ハイパーカジュアルの拡大とハードコア復活でミッドコア市場が苦戦を強いられる?

 最近「ハイパーカジュアルゲーム」というゲームジャンルを耳にする機会が増えていませんか? 今,グローバルではハイパーカジュアルゲームの人気拡大が顕著です。と同時に,「ハードコアゲーム」の人気もひそかに復活しており,それに伴って「ミッドコアゲーム」が下火になってきています。今回のコラムでは,この現象についてAppLovin (アップラビン) 日本法人代表の林 宜多が解説します。


「ハイパーカジュアル」「ハードコア」「ミッドコア」とは?


 本題に入る前に,まずは今回のコラムでご紹介する三つのゲームジャンル「ハイパーカジュアル」「ハードコア」「ミッドコア」の定義についておさらいしたいと思います。

出典: Deconstructor of Fun

 ハイパーカジュアルゲームとは,開発に時間がかからず,極力シンプルなインタフェースで, チュートリアルやオンボーディングなしに直感的にプレイできるゲームのことです。また,容量が小さいので,プレイヤーは気軽にダウンロードしてすぐにプレイすることができます。プレイヤーセッションは短く,LTV(Lifetime Value: 顧客生涯価値)は低めですが,バイラリティ(口コミなどで人気が拡散すること)が期待できます。ハイパーカジュアルゲームは無料で,広告による収益化が中心のため,スケール次第で多くの利益を得ることが可能です。日本発祥のハイパーカジュアルゲームはまだ少ないですが,例えば Magicant の「1LINE」は非常にクオリティが高く,米国でも人気になっています(2018年3月に米国のiOS無料ゲーム部門で1位を獲得)。

 これに対してハードコアゲームは,容量が大きく,ダウンロードしてからゲームを開始するまでに時間がかかります。ゲームプレイでは,時間をかけるか課金することでキャラクターを成長させたり,ワザを磨いたりする必要があります。ゲームセッションは長く,IAP (In-app Purchase: アプリ内課金) で収益化を図ることができ,LTV が非常に高くなる可能性がありますが,数少ない一部の「重課金プレイヤー」への依存度が高くなる傾向があります。「PUBG」「荒野行動」「フォートナイト」などがこれにあたります。日本では,Cygamesの「シャドウバース」や Sumzap の「戦国炎舞」がこのジャンルに入ります。

 この二つのカテゴリの中間に位置するのがミッドコアゲームで,ゲーム性はカジュアルゲームほどシンプルではありませんが,容量は比較的小さく,ゲームのプレイの仕方を覚えるのにさほど時間がかからず,セッションの長さもほどほどです。LTV はそのゲームに最もコミットしているプレイヤー次第で,収益化の主な手段は IAP や広告になります。日本では,mixi の「モンスターストライク」や GungHoの「パズドラ」などのゲームがこれにあたります。

 今回のコラムに登場するゲームは,以上の三つです。次からは,ハイパーカジュアルゲームの人気拡大とハードコアゲームの人気復活によって,何が起きるかを考えてみたいと思います。


米国ではハイパーカジュアルゲームとハードコアゲームがランキングを席巻


 ハイパーカジュアルゲームの人気の最大の理由は,そのシンプルさにあります。モバイルゲームの海外進出をサポートしている米企業DegitalDevConnect のファウンダーである Josh Burns 氏は「シンプルなゲームだからこそ気軽にプレイでき,そして延々とプレイし続けられるのです」と語っています。いま世界中でヒットしているVoodooの「Baseball Boy」やKetchappの「Dunk Line」 が好例でしょう。

 このコラム執筆時点では,App Storeの米国の無料ゲームランキングの上位7位までは「Fortnite」や「PUBG」などのハードコアゲームと,「Hole」や「Helix Jump」などのハイパーカジュアルゲームが独占しており,ミッドコアゲームは見当たりません。ハードコアゲームはプレイが複雑ですが,魅力的なストーリー展開,そして「PUBG Mobile」や「Fortnite」などの人気サバイバルゲームのようにほかのプレイヤーと対戦できるなどの理由から,夢中になる人が多いのが特徴です。ハイパーカジュアルゲームもまた,前述した通り延々とプレイし続けられるのが特徴です。つまり,今の米国のランキングを席捲しているのは,夢中になりやすいハイパーカジュアルゲームとハードコアゲームなのです。

 現在,大手スタジオでは年間5~10本の新しいハイパーカジュアルゲームをリリースするのは珍しいことではありません。また,個人デベロッパもハイパーカジュアルゲームのようなシンプルなゲームであれば簡単に制作できるようになったため,次から次へと新しいハイパーカジュアルゲームが誕生しています。つまり,ハイパーカジュアルゲームは多数のゲームが供給されており,これらが爆発的な人気を得る時代は,もうすぐそこにまで迫ってきているのです。

 ミッドコアゲームを開発するデベロッパにとっては,ハイパーカジュアルゲームが次々と生まれれば,これまでミッドコアゲームに流れていたお金がハイパーカジュアルゲームに取り込まれてしまうのではとの危惧を感じるかもしれません。その結果として,ハードコアやハイパーカジュアルの人気タイトルとの格差が広がり,ミッドコアゲームはマーケティングで苦戦することになってしまうかもしれません。

 しかも世界には日本や中国をはじめ,まだハイパーカジュアルゲームがあまり注目されていない地域があります。とはいえこうした地域で,ハイパーカジュアルゲームが普及するのも遠い未来ではないでしょう。これについては,次で説明したいと思います。


中国でのハイパーカジュアルゲームのこれから


 ハイパーカジュアルゲームの収益化モデルは,まだどこの国でも通用するわけではありません。例えば,世界最大級のアプリ数を抱える中国もその一つです。

 中国市場は急速に成長しており,2016年以降は日本を抜いて世界第2位のアプリマーケットになっています。AppAnnieによると,現在のパブリッシャとしての世界第1位はTencentですし,デベロッパとしての世界第1位はNeteaseになります。中国ではAndroidに関しては,200以上のアプリマーケットが乱立しており,各マーケットごとにプロモーションをしていく必要があります。中国のモバイルゲームで大きなシェアを占めているのはMMORPGで,プレイヤー層で一番大きな比重を占めるのは24歳以下です。もっとも,ゲームに費やす金額が一番大きい層は,安定した職で高収入を得ている人が多い31〜35歳の層になります。ただ,近年世界的なトレンドであるハイパーカジュアルは,中国でも大きく成長しており,とくに直近の倫理基準では新しいRPG系ゲームアプリのローンチ難度が上がっており,比較的対策のしやすいハイパーカジュアルのシェアは大きく伸びていくことが予想されます。

加えて, 現在,中国最大のAndroidのアプリストアであるTencentのMyappはWebサイト外へのリンクを可能にしていません。そのため,ゲームパブリッシャはMyappからMyapp以外のアプリストアへプレイヤーを誘導することができません。したがって,中国のゲームは前述のような広告モデルを活用して収益化を図るのが事実上不可能になっています。こうした状況から現在の中国のデベロッパはIAPモデルに軸足を置いており,結果としてハードコアゲームが主流になっています。その一方でiOSでは,ハイパーカジュアルゲームも生まれてきており,Androidのようなハードルはありません。

 しかし,市場が発展すれば中国の状況も変わってくるでしょう。多くのプレイヤーがミッドコアゲームから離れてハイパーカジュアルゲームを試そうとしています。発見しやすい,気軽に始めやすい,無料で簡単にプレイできる,セッション時間が短い,そしてなによりも容量が小さい,というハイパーカジュアルゲームが持つ数々の特徴を踏まえれば,中国で普及するのもそう遠くないのではないでしょうか。

 そうなれば,欧米の経験豊富なハイパーカジュアルゲームのデベロッパが中国をはじめとする新興国市場で本領を発揮する絶好の機会が生まれるでしょう。その結果,市場にはハイパーカジュアルゲームが溢れることになると考えられます。また,チャンスを求めて中国市場へ新規参入するデベロッパが増えれば競争が生まれ,将来的にはTencentなどの中国国内の大手デベロッパが活発に M&Aを進め始める可能性もあります。

 余談ですが,ハイパーカジュアルゲームの「容量が小さい」という特徴はインドなど端末の容量やネットワークのスピードに制限がある国と,とても相性がよいことは容易に想像がつきます。こうした国では,圧縮バージョンをダウンロードしてローカルにインストールする「プログレッシブアプリ」として,ゲームがプレイされる傾向も高いです。

 今後このトレンドが加速し,ゲームを開発する資金力のある大手スタジオが本腰を入れれば,ハイパーカジュアルゲームが中国やインドなどの市場を大転換させるかもしれません。実際に韓国では,NHNやNCSoftなどがカジュアルゲームに注力し始めています。


まとめ


 グローバル市場のデベロッパにとっては,大手でも新興でも,ミッドコアゲームやハードコアゲームの市場で勝ち抜くのは難しくなっています。ハイパーカジュアルゲームの人気が広がる中,プロダクトを個々のアプリで捉えずにポートフォリオの一部として考える大手スタジオが台頭し,ミッドコアゲーム市場のシェア獲得は厳しい戦いを迫られるでしょう。ミッドコアゲームが主流の現在の日本においてもすでにハードコアゲームは盛り上がってきていますし,日本のデベロッパのmagicantやフランスのVoodooが手掛けるハイパーカジュアルゲームも日本のランキング上位に入り始めています。

 中国などほかの地域でハイパーカジュアルゲームが広がれば,欧米と同じようにアプリストアの人気ランキングが様変わりするかもしれません。そしてゲームアプリデベロッパは,収益化の新たなモデルや計測手法,そしてゲーム開発の新たなアプローチを生み出す必要に迫られるでしょう。

 厳しい環境の中,成功するスタジオもあれば,M&Aによる再編の流れに飲み込まれていくスタジオもあるでしょう。いずれにせよ,ハイパーカジュアルゲームの台頭によってモバイルゲームの歴史は否応なしに書き換えられていくはずです。

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林 宣多(はやし・のりかず)
AppLovin日本法人代表取締役。GREE,Yahoo! Japanでの広告プロダクト立ち上げ後,米国に拠点を移し,設立直後のAppLovinに参画する。AppLovin本社の営業責任者として事業の成長をけん引した後,2016年4月にAppLovin日本法人の代表取締役に就任する。