Blood & TruthでのビリーバブルなVRキャラクター作成法

SIE Worldwide Studios LONDONスタジオのVRディレクターStuart Whyte氏は舞台の訓練を受けた俳優とバーチャルリアリティでの真にインタラクティブな会話を必要としている。

 あなたは誰かに銃口を突きつけている。 
 ギャングだらけのホテルを抜けて追っていた男は,あなたの前で泣きながら慈悲を訴えている。浮かび上がるダイアログでは,慈悲を与えるか,さらに脅すかを選択できる。最終的に男はあなたが知りたいことを話してくれる。

 もしくは,単に彼の足を銃で撃つこともできる。

 即座にスクリプトによる会話は停止し,男は傷口を押さえ,痛みに悶えながら 床に崩れ落ちる。あなたを人でなしと罵りつつ,あなたが知りたいことを話し出す。

 これは,SIE Worldwide Studios LONDONスタジオのVR製品開発ディレクターStuart Whyte氏が今月行われたDevelop:VRカンファレンスで出席者に披露した例である。このシーンは発売予定のタイトル「Blood & Truth」から取ったものだという。同作は,PSVR独占発売のイギリスの首都の裏社会を舞台としたシューティングゲームで,イベントの展示会場では苦もなく最大の注目を集めるタイトルとなっていた。

 こういったやり取りの例を2つ紹介したあと,Whyte氏は将来のVRでは俳優がどれほど重要になってくるのかを強調した。キャラクターとの会話をより真実性のあるものにすれば,没入感は大きく上がるのだ。GamesIndustry.bizは氏の講演後にさらに踏み込んだ内容について情報交換をする機会を得た。

 Blood & Truthが示したようなインタラクティブなシーンの有用性は,LONDONスタジオの過去の作品「PlayStation VR Worlds」に端を発している。この新しいVRシューティングゲームは,VR Worldsに含まれていた「London Heist」の影響を色濃く受けている。同作はPSVRの発売時に最も遊ばれたゲームだが,開発チームは,VR Worldsにバンドルされていたすべてのゲームから利益を得たとWhyte氏は語っている。

 「VR Worldsは我々にとって素晴らしいものでした」と氏はGamesIndustry.bizに語ってくれた。「それには5つの異なった体験が入っており,開発チームがVRの意味を把握するのに役立ちました。我々はそこからたくさんの本当に価値のある教訓を得ました。さらにBlood & Truthについては,これらの教訓からさらに先に進めているところです」

 プレイヤーのアクションに反応する会話のアイデアはLondon Heistの多くのシーンに由来している。プレイヤーがゲーム内の敵を撃ち殺さない場合,しばしばゲーム内のさまざまなキャラクター ―パブでの状況説明から,ガスバーナーで脅してくる男と一緒に閉じ込められるところまで― は,ずっと待ってやり取りをしてくれる。Whyte氏はこれらのシーンは「本当に強力だがまったく受動的」だったと見ている。

 「会話の選択が出てくるステージにになるとすぐに,それが没入感ないし実在感というものを加味してくれるのです」と氏は語る。

 これらのシーンでプレイヤーがどれくらいインタラクトしてくれるかを観察することで,SIEのLONDONスタジオはさらなるインタラクションを生み出している。たとえば,パブ内での初期のシーンではプレイヤーにライターを拾ってタバコに火を点けることを許している。これは初期のビルドによるテスト期間中に,プレイヤーたちがなにをしようとしたかを土台としたものだ。VRが成熟していくにつれ,シーンはどんどんインタラクティブになっていくだろうとWhyte氏は予言する。

 「一連のゲーム要素を与えられると,プレイヤーはすぐにそれで実験を始めます」と氏は語る。「普通のビデオゲームでも同じでしょう」

 「壁を撃ってみて,全然ダメージを与えられなかったようなことがあるでしょう。そこで我々は弾が当たったことを示すために壁にデカールを貼ることにしました。ですので,実際に壁にダメージがあるようなゲームを始められるのです」

 「これはVRでも同じでしょう。いつもだんだんとよくなってきており,これは空間内でゲームを非常に凄いものにしています。現時点でも没入間という観点では非常に刺激的ですが,10年20年という長期的視野に立つと,気違いじみたモノになるでしょう」

プレイヤーにどれくらいVRキャラクターを身近にさせるか。演技は完璧でなくてはならない −舞台経験のある俳優はしばしば解決策となる

 Blood & Truthの尋問シーンはLondon Heistからグレードアップしている。しかし現時点での技術ではまだ制限がある。プレイヤーの代理人の知覚は少しごまかされている ―もちろん,プレイヤーが周りで展開されていくイベントにどれくらい影響を与えられるかには限界がある。 Whyte氏の挙げた例では,ほかのキャラクターを撃つことはまったく安全に行われていた。本当に自然なものというよりはスクリプトの分岐で反応をプログラムされていたようだ。

 しかし,非常にたくさんのプレイヤーの行動があるだけで,デベロッパは予見し構成することができる。最終的に,NPCのAIはVRプレイヤーがやりそうなことに対して反応できるところまで進化するだろう。しかし,それまで我々はデベロッパにできる,ないし許される選択肢の数に制限されている。

 これがWhyte氏が質の高い演技とビリーバブルなキャラクターの必要性を強調する理由である。もしシーンが十分没入的だったら,それはプレイヤーに対して反応したように感じられるだろう。プレイヤーはあらかじめ決められていたイベントの実態にほとんど気づくことはない。

 キャラクターをできるだけビリーバブルであることを保障する最良脳方法は,実際に生きている俳優を使うことである。Blood & Truthのヒーローが出会うめそめそした臆病者は完全にパフォーマンスキャプチャされたものだ。彼の見た目は実際の俳優をベースにしており,声も同じ俳優から提供されている。これはほとんどのゲームに見られる単純な声の演技の要求からは遠くかけ離れている。

「我々はこれまでキャラクターへのキャスティングをキャラに合って聞こえるかどうかで行っていました……現在,我々はキャラに合った声を持っているか,演技ができるか,さらにその役に見えるかに焦点を当てています」

 「(デベロッパは)これまでキャラクターへのキャスティングをキャラに合って聞こえるかどうかで行っていました」とWhyte氏は説明する。「声とアクセントが合っていることは当然として,我々は彼らをモーションキャプチャに入れますので,彼らは体を使った演技ができる必要があります。ほとんど劇場での公演に似ていますね。本当に近づきますので。カットなどができるテレビの演技ではありません」

 「そして見た目もあります。素晴らしい声と高い演技力を持っていても,キャラクターの見た目に似ていなかったら,我々はほかの人を探します。我々がこれまで行ってきたオーディション方法では,キャラに合った声を持っているか,演技ができるか,さらにその役に見えるかに焦点を当てています」

 SIE LONDONスタジオは現在キャスティングの途中で製品版に誰が出演するのかについては話せない ―示された例はかなり説得力があるとはいえ,仮のものである。しかし,Whyte氏は同スタジオが探してVRプロジェクトにぴったりだという俳優のタイプについて少しだけ教えてくれた。

 「多くのキャストがテレビや映画にエキストラとして出演していますが,彼らの多くが舞台経験を積んでいるのです」と氏は語る。「VRになり,俳優と一緒にいる環境になると……(プレイヤーは)まさに演技者の隣にいるのです。これは本当に近く,実生活で可能な最も近いものは,あなたが実際にその環境にいるという舞台脚色のうちのひとつです。これはカメラなどの前で演技をするというよりは,そのレベルでの演技(を我々は必要としているの)です」

Blood & Truthは London Heistの成功から生み出されており,VRユーザーそれぞれをアクションヒーローに変えることを目的としている

 最高の見かけを持ったよい俳優を見つけることは,新たなスキルを要求する。それはゲーム開発スタジオにとっては馴染みのないものである ―VRのような最先端技術上だとしてもだ。たとえば,Whyte氏はBlood & Truthは彼が関わったプロジェクトで初めて衣装担当が含まれているものだと宣言していた。チームメンバーの一人は服飾系バイヤーの経験があり,ゲーム内のそれぞれのキャラクターが着用する衣装を購入しているという。

 SIE LONDONスタジオはインターネット上でハイテクヘルメットや装備を売る店を探して,ハイエンドミリタリープレイヤーが直面するであろうゲームの結末のために許可を取ってスキャンしてさえいる。俳優もモーションキャプチャの装置が許す限りこれらの装備を身につけて,彼らの演技するシーン内に没入できるように手助けをしている。

 もちろん,どのVRスタジオもこんな予算やプラットフォーマーの支援があるわけではなく,したがってコスチュームデザイナーはおろか,舞台経験のある俳優やモーションキャプチャを取る余裕すらない可能性が高い。しかし,それでもシーンをよりビリーバブルにするテクニックというのは存在する。

「我々はPSVRのライフサイクルのほんの1年を過ごしたにすぎません。そして我々もなにが有効でなにが無効なのかを解明する言葉を定義しようとしている多くのデベロッパの一つにすぎないのです」

 Whyte氏が3Dストーリーボードの話のあいだにSIE LONDONスタジオがVR WORLDSで見つけたテクニックの例が示された。簡単に言うと,同社は環境とシーンの「塊」を ―劇場のように― 緻密にマッピングした。具体的には,キャラクターがある台詞をしゃべるときにどこにいるのか,ないし,どのように彼らがシーン内を歩き回るのかを地図に詳細に書き込んだのだ。Whyte氏は,キャラクターを表すダンボールの切り抜きで仕上げられた3Dストーリーボード内のシーンにVRユーザーを入れるという例さえ披露してくれた。―これはハリウッドで見かけるような典型的なストーリーボードとは異なるものだ。

 「3Dストーリーボードは導入にコストがかかるものではありません」とWhyte氏は語る。「あらゆる規模のチームで使えるものだと思います」

 もちろん,完璧なインタラクションを実現するためには,デベロッパはビリーバブルなキャラクター以上のものを必要としている。リアルな3Dオーディオ,物理演算,そしてたくさんのオブジェクト間の相互作用など,プレイヤーに別の世界にいると思わせるためには長い道のりがある。

 「すべてはほんのちょっとしたことです。電話を手に取り下に置く,キャラクターの顔を見つめる,彼らがそれに反応する……これらすべてがあなたを,ゲームをプレイしていることを完全に忘れさせる境地に導き,その瞬間が正しいと感じるような実在感を覚えるのです。あなたはその場にいるように感じます」

SIE LONDONスタジオはレイトレーシングを使ったオーディオの作成経験があり,リアルなサウンドを作るために材質で違った反響をさせている

 Whyte氏は手法を例に挙げて, Blood & Truthチームが取り組んでいるサウンド技術の情報を共有した。

 「3Dグラフィックスのレイトレーシングは部屋中に光を反射させてフォトリアルなグラフィックスを作ります」と氏は語る。「我々は非常によく似たことをオーディオでやっています。ゲーム内で使われる素材のすべてにどんな種類の素材化というタグが付けられているので,それらを銃で撃つと違った音がします。 ―木の音は金属の音とは異なるといった感じです」

 「我々は音響工学の博士をチームに抱えており,キャラクターが歩きながら話すとき,彼の口から違う素材に向かった音波を実際に反射させています。もしあなたがとても寒い部屋にいたとすると,音響学的には,実際に音の違いを聞き取れるはずです。これは本当に微妙に感じ取れるくらいのささいなことです。しかし,現実に体験を強化するのです」

 「これはVRではエキサイティングなことです。それをどのようにするかについての言語とルールのデザイン……我々はPSVRのライフサイクルのほんの1年を過ごしたにすぎません。そして我々もなにが有効でなにが無効なのかを解明する言葉を定義しようとしている多くのデベロッパの一つにすぎないのです」

 Whyte氏は直近のGamesIndustry.biz Podcastに出演した4人のVRエキスパートの一人だ。しがVR開発について語っているさらなる内容はこちらから聞くことができる。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら