商標:守らなければならないものはどれくらいあるのか?

Star Controlの法廷闘争は宇宙人の種族名にまで広がった。Harbottle & Lewis法律事務所のKostya Lobov氏がバランスを取るためのアドバイスを提供する。

 Star Controlのゲームの権利を巡る最近の議論(関連英文記事)を契機にもちあがっている疑問の一つに,ゲームメーカーが商標で求めるべき保護の範囲がある。ゲームの名前を登録するだけで十分なのか,それともそれ以上にすべきなのか? その場合,どこに線を引くのか?

 これに答えるためには,我々は商標の目的に着目する必要がある。公正な警告:これはこの記事の範囲内で完全に扱うことができないほど複雑なトピックだ。そこで,以下は,英国・EUレベルの視点からの考察となる。

Harbottle & Lewis,Kostya Lobov氏
 最も基本的なところで,商標は,あるビジネス分野で物品やサービスをほかのものと区別するために使われる印 ―商業起源の識別子として知られている。

 この概念の重要性は二重の意味を持っている。まず,登録商標は登録を維持するため,商業起源の識別子として使われた。それとは違って,商標は消費者が誰が作ったか分からない製品やサービスを識別しやすくするようなものである。もし商標が5年かそれ以上このように使われていなかったら,第三者から非使用ないし無効の異議申し立てが行われる可能性がある。これは登録がアクティブに使われていない(もしくはもはや使われていない)商標で取り散らかされていないかを確認する手法となっている。いくつかの国では,商標登録は実際に取引の過程で使われるまで有効にはならない。

 次に,登録商標の持ち主は,商標の機能に影響を与えそうな用法に対してのみ強制できる。商標の利用が純粋に記述的な場合や関連する製品やサービスの商業的起源を識別するために使用されていない場合は,侵害にならないかもしれない。たとえば,41類の「エンターテイメントサービス」にキャラクター名が登録されていた場合,第三者がゲーム中で同じ名前を使うことを防ぐには十分ではないかもしれない。そのキャラクター名がゲーム自体の商業的起源の識別を感じさせない限りは。それに対し,第三者がキャラクター名をゲームのタイトルとして使おうとした場合はおそらく商標の侵害と見なされるだろう。

 登録商標は所有者に,似たような製品やサービスで紛らわしくなるような他者による似たような商標の利用を防ぐことで独占権を与える(同一の製品やサービスに関して同一の商標が使われているなら,紛らわしさを論証する必要はない)。それぞれの状況は事実関係を考慮する必要があるものの,実際のところ,これは同じ単語の綴りや複数形,キャピタライズなどのバリエーションを持った商標を登録する必要はないということを意味している。同様に,単語の登録は通常プレーンテキストで十分であり,装飾された形やさまざまな拡張子を持つドメイン名(.com,.bizなど)などをもカバーしている。


優先権


 商標の訴訟問題を進める壇になると,一つでうまくいくような戦力は存在しない。適切な戦略は,ゲームの性質,商業的意図,競合の状況,そして予算といったいくつかの要素による関数である。ゲームの権利と権利保有者のの商業的目的のバランスを取ることが鍵となる。届出が少なすぎると適切な保護が行えない可能性がある一方で,多すぎると結局,不要な財務的管理的負担となってしまうだろう。

「届出が少なすぎると適切な保護が行えない可能性がある一方で,多すぎると結局,不要な財務的管理的負担となってしまうだろう」

 共通の起点となるのは,商標の登録を申請するところである。これには名前でもロゴ,画像,さらにはマルチメディア商標も含まれるが(関連記事),特徴的であり,消費者にゲームを販売,マーケティングするときに使われることになる。これは典型的な場合,デベロッパやパブリッシャの名前とゲーム自体の名前を含んでいる。

 名前や外観,さらにはゲーム内のキャラクターのアニメーションや場所,武器,もしくは乗り物といったものを登録申請するのは難しい判断となる。これらの名前自体がゲームの外側で商業的かつ消費者向けに使われるのであれば価値があるかもしれない。―たとえば,広告やプロモーションキャンペーン,DLC,商品などだ。

 しかしながら,上で述べたように,その用途がゲーム内に限定されており,商業的,消費者向けのやり取りに現れない場合は,この手の商標登録だけでは第三者が同じ名前や外観,アニメーションなどを使うことを防げないかもしれない。予算の限られた小規模のデベロッパにとって,この手の商標申請の優先順位は低くなりがちだ。

 最も重要かつ自分たちのポートフォリオを徐々に拡大するものだと認識していても権利所有者が商標申請をためらうことは少なくない。コストの拡大だけでなく,これはコミュニティの反応を管理する手助けになったり,有害な宣伝を減らすことにつながるかもしれない。ゲームのコミュニティはデベロッパやパブリッシャが権利を守ることに敏感であることが知られている。商標申請の混乱は,ときに土地の争奪戦のように認識されている。たとえ,書類上のものであっても,そこに非日常や違法なものは何もない。それが主要な原動力になることはないだろうが,これは,大衆とコミュニケートし,その副作用に対処するためのPR戦略への投資だ。


気をつけるべきその他の権利


 商標の登録には多くの潜在的な利益がある。それらは相対的に安価で施行しやすく,適切に維持すれば無期限に持続できる。一度登録すれば第三者の異議申し立てが成立するまで有効とみなされる。所有権の証明は簡単で,侵害への便利な抑止力にもなりうる。

 しかしながら,商標はゲームのブランドや特徴を守る唯一の方法ではないということは覚えておいたほうがいいだろう。英国の詐称通用(大陸的な不正競争の概念と類似性を共有している)の法律は,他人がゲームの商業的な起源である,もしくはライセンスや推奨など,友好関係にあると公衆を誤解させかねない不正表示を作ることを防ぐために使われる未登録の権利である。

 著作権も同様に使用できる。ロゴやアートワーク,パッケージ,ソースコードなどのようなものを保護することと同様に,特定の状況ではゲームのストーリーラインといったものを保護するためにも使われる。これは重要なイベントや主要キャラクターを含む。

 従業員の離職で合意が適切に文書化されている場合,雇用期間中に作成した知的財産の使用を禁止する特定の契約条項が存在することもある。従業員がアクセスできる情報のいくつかは,その旨の書面による合意がない場合であっても,守秘義務が発生する状況で提供されているかもしれない。

この記事は著者の意見を表したもので,法的な助言を構成するものではない。法律それぞれの国で異なり,ある状況では適切なものでも別の状況では間違っている可能性がある。あなたにとってなにが正しいのかを決める前にプロに相談してほしい。

Kostyantyn Lobovはロンドンを拠点とする法律事務所Harbottle & LewisのSenior Associateであり,IPと宣伝問題を専門としている。氏は(生活や許すなら)熱心なゲーマーでもある。またときどき@IPLawyerKostyaでゲーム関連のTweetを行っている。


※本記事はStar Controlの法廷闘争の話題をきっかけとしているが,Stardockが取得しているのは商標だけではないので該当の問題の解決の助けにはならないかもしれない。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら