「ブロックチェーンテクノロジーがどれほど生活を変えるのかを言葉にするのは難しいですね」

EverdreamSoftは,ゲーム内のカードをプレイヤーが売ることができる ―さらに重要なことに所有できる― ような技術を実証しようとしている。

 あなたはおそらく好奇心からこの記事をクリックしたことだろう。

 ブロックチェーンは,受取人が理解しているかどうかはともかくとして,ほとんど毎日のように受信箱に入ってくる単語だ。それはしばしば暗号通貨やInitial Coin Offerings(※新しい暗号通貨開始時に暗号通貨を報酬に行われるクラウドファンディング)に関連している。しかし,ビデオゲームに使用されるそのテクノロジーの真価はそれを遥かに超えている ― とあるモバイルゲームスタジオが実証しようとしているように。

 EverdreamSoftは,同社の最新CCG(コレクタブルカードゲーム)「Spells of Genesis」のゲーム内カードで「blockchainize(ブロックチェーン化)」機能を導入した。この専門語風のぞっとするような単語は,その背後に魅力的な意味を持っている。

「消費者は実際の所有権を持たないコンテンツに何千億ドルものお金を費やします。(しかし,それらは)ゲームパブリッシャによって所有そしてコントロールされているのです」

 どのような仕組みかを説明しよう。一度カードが上限までレベルアップすると(Spells of Genesisの用語でいうと4回融合されると),プレイヤーにはブロックチェーン化のオプションが与えられる。本質的に,これはこれはプレイヤーが彼らのカードをゲーム内のアセットからブロックチェーンのモノに変換できる仕組みである。デジタルアイテムはリアルマネーで販売や交換ができるようになる。

 ブロックチェーンテクノロジーの性格上,―同時に一つのアセットを所有ないしアクセスできるのは一人だけだ― カードの複製を防止し,その他の酒類の詐欺を防止する。現在ブロックチェーン化可能なカードが220種類あり,すでに2万枚がプレイヤーによって購入されている。

 ブロックチェーン化の行為はゲーム内通貨で支払われ ―クリスタルかジェムだ― 価格はそれまでに何枚のカードが変換されたかによって変わってくる。そしてEverdreamSoftはプレイヤーが変換できるカード枚数を1か月に3枚に限定している。これは市場があふれるのを防ぐためだ。しかし一度カードがブロックチェーンのアセットに変換されると,プレイヤーは自由にカードを販売したり交換したりできるようになる。

EverdreamSoft Shaban Shaame氏
「ブロックチェーンテクノロジーがどれほど生活を変えるのかを言葉にするのは難しいですね」
 「一度ブロックチェーンに入ると,それはユニークで取引可能で,追跡可能な独自性を持ちます。これはプレイヤーがカードを保持するか交換するか販売するかといった完全な制御権を持つことになります」とCEO兼創立者のShaban Shaame氏GamesIndustry.bizに語ってくれた。
 「本質的にブロックチェーン化はゲームとアセット間の紐付けを断ち切る役目をします。しかし,それは控えめな表現であり,これの持つ可能性はまさに一大事です」

 しかしながら,プレイヤーがゲーム内アイテムを売ったり交換したりというアイデアはなにも新しいものではない。実際,Counter-Strike: GOのようにゲーム内の武器やスキン用のマーケットを作って長く運営している例もある。―しかし,Shaame氏が強調する重要な違いは「真の所有権」だ。

 「流通しているデジタルアセットの大多数は本当には所有されていません」と氏は説明する。

 「スキンとゲーム内アイテムによって作られたと思われるお金ですが,それらはすべてゲームパブリッシャによって所有・コントロールされています。それらの会社は利用規約を変える権限を持っており,プレイヤーアカウントの凍結ないしマーケットプレイス全体の終了でさえ可能です。事実として彼らがそれをしないのはとても儲かっているからです。ですから,もっと大きなパブリッシャがLoot Crateや取引可能アイテムをゲームに追加するのは的を射たものです。しかし,追加の料金を払う自由にもかかわらず,プレイヤーは無力です」

 氏は「ブロックチェーンは,この力学をリセットする機会を提供します。もし私がデジタルアセットを所有したいと思ったなら,―そして私がそれを交換したり売却したりしたときに発生するやり取りは― すべてが明確かつオープンに記録されます。私が今購入したDLCやゲーム内アイテムがどうして実際には私のものではないのかを説明するために次から次へと法律用語を繰り出さなくてもいいのです」

ブロックチェーン化はゲーム内カードをリアルマネーの価値を持ったアセットに変える
「ブロックチェーンテクノロジーがどれほど生活を変えるのかを言葉にするのは難しいですね」
 デジタルゲームコンテンツ ―スキンやほかのゲーム内アイテムからDLC,ゲームそのものに至るまで― については,ユーザー間の所有権欠如の認識は際立って低い。彼らはデジタルアセットの利便性を十分に理解しているものの,その多くはコンテンツにお金を投資したので所有権を持っているはずだと思い込んでいる。

 これはMarvel Heroesのように(関連英文記事),ゲームのサービス終了時に,人々が自分たちが購入したゲームのDLCに対して払い戻しを請求していることからも見て取れる。― 正直言って,我々のどれくらいが利用規約を完全に読んでいるだろうか?

 「完全に認知が不十分です」とShaame氏は語る。「そして,これをそのままにしておくほうが多くの会社にとって都合がよいのです。彼らはどれも利用規約を好きなときに好きなように変更できる権利を留保しています。とくに悪質なものがあったときにはたまに消費者向けのメディアから抗議されることもあるでしょう。しかし,私が思うに,我々はこういった仕組みに慣れてしまっただけなのです。人々はほかに方法はないと思い込んでいます」

 「しかし,私はこれをどのように持続していくのか分かりません。パブリッシャとファン層の関係を意味するものは別として,―EAのLoot CrateやBungieのDestiny 2へのマイクロトランザクション実装などを想定しています― デジタル配信は増え続けて,ゲームはますますゲーム内課金に収益を依存するようになります。なにもなければ,ブロックチェーンをトランザクションプラットフォームにすることは,これらのシステムを実行するうえで遥かに優秀で透明性の高い手法となります」

 興味深いことに,EverdreamSoftはSpells of Genesisでのプレイヤーのカード交換や販売でまったく利益を得ていない。最初にカードを変換するときにゲーム内通貨の販売があるだけだ。さらにShaame氏は,ユーザーがまったくお金をかけずにブロックチェーン化できる可能性があることを強調し―「十分な忍耐力と幸運を持っていればですが」と付け加えた。

 これはテーブルの上に残ったお金に見えるかもしれません。Shaame氏はブロックチェーンベースのデジタルアセットとそれに続くプレイヤー主導のマーケットの台頭は必然的なものでありゲーム業界を根本的に変えてしまうだろうものだと確信している。

「ブロックチェーンはWorld-Wide-Webの発明に匹敵するものです」

 「このゲームは本当に単なる最初のテストです。我々はこれがどうなるか理解しています」と氏は語る。

 プレイヤーが任意に交換や売買できるカードをブロックチェーンベースで導入することにしたのには,同スタジオの最初のゲームMoongaの経済を活用していた人々が影響している。

 「我々は,プレイヤーが特定のカードの価値を彼らの間で決めて,ゲーム内で交換したりリアルマネーで売買していることに気づきました」とShaame氏は説明した。「これは販売時に『ハッキングされた』とかレアカードがなくなったといった報告で怪しいプレイヤーを我々が探し始めたときに発見したものです。それらのプレイヤーを処罰するよりもむしろ,我々は彼らが本当に望んでいるものは,ゲーム内経済を賞賛する取引の方法だと理解しました。ブロックチェーン化はそこから始まったのです」

 これはブロックチェーンが経済上のいかなる脅威をも防ぐということを意味しているのではない。Shaame氏は「あそこにはシステムの欠陥を悪用でき,それをしようとするような極端に賢い人間がいるものです」と表現していた。しかし氏はブロックチェーンが「これまであったなによりも遥かに安全」だという立場を取り続けた。

 「このようなことをする人は,ゲームの設計とデベロッパが見ないふりをしようとしているものに依存しているというのは事実です」と氏は続けた。「World of Warcraftのプレイヤーはゲームの利用規約に真っ向から違反して何年も前からアイテム販売に精を出してきました。そして起こったのは,Blizzardがゲームない通貨を使う限りはそれを大丈夫だと決めたことでした。Googleで10秒も探せばリアルマネートレードがまだ行われていることは分かります。それこそが,アクティブなコミュニティ育成とゲームのバランス崩壊との間でゲーム会社が取りたいバランスなのです。

最大レベルのカードのみ変換や販売が可能になる
「ブロックチェーンテクノロジーがどれほど生活を変えるのかを言葉にするのは難しいですね」
 「Spells of Genesisでは我々は,ゲームプレイの中核となるバランスを崩しかねない強力なカードが突然供給されることがないように,意図的にブロックチェーン化できるカードの量を制限しました。我々はなにも新しい,もしくは圧倒的な,もしくは通常のゲームプレイではなしえないようなものを導入したわけではありません。どちらかといえば,我々は,ゲーム内で投資するプレイヤーに,見返りとして何か具体的なものを得るためのオプションを与えているのです」

 「武器のレベルアップをするためにゲーム内で何時間も費やすプレイヤーとそのために有料アイテムを購入する人の間の本質的な違いとはなんでしょうか? その選択が広範なプレイヤー層に有害な影響を与えない限り,個人的な選択の問題だと私は言いたいのです。確かに,ゲーム内課金のようにプレイヤーに強力なアイテムを購入させるゲームと違いはないという皮肉屋もいるかもしれません。唯一の違いは誰にお金が行くのかです」

 Shaame氏何度も,ブロックチェーン利用の可能性を探っているのは「非常に初期段階」であると繰り返したが,その究極的な効果の前には興奮を鎮めることはできなかった。

 「これは本当にWorld-Wide-Webの発明に匹敵するものです」と氏は語る。「それ(※WWW)は我々が現在使っている相互接続されたデジタルワールドを作り足しました。そしてブロックチェーンは,我々が実世界で持つ所有権と制御権をデジタルの世界に変換する能力を持っているのです」

 氏は続けて「方程式にブロックチェーンを導入することは,ゲーム業界が現在使っている手法に対して根本的に挑戦することになります。まさに'90年代後半のNapster(※P2Pによる音楽ファイル共有ソフト)で起こったことのように,ゲーマーとゲームメーカーはこのピア-ツーピアモデルに飛びついています。アセットの所有と制御をプレイヤーに認めても,パブリッシャはFree-to-Playやゲーム内課金の実験を行うことができます。しかし,プレイヤーとパブリッシャとの間の力関係はより平等なものになるでしょう」

 Shaame氏はもっとたくさんのデベロッパがゲーム内でこの技術を試してくれることを期待している。我々はすでにReality Gaming Groupが同社が開発中のARシューティングゲームReality Clashでブロックチェーンベースの暗号通貨を利用するような事例を見てきた。しかし,ゲーム内でどのように扱えるかという技術を集積しているその他のスタジオも存在する。

 たとえば,Spyr Gamesは同社のフラグシップタイトルPocket Starshipsでプレイヤーに惑星の所有や売買ができるようにしようとしている(参考URL)。また,B2ExpandはBeyond the Voidでゲーム内アバターと船の所有と販売をできるようにしている(関連英文記事)。業界のベテランBrian Fargo氏はRobot Cacheで,この技術を使って中古販売のできるデジタルゲームストアを作ろうとしている(関連記事)。

 「疑いなく,ブロックチェーンベースのデジタル所有権はもっと広く拡大していきます」とShaame氏は語る。「いまではモバイルであれブラウザ上であれ,デジタルウォレットのアカウントを作成するのには数分しかかかりません。短期的には,ブロックチェーンウォレットがシステムソフトウェアの一部にならない理由というのはありません。PSNやXBLがクレジットカードのアカウントに接続されるのと同じことです。ウォレットにアクセスすれば,あなたはアセットの管理ができます。アセットがなんであるかは問いません ― ゲーム内のカード1枚かゲーム全体なのか,それは問題ではないのです。あなたは購入と所有を確立するためにブロックチェーンを使うことができるのです」

 氏は続けて「ビットコインの価値に関する根拠のないバブルや妄想は忘れましょう。そして,デジタルライフを所有そして制御できることが意味するものについて考えてみてください。ブロックチェーンは,将来のあらゆる種類のやり取りを確証するものなのです。
これまで無形であったものに価値を与えることができるようになるということは,クリエイターとアーティスト正直で公正な報酬を得る権利のためのよい機会となります。この技術がどれほど生活を変えていくのか言葉にするのは難しいですね」と語った。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら