[CJ2018]アイテムが消えない未来。ブロックチェーンはゲームをどう変えるのか?

 2018年8月3日から中国・上海で開催されている中国最大のゲームショウ「ChinaJoy 2018」は,非常に多くの併催イベントを抱えているが,そのなかでも今年から新たに始まったものに「ブロックチェーンゲーム開発者大会」がある。

 ブロックチェーンというとBitCoinをはじめとした仮想通貨(トークン)で使われている技術だ。平たく言うと「BitCoinなどの管理で使われている技術」であり,それをゲームに使うとどんなことができるのかについては,これらの記事を見てもらうのが分かりやすいだろう。

(参考)「ブロックチェーンテクノロジーがどれほど生活を変えるのかを言葉にするのは難しいですね」

(参考)ブロックチェーンテクノロジーはDRMの終焉を招くかもしれない:Robot Cache


 その最大のメリットは,お金やアイテムなどのやり取りでの処理の確実性を保障できることであり,実装の未熟さによるアイテムのデュープなどを原理的に防ぎ,ハッキングなどにも強い環境を確立できることにある。またゲーム内でのコインやアイテムを実際のお金に変換する仕組みを提供できることを重視する人もいるだろう。
 ブロックチェーンゲームというのはゲームでの支払いやゲーム内のやり取りにこの仕組みを利用したゲームのことである。

 ChinaJoy 2018の展示会場ではブロックチェーンゲームのためのエリアが設けられている……はずなのだが,ブロックチェーン関連の出展はそこには思ったほど多くないようだった。ここでは会場内で見かけたブロックチェーン関係を扱う数社から聞いた話をまとめてみたい。

 各社とも,ブロックチェーンの仕組みを各社のゲームに取り入れることを可能にするプラットフォームをゲーム会社に提供する。ブロックチェーンシステムの導入には高い技術力と計算資源が必要だ。それをゲーム会社に提供することにビジネスチャンスを見出しているようだ。これらを使えば,ブロックチェーンゲームを作る場合でも,とくにブロックチェーンに対する知識は必要ではないという。

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 Block GameではシンガポールのTopChainが展開する仮想通貨をベースにビジネスを展開している。そこが扱う通貨TOPCをさまざまなゲームで使えるようにするシステムである。Block Gameのソリューションではゲーム内で扱える通貨をすべてTOPCで置き換えるのだという。同社は自社で100万台のシステムを保有しており,処理資源を確保しているとのこと。

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 Gamechain Systemでは,仮想通貨とゲーム内コインを分離し,ゲーム内コインをDPOSに変換するシステムをGamechain System側が提供するという。
 Gamechain Systemでは,ゲーム内通貨だけでなくゲーム内アイテムのやり取りについてもブロックチェーンの仕組みを提供する。これにより,アイテムの仮想通貨化→リアルマネー化といった流れも確立される。Gamechain Systemでは,ブロックチェーンがあって初めてゲーム内のアイテムに本当の価値が生まれるのだとしている。

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 一方,Elastosはゲーム以外のデジタルアイテムのやり取りなどでブロックチェーンの仕組みを提供しており,アイテム単位でのやり取りを基本にしているという。本の例で説明されたのだが,作者が自分の本を1000部デジタル化して販売した場合,ブロックチェーンを使えば,1000部の本がデジタルデータとして販売される。本を買った人はそれを転売することもできるが,転売したら本のデータは残らない。デジタルデータの複製がほぼ不可能というところにブロックチェーンの価値がある。デジタルアイテムの価値が保障される。また,転売した本の収益から作者へ利益の一部を還元するような仕組みも導入できたり,発売前の本を予約販売するといったクラウドファンディングに近い使い方もできるという。さらに本の価格は変動性であり,投機目的で購入することもできる。
 ゲーム業界だと本ではなくてインディーズゲームのようなバイナリで販売されるゲームで考えると分かりやすいかもしれない。防ぐことの難しかった複製がほぼ完全に防げるソリューションになるのだ。これはオンラインゲームでのゲーム内アイテムでも同様だ。その場合もアイテムのそれぞれに対してキー(使用権)を発行する形式となり,同時にアイテムのやり取りがゲーム外でできるようになる。もの凄く価値が高いアイテムなどについて,ユーザーが販売すると開発元に利益の一部が入るような設定をすることも可能だそうだ。
 なお,同社のシステムの特徴は,利用するブロックチェーンが複数あることだ。サブチェーンに対応して安定性を保つ仕組みは各社取り入れつつあるというが,同社が始めたものだとのこと。

 MagnaChainはまだ新しい会社のようで,現在のクライアントは2社だが,9月にコードを公開してさまざまなシステム向けにSDKを配布していくという。これからのブロックチェーン企業といった感じだった。ちなみにこの会社も複数のブロックチェーンを採用している。
 ブロックチェーンでは多くの人がマイニングに参加しており,誰が利益を取るのかの合意形成が非常に重要になっている。そのアルゴリズムでブロックチェーンの性格も少し変わるのだが,PoWという演算量に比例する方式と,PoSという投票量に比例する方式をともに採用して両者の欠点をなくしているのがMagnaCoinの強みだという。ちなみに,ElastosはPoW,Gamechain SystemはPoS系を採用しており,当然ながらそれぞれのメリットを主張している。

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 ところで,仮想通貨を増やすにはマイニングが必要であり,任意の量を増やすことはできないのだが,ゲーム内での通貨量はゲーム次第で簡単に変化することが考えられる。このあたりの調整をどうしているのだろうか。
 Block Gameではゲームごとに通貨量を制限しており,通貨量はゲーム自体をランク分けして,それに応じて発行額を決めているという。ゲーム内での通貨量はそれに合わせて制御する必要があるわけだ。
 Gamechain Systemの場合,アイテムの発行時には仮想通貨を担保にする必要があり,その75%の範囲で運用をさせるようだ。これはいかなる場合でもユーザーの資産を払い戻せるようにするためであるという。
 Elastosの場合もそれと同じようで,ゲーム会社が使用する仮想通貨をそれぞれが先に確保してからアイテムなどを導入することになるので基本的に問題は発生しないとのこと。

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 また,各社ともプラットフォームに複数の会社の複数のゲームが連なっていくわけだが,仮想通貨部分は共通なのでたとえばゲームAで稼いだコインをブロックチェーンのシステムを通じてゲームBで使うといったこともできる。Gamechain Systemのムービーでは別のゲームのアイテムを使えるような説明もあったのだが,さすがにそれはできないとのことだった。

 ゲーム内通貨を仮想通貨化し,その時点のレートでリアルマネーに戻せることを各社は強調しているが,税金などはどうなるのだろうか。聞いてみると,中国ではブロックチェーン周りの法整備が進んでおらず,「税金はかかりません」とのことだった。え?
 とはいえ,仮想通貨を人民元に変換することは違法であり,変換する場合は海外のサービスを利用することになるという(それはOKらしい)。

 こういったプラットフォームを利用しているゲームのサービスが終了してしまった場合はどうなるだろうか。Block Gameの場合は,仮想通貨そのものをゲームで利用しているので,サービスが終了しても仮想通過TOPCは同じプラットフォームのゲームでそのまま利用でき,換金も可能である。Gamechain Systemの場合は,ゲーム内コインを仮想通貨に変換することで資産をある程度保つことができるという。
 Elastosでは,たとえばサービスが終了してもアイテム自体は残り続ける。使える場所がなければ価値は暴落することになるかもしれないが,データとしてのアイテムが消えることはないという。

 これらはBitCoinと同様,仮想通貨とリアルマネーの変換ではレーティングは変動するので,そのあたりのリスクは抱えることになるだろう。Gamechain Systemの現在の変換レートは1コインで0.0x元といったものだそうだが,最大時には1コイン1元となったこともあり,資産が増えることももちろんある。同社では,年内に1コイン5元を目指しているとのことだ。このあたりのマネーゲームの話になると少し胡散臭いのだが,マイニングという現代のゴールドラッシュを利用しつつ資源を確保するのがこういったシステムの特徴でもあり,換金可能な仮想通貨をベースにするシステムではついて回る問題ではある。
 今回のブロックチェーンゲームのソリューションは,すべてBitCoinのように公開された誰もがマイニングできる仮想通貨をベースとしている。ブロックチェーンは仮想通貨の根本的な仕組みではあるものの,仮想通貨と切り離せないものではないと思うのだが,そういう選択肢は用意されていない。演算量的に外部に出さないと無理なものなのだろうか。

リアルコイン掘りのコーナー
[CJ2018]アイテムが消えない未来。ブロックチェーンはゲームをどう変えるのか?
 通常,オンラインゲームではゲーム内のアイテムなどはゲーム運営会社のものであり,個人の資産とはみなされない。どんなに時間と金をかけて手に入れても,サービスが終了すればそれまでだ。それが換金可能になったり,データとして残しておけたりできるようになる。
 今回紹介したような換金可能なブロックチェーンの導入が進めば,ゲーム内の資産は誰のものかは,むしろプレイヤーのものとなるという見方が強くなるだろう。これらの会社もユーザーの資産になるという部分を強く推している。これはオンラインゲームの前提を揺るがす問題でもあり,所有権や財産権に関する法整備が必要な分野かもしれない。日本で導入する場合は,税金に関しても中国のようにはいかないだろう。

 世界的に盛り上がりを見せるブロックチェーンゲームは,ある意味時代の流れに沿ったものではある。これは売り切りのゲームなどにとっては非常に素晴らしい仕組みである。ただ,今回取り扱っている会社が提供しているサービスの多くはオンラインゲームを対象としており,ゲーム内アイテムの価値を変えることになる。その影響については精査しておく必要がありそうだ。