WHO「ゲーム障害に関するきちんと文書化された多くの証拠があります」

最新のリストは診断のための「単なる臨床的記述」にすぎず,予防や治療ではない。

 世界保健機構(WHO)は,最近分類された「ゲーム障害」の定義に向けて準備を進めており,これは「臨床的に確認でき,臨床的に有意な症候群」だと表現している。

 先週,WHOの世界疾病大綱(ICD)の次期版の最新ドラフトに「ゲーム障害」(参考URL)と「有害なゲーム」(参考URL)の二つが加えられるという事案が発生した(関連英文記事)。

 このリストはかなり幅広い定義になっており,業界からいくつかの疑問が出てきた。 ― 最も目立つのは「ゲーム障害の犠牲者と余暇をゲームに費やすことにした熱心な消費者を分けるものはなんなのか」というものだ。

 GamesIndustry.bizがWHOと連絡を取ったところ,広報担当者はゲーム障害は,ゲーム障害を2つの嗜癖行動の診断項目の一つだと述べていた。これは数年前にICDに追加された賭博障害と同じ扱いだ。

 「これらの症状については,臨床的に妥当だとするきちんと文書化された多くの証拠があります。さらに世界のさまざまな地域で治療の需要が増加しています」と広報担当は我々に語った。

 「インターネットやコンピュータ,スマートフォンほかその他の電子機器の使用はこの数十年で劇的に増加しました。これが利用者の明確な利益(たとえばリアルタイムの情報交換など)に関連している一方で,過度の使用の結果としての健康上の問題も文書化されています。多くの国でこの問題は重要な公衆衛生上の懸念となっています」

 GamesIndustry.bizは何度か,その証拠の例や「過剰」を定義する方法の明確化について質問したが,我々はまだ十分な回答を得ていない。

 「過剰」の定義について追及していたときに,WHOの広報担当者は「有害なゲーム」のリストを見せてくれたが,質問に対する完全な回答にはなっていない。

 担当者はさらにゲーム障害と有害なゲームの両方がもたらすであろう健康への懸念の例を見せてくれた。被害者の肉体的な健康に関する否定的結果には,セデンタリーライフスタイル(ほとんど動かない生活),視力ないし聴力障害,筋骨格系障害,怪我と事故,そして感染症が含まれていた。

 彼らは発生しうる心理学的問題についてもリストを作成していた。それにはサイバーいじめ,社会性の発達阻害,睡眠不足,危険な性行為,暴力行為,鬱病と自殺が挙げられている。

 同機関は,ICDの目的は医療関係者や研究者による症例の分類を支援し,グローバルな健康の傾向を識別することであると繰り返しつつ,ゲーム障害の項目が「単なる臨床的記述であり,予防や治療方法ではない」ことを強調した。

 「ICDに障害を含むのは,各国がヘルスケアの提供や予防と治療,リハビリのためのリソース配分に関する意思決定する際に考慮に入れられるようにとの配慮からです」と担当者は語った。

 また,現在のICD-11β版はドラフトであり,日間ベースで変更されうるものであることは再評価に値する。最終版は今年末まで発効することはないのだ。

 WHOによるゲーム障害分類の決定は,ESA(Entertainment Software Association)による反論など,ゲーム業界内で議論を誘発した(関連英文記事)。ESAはリストについて「見境なく実際のメンタルヘルス問題を踏みにじるものだ」と述べ,WHOに撤回を主張している。

 しかしながらWHOのリストにもメリットがないわけではない。ここ十年間でアジアのネットカフェでは大規模なゲームセッションに関連する多くの死亡事件が起きている。おそらくそれはWHOが臨床的記述の根拠としている「きちんと文書化された証拠」の一部となっているはずだ。

 一方で,Free-to-PlayとLoot Box(ガチャ)システムの隆盛は,業界に新たな議論を喚起し,政府をも引き込んだ賭博システムを連想させるに十分なものである(関連英文記事)。そのようなシステムは,特定の人々のゲーム中毒傾向を悪化させかねないものだというのは容易に理解できる。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら