面でRPGを紹介しており,クラスに一人先生を作り,そこからRPGを広げることを目指していたという。「クロスメディアのはしりですね」とクロスメディアの雄たる日野氏が評価していた。
鳥山 明氏,すぎやまこういち氏といった錚々たるスタッフにも恵まれた。鳥山氏はジャンプつながりで,すぎやま氏については,たまたま当時のエニックスに送られてきた氏のアンケートはがきをプロデューサーが見つけて縁がつながったのだそうだ。
クラシックを専門とし,普段オーケストラ用の譜面を書いている人にピコピコ音で曲を書いてくれというのも凄い話だと両者は振り返っていた。ファミコンにはPSGが3声しかなく,しかもBGMで使えるのは2声だけ。それでもすぎやま氏が「ゲーム音楽はいちばん長く聞く音楽だから」「ずっと長く聴いていられるのは聴き減りのしないクラシックだ」からと,クラシック音楽調のBGMが多数展開されていったという。耳に残る曲も多く,コンサートなども大人気である。
●ゲームを作るうえでのポリシーは?
やって楽しいとか,わくわくするようにというのは当たり前だそうで,その前の段階が大事だという。知らないゲームではプレイヤーの不安が大きく,手探り状態となる。プレイヤーが「何をしていいか分からないと不安になる」「こうすればいいんだろうと分かると安心感がある」とのことで,やり方を示すあたりは丁寧に行うようにしているようだ。
しかし「最初から詳しいことを説明しない」ということも堀井氏は挙げていた。チュートリアルで多くを並べても時間ばかりかかるので,「四つくらいだけで遊べるようにする」ことが大事だという。「あとは工夫であれもできるこれもできる」
こういったことを「プレイヤーを分からせる」のではなくて「分かった気にさせる」ことが重要なのだという。本当に理解している必要はない。「分かった気になっていればとりあえず安心する」ので,そこが大事なポイントのようだ。
それに対して日野氏は,「DQ」シリーズについて,とにかく「遊んでて入ってくる情報が気持ちいい」と評価していた。また,次々に奇想天外なことが起きすぎるとなにか起きても凄いと思わなくなるが,「DQ」は「驚く情報が来たときに驚ける」と情報の与え方のうまさに感心していた。
また,セリフでは長いセリフはあっても,最後に「西へ行け」のように締める。最後のセリフが次にやるべきことになっているというフォーマットを作っているのだ。そういったレールがしっかりできているからこそ「レールから安心して脱線できる」のだと堀井氏は語っていた。なにもレールがないと不安になる。堀井氏がプレイヤーを不安にさせることは徹底して避けるのは,これまで見てきたとおりだ。
ここで日野氏からは,「DQVIII」を作るときに「シンボルのようなものを30個くらい集めさせる」というやり込み要素を入れてはどうかとアイデアを出したが,それに対して「そんなに『集められる』ということは,プレイヤーは『集めなきゃいけなくなる』ので5〜6個くらいにしたほうがいいでいい」とアドバイスをもらったという思い出話があった。その件では,作る側の視点とプレイヤー視点は違うこと,シンプルにものを作る極意を学んだと語っていた。
●「DQ」に課題はあるか?
そういったこともあって,ようやくリリースしたときには,すでに「昔出たゲーム」のように思われてしまったのだそうだ。
海外では凶暴な敵が出てくるゲームのほうがクールに思われて,あったかい世界の「DQ」はウケがよくないのでは? という日野氏の指摘に対し,「クロノ・トリガー」は海外でも あったかい世界感でも海外の評価が高いので,その部分が問題になることはないだろうというのが堀井氏の見解だった。ちなみに「DQXI」は海外でも評判はよいとのことだ。
海外を意識して作ることはあるか? という問いには,面白さは世界共通だからとくにそういうことはしないとのことだった。日本でしっかり売れるものにしてから海外へというのが基本になるようだ。
続いて日野氏は,コマンド選択式のUIは海外での評判がよくないことを指摘した。それに対し堀井氏は,日本ではライトプレイヤーでもプレイできるようにコマンド選択式を採用しているのだが,海外にはライトプレイヤーというものがいないのだと語っている。ゲームプレイ時間などでは日本のライトプレイヤーは海外のヘビープレイヤー並なのだが,海外ではとにかく難しい洋ゲーをみんな平気でプレイしてしまう。結果として操作が難しいからというようなプレイヤーは残っていない。
これに対して堀井氏は,それでもそういったことが合わないとゲームを諦めている層が潜在的にたくさんいるはずだと指摘していた。そういう層を掘り起こすことに大きな可能性を見出しているようだ。
●優秀なクリエイターとは?
周りに大勢のスタッフがいるだろうが,堀井氏の考える優秀なクリエイターとはどういう人物か? と,日野氏は尋ねた。
それに対して堀井氏は,発想は誰でもいろいろ思いつくのだが,それを形にするのは大変なので,最後までやり遂げる忍耐力があることを条件に挙げていた。
また,ゲームを一つ纏め上げられる人には柔軟性があるという。なにか問題が起きたときに,固執しないでアイデアを出し,元のままでなくてもだいたい似たいようなことができればいいと先に進んでいけるタイプがよいとのこと。
●堀井氏の描く原画
続いて,鳥山 明氏に依頼を出すために堀井氏が描いたという原画が紹介された。
堀井氏の原画では,ドロドロしていたスライムが,鳥山氏のデザインによってかわいくなっていることが有名だ。結果的にスライムは「DQ」のマスコット的存在になった。
雑なものもあるが,あまり詳しく描くと影響されるのでこれくらいがちょうどいいそうだ。バニーだけ妙に一生懸命描いているなと,堀井氏が言うとは会場は大いに盛り上がった。
キングスライムについては,日野氏からこれはちょっといかがなものかと物言いが付いたが,鳥山さんがうまくやってくれるだろうということで,これで問題はないようだ。
絵が1枚あるとイメージの伝わり方が違うのでプランナーは絵心があったほうがいいと堀井氏は語っている。日野氏もホワイトボードにイメージを描いてデザイナーに知らせることはあるそうだが,こんなに描き込むことは少ないという。
●シナリオはどう作っているのか?
堀井氏は,まず自身を「いたずら好き」「いちびり」だと表現した。魔王を倒すという大目標があって,中間でどんなことがあれば面白いかを考えるのだという。一生懸命ボスを倒しに行こうとしているところに,いたずら心で人間違いさせたりといったイベントを1エピソードずつ加えていくのだそうだ。この町に行くとどんなことが起きてといったものを積み重ねて,意表をつきながらストーリーを組み上げているとのこと。
最初に面白いところから考えるのか,イベントから考えるのかという質問はともに肯定で,魔王を倒すのはもう決まっているのだから,途中のイベントを考えるのだそうだ。
また,登場人物から考えることもあるという。どういうエピソードでいちばんキャラが立つか,それを考えて断片的に考えてイベントを作っていくのだそうだ。
「DQIII」のように大きなストーリーラインから構築することはないのかと日野氏は尋ねたのだが,実は「DQIII」こそたくさんのイベントを組み立てて作られたものなのだということが明かされた。とことんボトムアップなアプローチで構成されていたようだ。
堀井氏曰く,人間は,ゲームプレイ中にこの話だと次はこの辺にくるんじゃないかと予想をするのだが,そう思っているときにちょっとだけ斜め上にくると「おおっ面白い」って感じるものらしい。あまりいきすぎるとそれはそれでダメで,「ちょっとだけ斜め上」がよい。それを山ほど積み重ねることでドラゴンクエストは構成されてきたようだ。
●シナリオの発想はどこから考えたらいいのか?
これも直球な質問だが,そういったシナリオの最初の発想はどこから行っているのかが問われていた。
堀井氏は,「どういう状況が効くか」を考えるという。「DQXI」だと,捕まっちゃったら隣に仲間がいたといった状況が挙げられていたが,取り掛かりは1エピソードから始めて,「これからどうなるかな」というところで,どうすればプレイヤーが驚くだろうかといったことを考えつつ,さらなるシナリオを組み立てていくそうだ。
キャラクターを立てるという例では,主人公を単純にするようなことも語られていたが,氏の周りのスタッフは「キャラを立てる」といえばどうすればいいかすぐ分かる程度には鍛えられているとのことだった。
例えば,転校生がやってくるとして,ただやってきてもしかたないので,事前に「凄い奴が来る」「強いらしい」といった噂を流しておく。そこにひょろひょろの男が登場して,「どういうこと?」とギャップを生む。
こういったものを段取りではなく,「こうなれば面白い」といったものをベースに組み立てていくようだ。
セリフでも段取りを省き,
「天気がいいね」
「天気がいいよね」
ではダメで,
「天気がいいね」
「でもさー」
と続けていかなければいけないと細かいテクニックを披露していた。また,プレイヤーの意表をつくためには後先を考えず,どう収拾をつけるかはあとで考えるのがコツだそうだ。
●「DQX」の次のオンラインは?
オンラインゲーム大好きな日野氏としては欠かせない話題として,新作のオンラインゲームはありえるのかが問われていた。
MMORPGとなった「DQX」もサービスから6年ほど経過し,いろんな要望が集まっているという。ゲームをする環境も変わっている。いつでもどこでもオンラインでできる時代もくるだろうと展望を語った。
日野氏は「協力しますのでぜひ作ってください」と自社アピールも忘れず,1プレイヤーとしても懇願していた。今後の動きに期待しよう。
●「DQ」でないものを作る予定はある?
「DQ」以外のものは作らないのかという問いに対しては,「ポートピア2」を作りたいとの答えが返ってきた。「ヤス」も「いろんなヤス」が出てきて一番意表をつくヤスにしようと冗談めかして答えていた。もしこれをやるならスマホが適しているのではないかとのことだ。
ただ,現状では「DQ」でいろんな種類のゲームができてしまっているので,その枠内でもあまり不自由はなさそうではあった。しかし,あえて「DQ」の枠を外れたところでのゲームを見てみたいと日野氏は語っていた。
それに対し,ではどんなゲームを期待しているのかとの堀井氏からの問いに,日野氏は,例えば「ゼルダの伝説」みたいなものだと答えた。堀井氏は,シナリオも凄いがゲームの仕組みを作るのも凄いので,遊び心満載のオープンワールドがどんなものになるのか興味が尽きないようだった。
Switch版「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」については,堀井氏も「凄く遊んだやった」と,感触は悪くない感じではあった。堀井氏がゼルダの面白さについて力説していたのは,「崖を登ってショートカットできる」ところだった。「人間,ズルできると凄く燃える」とのことで,とにかくあらゆるところを登りまくっていたようだ。
●12
さすがにこの件については口が重くなっていたようだが,現在は「方向性をなんとなく考えている」ところらしい。キーワードはいくつかあるようだが,日野氏から問われても残念ながらそこまでは聞き出せなかった。キーワードを出すと方向性が全部バレてしまうらしい。
「DQXI」がシナリオ重視だったので,今度はシステムで遊ぶゲームかな? と思わせつつ,「DQXI」は好評だったので「DQXI」並みのシナリオも求められるかも? そんなところをうまく折り合いつけて? ……と,なんとなく分かるような分からないような情報が引き出されていた。
目指している方向性については,「プレイヤーの夢をかなえることができるようなもの」を「ぼんやり」考えているという。日野氏曰く,ぼんやりといいつつもうかなりできあがっているはずなので,夢をかなえるゲームに期待しようとのことだった。
最後にゲームクリエイターを目指す人に堀井氏からメッセージが贈られた。
要約すると,作る側になるとプレイヤーの視点が分からなくなってしまう人が多いので,自分の作ったものをプレイヤー視点で見られるようにしよう。プレイヤーは不安なので,不安を取り除くように,手取り足取り,でも教えすぎないようにしよう。といったところか。ゲームは基本的に面白いものであり,つまんないお遣いでもついついやってしまうものだ。そこにどういう面白いリアクションを返せるか……,堀井氏は会場のクリエイター並びにクリエイター志望の人に,ちゃんと「斜め上」のリアクションができるようになることを期待しているようだった。