East meets West:グローバル帝国に成長するスクウェア・エニックス,松田洋祐社長インタビュー

松田社長がGamesIndustry.bizに語る「欧米と日本のゲームの融合,加えてARとVがスクエニの将来を強化する」

 スクウェア・エニックスが,欧米で展開しているフランチャイズに多くの問題を抱えていると論じるのは簡単だ。

 今年の初め「Hitman」を開発したIO Interactiveが同社から独立した。これは昨年の発売結果が双方の期待にそぐわなかったことを示している。「Deus Ex:Mankind Divided」の売上が失望に終わったあと,我々GamesIndustry.bizの姉妹サイトEurogamerは,同シリーズがお蔵入りになったと報じた(関連英文記事)。カナダのゲームスタジオEidos Montrealの代表であるDavid Anfossi氏が5月にツイートしたユーモラスな内容は,5作めの「Thief」開発のためのリソースがないことを意味している(参考URL)。

 大作「トゥームレイダー」もスクエニの目線では苦労しているようだ。2013年当時の販売目標に到達できず(関連英文記事),リリースから1年してようやく利益が上回ったというところだという(関連英文記事)。

スクウェア・エニックス代表取締役社長 松田洋祐氏
East meets West:グローバル帝国に成長するスクウェア・エニックス,松田洋祐社長インタビュー
 スクエニの欧米展開がトラブル含みだと論じるのは簡単だろうが,それが話のすべてではない。CEOの松田洋祐氏は,GamesIndustry.bizに対して,なぜ同社が「Hitman」を手放すことにしたかに加え(関連英文記事),ほかのフランチャイズの現状についても語ってくれた。

 スクエニがヨーロッパで苦戦しているという世間の受け取め方については「本当のところ,かなり多くの誤解があるんです」とのことだ。「まず第一に,トゥームレイダーはきわめて重要なタイトルであり,私たちにとっても非常に重要な知的財産です。そこについては何も変わっていません」

 「2013年に社長に就任した前年度の売上は芳しくありませんでしたので,年度末直前の3月にリリースされるトゥームレイダーに大きな期待を寄せていました。今になって振り返ってみると,我々はきわめて高い目標を設定していたと思います」

 「トゥームレイダーのリリースに至るまでの当社の業績は厳しかったゆえ,同作に期待し,最終的な利益にどれだけ寄与してくれるだろうかとばかり考えていたのではないかと,今となっては思います。そして結果的にトゥームレイダーは我々が期待したほどの売上には至りませんでした」

 トゥームレイダー・シリーズのリブート作品としてララ・クロフト(トゥームレイダーの主人公)の最初の冒険を描いた同作は,確かに強力な売上となった。今日,2013年のトゥームレイダーは世界中で1100万本以上が売れている。続編として2015年にリリースされた「ライズ オブ ザ トゥームレイダー」は,700万台近くまで売上を伸ばした。読者諸氏は覚えていると思うが,同作は(Microsoftとの専属契約であったためXboxのみであり)マーケットを支配していたPS4では,初年度は入手できなかった。

 松田氏は「Deus Ex:Mankind Divided」の早すぎる打ち切りについての報道を即座に否定した。「このタイトルを打ち切るとは言ったことはありません。しかし,何らかの理由によりマーケットでその噂が立っています」

「トゥームレイダーのリリースに至るまでの売上は芳しくありませんでしたので,トゥームレイダーに大きな期待を寄せていました。今になって振り返ってみると,我々はきわめて高い目標を設定していたと思います」

 「私が言えることは,Eidos Montrealは常にDeus Exを開発してきていますが,問題は,我々は無限のリソースは持っているわけではないということです。彼らと一緒にやっている大きなタイトルがいくつかあり,それが我々のラインナップの大きな部分を占めているように見えるということです。すべてのタイトルをいつでも開発できればいいかもしれませんが,実際問題としては,いくつかのタイトルは順番待ちをしなければならないのです。現在Deus Exがないのは,ただ単に開発のラインナップで,我々が他に取り組んでいるタイトルがあるからです」

 また,松田氏は,Deus Exがスクエニのポートフォリオにおけるファーストパーソンのタイトルで独占的地位にあることを強調し,同社にとって「非常に重要なフランチャイズ」であると付け加えた。「シリーズ次回作で何をやろうかとすでに社内では議論と検討が進んでいますよ」

 Thiefには具体的な言及はなかったが,このステルスゲームシリーズはEidos Montrealでも開発されておりDeus Exと同じ位置にあることは間違いない。少なくともEidos Montrealは,スクエニと米マーベル・スタジオの複数年,複数タイトルに及ぶパートナーシップの下で開発を行う数社の一つなのだ。

報道とは対照的にDeus Exは無期限中断とはなっていない。Eidos Montrealはほかのプロジェクトに取り組みながら「順番を待って」いる

 スクエニ傘下の海外スタジオCrystal Dynamicsも「アベンジャーズ」にアサインされ現在開発を行っていることが明らかになっているが,同社のスタジオの多くがマーベルのタイトルに専念している印象がある。

 「特定の数字をお答えすることはできませんが,欧米のスタジオからかなりの開発リソースをマーベル作品に向けていると言えます」と松田氏は話す。

 マーベルは現在エンターテインメントで最大のブランドの一つだ。ハリウッドでは1年に複数のスーパーヒーロー映画を量産できる一方,スクエニとのパートナーシップの成果が出てくるまでにはまだ長い時間がかかりそうだ。タイトルがリリースされる頃には,人々はスーパーヒーローものに飽きている心配はないのだろうか? マーベルや米DCコミックスだけで企画されるかなりの数のスーパーヒーローものの映画だけとっても,映画を観に行く人たちは,ありきたりのストーリーに飽き飽きすることは想像に難くない。

「私は定期的に(Avengersの)ビルドをチェックするようにしていますが,見たところとても素晴らしいです」

 「それを言い始めたら,できることが何もなくなってしまいます。ゲーム業界だけの話ではなく,エンターテインメント業界に広く当てはまる事実だと言えるでしょう。何はともあれ,我々は最善を尽くすつもりです」と松田氏は語る。

 「私が見ている限り,現在開発中のゲームのレベルは素晴らしいと思いますし,それについてのニュースもまもなく出ます。私は定期的にビルドをチェックするようにしていますが,見たところとても素晴らしいです」

 ここ数年の間に欧米でのフランチャイズでいくつかの残念なことがあったかもしれないが,それは同社の長年にわたる日本の知的財産に関することとはまったく異なる話だ。「ファイナルファンタジー」と「ドラゴンクエスト」は,同社の最大のヒット商品で,スクエニが過去最高の利益を上げる一助となった。

松田氏は,2013年のトゥームレイダーの当初予想は非現実的であったと認めるが,リブートシリーズが好調であることには満足している

 今年初めに我々の契約エディターであるRob Faheyが寄稿した通り(関連英文記事),これは少なからずファイナルファンタジー・シリーズのドラマチックな転換によるものだ。昨年の「ファイナルファンタジーXV」での勝利と2作めのMMORPGである「ファイナルファンタジーXIV」の今も続く成功は,フラッグシップたるRPGのフランチャイズがスクエニにとっていかに重要かを再確認させることとなった。

「ファイナルファンタジーは決して打ち切れるものではないので,その意味で私たちにとって非常に重要なフランチャイズですが,大きなプレッシャーの源でもあります」

 松田氏はこうも語る。「これは決して打ち切れるものではないので,その意味で私たちにとって非常に重要なフランチャイズですが,大きなプレッシャーの源でもあります。毎回,ファイナルファンタジーにどのようなチームを組むか頭を悩ませます。開発者は常に大きなプレッシャーの下で働くことになりますから」

 「イノベーションが鍵です。もちろんモチーフは一貫していますが,前作を超えたり,これまでやったことがないことをしたりするために,常に自分たち自身に対してチャレンジし続けなければなりません。XIVでもXVでもその流儀を守り,成果を出せたと自負しています」

 FFXVはまた,スクエニが複数のメディアにわたるフランチャイズを作り出すためにこれまでで最大の試みをしたことも示した。ゲームのリリースの前には,キャラクターを紹介した短いアニメシリーズと,ストーリーを設定する前編となるムービーが公開された。Deus Exでも同様の企画があったがこれは実現しなかった(関連英文記事)。ファイナルファンタジーが松田氏にスクエニのブランドをすべてのエンターテイメント分野に浸透させるきっかけになったのだろうか。

 「ファイナルファンタジーXVは,素晴らしくうまくいった例でした」とCEOは認める。「ただ今後すべてのタイトルでやるというわけではなく,ケースバイケースになると思います。向いているものとそうでないものがあると思いますので……。ですから今後は個別に判断していきたいと思っています」

 「つまるところ,我々はゲーム屋ですので,しっかりしたゲームを作ることがすべてで,これが変わることはありません」

ファイナルファンタジーXVは,同シリーズがスクエニの保有タイトルに占める重要性を再認識させた
East meets West:グローバル帝国に成長するスクウェア・エニックス,松田洋祐社長インタビュー
 ファイナルファンタジー,そして若干少ないもののドラゴンクエストが叩き出した売上は,同社の日本での事業に寄与するだけではない。とくにファイナルファンタジーは,欧米でもうまくいくだろう。日本のデベロッパは,グローバルな魅力を持ったゲームを作るのがうまくなったのだろうか。それとも西側の消費者が単に東洋のテイストを味わうようになってきたのだろうか。松田氏は,これが現在進行中の業界の変化であると考え,こう断言する。

 「PS3とXbox 360の人気を考えれば,日本のデベロッパは是が非でもそこに追いつく必要があるということに気がついたのです。実際スクエニでも起こっていました。しかし,その後世代交代があり,高い授業料になったことは認めます」

 「ファイナルファンタジーXVのときは『考えうるベストなことをやってくれ,欧米のデベロッパが何をやっているかを過度に意識する必要はない』とデベロッパに言いました。彼らはやりたいことをやるべきですし,それがもっとも訴求力があるものになるからです。国内のほかのパブリッシャでも同様のことが起きていたのではないかと思います。皆,自分の強みを活かすということに取り組み始めたのです」

 「このことは日本のデベロッパだけに当てはまることではなく,欧米のデベロッパにとっても同じことがいえるでしょう。自分たちの個性を活かしたタイトルを開発すことが最高のゲームを創り出すことにつながると思います」

 ファイナルファンタジーとドラゴンクエストの復活は,欧米リリースでの残念な結果を相殺するかもしれないが,同社のポートフォリオは常に東西の融合から恩恵を受けるという。前年度は日本のゲームの新タイトルで収益の大半を獲得してきたが,カタログ販売については同社の海外スタジオのゲームが非常に高いパフォーマンスを上げていると松田氏は評価し,次のように付け加える。

 「私の見解では,うちの経営陣は日本と欧米のスタジオを区別しておらず,むしろ全体のラインナップのバランスをチェックしています」

「つまるところ,我々はゲーム屋ですので,しっかりしたゲームを作ることがすべてで,これが変わることはありません」

 松田氏は「我々の製品のライフサイクルは長くなっている」と見る。これにより,ローンチ後も長期に渡って財務数値にポジティブなインパクトを与えることになる。例としては「Just Cause 3」があり,もはや減価償却が終わった同タイトルは売上を積み上げていくだけだ。トゥームレイダーも大きく貢献をしている。

 「カタログのタイトルと,長期に渡る売上は,収益面で非常に魅力的です。そのようなタイトルのバックログを構築する方法は,実際我々のビジネスモデルにとって非常に重要です」

 スクエニのアジアと欧米のバランスのもう一つの興味深い見通しは,モバイルだ。同社のモバイルタイトルは大部分がアジアで開発されており,日本,韓国,中国などの市場でオーディエンスを引き付ける可能性が最も高い。だがモバイル空間では欧米にも存在感を放っている。

 松田氏によれば,「Hitman Go」「Lara Croft Go」そして「Deus Ex」の開発を手がけたカナダにある同社のスタジオ,Square Enix Montrealを,欧米のスマホプレイヤーを引き付けるための「モバイルの取り組みの中心的存在」だと語る一方で「モバイルゲームを扱う欧米のスタジオの数を踏まえれば,我々は力を入れて一生懸命取り組まねばなりませんし,エンドプレイヤーにもリーチしていかねばなりません」と認める。

 「これまで出遅れていたところがあるとすればアメリカです。欧米市場全般ですがとくにアメリカです。どうやって我々のタイトルのランキングを上げていくかが問題ですが,我々ができることの一つは,IP,とくに日本のIPを活用することだと思います」

Just Cause 3はローンチ時点ではぶっちぎりだったわけではないが,その後カタログ販売を通じて稼ぎ頭になった最良の例だ

 同社の「キングダムハーツ」や「ファイナルファンタジーX」をベースにしたストラテジーゲームはすでに十分な成果を上げており,それらは,米カリフォルニアのデベロッパMachine Zoneの人気作「Game of War」のようなスタイルになっている。しかし,松田氏はまだ,何か新しいものをこの世にもたらすことを決意している。

「我々は日本と欧米のスタジオを区別しておらず,むしろ全体のラインナップのバランスをチェックしています」

 「Square Enix Montrealは,日本で我々が提供するのとはテイストが異なる,アメリカのプレイヤーにも好まれるテイストのタイトルを作り出せると信じています。世界市場,とくにアメリカで成功を収めるゲームを提供できる能力を持っています。現在,フリー・トゥ・プレイ(F2P)でさまざまな可能性を模索しています」

 モントリオールチームはとくにAR(拡張現実)に焦点を当てていると松田氏は我々に明らかにしてくれたが,潜在的なプロジェクトの具体的な詳細については明言を避けた。

 「モバイルAR市場は魅力的なものになると信じています。モントリオールチームは,開発力と技術力の両面で非常に熟練しています。とくに,ARは強力な技術力が必要なので,新興のゲーム会社が大きな成功を収められる場だとは思いません。しかしSquare Enix Montrealはこの分野でうまくいくと思っています。我々は全社でモバイルARに取り組んでいますが,とくにモントリオールチームに期待しています」

 Google,Apple両社の開発ツールのおかげでARは現在,新しい投資機会を享受している。しかし,数年にわたるARの実験を経てもまだ,そのテクノロジーはギミックに毛が生えた程度のタイトルしか出てきていない。「Pokemon GO」はARゲームの新しい時代の幕開けとしてもてはやされたが(おそらく誤解もあっただろう),そのような大人気ゲームですらリビングでピカチュウが見られるという目新しさを提供しただけだった。

 これは松田氏も強く認識していることだ。「ARが成功するには,ゲームデザインがAR仕様でなければなりません。ARでなければならない要素がないとうまくいかないでしょう」

 「AppleとGoogleは現在ARに多大な努力を注いでおり,技術はますます洗練され,ARの要素がゲームに不可欠なものになるところまで来つつあります。そうなったときの重要な要素はクリエイターです。ですからゲームをもっと面白く魅力的にするものとしてARを需要な要素とすべきときが来ていると思います」

 スクエニはVRに対してははるかに慎重だ。FFXVのスピンオフ,「MONSTER OF THE DEEP: FINAL FANTASY XV(モンスター オブ ザ ディープ: ファイナルファンタジーXV)」でVRに片足を踏み入れたが,まだVR市場は大型投資を保証するほど成熟していない,これはゲーム会社とプレイヤー側両方にとって当てはまると同社は見る。

 「VRとARの違いを述べるとすれば,VRはプレイヤー側に膨大な投資を求めるという点が挙げられるでしょう」と松田氏は説明する。「PlayStationは比較的価格を抑えていますが,ほかのVRの選択肢はプレイヤーの多額の投資を必要とします。ヘッドマウントディスプレイなどが必要になると,そもそもプレイヤーに試してもらうまでにかなりのハードルがあります。ある程度は時間が解決するでしょうが,それまでどうすべきか,プレイヤーがクリティカル・マスに達するまでどうするか,という点を考えるとかなり難しいと思います」

 「VRで何か楽しい要素が作り出せるのであれば,そしてそれがVRでなければならないのであれば,もちろんVRを提供したいと思います。ですが,VRありきでやろうとは考えていません」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら