マルチメディア商標はクローンゲームを防げるか?

英国の弁護士事務所Harbottle&LewisのKostya Lobov弁護士は,英Rebellionの「Sniper Elite 4」で示されたように,知的財産保護の新しい形がデベロッパにとって大きな利益をもたらすと考える。

 何にでも「マルチメディア」とつければたいてい今風に聞こえるものだが,最近EUで導入された,新しい形でのマルチメディアの登録商標は,ゲーム業界にとって重要な発展となるかもしれない。

 昨年,EUにおける商標の登録基準を緩和する新しい法案が成立し,商標(標識)から「語句や記号で表現されていること」という要件が削除される結果となった。
 従来にはない商標(音,3D,香りによるようなものまで)が登録できることもあったが,「語句や記号で表現されていること」という要件は常に登録における足かせだった。それはすなわち,通常,登録出願者は静止画像と説明文が複雑に入り組んだ願書を用意せねばならないことを意味していたからだ。今や,表現がはっきりしていて,正確で,自己完結しており,容易にアクセス可能で,理解しやすく,永続的で,客観性がある限り,商標は,一般的に利用可能な技術を用いたいかなる形態でも表現することができる。

 これは,サウンドを備えた,完全にレンダリングされたゲームプレイの動画を含む,新しい形での商標出願の道を開いた。ここに挙げる欧州連合商標(EUTM)出願番号017282203のビデオクリップがその一例だ。


 これは実質的に,Sniper Eliteシリーズの「キルカム」のメカニックを描く25秒のビデオクリップそのものを商標登録する出願資料だ。出願区分9における幅広いゲーム種類や,区分41における「エンターテイメント」サービスを含め,区分9,28,41におけるさまざまな商品やサービスを網羅する。
 これはエキサイティングな見通しになるだろう。なぜならゲームプレイのメカニックは,さまざまな知的財産権の間のすき間に落ちてしまう傾向があり,保護が困難であることはよく知られている。特許は非常に強力だが,ノベルティに関する厳しい要件と,その発明が発明的なステップを踏んでいなければならず,そして言うまでもないが「ゲームをプレイするための構造のルールや,方法論」は法律で特許性から除外されているという事実がある。特許はまた,取得に高額の費用がかかる上,時間がかかることもある。その結果,ゲーム分野の多くの(すべてではないが)特許は,基盤技術やハードウェアに集中する傾向がある。
 著作権は,ゲーム内のソースコード,画像,ビデオ,テキスト,音楽,そしてそのほかの創造的要素を保護するのに最適だが,大抵の場合,根本的なアイデアやメカニックを保護することまでは及ばない。同様に,(登録されているか登録されていないか別として)デザインは一般に,そして,その効用と裏腹に,製品そのものやゲーム内の要素のビジュアル的なものを保護するだけである。

「登録商標は,素早くかつ簡単に登録することができ,実施が容易であり,紛らわしい類似の商標から保護し,そして,永久に使用できる可能性がある」

 これが今日ゲームのクローンが流行している理由の一つだ。

 他方,商標は比較的登録が迅速で安価であり,登録されていない権利よりも簡単に実施することができ,同一なものだけでなく紛らわしい類似の商標から保護するだけでなく,適切に管理されていれば永久に続けて使用できる可能性がある。ゲームプレイのメカニックの本質的な部分をレンダリングされたビデオを対象とする商標は,デベロッパやパブリッシャにとって知的財産を守る強力な武器になる可能性がある。

 この種の商標を登録することは簡単なことではないと言っておく必要はあるだろう(「Sniper Elite」のキルカムは昨年10月に提出されたにもかかわらず,いまだ審査中であるというのは興味深い事実だ。審査機関から何らかの反対にあっているということかもしれない)。出願される商標は,引き続き,異なるビジネスの製品またはサービスから区別することができる「標識」であるものという基本的な要件を満たす必要がある。言い換えれば,その商標を見た消費者が,適用される製品またはゲームを見て,それがある特定の商業的な供給源から来るものとして認識できなければならない。
 これは,すでにほかの業界で広く使用されているゲームプレイ/メカニックでのビジュアルの商標は登録できない可能性が高いことを意味する(登録要件を満たしたとしても競合他社がその商標登録に異議を申し立てる可能性がある)。商標は効力が認可された独占権であり,潜在的に永遠に続く可能性があるので,審査機関は,合法的な使用や創造性を妨げる可能性がある商標を受け入れる際には慎重になる傾向がある。したがって,ゲームプレイのメカニックのビジュアルが十分に独特であることを審査機関に納得してもらうには多少の努力を要するかもしれない。

 また,例えば,プラットフォームやアプリストアへの(コンテンツの)削除通知や(知的財産侵害行為などの)停止通告書,ワーストケースで訴訟手続きなどで怒りをもって使用された場合,このような商標がどのように扱われるのかについてもまだはっきりしない。いくつかの事例が確立されるまで分からないが,当面,この種のマルチメディア商標に基づく削除通知は困惑を引き起こし,どのように対処すべきかを決定する内部の電子メールが飛び交うことになると考えておくのが安全だろう。
 状況の不透明さはあるものの,商標(標識)と仕様,およびいくつかの裏付け証拠を適切に用意すれば,ゲームプレイ要素を視覚的に表現するためのマルチメディア商標が登録されるべきではないという理由はない。
商標登録のためにかかる負担は比較的軽く,権利保有者は柔軟性が増す欧州連合商標制度を利用したいと考えるため,このようなマルチメディアにまつわる商標(標識)は今後大いに増えるだろう。

Kostyantyn Lobov弁護士はロンドンに拠点を置き,知的財産や広告にかかる係争に特化する弁護士事務所 Harbottle & Lewis のシニアアソシエイトである。本人も熱烈なゲーマーで(時間が許すときだけだが)ときどき,ゲームに関連するツイートもしている。(@IPLawyerKostya)

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