[TGS 2018]ガラスの中に浮かぶ映像? 完成度の高い立体ディスプレイLookng Glass

 今回の東京ゲームショウでの注目すべきハードウェアは,2つの立体ディスプレイだった。すでに紹介したVoxon Photonics製品のような「本物」の立体表示ではないのだが,製品の完成度としてはむしろ高そうなのが,ここで紹介する「Looking Glass」だ。

 写真のように,Looking Glassは透明なブロック状の立体ディスプレイだ。公式サイトをざっと見ただけでも「なんか違う感」が漂っており,「holographic display 」という単語をサイトで見て即購入(予約)してしまった人は私だけではあるまい(たぶん)。

3Dディスプレイ「Looking Glass」。映っているのはユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの高橋啓治郎氏作成の3Dデモだ
[TGS 2018]ガラスの中に浮かぶ映像? 完成度の高い立体ディスプレイLookng Glass

 さて,「holographic display」と謳ってはいるものの,Looking Glassの仕組み自体は非常に枯れた技術で,液晶ディスプレイ+レンチキュラーレンズによる多視点表示を使ったものとなっている。
 昔からあった技術なのでしばらくチェックを怠っていたというのもあるのだが,春の3D&バーチャルリアリティEXPOでは,4Kディスプレイをベースにした製品を見て進化ぶりに驚いたのも記憶に新しい。解像度が上がると多視点化と高画質化がともに進み,かなりよいものになっていた。しかし,それと比べても見た目がまったく違うように見えるのが,このLooking Glassだったのだ。

ここでもボクセルゲームVoxatronがデモ展示されていた
[TGS 2018]ガラスの中に浮かぶ映像? 完成度の高い立体ディスプレイLookng Glass

 展示されていたLooking Glassデモ機の解像度は2560×1680ドットで,45視差に対応している。視野角は45度であり,つまり1度ごとに映像を作って出しているわけだ。この手の多視点ディスプレイは「裸眼でOK」なことから多人数での利用を中心に設計されることが多く,高視野角に振ってくるのが普通なのだが,Looking Glassはパーソナルな用途(ほとんど正面からしか見ない)を想定しているようで,中央集中でその範囲だけはとてつもなく滑らかにつながるように作られている。
 一方で,多人数で見られないことは弱点として認識しているようでもあったが,そのあたりは用途に応じて変えるようなことも難しくないだろう。

 製品を見てうまいなと思ったのは,画面の手前に空間を作って,そこに映像を出しているところだ。通常の3Dテレビでは映像の範囲などは規定されていない。かつての3Dテレビが登場したときには目の疲れなどを懸念して「後ろ側に表示しましょうね」といった奥行き感重視のガイドラインが作られていたものだったが,「手前と背景が別レイヤーに見える」というのは立体映像に求められているものとは少し違うだろう。
 Looking Glassは,前面部のガラスのような部分(アクリルとのこと),立体映像をその範囲に入れることで,「そこにある感」を強調している。背景をつけることも可能だが,奥行きを捨てることでメリットを得ている感じだ。
 もっともいくつかのデモではそういう実装が行われていたものの,手前の空間に限らず実装されたデモも行われていた。形状からすると手前のガラス部で完結させるのが美しいのだが,一般的なゲームを移植した場合などはそういうわけにもいかない。もちろん,奥行きのある普通の立体ディスプレイとしても十分使えるのだが,それではもったいない気もするのだ。
 そういう意味では,サイネージなどで使うのが最適であり,この空間に合わせて一番綺麗な形でゲームをデザインするのは少し窮屈というか難しくなりそうだ。
 LeapMotionを使ったオブジェクトとのインタラクティブが想定されているので,やはりキャラクターなどのオブジェクトを表示して眺めるのが一番なのだろうか。


 なお,開発環境としてはUnity用のSDKが用意されている。ゲーム開発は比較的容易だろう。多視点ディスプレイ用のシェーダなどが一般に公開されている。
 「大きいのは作れないのか」と聞くと現在30インチくらいのものを試作しているとのことだった。筒の中に嫁を飼っているような人は早くこういうのを導入すべきだろうと強く感じた。

 この製品を特徴付けている視点の多さと映像のブレのなさは,詳しい人によると「レンズの性能がとんでもなく上がっている」らしいことによるらしいのだが,詳細は不明だ。
 枯れた技術を綺麗にまとめて,開発環境などをしっかりと整えていることがこの製品のうまいところだろう。8.9インチ版が499ドル(約5万6000円),15.6インチ版が3000ドル(約33万7000円)と,すでに個人でも手の届かなくもない製品に仕上げてはあるのだが,見た目のインパクトは非常に大きいので,どちらかといえばこの技術を使ったアーケードゲームなどの登場に期待したいところだ。


Looking Glass公式サイト