ゲーム制作はMedia MoleculeのDreamにとって始まりにすぎない
E3 2018での最も奇妙な体験は,ソニーのプレスカンファレンス後に行われたパーティで発生した。
会場のレイアウトはすでに私を面食らわせていた。私はあてもなく等身大のThe Last of Usのセットの間をさまよい,Ghost of Tsushima調の日本庭園を抜けて,Spider-Manのデモブースのダンボールの切り抜きで埋め尽くされたニューヨークの中にいた。
私がさまよっていると,ライブミュージックの音が中央にあるテント(カンファレンスの大部分を受け持っていた)から大音量で聞こえてきたので,誰が演奏しているのかと見にいったのだ。目白押しの群集をかき分けていると,そこにバンドはおらず,5人の人間がステージ上でPlayStation 4コントローラを握り締めて踊り回っているのが分かった。彼らの後ろでは巨大なスクリーンが,バーチャル楽器を演奏するデジタル粘土の彫刻による生き物で埋め尽くされていた。
私は混乱してしまった。係員は私の顔に浮かぶ戸惑いを見て説明してくれた。聞こえている音や映像はすべてDream(LittleBigPlanetのデベロッパMedia Moleculeの次回作)で作られているのだそうだ。生き物とアニメーションがゲームで作られているだけでなく,コントローラを使って生演奏しているステージ上の人々は開発者なのだという。すべての音やリズムはジョイパッドを引き金としていた。
「これは音楽の未来です」と係員は語っていた。「あなたはコンサートを開き,即興で演奏できるのです。これらはすべて直接ゲームを通して行われます」
ロンドンで行われるBAFTAのゲームレクチャーでの彼女の講演(関連英文記事)の前に,我々はその経験について話し合った。その夜,彼女は,人々の創造性を解放するという,ゲームとしては信じがたい可能性を示してくれた。それこそが彼女のスタジオがそれぞれのタイトルで追求しているものだったのだ。それはDreamsでも変わらないだろう。
「私たちはゲーム以上のものが作れるモノを求めています」と彼女は続けた。「私たちはゲームが大好きです。しかし,面白いのはゲームを作ることです。(※ゲームを作るには)音楽を作らなければなりません。ショートムービーを作らなければなりません。アニメーションとロジックも作らなくてはなりません。なんでもできるゲーム作成ツールを作るためには,ムービー作成ツールや音楽作成ツール,ミュージックビデオ作成ツール,ライブ演奏ツアーを作ることになりまいます。これは本当にエキサイティングなことです」
「スタジオのスタッフが自分でこれを使うときには,彼らは最高に非常識なことをします。それはまっとうなゲームではありえないことです。何人かは歌などを作ることに似ていると感じています。それが私たちが興奮しているところです。それはゲームを超えるでしょう。そして,ゲームを作るという考えをゲームがなにかも分からないような人たちの手に委ねたときに何が起きるのかを教えてくれます」
「私は本当にゲームは現代の表現手段だと思っています」
ゲームには不慣れなだけど,さまざまな芸術的メディアで実験することに熱心な人にリーチすることは,Reddy氏がDreamsでとくに進めたがっていることだ。彼女のレクチャーでは,スタジオによる作品の「集大成」としてそのゲームが何度も紹介されていた。彼女はゲーム開発を,「カメラやギター,鉛筆といった手に取るだけで学習を始めることができるものと同等の扱いやすさにする」という野望について語った。これは大胆で立派な考えだ。結局,文字通り音楽の訓練を受けていない人でもギターの弦をかき鳴らして音を連ね始めことはできる。鉛筆を持った人なら誰でも簡単なスケッチくらいはなんとかできるだろう。カメラ(スマートフォンでも)を持った人なら誰でもエンタテイメントに使える映像を記録することができる。
比較すると,ビデオゲームは壁に囲まれた庭のようなものだ。ツールの価格は実質的に無料であり,ゲームエンジンの提供元はできるだけ手に取りやすくなるようにしている。とはいえ,どのようにビデオゲームが作られるのかだけでなく最終製品がどう遊ばれるのかについて,いくらかの基礎知識 ―ないし多くの学習― は必要だ。
しかし,それはReddy氏や彼女のチームを抑止するものではない。
「私は本当にゲームは現代の表現手段だと思っています」と彼女は語った。「インタラクトできるものを作って遊ぶことは信じられないくらいエキサイティングです」
「私はこれを趣味のためだけに使えるような人のアイデアが大好きです。ギターを手にする人の誰もが50個のアルバムを作ったりNo.1になるわけではありません。趣味として好きだからできることです。そしてほかの人と一緒にやることもできます。小さなバンドを作ることもできますが,それは純粋に趣味として純粋に楽しむためにすることです。これらは新しい職業を見つけることになるかもしれません。それは素晴らしいことです。そしてそこから,ゲーム業界人としての私たちはゲームとはなんであるかに向き合うのです」
「Dreamsはゲームを超えるでしょう。そして,ゲームを作るという考えをゲームがなにかも分からないような人たちの手に委ねたときに何が起きるのかを教えてくれます」
「考えてみてください。人々がお店でギターを買えるようになってから,どれほど音楽が進化したことでしょうか。これはあなたが自分自身を表現でき,これをどこでも好きなところに持ち出せるということを意味します。ときどき私たちはジャンルや長さなどで制限を受けます。一方,私たちの目的は人々にやりたいことはなんでもできるようにすることです。彼らはジャンルに縛られることはありません。彼らは2Dと3Dの間を移動できます。彼らはなにか別のものになるミュージックビデオになるムービーを手に入れられます」
それを成し遂げるためのツールをユーザーに提供することは,おそらくMedia Moleculeにとって最大の挑戦となる。6弦のギターは信じられないほど単純な楽器だが,直感的に音色を作り出している。鉛筆は扱うのに複雑な機構を持ったものではない。しかし,Reddy氏自身が指摘するように,ビデオゲームはグラフィックスやサウンド,アニメーション,ロジックなど高度に相互接続されたシステムを介して構成されている。
Dreamsが伝統的なメディアの誇大広告サイクルに巻き込まれていなくても,実際にMedia Moleculeは2年間にわたってライブ配信やYouTubeビデオでそのツールを実演してみせた。そうすることによって,デベロッパはコミュニティに,これがいかにツールのバランスを突き崩すものかを示しているのだ。奥深くて難解なツールと,プロのゲーム開発者を志望していない人でもすぐに使えるような直感的なツールとの間の垣根は取り払われた。
「私たちにとって,それは常に,PlayStationにソファに座ったまま使えるツール一式をもたらすにはどうするかということでした」とReddy氏は説明する。「私たちは,そう,ピアノのためにスーパーアドバンストモードをつけるようなことはまったく望んでいませんでした。私たちが望んだのは,いわばタマネギの皮のようなツール一式です。たとえば音楽ツールから始めて楽器を弄り回すことができますが,もう一段先に行きたいときにはそれができ,どこまでも深いところにまで行けるようなツールです。しかし,その外側に留まって,私たちがTier 1(ツール)と呼ぶところのもので楽しむこともできます」
この点では,Media Moleculeチーム間での才能の幅というのが役立った。Reddy氏は自分のゲームツールの使い方法とアートディレクターの使い方が異なっていることに気づいた。 ― しかし,それで争うべきだというわけではない。
「私は修練を積んだアーティストやデザイナー,作曲家,プログラマではありませんが,私はDreamsを誰でもできるようなものは誰でも作れるようにしたいと思っています」と彼女は語った。「私はその振り幅のちょうど反対側にいます。私たちはスタジオのみんなに参加するように勧めています。私のいる側の人は,このゲームを少し現実的になるように保つ役割ですね。私たちは奥深さを必要としており,Dreamsが持つ奥深さには誇りを持っています。しかし,多くの人を引き入れるために,行程を通して人々を助けるようなコンセプトがありました」
彼女は,チュートリアルではゲームを介してフィードバックを行ったり,新規ないし不慣れなプレイヤーを導くための毎週のテーマと課題を出しており,Dreamsがより熱烈に歓迎されることを保証しているという。
「すべての行動の欠片を摘み取っていくのは興味深いことです。―初心者エリアで真っ白なキャンバスへの恐れを克服するためにできる最も単純な創作行為はなんでしょうか?」と語り,「それは間違いなく私たちが懸命に取り組んできた分野のひとつです。つまり,深みを持たせつつ,より奥深さを求める人に分かりやすくすることです」と講演を締めくくった。
※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)