[GTMF 2018]制作管理ツールとはどういうものか? ShotgunとSave PointとBrushupを比較する
出展そして講演に挙がったさまざまなツールの中から,今回は,コンテンツ制作管理ツールをまとめて紹介してみたいと思う。すなわちAutodeskの「Shotgun」,MUGENUPの「Save Point」,Brushupの「Brushup」である。開発の生産性を上げるツールとして普及が進みつつあるものだが,これらはどのようなことができて,どのあたりに違いがあるのだろうか。
ゲーム業界で導入が進むSHOTGUNの魅力について
『Brushup』で2D、3D、音楽の爆速フィードバック!
「SavePoint」3年間の軌跡と、今後の展望について。
以上,3つのセッションと展示会場での話からまとめてみた。
以前はAlienbrainなどが使われていた分野だと思うのだが,これらのツールではとくに進捗管理などの機能が大きく拡充されているようだ。
すべてのツールで強調されるのは,これまでのコンテンツ制作時におけるコミュニケーションの煩雑さだ。
ゲーム制作では多くの会社が進捗管理にExcelを使っているらしいのだが,それには,案件が増えると次第に管理しきれなくなる,進捗管理だけで1日が終わる,管理している人が倒れるとどうしようもなくなるといった弊害がある。誰がどの表を見ればいいのかなど,運用も難しい。
また,レビューの過程,つまり出来上がったアセットをチェックして修正するといった基本的な作業工程に無駄が多いことも指摘されている。
まずは,このようなツールはどういった機能を提供するのかから確認しておこう。これらのツールは大きく言って,
- コミュニケーション
- 進捗管理
- ファイル管理
- レビュー
を一元化するものだと思っておけば間違いはないだろう。これらはどれもコンテンツ制作で使われるものとなる。2Dイラスト,3Dモデリング,レベルデザイン,ムービー制作,アニメーション,音声データなど,どちらかといえば管理しにくいものをうまく管理しつつ,その制作過程を効率化していくためのツールである。プログラムコードの扱いでは,JIRAやGithubなど別のツールのほうが効率がよいとのこと。
まず,連絡は制作管理ツールのSNSに一元化する(メールやメッセージを飛ばすことも可能だが)。制作物単位のスレッドとなるので,進捗状況も分かりやすい。やり取りされるのは成果物の絵や映像が主体であり,Webブラウザ上から特殊なツールなしでゲーム系の各種ファイルを確認できる。
そしてファイル管理もクラウド上で一元化される。急な変更が必要になったが担当者が捕まらないといったときでも,履歴を追って必要なファイルを探すことができる。
中間成果物のチェック時には,手描きでコメントを入れてビジュアルに示すといったことも各ツール共通で行える。
そして一覧の流れはガントチャートで進捗管理が行われる。このあたりも標準的な機能と思っていいだろう。
ではどのあたりに差があるのか?
まずそれぞれのツールの出自を見ておこう。
Shotgunは,もともとアメリカで映像制作系のコンテンツ管理システムとして使われていたツールだ。現在のハリウッドを支えるツールと言ってもよい。日本でも映像政策の現場では数多く使われている。映像というマルチメディアデータの管理に適していることから,ゲームでも使えるのではないかと導入する企業が増えているという。懸案だった日本語化も行われて,日本での展開はこれから本格化というところだろうか。
Save Pointを制作するMUGENUPは,元々イラスト制作を主とする会社である。同社が熟知する2Dイラスト制作のパイプラインをもとに2Dアセットを中心とした制作管理ツールとして,イラストレーターが使いやすい機能を詰め込んだのがSave Pointである。
3Dアセットにも対応を進めているが,主力となるのは2Dイラストだ。イラストレーター系の現場担当者と話をすると,
Brushupは,Webブラウザ「Sleipnir」を開発するフェンリルから独立した会社だ。そのデザインや操作性などのノウハウを買われてスマホの黎明期から数多くの会社のアプリ開発に協力してきたという経緯があり,各社とのやり取りで分かった問題点などをもとに,コンテンツの制作フローを最適化したツールとなる。
半面,カスタマイズ性が高いものの元々ゲーム業界向けのツールではないので,業務内容を適合させるのに初期導入のコストがかかり,最適なシステム構築を行うにはある程度の知識が要求される。
見た目は,サムネイル中心で,Windowsなどのファイル管理システムに似ているかもしれない。フォルダやタグを使った管理ができる。また,レビューシステムでは,「見たよ!」ボタンが非常に好評だという。とくにコメントを書く必要もなく誰がチェックしたかだけは伝えることができる。
ざっと見たところ,イラスト制作の現場で便利な機能はそろっているのだが,現時点ではガントチャートで期限を設定できないなど機能的には発展途上なところもあるようだ(セッションで取り上げられていたので今後拡張されるのだろうが)。また便利そうな機能の多くがオプション扱いになっている。
タスク機能はチーム内のメンバーにタスクを割り振れる。が,チーム内しか割り振れない点への拡張要望もあるようだ。Save Pointは当初小チームで使うことを前提に機能を構築していたが,現在は大企業にも使われるようになり,外注先などへの割り振りも求められているという |
長期運用だとストレージ容量が苦しくなるが,日付とファイル名でフィルタリングしての削除が可能となっている |
スマホやタブレットアプリにも対応し,PCでは多くのWebブラウザに対応するのも特徴といえるだろう。ShotgunあたりはChrome前提なのに対し,BrushupはIEもいける。マウスだけでレビューができる,ガントチャート画面からそのまま成果物をプレビューできるといった,ちょっとした手間を省く気の利いたインタフェースになっている。
Save Pointの「見たよ!」に対抗してか(?),7月19日に「いいね!」ボタンが追加されていた。コメントを書く手間を省ける機能だ。
また,今回のツールではBrushupのみが無料のプランを持っており,たとえば外注先ではフリー版で済ますといった使い分けができる。全体的な価格もいちばん安そうだ。
レビュー一点特化ではないのだが,ガントチャートなどの進行管理はあまり強調されていない。このあたりは機能をどんどん拡張するというよりは,絞り込んだ機能だけを実装しているような気配はある。カスタマイズでは項目名などの変更はできるものの,機能的な部分では変更はできない。
以上がだいたいの特徴なのだが,いくつかポイントを絞って機能を比較してみよう。
●3Dモデルのプレビュー
たとえば,アニメキャラとコラボしたときの版権チェックなどでキャラクターデータを確認してもらうときに「Mayaのデータを送りました」ではたぶん対応してもらえないだろう。
Save Pointはオプション機能でMayaや3ds Maxのデータをブラウザ上で動かす仕組みを入れている。MayaやMaxをインストールしてない環境でもデータを確認できるのだ。ボーンの表示やシェーディングの有無,光源位置の変更などの表示設定も変更できる。パフォーマンス的にはモバイルゲームで扱うようなものであれば十分とのことだった。
Brushupも同様にオプション機能で3Dデータの確認がツールを起動することなく行える。クライアント側かサーバーサイドの処理なのかいまひとつ分からなかった。ワイヤーフレーム表示のほか,シェーダのON/OFFやテクスチャなし,法線マップのみの表示などを組み合わせることも可能だ。3Dデータの閲覧時にレビューを行う機能も備えている。
一方で,3Dデータのプレビュー機能を持たないのがShotgunだ。Autodesk製品なのになぜ? という感が強いのだが,実は過去に3Dデータプレビュー機能の実装は検討されていたのだが,需要はないだろうとお蔵入りになったらしい。実装できない理由もないので今後追加されることがあるかもしれない。
ただ,おそらくShotgunが想定している3DデータはSave PointやBrushupのようなモバイルゲーム用ではなく,“ハリウッドで使うCGモデル”クラスになると思われるため,クライアントサイドでの表示は実用上意味がないとされている可能性はある。「Mayaを起動して確認」みたいなボタンは出るのだが……。
●コミュニティ機能
SNS部分でコミュニケーションを取り,メールやメッセンジャーにも飛ばせるというのがだいたい共通したところなのだが,Save PointもBrushupも外部のサービスであるChat Workに対応しており,ともにSlackへの対応も行われるようだ。すでに導入している企業が多く,そちらと連携するということのようだ。
面白いことにShotgunの事例で紹介されていたのは逆で,Chat Workで管理していたのだが,案件が多すぎて収拾がつかないのでShotgunにまとめたといったものだった。一方で,独自のカスタマイズによりSLACKに対応しているところもあるという。基本的な情報は管理ツールで一元化しつつ,できるだけ多くの方法で通知を行いたいというのが,業界的なニーズなのだろう。
●画像比較機能
Blashupのセッションで便利だと紹介されていたものに,前のバージョンの絵との差分をパチパチ切り替えて確認するといった機能があった。最初のバージョンから最新のものまでムービーのスライダー操作のように流して確認する様子などもデモされていた。
オプション機能ながら,Save Pointでもほぼ同じ機能はあり,こちらは履歴だけではなく,左右で任意の最大9枚の画像を比較できるというものだった。もちろん左右に並べるだけでなく,重ねて切り替えることもできる。
Shotgunではどうなのか聞いてみると,軽く「できますよ」と言われた。デモなどはなかったのだが,まあ当然できるんだろうなあ。
●カスタマイズ性と導入難度
よく聞くのが「Shotgunは導入が難しい」という言葉だ。プログラマがいるような業種なら設定できるだろうが,デザイナーだけの会社では導入が難しいといった感じだ。初期設定の問題はAutodeskも否定してないようだが,ある程度業務フローの分かっている「几帳面な人」がちゃんとチュートリアルをやっていけば大丈夫ではあるらしい。それでもある程度の設計は必要になる。難しい場合は「代理店やサポートに相談してください」とのことだ。その代わり,GitHubなどのツールと連携するなど,非常に高度なシステムを構築できる可能性がある。
一方で,Blushupはほぼ「ツールのやり方に仕事を合わせる」方向であり(※カスタム属性での業務に合わせた管理は可能とのこと),カスタマイズ要素は少ない。Save Pointは(そういう導入プランを取れば)ある程度MUGENUP側でカスタマイズしてくれるらしい。
●価格と機能
運用コストについて,月額をベースに表にまとめてみた。ShotgunとBrushupは年額のプランもあり,当然ながらそちらのほうが少し割安になっている。また,Save Pointは複数アカウントでの総額,ShotgunとBrushupは1アカウントあたりの金額なので注意が必要だ。1アカウントあたりの値段でいうと,ShotgunとSave Pointはだいたい同じくらいになるようだ。
機能については,Save Pointは基本機能以外はオプションとなっているため,よく言えばビジネスに無駄のないシステムの導入ができ,悪く言えば,なにか追加するとお金が掛かる。Brushupでは,スタンダード版からガントチャートや画像比較などの機能が利用できるようになる。3Dデータファイルのプレビュー・レビュー機能は全プランでオプションとなっている。
また,Save PointやBrushupではストレージの容量などは段階的に増やしていくプランとなっている。Save Pointは200GBで1万円,Brushupは100GBで5000円だ。どちらもAWSベースなので似たような価格に落ち着くのだろうか。
製品の位置づけをまとめ直しておくと,全体的に強力なのがShotgun,2Dアセット作成を中心に機能をまとめているのがSave Point,とくにレビュー機能に力を入れているのがBrushupといった感じだろうか。
使い込む/使いこなせるならShotgunがお得な気配はあるものの,2Dイラストやモバイル3Dキャラ程度のアセットしか扱わない場合は,Save PointやBrushupがなにかと楽そうではある。どちらが適しているかはインタフェースや機能の設計などで好みや業務フローへの適不適はあるだろう。
ゲーム開発の効率化を図るツールは近年次第に存在感を増している。機能の詳細までは踏み込めていないのだが,今回取り扱った3つのツールの概要を参考にしてほしい。