[SIGGRAPH ASIA 2018]展示会レポート:RT CoreによるレンダリングやUnityのノンゲーム事例などを紹介
東京国際フォーラムの地下2階に設けられた展示会場では,1つひとつのブースはそれほど大きくはないもののブース数はそれなりに多く接地されていた。また,北米で行われる本家SIGGRAPHではあまり見られない日本企業の出展も目立っており,日本開催らしい出展内容になっていた印象がある。
しかし,一方で,毎年,本家SIGGRAPHのほうでは巨大なブースを設営しているIntel,AMD,NVIDIAといったプロセッサ業界の大企業たちはそろって不参加だったのは寂しいところだ。
本稿では展示会初日に見て回ったブースをいくつか紹介することにしたい。
エルザジャパン/アスクブース〜日本初公開! Quadro RTX 6000によるレイトレーシングデモ
インテル,そしてNVIDIAとAMDまでもが展示会に不参加ということもあって,本展示会においては数少ないグラフィックスハードウェア関連展示の担い手となっていたのがエルザジャパン/アスクのブースだった。
最も来場者の関心を集めていた展示の一つが「GPUリアルタイムレイトレーシング実演中」のポップのもとで行われていたデモだ。
使用されていたのはBOXXのワークステーションのThreadripper 2990WX(32C64T)搭載モデルである「APEXX T3」で,これにエルザジャパンが販売するNVIDIAのリアルタイムレイトレーシング対応グラフィックスカード「Quadro RTX 6000」(CUDA Core数4608基,RT Core数576基(10G Rays/s),GDDR6 24GB)を2基搭載し,さらにそれらをNVLinkで結んだ構成のカスタムマシンとなる。
GPUリアルタイムレイトレーシングのデモコーナー |
2基のQUADRO RTX 6000はNVLINKで結ばれている。なお,現状のArnoldレンダラーはマルチGPUに対応していないとのことで,デモにおけるレンダリングは1基のGPUのみで行われていた |
お披露目となっていたのは,このマシン上でAutodesk Mayaを動かし,2台のランボルギーニが佇むシーンをNVIDIA RTXに対応したレイトレーサーのArnoldレンダラーを使ってThreadripper 2990WXとQuadro RTX 6000とでレンダリングしてそれぞれ速度を比較するというデモだ。
Threadripper 2990WXでは,このシーンを1分足らずで描画した。これはこれで十分高速なのだが,このあとQUADRO RTX 6000で同一シーンを描画させると10秒足らずで終了となった。この圧倒的な速度差に驚いてほしい……というデモなのだ。
エルザジャパンの担当者は,先頃発表されたばかりの「TITAN RTX」(https://www.4gamer.net/games/204/G020420/20181203130/)がQuadro RTX 6000とほぼ同スペックで半額の値段であることに驚いており,実機ではまだ試せてはいないものの「このデモがTITAN RTXでも動作してしまうはず。となると,このQuadro RTX 6000の位置付けはどうなるやら」と心配していたのが印象的だった。
確かに,昔はCG制作ソフトはQuadroブランドでないと動作しなかったのだが,最近ではGeForce系(TITAN系もこちらに含まれる)でも動作するため,一部のGeforce系モデルとQuadro系モデルとで「こうした競合」問題が起こることがある。
エルザジャパン自体はGeForce系ブランドも取り扱っているので,TITAN RTXが登場した暁にはそちらを使ったデモも見てみたいものである。
アストロデザインブース〜放送業界向け機器メーカーが初のグラフィックスワークステーション製品を発表
アストロデザインは業務用カメラ,計測機器,放送関連機器の開発製造販売を手がける企業であり,昨年,シャープから発売された世界初の8K/60fps撮影カメラ「8C-B60A」もアストロデザインとシャープの共同開発の製品だ。
アストロデザインは,先端映像技術に対応した業務用映像機器メーカーの印象が強いので,SIGGRAPH ASIAにおけるブース出展はどんなものなのかと思って立ち寄ったのだが,展示されていたのは,同社が初めて手がけるグラフィックスワークステーション製品であった。
製品名は「Tamazone Workstation」だ。
展示は筐体を横に寝かした状態で行われていたが,縦置きを想定したタワー型のワークステーションである |
展示用ということで,側面は中が見られるように透明アクリル板があしらわれていた |
スペック的には,CPUとしてXeon Platinum 8180(28C56T)ないしはXeon Gold 6138(20C40T)を2基搭載可能で,GPUはダブルハイトGPUカードを4基すべてをPCI-Express Gen3 x16で接続が可能,メインメモリは最大768GB搭載可能が謳われている。
アストロデザインが,なぜグラフィックスワークステーションを手がけるのかについて,ブースにいた担当者に聞いてみたところ,「12月1日より始まった4K/8K新衛星放送をきっかけにして,2019年は映像制作業界において4K映像や8K映像の編集のニーズが高まると考えており,現場が求める性能のマシンを,カメラから放送機器までを手がけている我々自身が提供する必要性が出てきたため」という答えが返ってきた。
また,Tamazon Workstationらしい特徴としては,大容量の映像の読み込みと書き出しを行うために最大16基のU.2 NVMe SSDを搭載可能なことや,2+1構成の予備電源ユニットを搭載している点などを挙げていた。
なお,販売価格は700万円前後から1000万円前後までを想定しているという。当面は日本の放送局やその関連現場,そのほかの映像制作現場に訴求をしていくとのことである。
Unityブース〜広がるUnityのノンゲームユース
一つは,自動車業界への活用を想定したデモだ。
自動車のインテリアは,プレイヤーがその車を所有したとなれば,乗車するたびに目にして操作する,いわばユーザーインタフェースに相当するものである。インテリアに満足がいかなければプレイヤーは乗車するたびにいやな思いをすることになり,ある種,エクステリア以上に重要な要素といえる。
ただ,そのデザインは楽ではない。
というのも「座席に座ったときに車外の光景がどう見えるか」「車内のメーター類の視認性はどうか」「各種操作パネル,スイッチ類へ手を伸ばしたときに操作しやすいか」……など,さまざまなテーマの評価を行うためには,実物としてのモックアップやプロトタイプの試作が必要になり,これを繰り返し行うこととなれば開発コストが嵩むことになるからだ。
Unityであれば,CGクオリティも物理ベースレンダリング採用によってフォトリアリティ度は相当に高い。現行のすべてのVRシステムに対応しているし,インタラクション部分においてもUnityを使えば,プレイヤーの車内インテリアへの操作に対応したイベントも簡単に作り上げることが可能だ。何ならば実際にその車両を街中コースを走らせることだってできる。
展示されていたデモもまさしくそんな内容で,VRHMDを被ったプレイヤーはそのプロトタイプの車の運転席に座ることができ,実際にコントローラを使って運転を楽しんだり,インテリアの各部位を操作してその反応を試すことができた。
もう一つは,ゲームエンジンを使った映像作品制作に関連した展示だ。
この展示は二つあり,一つはUnity Technologiesのデモチームが制作した「Book of the Dead」デモだった。
「Book of the Dead」は,「究極のフォトリアル環境再現」を目指したUnity Technologiesの内製デモプロジェクトで,森が実写と見紛うレベルで再現されている。下がその映像の公式公開版だ。
二つめは,Unityで使える低コストな顔面アニメーション制作システムにまつわる展示だ。
Unity Technologiesは,Appleが提供する「ARKit」とiPhone Xから実用化されている顔面トラッキング機能をUnityから利用できるようにする「Facial AR Remote」(https://blogs.unity3d.com/jp/2018/08/13/facial-ar-remote-animating-with-ar/)を開発しており,これのプロトタイプ版をブースで披露したのだ。
「Facial AR Remote」とは,簡単に言えば,iPhone Xを顔面入力デバイスとして使った簡易フェイシャルアニメーション制作システムだ。iPhone XによるフェイシャルモーションキャプチャはiPhone X発売後から業界ではちょっとしたブームになっているもので,SIGGRAPH 2018のReal Time Liveで最優秀賞を受賞した「 Bebylon: Battle Royale」でも使われていたのを覚えている人もいるかもしれない。ハリウッドのハイエンドのフェイシャルモーションキャプチャシステムには及ばないまでも,「Facial AR Remote」を使えば,身近なiPhone Xを使ってそれっぽい顔面表情をリアルタイムで作り込めるというわけである。
この「Facial AR Remote」を使って制作したフェイシャルアニメーションの成果は,Naughty DogやPixar Animation studiosなどでキャリアを積んだ映像作家Yibing Jiang氏がUnityで制作を進めているショートフィルム作品「Windup」にて見られるとのことである。